D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

文字の大きさ
上 下
151 / 693
第九章

紅白戦(赤と青)その3

しおりを挟む
「走った……死ぬ」
「前半だけで足が笑ってる……」
 ザックコーチの笛が鳴ると同時に何名もの選手がその場に倒れ込んだ。走りまくった赤組はもちろんだが、受けて立った青組も途中からそのペースに合わせられて疲労の色が濃い。しかもベテラン揃いだし。
「ハーフタイムはそのままピッチで休息をとって。あと特別に20分とします」
 俺はベランダからそう叫ぶ。
「最初の5分で後半のルール変更を伝えます。えースローイン代わりのボールの投げ入れ、前半は俺が指示していましたが、後半はスタッフさんが独自に判断して下さい」
 その言葉にピッチを囲む皆さんからどよめきの声が上がった。選手たちはまだ呻くだけで反応が薄い。可哀想だな。いや俺がやらせてるが。
「独自の判断、と言っても難しいすよね? なので一応基準として。後半は、選手がスタッフに呼びかけるのを許可します。名前を呼ばれたスタッフは、その選手にめがけてボールを投げ入れると良いでしょう」
 俺がそこまで言うと、スタッフさん達はひそひそと相談を始めた。
「そうは言うけど名前、覚えられているかな?」
といった反応が主だろう。
「どういうつもりなんじゃ?」
 ジノリコーチがルール変更をメモしながら訊ねる。
「そうですね。一つ、選手にもっと声を出して欲しいんですよ。疲れている時こそ、より声で味方を操ったりアシストしたりするのが必要ですからね。二つ、組織として一体感を出す為には、選手にもスタッフさんたちの名前を覚えて欲しいんですよ。これをその切っ掛けにしたくて。三つ目は……」 
俺は身を屈め、ジノリコーチに耳打ちするように言う。
「疲れました。投げ入れの指示するのが」
「ぶっ!」
 ドワーフの少女は思わず吹き出し、俺の顔に唾を飛ばした。
「あああ、すまん!」
「いえ、大丈夫です」
 慌てて彼女が差し出したタオルを受け取り、顔を拭きながら応える。
「イチャイチャしてるところごめーん! ショーちゃんしつもーん!」
 下から声がした。シャマーさんだ。ベランダを見上げ両手をメガホンのように当てながら叫んでいる。
「何ですか? あとショーちゃんじゃなくて監督、ね?」
「もしタイミングが悪くてボールが二つとか三つとか入ったらどうしたら良い?」
 おっとそれはもっともな疑問だな。俺は少し考えて答える。
「選手判断で素早く余計なボールを蹴り出して下さい。その前までがどうであれ、最後に残ったボールが有効です。とは言え外のスタッフも試合をよく見て、なるべく複数のが入らないように注意して下さい」
「わかりましたー!」
 選手、スタッフからそれぞれ了解の声が上がる。ジノリコーチには
「選手がスタッフの名前を覚えるようにしたい」
と言ったが、密かに逆もまた然りだ。クラブハウスの運営に関わる従業員には多種多様な種族が存在し、その中にはエルフやサッカードウに特に関心や好意を抱いていない者もいる。
 もちろんビジネスライク他人行儀な態度もそれはそれでアリだが、俺はどうせなら皆さんにサッカードウと、エルフの選手たちへの興味を持って欲しかった。
 その思惑が実るかどうかは、後半の選手達の頑張りにかかっていた。

「キラさんこっちにボール下さい!」
「いえこちらにキラさん……いやギランさん!」
 後半開始。選手の動きにエンジンがかかると共に、試合はかなり混沌としたものになってきた。
「「キヅルさんこっち!!」」
「今、私が先に言ったにゃん!」
「いや、自分っす!」
 プレスの掛け合いになると当然、ボールがサイドラインの外に出る機会が増える。ボールが外に出ると今度はボールを貰う為に、ピッチを囲むスタッフに名前を呼びかける機会も増える。しかし選手たちの殆どはまだ彼ら彼女らの名を正確に覚えておらず、必死に思い出そうとしながら叫ぶ事となる。
 試合は膠着状態のまま
「サッカードウをプレイしながらうろ覚えな名前を呼び起こし必死にアピールする」
ゲームという別の何かになろうとしていた。
「ボールください、ジェフィさんユニティさんヴァンさんロビーさん!」
「ほいきた!」
 シャマーさんが必死に呼びかけた左サイドではなく、逆の右サイドから警備担当のロビーさんがボールを投げ入れた。さすが犬のような外見のガンス族、耳が良い。
「よし、頂き!」
 それに素早く反応したリーシャさんがボールを確保し、ドリブルを始める。
「あれぇ?」
「シャマー! 名前の総当たり方式はおやめなさい!」
 ダリオさんがシャマーさんを叱責しつつ守備へ走る。なるほど、ガンス族にいそうな名前をあてずっぽうで並べたか。裏目には出たがやはりシャマーさん狡賢い。
「なあ、ショーキチよ」
「なんっすか、ジノリさん?」
「ちょっとおもてたんとちがう」
「ですね……。でも面白いからこのままやりませんか?」
 俺は隣でピッチを見下ろし難しい顔をしている真面目なコーチさんに応えた。
「……確かにそうじゃな」
 そうする間に、ジノリコーチも認める珍風景に更に面白い一幕が加わりそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

処理中です...