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第十一章
石崎くんのブロック
しおりを挟む「うわあ、ボナザさんすごーい!」
「何言ってるのよ。ユイノもあれくらい蹴りなさい」
感心するユイノさんにリーシャさんが激励するような叱咤するような声をかけた。いやリーシャさん、これは普通無理だから。
「もう一本、いっときます?」
「はい! お願いします!」
ナリンさんが栄養ドリンクのCMの様な事を問い、俺は素直にそれにのった。実はさっきのは思った以上に飛びすぎて、ボールがフレームアウトしていたからだ。
「ボナザ、もう一回お願い!」
「分かった! それ!」
ボナザさんはリプレイと思わせるフォームで再びパントキックを蹴る。たゆまぬ反復練習の成果だろう。
「おおう……」
ボールは再び風に乗り飛んでくる。これまたリプレイだ。
「撮れてますかー?」
「はーい」
俺の方へ向き確認するナリンさんに手を振る。なんだか運動会の父兄みたいだな、と思った矢先にまたあの唸りが聞こえた。
「ごおおお!」
「え?」
「ナリンさん、危ない!」
音と目の前で起こった事から想像するに、装置はもう一段階上に出力を上げた。その風は予想以上の加速をボールに与え、弾丸と化したそれは油断していたナリンさんの顔面に直撃した。
「にゃりんー!」
ナリンさんはニャイアーコーチの上で大きくバランスを崩し、背中からグランドの方へ落下していった……。
「きゃー!」
スタジアム内に悲鳴が木霊する。力を失い弛緩した身体で落ちていくナリンさん、手を伸ばそうとするニャイアーコーチ、凍り付いた表情のジノリコーチとボナザさん……。全てがスローモーションに見えた。俺は間に合わないと知りつつも録画中の魔法の手鏡を放り投げ、ピッチ内へ駆け下りようとした。
その時。一陣の風が芝生の上に舞い降りた。
「お嬢さん、羽毛100%の寝心地はいかがだぴよ?」
「スワッグ!?」
あの鳥だ。上空に風はない……と察したグリフォンは先に自分の判断で高度を下げ、ナリンさんの落下を見るや否や猛スピードで滑り込み彼女を受け止めたのだ。
「にゃりん! 血が!」
「怪我は!? 誰か医療班を!」
スワッグは間に合ったように見えたが、どうもナリンさんは出血しているらしい。俺は周囲のスタッフに呼びかけながら、彼女の元へ向かった。
「ナリン、ごめん!」
「だびじょうぶよ。だだのばなぢだがら……」
「ナリン、頭を動かすでない!
駆け着けたボナザさん、ジノリコーチとナリンさんが何か話している。が、俺が着くより先に選手達で人垣ならぬエルフ垣ができていて良く分からない。
「ごめん、通して」
「ぎゃ! だれがだおるがじで……」
「ナリンちゃんこれ使って!」
俺が選手達をかき分けナリンさんの横へ着く頃には、彼女はポリンさんに貰った布で顔を隠してしまっていた。
「ナリンさんお怪我は? ちょっと見せて下さい!」
スワッグに抱き抱えられたナリンさんは、身体には目立った外傷が無いように見える。しかしボールが直撃した顔は分からないし、一瞬気を失ったみたいだから脳震盪も心配だ。
「しょーぎぢどの、みないでぐだざい……」
「そうやでショーキチ兄さん! こっちいこ!」
ナリンさんへ近づこうとする俺を抱き抱えるようにしてレイさんが俺を引き離し、選手達が素早く隙間を埋めてエルフ垣が塞がった。くそ、良いコンビネーションだ。
というかこのスクリーン、セットプレーに使えるな?
「女の子のキツい時の顔、みたげんとき」
「そうかもしれないけど俺は責任者として」
「ショーキチ兄さんは責任者かもしれんけど、惚れた男でもあるんやで? そこは分かって」
誰が誰の? と悩む間に医療班が到着しエルフ垣の中へ入っていった。入れ替わりにスワッグが俺たちの横に立つ。
「あ、スワッグ! ナイスキャッチ。助かったよ、本当にありがとう」
「なあに。ボディガードとして当然の仕事をしたまでぴい」
そう言いつつドヤ顔でえんだぁ~ああー、と歌い出したスワッグの頭を撫でていると、仕事を終えた彼の相棒とアカサオが駆け寄ってきた。
「ミッションコンプリートだぜ!」
「誰にも見つかってない! た、たぶんね」
「ちゃんとデータ取れたっすか? てかこれ何の騒ぎ?」
ステフ、サオリさん、アカリさんがそれぞれに口を開く。
「あ、データ! レイさんスワッグごめん、説明してあげて!」
俺は一人と一羽にそうお願いすると、俺がスタンバイしていたメインスタンド観客席の方へ走って戻った。
「うわ……」
さっき投げ捨てた魔法の手鏡は思っていた付近ですぐに見つけられた。だが鏡の面は、完全に割れてしまっていた……。
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