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第十二章
ショータイム
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濡れた身体を軽く拭いてコンコースに出た頃には、後半はもう開始していた。
「すみません、遅れました。ポリンちゃんはどうですか?」
「まだボールに触れていませんが、大丈夫であります。あれは冷静な子ですし、『リーシャだけ見てればよい』と言ってFWに置きましたから」
そう言いつつ口元を緩ませて俺を安心させるナリンさんの仮面が目に痛い。そうだ、ゆくゆくはポリンさんを中盤や右SBとして使いたいのだが、今日のこのシチュエーションにおいてはFWにして負担を軽くしよう……というのがナリンさんの策だった。
彼女はそこまで考えて色々してくれているのに俺ときたら……。その不甲斐なさと身体に残るレイさんの匂いを振り払うように俺は自分の顔をはたき、ドワーフベンチを睨みつけた。
「ナリンさん、すみません。訳あって考えが変わりました。試合が動いても動かなくても、10分でまた配置を変えます」
「はい!? 分かったであります!」
ナリンさんは多少、疑問に思った筈だがすぐに準備を始める。そう、ドワーフはたちレイさんや選手だけでなくナリンさんも傷つけた。難癖や八つ当たりに近いのは承知の上だが、代償は払って貰う。
試合が動いても動かなくても、と口にはしたものの後半開始7分でスコアに変動があった。アローズが追加点を上げたのだ。
アシストはポリンさん。入って早速、彼女の驚異の右足が仕事をした訳だ。当然スコアラーはリーシャさん……と言いたい所だが、リストさんだった。
流れはこうだ。後半早々、逆転を狙って攻めに出たドワーフ代表だが、中央突破を狙った所でクエンさん、ムルトさん、ティアさんの三名――いや気持ちは分かるがよりにもよって一番、武闘派の揃ったエリアに突っ込むなよ――に軽く潰される。
そのボールをシャマーさんが右に展開。右のリストさんから中盤に降りてきたポリンさんへパス。ポリンさんがキープしながら上がりを待ち、攻撃参加したティアさんにパス。さきほどプレスに参加した彼女がもう駆け上がってきてフリーな状態である事に気づいたドワーフのCBが慌てて守備に走るも、ティアさんはそれをあざ笑うようにポリンさんへボールを戻す。
ポリンさんは余裕をもって中をルックアップし、狙いすました低く速いクロスを練習通りファーに位置するリーシャさんへ……送ったつもりだったろうが、センターへ移動していたリストさんが冗談のような飛び込みをみせ、ヘディングで叩き込んだ。
後半7分。これで1-4だ。
「リストさん、リーシャさんへのパスを横取りはしないって趣旨の事を言ってた癖に……。相変わらず、規格外っすね」
「はい! ですがティアの判断もポリンのパスも素晴らしかったであります!」
喜ぶナリンさんやチームを前に、しかし俺は淡々と次の指示を送った。リストさんを下げて――因みに懲罰交代ではないぞ?――アイラさんを投入。またシステムは1-4-2-3-1に変更し、1TOPがリーシャさん、中盤の前三人が左からアイラさん、ポリンさん、ダリオさんという並びだ。
「これはまた妙な……? 練習でも試した事がない並びでありますが?」
「ええ。まだ早いかな? と思って温存してた型です。でも事情が変わりまして。彼女達ならやれる筈です」
本当ならその事情――ドワーフ代表を完膚無きまでに叩きのめしたくなった、思ったよりも選手達の理解度と作戦遂行力が高いので試したくなった――を説明した方が良いのであろうが、今は試合中で時間が無い。俺は注意点を一つだけ伝えて、ナリンさんへ伝達をお願いした。
ザックコーチにあんな綺麗事を言って舌の根も乾かない間に、という自責の念もあるが、それは別種の後悔で塗り替える事にする。
身も心もサッカードウに捧げて戦ってくれているエルフ達に比べて、俺は随分と甘いことを考えていた。リーグ全体のレベルが上がって欲しいというのは変わらぬ本音だが、今だけちょっとそれを忘れて他のチームをビビらせる戦いをしよう。
俺の境遇に相応しい表現をするなら……無双させて頂きます。
『装置、完全に止まったっす! 両方っす!』
「風はもう全く吹いてないそうであります!」
アカリさんが叫び、ナリンさんが伝えてくれた。後半15分。HT中は当然止まっていたので連続稼働時間は分からないが、装置が動いていた時間だけで言えば計60分という所か。
「機械の限界か燃料の限界か……まあどっちでも良いや。了解です、解禁の合図をお願いします」
俺はナリンさんにお願いして、選手へ風が止まったこと、それによって空中のボールが自由に使えるようになったことを伝えて貰った。
正直、ライナーでロングパスやサイドチェンジを行える選手はまだ少ない。ルーナさんとポリンさんくらいだろう。だがロブっぽい軌道で良ければ使い手は何名もいる。いやそれを言うなら使い足か?
