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第十章

エルフvsドワーフ前哨戦

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 王城に着いた俺達は以前、監督カンファレンスでクリン島へ行く時に利用したのとは別の部屋の別の魔法陣を使って移動を行う事となった。
 今回は同時に大人数が瞬間移動する訳で魔法を知らない俺でもその危険性は何となく想像でき、ビビリまくっていたのだがエルフの皆さんは何の緊張感もなく魔法陣の中へ進み魔法が作動するのを待った。
 そして前回と同じくシャマーさんが床を叩き周囲が光に包まれると……やがて目の前にさっきまでとは違う風景が広がった。
 大きさで言えばエルフの王城の部屋と似たようなものか。しかし全体が石造りでひたすら殺風景であり、しかも天井が無く上空は開けている。
 とは言えその『上空』とは遙か先で、険しい岩肌と堅牢そうな城壁を何百mも辿った上に僅かに曇り空が見えるくらいだ。
 地球の、平和慣れした日本人の文脈で言えば『ダムの底から放流口を見上げている』といった感覚か。だが放流口の代わりに上にあるのは、鎖で支えられた巨石であったが。
「(うわっ! あれ、落ちてこないんですか?)」
「(こないわよー。悪さしなければ、ね?)」
 小声で訊ねる俺に悪さばかりするエルフ、シャマーさんが教えてくれた所によると、アレは瞬間移動魔法を悪用してドワーフの砦へ攻め入ろうとする奴らへの警告らしい。つまりこの魔法陣で攻撃部隊を送って来ても、あの岩を落としてぺしゃんこだぞ、と。
「(そんな事、あり得るんですか?)」
「(まず無いけどねー。でもここって、ドワーフの喉元だからさー)」
 続けて説明して曰く、こういった瞬間移動の魔法陣は高度な外交的窓口であり首都や城などから遠く離れた所に設置するのは無礼にあたる、とは言え自分たちにとってクリティカルな場所に置くのは怖い、と各種族も苦労しているらしい。
 その割にエルフやドラゴンの施設はどうたったんだ? と思ったらエルフは魔法で瞬間移動してくる前から察知するシステムがあり、ドラゴンにはそんな不埒な事を考える命知らずがいないから、どちらも心配はないらしい。流石だ。
「ようこそ! エルフ代表の皆様」
「お世話になります」
 俺達が小声で話し合っている間に、年輩っぽい女性のドワーフ――おそらくドワーフ側のコーディネーターだ――とダリオさんが挨拶を交わしていた。これが高校の運動部の漫画であれば相手校の監督やらエースやらが直々に出迎えをし、宣戦布告の言葉や嫌味やらをひとしきり披露してくれるのであろうが、我々は双方とも種族代表チームの関係者であり準外交官的存在でもあるのでそのような茶番は行われず、極めてプロフェッショナルかつ大人なやりとりに終始する事となる。
「素晴らしい好天の中、皆様をお迎えできて幸いです。エルフ代表の将来を思わせるような空でございますね」」
 え? あのちょっとだけ見えてる雲だらけの空が?
「こちらこそ湿気の多い暗闇から眩しい日の下へご足労かける事になって恐縮です。安心できる穴蔵へすぐお戻り頂けるよう、速やかに用件を終えさせて頂きますわ。宿舎へのご案内、お願いしますね」
 前言撤回。礼儀正しそうに見えたドワーフの叔母様もダリオ姫も、言葉をオブラートで包みつつバチバチのやりとりだ。これがエルフVSドワーフの空気感か……。
「ではこちらへ」
 キャラクリエイト画面で急にデフォルトに戻した様に、ドワーフさんの表情が素に戻って先へ歩き出した。エルフの皆さんも特段、気にすること無く後に続く。
「いやはや、これが話に聞く……」
 ザックコーチが苦笑いを浮かべながら俺の隣に立つ。その後ろには隠れるようにジノリコーチが貼り付いている。
「お恥ずかしい限りじゃ……」
「なんか、こちらこそ済みません」
 彼女をドワーフ代表のスタッフから引き抜いたのは俺だ。ただでも仲の悪いエルフードワーフ間の関係の上に、彼女は『裏切り者』という立場になる。心労は計り知れないものだろう。
「アレはわしの叔母でな」
 へ? そっち!?
「他にも親戚連中がこぞってくるらしい……。まったく、普段のリーグ戦は呼んでもこないくせに……ぶつぶつ」
 ジノリコーチはザックコーチの後ろのすね毛をブチブチと抜きながら呟く。そっかそういうものなのか。
「ご愁傷様です。まあ、頑張りましょう!」
 確かに日本のサッカー処、静岡の選手などは下手なアウェイよりも地元の試合の方が、サッカーに一言も二言もある親戚知り合いが集まるので気を使う……とも言うらしい。
 それを考えればこの世界に知り合いが一人もいないぼっちは気が楽だな。そう思いつつ俺達は選手たちに続いた。
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