上 下
202 / 683
第十二章

試合後の戦い

しおりを挟む
「見事な勝利おめでとう! 初戦でアウェイでボナザさんの負傷交代で……ハードで難しい試合だったけど、皆よく戦ってくれた。俺もファンも国民も全員、君たちを誇りに思う。ただ今日はあくまでもプレシーズンマッチ。本番はリーグ戦だ。今日見せた集中力や闘争心を続けていこう!」
「「おおー!」」
 俺の言葉に力強い声が返ってきた。選手達は試合を終えても疲れ切っていないし、勝っても奢ってない。良い傾向だ。
「じゃあまた最後にキャプテンから」
 今日一日、リーダーとしてプレーに声かけに尽力してくれたシャマーさんに場所を譲る。
「みんな! 勝ったよ! 準備は良い?」
「「いいぞー!」」
 シャマーさんの呼びかけに選手一同、大きな声で応え、ユイノさんとクエンさんが特大の樽を抱えて控え室から現れる。
「は? それ何?」
「ショーちゃん、実は監督就任後の初勝利だよね? おめでとー! これはお祝いのお酒だよー!」
 そうか。いや、それは良いのだが、なぜユイノさんとクエンさんはそんな重そうな物をリストさんやヨンさんの力を借りて担ぎ上げる?
「みんな、あっ、ありがとう、うれしいよ。諸々終わったらゆっくり頂くからさ。誰か怪我する前にそれを置こう」
「いいえ」
「駄目だぜ」
 俺は礼を言いつつ少し後退したが、その腕をダリオさんとティアさんに掴まれてしまった。
「いま、頂いて貰わないと困ります」
「お前、逃げられるとでも思ったか?」
 酔ったらスゴく困った事になるダリオさんと俺に全く遠慮する事がないティアさんが掴んだ腕を引いて前に出す。
「いや駄目駄目! 俺はこの後も記者会見とか後かたづけとかあるし、このスーツだって一着しかなくて着替えもないし……」
 救いを求めて控え室を見渡すが、ジノリコーチはおろかナリンさんまで愉快そうな目でこちらを眺めている。
「あ! ムルトさん! 予算の無駄遣いですよこれ! ルーナさん! お酒をこんな事に使うなんてね?」
「選手やコーチのカンパで賄われていますから、チームの予算は無関係ですわ」
「あの樽と中の果実酒、ウチの実家が提供した自慢の逸品なんだ。楽しんで」
 そこに救いは無かった。
「おっけー? じゃあせーの!」
「「監督、おめでとー!」」
 その号令と共に、樽いっぱいの果実酒が俺の頭の上に降り注いだ……。

「すみません、遅くなりました……」
 ジノリコーチの叔母さんに言われていた時間から5分ほど遅れて、俺は記者会見の机についた。伴っているのは叔母さんの希望どおりダリオさん、ユイノさん、そしてナリンさんだ。
「……なんだこの匂い?」
 前列の方に座るガンス族の記者――シェパード犬のような外見を裏切らず嗅覚が鋭いらしい――が鼻をヒクヒクと動かした。そう、もう一つ俺が伴っているものがある。強烈な果実酒の匂い。
「すみません、選手達から手荒な祝福を受けまして。なるべく口には入れずにすませたので受け答えは正常に行えると思います。うっぷ」
 少し説得力に欠ける口調で俺は言った。頭から酒を浴びせられた時、確かに口や目は必死で閉じていた。だが鼻や耳といった開口部、そして肌から染み込むアルコールまでは完全に防げたとは言えない。
「……それではエルフ代表の記者会見を開始したいと思います。まず試合全体を振り返って頂けますか?」
 記者会見の司会らしいドワーフの男性がそう宣言し、俺に話を振った。俺は卓上のジョッキから水を飲み唇を湿らせてから口を開く。
「途中アクシデントや守勢に回る時間もありましたが、全体的には終始、我々にとって好ましい状態でサッカードウを行えました。要因としてはともかく、試合への入り方が良かった。選手はよく準備して集中してキックオフを迎えました。そのようにセッティングしてくれたコーチ陣を称えたいですし、熱い空気で迎えてくれた観客、ミスラル・ボウルという素晴らしいスタジアムとスタッフにお礼を言いたいとも思います」
 スタジアムとスタッフにお礼を、という部分はもちろん皮肉いやみである。幸い、酒で濡れた前髪が俺の顔を何割か覆い表情を隠しているので、嘲るような感情はさほど露わになっていないと思う。
「入り、と言えば先制点じゃがダリオ選手? あの様な手段で得点を奪って恥ずかしくはないのかのう?」
 俺が一通り振り返りを述べてすぐ、ドワーフの記者が手を上げ質問を行った。
「恥ずかしい? 恥ずかしいとはどういう事ですか? スローインという集中すべきタイミングで注意を怠って失点する事ですか? それとも始動してまだ浅いチームをホームに迎えて7失点で敗北する事ですか?」
 ダリオさんはいつものロイヤルスマイルを浮かべつつ言い返す。対面するDFに尻餅をつかせてあざ笑うジョージ・ベスト伝説のドリブラーの様な切り返しだ。
「なんだとこの棒切……」
 何か口走りそうになったその記者の口を仲間が慌てて塞ぐ。何とか記者のその言葉はそこで止まったが、発言に同調するドワーフ、非難する他種族の記者たち、仲裁しようとする運営側のドワーフ……と会場中の種族がちょっとした喧噪の渦に巻き込まれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...