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第十二章
試合後の戦い
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「見事な勝利おめでとう! 初戦でアウェイでボナザさんの負傷交代で……ハードで難しい試合だったけど、皆よく戦ってくれた。俺もファンも国民も全員、君たちを誇りに思う。ただ今日はあくまでもプレシーズンマッチ。本番はリーグ戦だ。今日見せた集中力や闘争心を続けていこう!」
「「おおー!」」
俺の言葉に力強い声が返ってきた。選手達は試合を終えても疲れ切っていないし、勝っても奢ってない。良い傾向だ。
「じゃあまた最後にキャプテンから」
今日一日、リーダーとしてプレーに声かけに尽力してくれたシャマーさんに場所を譲る。
「みんな! 勝ったよ! 準備は良い?」
「「いいぞー!」」
シャマーさんの呼びかけに選手一同、大きな声で応え、ユイノさんとクエンさんが特大の樽を抱えて控え室から現れる。
「は? それ何?」
「ショーちゃん、実は監督就任後の初勝利だよね? おめでとー! これはお祝いのお酒だよー!」
そうか。いや、それは良いのだが、なぜユイノさんとクエンさんはそんな重そうな物をリストさんやヨンさんの力を借りて担ぎ上げる?
「みんな、あっ、ありがとう、うれしいよ。諸々終わったらゆっくり頂くからさ。誰か怪我する前にそれを置こう」
「いいえ」
「駄目だぜ」
俺は礼を言いつつ少し後退したが、その腕をダリオさんとティアさんに掴まれてしまった。
「いま、頂いて貰わないと困ります」
「お前、逃げられるとでも思ったか?」
酔ったらスゴく困った事になるダリオさんと俺に全く遠慮する事がないティアさんが掴んだ腕を引いて前に出す。
「いや駄目駄目! 俺はこの後も記者会見とか後かたづけとかあるし、このスーツだって一着しかなくて着替えもないし……」
救いを求めて控え室を見渡すが、ジノリコーチはおろかナリンさんまで愉快そうな目でこちらを眺めている。
「あ! ムルトさん! 予算の無駄遣いですよこれ! ルーナさん! お酒をこんな事に使うなんてね?」
「選手やコーチのカンパで賄われていますから、チームの予算は無関係ですわ」
「あの樽と中の果実酒、ウチの実家が提供した自慢の逸品なんだ。楽しんで」
そこに救いは無かった。
「おっけー? じゃあせーの!」
「「監督、おめでとー!」」
その号令と共に、樽いっぱいの果実酒が俺の頭の上に降り注いだ……。
「すみません、遅くなりました……」
ジノリコーチの叔母さんに言われていた時間から5分ほど遅れて、俺は記者会見の机についた。伴っているのは叔母さんの希望どおりダリオさん、ユイノさん、そしてナリンさんだ。
「……なんだこの匂い?」
前列の方に座るガンス族の記者――シェパード犬のような外見を裏切らず嗅覚が鋭いらしい――が鼻をヒクヒクと動かした。そう、もう一つ俺が伴っているものがある。強烈な果実酒の匂い。
「すみません、選手達から手荒な祝福を受けまして。なるべく口には入れずにすませたので受け答えは正常に行えると思います。うっぷ」
少し説得力に欠ける口調で俺は言った。頭から酒を浴びせられた時、確かに口や目は必死で閉じていた。だが鼻や耳といった開口部、そして肌から染み込むアルコールまでは完全に防げたとは言えない。
「……それではエルフ代表の記者会見を開始したいと思います。まず試合全体を振り返って頂けますか?」
記者会見の司会らしいドワーフの男性がそう宣言し、俺に話を振った。俺は卓上のジョッキから水を飲み唇を湿らせてから口を開く。
「途中アクシデントや守勢に回る時間もありましたが、全体的には終始、我々にとって好ましい状態でサッカードウを行えました。要因としてはともかく、試合への入り方が良かった。選手はよく準備して集中してキックオフを迎えました。そのようにセッティングしてくれたコーチ陣を称えたいですし、熱い空気で迎えてくれた観客、ミスラル・ボウルという素晴らしいスタジアムとスタッフにお礼を言いたいとも思います」
スタジアムとスタッフにお礼を、という部分はもちろん皮肉である。幸い、酒で濡れた前髪が俺の顔を何割か覆い表情を隠しているので、嘲るような感情はさほど露わになっていないと思う。
「入り、と言えば先制点じゃがダリオ選手? あの様な手段で得点を奪って恥ずかしくはないのかのう?」
俺が一通り振り返りを述べてすぐ、ドワーフの記者が手を上げ質問を行った。
「恥ずかしい? 恥ずかしいとはどういう事ですか? スローインという集中すべきタイミングで注意を怠って失点する事ですか? それとも始動してまだ浅いチームをホームに迎えて7失点で敗北する事ですか?」
ダリオさんはいつものロイヤルスマイルを浮かべつつ言い返す。対面するDFに尻餅をつかせてあざ笑うジョージ・ベストの様な切り返しだ。
「なんだとこの棒切……」
何か口走りそうになったその記者の口を仲間が慌てて塞ぐ。何とか記者のその言葉はそこで止まったが、発言に同調するドワーフ、非難する他種族の記者たち、仲裁しようとする運営側のドワーフ……と会場中の種族がちょっとした喧噪の渦に巻き込まれた。
「「おおー!」」
俺の言葉に力強い声が返ってきた。選手達は試合を終えても疲れ切っていないし、勝っても奢ってない。良い傾向だ。
「じゃあまた最後にキャプテンから」
今日一日、リーダーとしてプレーに声かけに尽力してくれたシャマーさんに場所を譲る。
「みんな! 勝ったよ! 準備は良い?」
「「いいぞー!」」
シャマーさんの呼びかけに選手一同、大きな声で応え、ユイノさんとクエンさんが特大の樽を抱えて控え室から現れる。
「は? それ何?」
「ショーちゃん、実は監督就任後の初勝利だよね? おめでとー! これはお祝いのお酒だよー!」
そうか。いや、それは良いのだが、なぜユイノさんとクエンさんはそんな重そうな物をリストさんやヨンさんの力を借りて担ぎ上げる?
