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第八章

寒いのは嫌だ

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 俺は異次元ポケットのようなモノに閉じこめられているので外気の様子は分からない。たが俺の足下までドライアイスを炊いたような白い煙が充満し、鏡を掴むレブロン王の手がガタガタと揺れたのでその事に気がついた。
 部屋中を、凄まじい冷気が包んでいる。
「この冷気、その声は……」
「覚えててくれたのです?」
 レブロン王が律儀に……というか盾にするかのように鏡の表面をその女性の方へ向けた。
「良かった、マイラさん!」
 そこには厨房へ移動する時に俺が目配せを送った女性、少しかしこまったドレスに小柄な身を包んだマイラさんの姿があった。髪型はいつものツンテールだが、高そうなアクセサリーもついて、いかにもパーティーに出かけるような姿に見える。
「何しに来やがったば……」
「ば!?」
 白の密度が更に上がった。氷が足下から立ち上り、レブロン王の下半身を文字通り凍りづけにする。というかその姿は俺なので、俺が虐められているように見えて複雑だ。
「ば……なんなのです、レブにゃん?」
「ば……ばったり会えて嬉しいなあ! ですよ!」
 あれだけ自由奔放で国家の王で、娘さんの怒り以外何も恐れないレブロン王が震えていた。それもそうだ、マイラさんは年齢、魔力の両方でレブロン王を上回る数少ない存在で、幼少期の彼の家庭教師でもあったエルフなのだから。
 まあそれもシャマーさんから聞いただけだけど。

「やっぱり師匠の方は呼んで、万が一に備えておこうよ」
 あの夜、シャマーさんはレブロン王の方の招待状を氷の魔法で粉々にしつつ、残った無事なマイラさん用のそれを掲げながら言った。
「何故ですか? いっそ両方呼ばない方向でいけば良いのに」
「あの面白いダリオのパパがどう動くか分からないからさ~。万が一、乗り込んできた時に止める存在が必要でしょ?」
 俺が異論を述べるとシャマーさんは嬉しそうにそう言った。しかし面白いダリオのパパ、か。やはりシャマーさんの価値観は独特だな。
「なるほどマイラ女史なら止められる、て事ね。確かに」
 ダリオさんはシャマーさんと目を合わせて頷く。ちょっと俺だけ置いてけぼりなんですけど?
「マイラさんがシャマーさんの師匠って事は知っていますが、そんなに頼りになるんですか?」
「師匠はダリオのパパのカテキョでもあったのよ」
 カテキョ……家庭教師か。えっ、一国の王の!?
「父は本当に勝手なエルフですが、マイラ女史にだけは今でも頭が上がらないようで」
 ダリオさんも太鼓判を押すように言う。
「なるほどそれなら安全策として呼んでおくのはアリですね。ただ学生チームとの練習試合がマイラさん抜きになるか……。左足のキッカーを考えないといけないし、ボランチの編成も変えないと。あ、シャマーさんを一列上げるテストの機会に……」
 俺はそこまで呟きながら考えてふと、シャマーさんダリオさん二人の視線に気がついた。
「何を笑っているんです? 俺、変な事を言いました?」
「うふ。いえ、別に」
「ショーちゃん、本当にいつでもサッカードウの事を考えてるのね~って思っただけよ」
 そう言うと二人は互いに目を合わせて再び笑う。なんだ、またおいてけぼりかよ。
「まあそれはどうでも良いですけど。マイラさん、保護者お年寄り扱いは嫌がりそうじゃないですか? 何て言って呼びます?」
「あ、それね~」
 シャマーさんは少し真面目な顔に戻ってため息を吐く。
「マイラ女史がどうというより、『若いエルフたちと交流するチャンスですよ』と言うのはどうでしょう?」
 ダリオさんが組んでいた腕を外しながら言った。
「それだ! 若い子と交流できる、てのは師匠にサッカードウやらせる時に言った売り文句の一つだから」
 ほほう、そうやって誘ったのか。
「なるほど、ではそれでいきますか。しかし売り文句の一つ、て事は他にもあるんですか? そんな凄いエルフさんがアーロンからサッカードウの為に出てくるなんて余程ですよね?」
 大魔法使いでお年寄りで……普通に考えたら学院に籠もって研究にあけくれて余生を凄しそうな感じがする。
「それは後のお楽しみ。そうと決まったらショーちゃん、パーティー頑張ってね。選手のママと火遊びやお楽しみ不倫はほどほどに、ね?」
「せんわ!」
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