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第九章
頭痛の種々
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その日の夕方、懇親会が終盤を迎える頃に選手達は練習試合を終えてエルヴィレジへ帰ってきた。会そのものは選手抜きで行う趣旨であったが、家族の元を離れてしばらく経つ選手も何名かいる。折角なので試合後に少し会えるよう、時間を調整してあった。
「あ、お母さん!」
「お帰りなさい! あら、少ししゅっとしたじゃない?」
といった会話が食堂のあちらこちらで行われる。練習漬けの日々で疲労やストレスの溜まっている中、家族やパートナーに会えて嬉しいのか選手のテンションも高い。これはシーズン中の第二弾もしっかり準備しておかないとな。
「ショーキチ殿、帰ったであります」
「あ、ナリンさん! 試合はどうでしたか?」
俺は学生チームとの試合で監督代行を果たして貰ったナリンさんを出迎え問う。
「それでありますが……どこか別の場所で」
「はい? では監督室へ行きましょう」
ナリンさんが何か訳ありの声のトーンで、しかも日本語で応える。これは何かあったな? 他のコーチはまだ参加者に捕まっているので、俺たちは二人だけで部屋へ向かった。
監督室には何かがあった。部屋中に粉の様なモノが舞い飛び、紙が散乱している。
「ショーキチ殿!? これは!?」
「ははは。アホが罠にかかったみたいです」
俺はハンカチで口を押さえながら中へ入り、窓を開けて換気をする。
「罠……でありますか?」
文字通り罠だ。俺は開くと粉――無害なお菓子用の砂糖みたいなもの――が派手に舞い散る罠を『秘密の作戦ノート』にしかけて監督室の机に置いていた。
そう、懇親会の冒頭の挨拶で言った『秘密の作戦ノート』だ。アレはもちろんジョークのつもりで言ったが、そのジョークの一部として実際にそのタイトルが表紙に書かれた冊子を机に置き、誰かが開けたらビックリするように仕掛けていたのだ。
とは言え本当に機能する機会があるとは考えておらず、あっても参加者のお子さん等がひっかかってキャッキャ言えば面白いかな? と思っていた程度なのだが。
「ええ。懇親会の最中に誰か部屋に忍び込むかな? と思って」
ナリンさんに応えつつ床に落ちた粉に残った足跡を探す。……あった。子供ではなく大人サイズのもので、ドアではなく壁の方へ行った後で唐突に消えている。
つまり大人ではあるが子供の様な心を持ち、会場から抜け出す機会があり、素早く魔法か何かで逃げ出す力量のある人物がこの罠にかかったという事だろう。
「頭が痛い……」
レブロン王だろう。あのこまった王様め……! 俺はリアルで軽く目眩を起こして大きめのソファへ座り込んだ。
「大丈夫ですか!? ショーキチ殿!」
心配したナリンさんが駆け寄り隣に座り、俺の額に自分の額を当てる。
「疲労でありますか? 熱は無いようですが……」
「なっ、ナリンさん!?」
顔が近い! そして今日たくさん成年のエルフを見て思ったが、やはりナリンさんは顔の造形が図抜けて良い。てかエルフもこうやって熱を計るんだ!?
「病気とかじゃないです! 犯人に心当たりがあって、心労がきただけです!」
俺は慌てて身を引く。ナリンさんが心配そうな顔をするので、大げさに素早く立ち上がって力強い足取りで机の向こうへ周り、監督用の椅子にドカっと腰掛ける。
「犯人にはいずれお灸を据えるとして。報告をお願いします」
俺がそう言うとナリンさんは少し怪訝な顔をしたが、一つ頷いて試合のスタッツ等が記されたらしい紙をテーブルへ置いた。
「13―1っすか!?」
渡された資料に記されていたのは、あの伝説の一三スコアと同じ数字であった。
「あ、お母さん!」
「お帰りなさい! あら、少ししゅっとしたじゃない?」
といった会話が食堂のあちらこちらで行われる。練習漬けの日々で疲労やストレスの溜まっている中、家族やパートナーに会えて嬉しいのか選手のテンションも高い。これはシーズン中の第二弾もしっかり準備しておかないとな。
「ショーキチ殿、帰ったであります」
「あ、ナリンさん! 試合はどうでしたか?」
俺は学生チームとの試合で監督代行を果たして貰ったナリンさんを出迎え問う。
「それでありますが……どこか別の場所で」
「はい? では監督室へ行きましょう」
ナリンさんが何か訳ありの声のトーンで、しかも日本語で応える。これは何かあったな? 他のコーチはまだ参加者に捕まっているので、俺たちは二人だけで部屋へ向かった。
監督室には何かがあった。部屋中に粉の様なモノが舞い飛び、紙が散乱している。
「ショーキチ殿!? これは!?」
「ははは。アホが罠にかかったみたいです」
俺はハンカチで口を押さえながら中へ入り、窓を開けて換気をする。
「罠……でありますか?」
文字通り罠だ。俺は開くと粉――無害なお菓子用の砂糖みたいなもの――が派手に舞い散る罠を『秘密の作戦ノート』にしかけて監督室の机に置いていた。
そう、懇親会の冒頭の挨拶で言った『秘密の作戦ノート』だ。アレはもちろんジョークのつもりで言ったが、そのジョークの一部として実際にそのタイトルが表紙に書かれた冊子を机に置き、誰かが開けたらビックリするように仕掛けていたのだ。
とは言え本当に機能する機会があるとは考えておらず、あっても参加者のお子さん等がひっかかってキャッキャ言えば面白いかな? と思っていた程度なのだが。
「ええ。懇親会の最中に誰か部屋に忍び込むかな? と思って」
ナリンさんに応えつつ床に落ちた粉に残った足跡を探す。……あった。子供ではなく大人サイズのもので、ドアではなく壁の方へ行った後で唐突に消えている。
つまり大人ではあるが子供の様な心を持ち、会場から抜け出す機会があり、素早く魔法か何かで逃げ出す力量のある人物がこの罠にかかったという事だろう。
「頭が痛い……」
レブロン王だろう。あのこまった王様め……! 俺はリアルで軽く目眩を起こして大きめのソファへ座り込んだ。
「大丈夫ですか!? ショーキチ殿!」
心配したナリンさんが駆け寄り隣に座り、俺の額に自分の額を当てる。
「疲労でありますか? 熱は無いようですが……」
「なっ、ナリンさん!?」
顔が近い! そして今日たくさん成年のエルフを見て思ったが、やはりナリンさんは顔の造形が図抜けて良い。てかエルフもこうやって熱を計るんだ!?
「病気とかじゃないです! 犯人に心当たりがあって、心労がきただけです!」
俺は慌てて身を引く。ナリンさんが心配そうな顔をするので、大げさに素早く立ち上がって力強い足取りで机の向こうへ周り、監督用の椅子にドカっと腰掛ける。
「犯人にはいずれお灸を据えるとして。報告をお願いします」
俺がそう言うとナリンさんは少し怪訝な顔をしたが、一つ頷いて試合のスタッツ等が記されたらしい紙をテーブルへ置いた。
「13―1っすか!?」
渡された資料に記されていたのは、あの伝説の一三スコアと同じ数字であった。
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