「みんな、あっ、ありがとう、うれしいよ。諸々終わったらゆっくり頂くからさ。誰か怪我する前にそれを置こう」
「いいえ」
「駄目だぜ」
俺は礼を言いつつ少し後退したが、その腕をダリオさんとティアさんに掴まれてしまった。
「いま、頂いて貰わないと困ります」
「お前、逃げられるとでも思ったか?」
酔ったらスゴく困った事になるダリオさんと俺に全く遠慮する事がないティアさんが掴んだ腕を引いて前に出す。
「いや駄目駄目! 俺はこの後も記者会見とか後かたづけとかあるし、このスーツだって一着しかなくて着替えもないし……」
救いを求めて控え室を見渡すが、ジノリコーチはおろかナリンさんまで愉快そうな目でこちらを眺めている。
「あ! ムルトさん! 予算の無駄遣いですよこれ! ルーナさん! お酒をこんな事に使うなんてね?」
「選手やコーチのカンパで賄われていますから、チームの予算は無関係ですわ」
「あの樽と中の果実酒、ウチの実家が提供した自慢の逸品なんだ。楽しんで」
そこに救いは無かった。
「おっけー? じゃあせーの!」
「「監督、おめでとー!」」
その号令と共に、樽いっぱいの果実酒が俺の頭の上に降り注いだ……。
「すみません、遅くなりました……」
ジノリコーチの叔母さんに言われていた時間から5分ほど遅れて、俺は記者会見の机についた。伴っているのは叔母さんの希望どおりダリオさん、ユイノさん、そしてナリンさんだ。
「……なんだこの匂い?」
前列の方に座るガンス族の記者――シェパード犬のような外見を裏切らず嗅覚が鋭いらしい――が鼻をヒクヒクと動かした。そう、もう一つ俺が伴っているものがある。強烈な果実酒の匂い。
「すみません、選手達から手荒な祝福を受けまして。なるべく口には入れずにすませたので受け答えは正常に行えると思います。うっぷ」
少し説得力に欠ける口調で俺は言った。頭から酒を浴びせられた時、確かに口や目は必死で閉じていた。だが鼻や耳といった開口部、そして肌から染み込むアルコールまでは完全に防げたとは言えない。
「……それではエルフ代表の記者会見を開始したいと思います。まず試合全体を振り返って頂けますか?」
記者会見の司会らしいドワーフの男性がそう宣言し、俺に話を振った。俺は卓上のジョッキから水を飲み唇を湿らせてから口を開く。
「途中アクシデントや守勢に回る時間もありましたが、全体的には終始、我々にとって好ましい状態でサッカードウを行えました。要因としてはともかく、試合への入り方が良かった。選手はよく準備して集中してキックオフを迎えました。そのようにセッティングしてくれたコーチ陣を称えたいですし、熱い空気で迎えてくれた観客、ミスラル・ボウルという素晴らしいスタジアムとスタッフにお礼を言いたいとも思います」
スタジアムとスタッフにお礼を、という部分はもちろん皮肉である。幸い、酒で濡れた前髪が俺の顔を何割か覆い表情を隠しているので、嘲るような感情はさほど露わになっていないと思う。
「入り、と言えば先制点じゃがダリオ選手? あの様な手段で得点を奪って恥ずかしくはないのかのう?」
俺が一通り振り返りを述べてすぐ、ドワーフの記者が手を上げ質問を行った。
「恥ずかしい? 恥ずかしいとはどういう事ですか? スローインという集中すべきタイミングで注意を怠って失点する事ですか? それとも始動してまだ浅いチームをホームに迎えて7失点で敗北する事ですか?」
ダリオさんはいつものロイヤルスマイルを浮かべつつ言い返す。対面するDFに尻餅をつかせてあざ笑うジョージ・ベストの様な切り返しだ。
「なんだとこの棒切……」
何か口走りそうになったその記者の口を仲間が慌てて塞ぐ。何とか記者のその言葉はそこで止まったが、発言に同調するドワーフ、非難する他種族の記者たち、仲裁しようとする運営側のドワーフ……と会場中の種族がちょっとした喧噪の渦に巻き込まれた。
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