どちらにせよこれでピッチを広く使えるようになった。こうなればエルフにとって更に有利な状況で、実際に追加点はエルフらしいエルフの選手が上げる事となった。
「すみません、遅れました。ポリンちゃんはどうですか?」
「まだボールに触れていませんが、大丈夫であります。あれは冷静な子ですし、『リーシャだけ見てればよい』と言ってFWに置きましたから」
そう言いつつ口元を緩ませて俺を安心させるナリンさんの仮面が目に痛い。そうだ、ゆくゆくはポリンさんを中盤や右SBとして使いたいのだが、今日のこのシチュエーションにおいてはFWにして負担を軽くしよう……というのがナリンさんの策だった。
彼女はそこまで考えて色々してくれているのに俺ときたら……。その不甲斐なさと身体に残るレイさんの匂いを振り払うように俺は自分の顔をはたき、ドワーフベンチを睨みつけた。
「ナリンさん、すみません。訳あって考えが変わりました。試合が動いても動かなくても、10分でまた配置を変えます」
「はい!? 分かったであります!」
ナリンさんは多少、疑問に思った筈だがすぐに準備を始める。そう、ドワーフはたちレイさんや選手だけでなくナリンさんも傷つけた。難癖や八つ当たりに近いのは承知の上だが、代償は払って貰う。
試合が動いても動かなくても、と口にはしたものの後半開始7分でスコアに変動があった。アローズが追加点を上げたのだ。
アシストはポリンさん。入って早速、彼女の驚異の右足が仕事をした訳だ。当然スコアラーはリーシャさん……と言いたい所だが、リストさんだった。
流れはこうだ。後半早々、逆転を狙って攻めに出たドワーフ代表だが、中央突破を狙った所でクエンさん、ムルトさん、ティアさんの三名――いや気持ちは分かるがよりにもよって一番、武闘派の揃ったエリアに突っ込むなよ――に軽く潰される。
そのボールをシャマーさんが右に展開。右のリストさんから中盤に降りてきたポリンさんへパス。ポリンさんがキープしながら上がりを待ち、攻撃参加したティアさんにパス。さきほどプレスに参加した彼女がもう駆け上がってきてフリーな状態である事に気づいたドワーフのCBが慌てて守備に走るも、ティアさんはそれをあざ笑うようにポリンさんへボールを戻す。
ポリンさんは余裕をもって中をルックアップし、狙いすました低く速いクロスを練習通りファーに位置するリーシャさんへ……送ったつもりだったろうが、センターへ移動していたリストさんが冗談のような飛び込みをみせ、ヘディングで叩き込んだ。
後半7分。これで1-4だ。
「リストさん、リーシャさんへのパスを横取りはしないって趣旨の事を言ってた癖に……。相変わらず、規格外っすね」
「はい! ですがティアの判断もポリンのパスも素晴らしかったであります!」
喜ぶナリンさんやチームを前に、しかし俺は淡々と次の指示を送った。リストさんを下げて――因みに懲罰交代ではないぞ?――アイラさんを投入。またシステムは1-4-2-3-1に変更し、1TOPがリーシャさん、中盤の前三人が左からアイラさん、ポリンさん、ダリオさんという並びだ。
「これはまた妙な……? 練習でも試した事がない並びでありますが?」
「ええ。まだ早いかな? と思って温存してた型です。でも事情が変わりまして。彼女達ならやれる筈です」
本当ならその事情――ドワーフ代表を完膚無きまでに叩きのめしたくなった、思ったよりも選手達の理解度と作戦遂行力が高いので試したくなった――を説明した方が良いのであろうが、今は試合中で時間が無い。俺は注意点を一つだけ伝えて、ナリンさんへ伝達をお願いした。
ザックコーチにあんな綺麗事を言って舌の根も乾かない間に、という自責の念もあるが、それは別種の後悔で塗り替える事にする。
身も心もサッカードウに捧げて戦ってくれているエルフ達に比べて、俺は随分と甘いことを考えていた。リーグ全体のレベルが上がって欲しいというのは変わらぬ本音だが、今だけちょっとそれを忘れて他のチームをビビらせる戦いをしよう。
俺の境遇に相応しい表現をするなら……無双させて頂きます。
『装置、完全に止まったっす! 両方っす!』
「風はもう全く吹いてないそうであります!」
アカリさんが叫び、ナリンさんが伝えてくれた。後半15分。HT中は当然止まっていたので連続稼働時間は分からないが、装置が動いていた時間だけで言えば計60分という所か。
「機械の限界か燃料の限界か……まあどっちでも良いや。了解です、解禁の合図をお願いします」
俺はナリンさんにお願いして、選手へ風が止まったこと、それによって空中のボールが自由に使えるようになったことを伝えて貰った。
正直、ライナーでロングパスやサイドチェンジを行える選手はまだ少ない。ルーナさんとポリンさんくらいだろう。だがロブっぽい軌道で良ければ使い手は何名もいる。いやそれを言うなら使い足か?
どちらにせよこれでピッチを広く使えるようになった。こうなればエルフにとって更に有利な状況で、実際に追加点はエルフらしいエルフの選手が上げる事となった。
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