D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第九章

紅白戦(赤と青)その5

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 後半なかば。試合の混沌に落ち着きをもたらしたのは意外な選手だった。
「アイラちゃん無理せずもどしてー!」
 それは最後尾からのんびりした、しかし良く通る大声で指示を飛ばしている、GKのユイノさんだった。
「モツァレラさん大盛り一つ! じゃなかったボール下さい!」
 青組のプレスにあって前進できなければ逃げ場としてパスの受け手となり、ボールがピッチ外に出ればすぐさまスタッフさんに声をかけて積極的にコミュニケーションを取る。
 もともとFWであったユイノさんはバックパスを受け取って足で捌く事になんの躊躇いも――たまにティアさんが返す乱暴な浮き玉のパスでも柔らかくトラップした。元ポストプレイヤーの本領発揮だ――なく、クラブハウス建築開始頃から出入りしていた為にスタッフ陣の多くとも面識がある。特に食堂の皆さんの名前は完璧に覚えていた。
 もちろん、朗らかで食べっぷりも良いユイノさんの事をスタッフの方も色々な意味で「良く」覚えており、声をかけられたら他の選手と多少タイミングが重なっていても優先的に彼女へボールを投げ渡した。
 結果、青組のプレスは効かず――GKまで戻された場合の追い込み方はまだ教えてない――赤組のボール保持率が大きく上昇する事となり、青組は自陣に押し込まれ守りに徹する形となった。
 そこだけをみれば前半先制後と代わりは無いが、青組にとって今回は強制された撤退守備であり得点もイーブンだ。自分たちがパスを回して体力を回復させるタイミングもない。更に今が狙い時と見てルーナさんがリストさんを最前線へ上げた。
 赤組が決勝点を上げるのも時間の問題かに思えた。だが事故と言うのは得てしてそういう時に起こるものだった。

「オーケイ!」
 高く設定された赤組のDFライン裏。久しぶりに良いパスがそのスペースへ流れFWのヨンさんが飛び出したが、彼女が触れる直前にスイーパー的な位置までポジションを上げていたユイノさんがそのボールをスライディングで蹴り出した。
「まだチャンスが! えっと……」
「あの! あれ? 僕、誰だっけ?」
 ヨンさんとユイノさんは軽く交錯し、地面に横たわりつつ悩んでいた。クリアされた位置のすぐ側でボールを持ち笑顔で佇む、少年の名前が思い出せないからだ。あれは……
「ニック! お姉ちゃんにちょうだい!」
 ポリンさんが優しく声をかけた。そう、ニック君だ。湖畔で俺がサッカーを教えていた子供たちその1。それはつまり、ポリンさんが面倒をみてあげているキッズでもある。
「はーい、ポリンお姉ちゃん」
 ニック君は朗らかな声を上げながら彼女の方へボールを投げ入れた。ポリンさんがそれを柔らかくトラップしたのを見てユイノさんが慌てて立ち上がり、ティアさんが猛然とプレスをかける。
「うんしょ」
「あれ、れ?」
 ポリンさんはボールを守るようにターンを始めた。ティアさんが突っ込んできたのと逆の方向へ、相手ゴールに背を向けるような方向へ、そのままターンを続けて……結局、また相手ゴール方向へ。
 ほぼその場で行われた360度のターン。何て事ない動きだが、ティアさんはボールを奪うことも身体をぶつけることも出来ずにバランスを崩し、進行方向を開けてしまった。……これってシャビの「ラ・ペロピナ」じゃないのか!? ポリンさん、子供たちと遊ぶ間に自分で開発したのか!?
「あわわわ!」
 急いでゴール方面へ戻ろうとするユイノさんを後目にポリンさんは軽く右足を振った。傍目には全く力が籠もっていない。しかしキックの名手である彼女の蹴り足は正確にボールの中心を捕らえ、ハーフライン上から放たれたシュートは追い風に乗って無エルフのゴールへ飛んでいく。
「ちょっと勘弁……!」
 ルーナさんが唯一名、クリアしようとダッシュする。だがチーム随一の脚力を持つ彼女を持ってしても、そのボールに追いつくことはできそうになかった。
「可愛い顔して残忍じゃのう……」
 ジノリコーチも思わず呟いた。ポリンさんは知っているのだ。誰もボールより早く走ることはできないと。だからこそ
「GKが飛び出してゴールががら空き」
という絶好のチャンスのようで実はめちゃくちゃ慌ててしまいそうな状況で、悠長に360度ターンを行ってDFを外し、ミートする事に集中してシュートを撃てた。
「が!」
 ボールがネットを揺らし、0.5秒ほど遅れてルーナさんがネットに張り付いた。クリアできなかった上にスピードを殺すことも出来ず、網にめり込んで思わず声を上げたのだろう。
「蛾みたいだーわたしー」
 そっち!? 良い意味でも悪い意味でも呆れる俺たちの前でルーナさんは鼻血を出しながら崩れ落ちた。
 残り時間はまだあったが、試合はもうそのゴールで決してしまった。
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