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第十一章

二点三転

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 さて、そっちのけにしていた『次の展開』だが、水晶球に映し出されたリプレイによると以下の通りであった。
 ヨンさんルーナさんに迫られたドワーフ右SBからマイラさんがボールを難なく奪取し、近寄ってきたレイさんに横パス。パスを受けたレイさんはワンタッチでスルーパスを前に送る。下がったヨンさんと入れ替わるように前線へ走ったダリオさんがそのパスを受けてGKと一対一。シュートを撃つと見せかけて中央へ流し、クリアしようとしていたDFの後ろから回り込んだリストさんが左足でゴールに流し込む。
 アローズが得点! 前半8分0-2。つまり俺は追加点を見逃していたのだ、わはは。いや笑い事ではないが。
『姫ー! 愛しているでござる~!』
『ほんまやで! なんなん今のエロいシュートフェイント!』
『もともとダリオはむっつりスケベなんだよ!』
『もう貴女たち! エロいとかスケベとか言わないで!』
 得点したリストさんよりも最後のアシストをしたダリオさんに集りつつ、レイさんやティアさんが何かを言い、他の選手も大きな笑い声を上げた。
「あっちの笑い事はいっか」
「どうしたのでありますか? ショーキチ殿?」
 苦笑する俺に気づいて、他のコーチ陣と喜び合っていたナリンさんが尋ねた。
「あ、いや、得点シーンを見逃してましてね。まいったなーと思ってたんですけど、選手達の笑顔を見てたら別に良いかな! と」
 得点しても喜ばなかったり渋い顔をしたりする監督も、地球にはまあまあいる。ヴェルディ等で監督をしたロティーナさんなんかはあまりにも苦渋の表情渋い顔を浮かべるので、自分のチームが得点したのか失点したのか分からないくらいだった。
「そうでありますか! 今のは実に美しいゴールでありましたよ!」
 仮面の奥で目をキラキラに輝かせながら、ナリンさんは言った。なるほど、再度流れたリプレイを見ても確かにビューティフルゴールだ。ボールを奪ってからワンタッチでのプレイが続き、最後はGKを外してのゴールだもんな。エルフさんの美意識にも叶って何よりだ。
「ナリンさんたちコーチ陣の指導のたまものですよ!」
 俺はそう言ってナリンさんやジノリコーチと順々にハイタッチを交わした。今の守備と攻撃は完全に事前に準備した約束事に準じたものであり――まあレイさんのワンタッチスルーパスとか完全にGKを騙したダリオさんのフェイントなどもあるが――コーチが考え抜き何度もパターン練習を繰り返した結果、成功したものだ。
「ま、パターンは何時か読まれるようになるんだけどなー」
 これはナリンさんにも聞こえないように呟く。デザインされた攻撃というのは練習し易いとか選手が入れ替わっても同じレベルのものが出来るといった良さもあるのだが、一方で分析と対策もされ易いというデメリットもある。この世界のレベルから言ってそこまで怖がらなくても良いとも思うが、そこまで賞味期限通用する時間は長くないかもしれない。
「保って1シーズンかな?」
 俺は何やら慌ただしく話し合うドワーフ代表ベンチ方面を見ながら独り言を言った。

 そのドワーフ代表ベンチだが、試合が再開してもまだ有効な手を出せないようでいた。後ろで回せはプレスの餌食となる。だからやはり風を利用したロングボール、ドームラン戦術に頼るしかないが、その狙いは俺たちにはバレている。
 アローズDF陣は中央深くの高いボールは極力GKに任せ、サイドや浅い位置のボールは無理に前方にクリアせず、スローインへ逃げていた。
『風で押し戻されるクリアボールを拾い、その勢いのまま攻め立てる』
というドワーフ代表の目論見は完全に砕かれていたのである。
 また守っても風は味方にならなかった。エルフ伝統のサイドアタックからの深いクロスであればドワーフDFも慣れており、跳ね返せば遠くへ飛ばせただろう。だがダリオさん、レイさん、マイラさんといったテクニシャンを揃えたアローズ中盤は短く早いグラウンダー低い弾道のパスを多用し、変態的な足下のテクニックを持つリストさんへ、そして高いDFラインから容易に攻撃参加する両SBへ自在に配球を行っていた。
 次々とアローズにチャンスが訪れ、リストさんがイージーなシュートを何本か外して――難しいゴールは決めて、簡単なシュートを外すタイプじゃないか? と初めて見た時からなんとなく思ってた――いたが、追加点は時間の問題と思われた。
 だがドワーフ代表もミスラル・ボウルも黙ってやられる球ではなかった。ボウルだけに。

『はっ?』
『どういうこと?』
 ベンチ脇で連絡をとっていたアカリさんサオリさんが同時に何事か呟いた。
『ちょっと! 双眼鏡』
『いや、こっちが必要なんですけどー!』
そのまま二人と言うか一人で二つの頭の蛇人間ゴルルグ族さんが双眼鏡を取り合う。
「あの、どうしたんですか? 聞いて貰えますか?」
『アカリさんサオリさん、どうなされました?』
『なんか風が止まったって』
『断続的に動こうとしてるって』
 二人はそれぞれに別の方向を指さしながらナリンさんに何かを訴えている。先ほどゴールシーンを見逃してしまった俺はなるべくグランドの方に目と意識を残しつつ、ナリンさんの言葉を待つ。
「えっと、ドワーフ側からの風が止まったそうです」
「はあ。ではこれが装置の連続稼働時間の限界ですかね?」
 俺はスタジアム上の掲示板を見た。前半30分といった所か。
「或いは単純にこの戦法を諦めたのかもしれませんが」
「いえ、それが……。ドワーフ側の風が止まりつつも、逆側で何か動きがあると」
 なんと。すると両方から中央に向けて風が吹いているかもしれないという事か。奇っ怪な話だ。
「それで二人で双眼鏡を取り合っているんですね。あ、確かに両サイドで連絡員が何か振ってる」
 俺はスタンドの方を見てそれぞれの連絡員が何か伝えようとしているのに気づいた。特にエルフゴール裏側が必死な様子だ。
「とは言え今はこっちが押し込んでいるし……。あっ!」
 その視界の端でドワーフDFがリストさんのシュートをブロックし、こぼれ球を拾ったMFが破れかぶれのロングボールを蹴った。
 そのボールはドワーフFWの頭上を遙かに越え、エルフDFラインも越えてぽっかり空いたエリアに飛んでいく。またペナルティエリアのぎりぎりでボナザさんがキャッチできそうな位置だ。
 だがドワーフのFWの一人が諦めずに走る。それを見て俺はようやくある事に気が付いた。
「ダメだボナザさん! ナリンさん彼女に……」
 何て言って貰えば良い? と俺が迷う間に悲劇が起きた。
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