上 下
143 / 665
第九章

頭痛の種々

しおりを挟む
 その日の夕方、懇親会が終盤を迎える頃に選手達は練習試合を終えてエルヴィレジへ帰ってきた。会そのものは選手抜きで行う趣旨であったが、家族の元を離れてしばらく経つ選手も何名かいる。折角なので試合後に少し会えるよう、時間を調整してあった。
「あ、お母さん!」
「お帰りなさい! あら、少ししゅっとしたスマートになったじゃない?」
 といった会話が食堂のあちらこちらで行われる。練習漬けの日々で疲労やストレスの溜まっている中、家族やパートナーに会えて嬉しいのか選手のテンションも高い。これはシーズン中の第二弾もしっかり準備しておかないとな。
「ショーキチ殿、帰ったであります」
「あ、ナリンさん! 試合はどうでしたか?」
 俺は学生チームとの試合で監督代行を果たして貰ったナリンさんを出迎え問う。
「それでありますが……どこか別の場所で」
「はい? では監督室へ行きましょう」
 ナリンさんが何か訳ありの声のトーンで、しかも日本語で応える。これは何かあったな? 他のコーチはまだ参加者に捕まっているので、俺たちは二人だけで部屋へ向かった。

 監督室には何かがあった。部屋中に粉の様なモノが舞い飛び、紙が散乱している。
「ショーキチ殿!? これは!?」
「ははは。アホが罠にかかったみたいです」
 俺はハンカチで口を押さえながら中へ入り、窓を開けて換気をする。
「罠……でありますか?」
 文字通り罠だ。俺は開くと粉――無害なお菓子用の砂糖みたいなもの――が派手に舞い散る罠を『秘密の作戦ノート』にしかけて監督室の机に置いていた。
 そう、懇親会の冒頭の挨拶で言った『秘密の作戦ノート』だ。アレはもちろんジョークのつもりで言ったが、そのジョークの一部として実際にそのタイトルが表紙に書かれた冊子を机に置き、誰かが開けたらビックリするように仕掛けていたのだ。
 とは言え本当に機能する機会があるとは考えておらず、あっても参加者のお子さん等がひっかかってキャッキャ言えば面白いかな? と思っていた程度なのだが。
「ええ。懇親会の最中に誰か部屋に忍び込むかな? と思って」
 ナリンさんに応えつつ床に落ちた粉に残った足跡を探す。……あった。子供ではなく大人サイズのもので、ドアではなく壁の方へ行った後で唐突に消えている。
 つまり大人ではあるが子供の様な心を持ち、会場から抜け出す機会があり、素早く魔法か何かで逃げ出す力量のある人物がこの罠にかかったという事だろう。
「頭が痛い……」
 レブロン王だろう。あのこまった王様め……! 俺はリアルで軽く目眩を起こして大きめのソファへ座り込んだ。
「大丈夫ですか!? ショーキチ殿!」
 心配したナリンさんが駆け寄り隣に座り、俺の額に自分の額を当てる。
「疲労でありますか? 熱は無いようですが……」
「なっ、ナリンさん!?」
 顔が近い! そして今日たくさん成年のエルフを見て思ったが、やはりナリンさんは顔の造形が図抜けて良い作画が良い。てかエルフもこうやって熱を計るんだ!?
「病気とかじゃないです! 犯人に心当たりがあって、心労がきただけです!」
 俺は慌てて身を引く。ナリンさんが心配そうな顔をするので、大げさに素早く立ち上がって力強い足取りで机の向こうへ周り、監督用の椅子にドカっと腰掛ける。
「犯人にはいずれお灸を据えるとして。報告をお願いします」
 俺がそう言うとナリンさんは少し怪訝な顔をしたが、一つ頷いて試合のスタッツ等が記されたらしい紙をテーブルへ置いた。
「13―1っすか!?」
 渡された資料に記されていたのは、あの伝説の一三いちぞうスコアと同じ数字であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...