D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
154 / 700
第九章

死の終焉と旅立ち

しおりを挟む
「うえーん! ホテルのディナーがー!」
「あれ? また鼻血が出てきた……」
 試合終了のホイッスルが鳴り、ユイノさんが泣き崩れルーナさんが鼻を押さえて座り込んだ。いや、座り込んだのは彼女たちだけではない。勝った青組負けた赤組、両チームの選手がほぼ全員、体力を使い果たしてグランドに倒れ込む。
「ぱちぱちぱち……」
 自然と、ピッチを囲んだスタッフさん達から拍手が起こる。アローズのメンバーは皆、もともとサッカードウの選手としてある程度の尊敬はされていただろう。だがいま彼女たちが勝ち得た称賛拍手は、たぶんそれとは別の質のモノだろう。
「みんなよく死力を尽くしたよ。本当にお疲れさま。君たちのコーチであることを光栄に思う」
 俺とジノリコーチはベランダから降りて直に選手たちを労った。他にもニャイアーコーチはユイノさんとボナザさんにアドバイスをし、ナリンさんはスタッフさんと一緒に飲み物を配り、ザックコーチは負傷したルーナさんや限界を越えた選手たちを気遣う。
「あの、ショウキチ監督?」
 そんな中、疲労困憊になっても優雅さを失わない足取りでダリオさんが近寄ってきた。
「はい? どうしました?」
「旅行の方ですが、私は公務もありますし辞退させて頂きます。なのでその空いた部屋を赤組の誰かに……」
 彼女がそこまで言った所でシャマーさんとムルトさんがやってきてダリオさんに追従した。
「あたしもパスー。ショーちゃんのいない旅行なんてつまんないし。ショーちゃんも来て同じ部屋に泊まるなら考えないでもないけど?」
「わたくしも旅行は遠慮します。ここで事務をしませんと。また余計な出費があるようですし」
 そう言う2名の目はまた別々の意味で怖かった。とは言えその申し出はたいへん好ましい。ここは監督としても負けていられない。
「ありがとうございます。でも心配ご無用ですよ。みんな聞いて!」
 俺は再びベランダへ戻り拡声器を操作した。
「えーいま、勝者青組のダリオ、シャマー、ムルトの三名から旅行の辞退と空いた部屋を赤組へ譲る提案がありました。非常に有り難い事ですが、実のところ高級リゾートの部屋。実は両チーム分とってあります! 青組も赤組も、みんなで行って遠慮なく楽しんできて下さい!」
 やったあ! と歓声が上がった。なんだ、まだまだスタミナ残ってたんじゃないのかこの娘たち!?
「やったのだ! マイラちゃん一緒にエステへ行くのだ!」
「そうね……アイラにゃんたっぷり絞りましょうね?」
「いよ、太っ腹! ステフてめー、これを知ってるから意地悪したな?」
「うんにゃ。アレは素」
 方々で浮ついた声が上がる。ここはちょっとだけ締めとかないと。
「みんな待って、これは今回だけだからね? 次はちゃんと、勝者と敗者で待遇分けるから!」
「え? 『次』って?」
 耳ざとく、リーシャさんが抱きついて跳ねるユイノさんをふりほどきながら訊ねた。
「まさか次回もあるの!?」
「うん。できれば月一でやりたいなーっと」
「「「やだー!」」」
 皆が叫ぶ。その瞬間が、アローズ現体制発足以来もっとも結束が高まった瞬間かもしれなかった。
 
 なお余談ではあるが、その日を境に選手たちにも
「スタッフの名前をちゃんと覚えよう!」 
という気運が高まり、
「ハイ、ジョージー」
「ハイ、チャッキー」
と気さくに名前で呼び合う習慣ができた。それは非常に良い事ではあったが、なんか安っぽい昔のアメリカのドラマっぽくて何となく嫌だった。何となく。

「じゃあリゾートを目一杯、楽しんできて。既婚者以外はナンパでもして、リゾラバでも作ってくるんだね」
「リゾラバ? なんだそりゃ?」
「リゾート地限定のラバー、恋人」
「ひでえなそりゃ! 監督の言う台詞じゃねえだろ!」
 二日後。見送りに行ったグリポートで、俺はそんな会話をティアさんと行っていた。
「いやいや。今後、君たちは人気チームのスター選手になるんだ。そうなると色んな奴らが近づいてくる。その前に十分遊んで、回復可能な失敗したり免疫をつけたりするべきだよ」
 俺はスワッグステップの馬車に乗ったり別のグリフォンの背の鞍に跨がったりしている選手達――魔法の馬車の収容人数にも限界があるし、何より全員が同じ乗り物に搭乗することを俺が嫌ったからだ。地球で何度か起きた悲劇を繰り返してはいけない――全員に呼びかけるように言った。
「監督ーそれは大げさだよー」
 グリフォンの頭部を模した派手な飛行士帽を被ったユイノさんが笑いながら言った。どこで売ってるんだあれ?
「大袈裟じゃないよ。俺は真剣に、君たちがスター選手になると思っている。というか俺がする。だからこそ、今の間に遊び方も学んでいて欲しいんだよね」
 まあユイノさんは色気より食い気だろうけど。
「そんな事を言っ貰って悪い遊びできるような図太い子、あまりいないと思うよ? 少なくともデイエルフには」
 ルーナさんがティアさんの後ろ鞍に飛び乗りながら言った。この両SBはグリフォンでもタンデムか。
「え? なんで?」
「自分で考えようね、天然」
「んだんだ。アタシは半分デイエルフだから分かるけどよ、お前はもう少し女心を学んだ方が良い」
 そう頷きながらも、ティアさんはゴーグルを装着しグリフォンに合図を送る。
「お前じゃなくて監督なー!」
 鷲頭に獅子の身体をもつ魔獣は力強く地面を蹴り、崖端のグリポートから一気に飛び立った。他の選手達が乗ったグリフォンもそれに追従する。
「ティアさんこそ学んで欲しいわ!」
 テイクオフの瞬間に言い返したが恐らく聞こえていないだろう。俺の呟きは負け惜しみのようなテンションになってしまった。
「じゃあ俺たちも行ってきますぴよ」
「あ、スワッグ! 宜しくお願いします」
 大人数の送迎およびガイドを担うスワッグに深々と頭を下げる。相棒のステフは先に現地入りして宿や観光の準備だ。
「任せて欲しいぴよ。ウマの娘さんの3頭や4頭と懇ろになってくるぴい」 
いやそっちじゃないし! あとウマの娘さんと懇ろって響きが特に何か危険な感じがする!
「そうじゃなくて……」
「さあ行くぴよーその顔を上ーげぴー」
 スワッグは銀河を旅する鉄道のようなメロディを口ずさみながら走り出した。見た目からは想像もできないようなスピードで、馬車が空にある見えないレールに沿うように高度を上げていく。
「監督ー! お土産たのしみにしてるのだー!」
「楽しみにするのです!」
 馬車の窓から手を振るアイラマイラさんの声が小さくなっていく。何はともあれ選手の大半はバカンスに送り出した。今度はこっちが出発する番だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...