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第八章

鏡の中のマリオネット

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「いやじゃいやじゃ途中退場なんて! ワシも保護者会に参加したい! 親御さんと談笑して『いやー娘がもう20年くらい反抗期で、下着も別々に洗濯しとるんですわ~』とか言いたい!」
 そりゃ随分と長い反抗期だな! それともエルフとしては普通なのか?
「レブロン王。気持ちは分かりますが、今日は初めての懇親会で、まだみんな慣れてないんですよ。王様なんかいたら、緊張で会話が弾みません」
 時間と場所は現在に戻る。俺はクラブハウスの厨房で、必死にレブロン王を説得していた。
「いやいや、そういう場こそワシが出て場を暖めないとな」
「凍らせるの間違いでは!? そもそも招待状は出してないし開催日程も秘密にしていたのに、何故ここに?」
 あの日、レブロン王は招待しない事を決めた時。彼宛のモノはシャマーさんの魔法によって氷の屑となった筈だった。
「ダリオの様子がおかしかったのだ。数日前唐突に『お父様、公務をこの日に移動させてお休みをまとめてとったら? 後は私はフォローしますから』とな。普段はあんなに『働け働け』と言う癖に。それでピンときたのじゃ!」
 くっ、相変わらずダリオさん策謀は上手だがフェイントが下手だ!
「後はエルヴィレッジの物流や防衛魔術の高まりをモニターしてな。おそらく今日だろうと予想をつけた訳じゃ。招待状も魔法で複製をぴくぴくっとな!」
 レブロン王は「奥様は魔女」で主人公が魔法をかける時の様に、顎を左右にくくっと動かした。確かに言われてみれば「王様は魔法の達人」だったよな……。
「事情は分かりましたが、出席を認められない事は変わりありません。どうか帰って下さい」
「どうしても?」
「どうしても!」
「じゃあ……こうじゃ!」
 そう言うとレブロン王は再び顎を動かした。するとどうだろう、目の前に鏡が現れ、中に凍り付いた様な姿の俺が写った。
「レブロン王! あれ?」
 違った。俺の身体そのものが、鏡の中にあった。そして向こう側には俺の意志に反して動きポーズを決める俺の姿が……。
「安心して下さい……入ってますよ!」
「何をしたんですか!?」
「なーに、ちょっとショウキチ殿を魔法の鏡の中へ閉じこめつつ、姿を複製してワシの身体の上に投影しているだけじゃ」
 なっ!? それって「ちょっと」でできる事なのか!? しかもそれで何をするつもりだ!?
「王様が出るのがどうしてもダメと言うなら、姿を借りてワシがショウキチ殿として会に出るまでよ。なら問題なかろう?」
 問題ありまくりだよ!
「ダメです辞めて下さい!」
「大丈夫じゃって。ワシがどっかんどっかん受けを取って、最高に楽しい会にしてやんよ」
 嘘だ無理だ社会的な死だ。レブロン王がいつもの調子なら、自分だけ受けてみんな笑えない、さっぶいつまらない会になるに決まっている。そうなったら俺の評判も地に墜ちる。
 いや心配すべきはそんな部分じゃない!
「そうじゃなくてですね! 保護者の方々とはプライベートに関わるような繊細な話題もありますし、サッカードウとしても専門的な知識が必要でして……」
「え~! 酒を呑んでまでそんな話、するぅ?」
 最も恐れてた事がそれだ。レブロン王の酒癖がダリオさんに準ずるものであれば酒に酔った結果、羽目を外したり保護者に手を出したりして大スキャンダルに繋がる可能性がある!
 でもその場合、標的になるのは俺か? ならマシか……って多分どっちでもマズい!!
「します! そもそも俺は全体に目を光らせるので、酒は呑みません!」
「それはつまらん! まあまあ酒瓶の一本くらいならワシがくすねてくるから、今は大人しくじゃな……」
 そう言うと俺の姿をしたレブロン王は、鏡をくるりと回し、厨房の壁の方へ向けて立てかける。
「ちょっとダメですって!」
「レブにゃん、君はまったく大人になってないのです!」
 魔法の鏡の中で冷や汗をかくにもかけない俺の背中? 方面から、間の抜けた声が聞こえた。
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