133 / 665
第八章
ドーンエルフの別の弱点
しおりを挟む
「あ、そちらへお願い」
ダリオさんがてきぱき指示を出し、簡単な食事がテーブルに並べられる。
「失礼しました」
一瞬で準備が整い、ダリオさんに「給仕は不要」と言われた侍従さんが部屋を退出する。
「まあ……食べましょうか?」
「はい」
さっきは誤って「入らない」と答えたものの、俺はかなりの空腹だった。パンのような物を手に取りギリギリ下品でない速度でかみ砕き飲み込む。
「ん、食べると言えば」
「はい?」
破片をエルフワインで流し込んだ俺は中断された会話を再開させた。
「レブロン王が一般の方と飲食すると何か不味い事でもあるんですか?」
「あー、それですね」
同じくエルフワインを一気に煽り、顔をやや赤らめたダリオさんが答える。
「王宮では王族として礼儀正しく食べていますが、一般の方と同席できると羽目を外してしまいそうで」
王族として礼儀正しく、か。割とそうじゃない場面も観た気がするが黙っておこう。
「羽目を外す、ですか。もしかして酒癖が悪かったり?」
「いえそんな事は! ……そんなことはないれす。わらしたち、おさけはかなりつよひんで」
そう言いつつ二杯、ワイングラスを空にしながらダリオさんが否定する。否定しているが口調はかなり怪しい感じだ。
「あーだいだい察しました。他の保護者さんたちの前でレブロン王がそんな感じになったら大変すね」
「えぇ? なにをさっしたんれす?」
対面に座っていたダリオさんがすっと立ち上がり俺の膝に座った。
「え!? ちょ、ダリオさん!? 疲れてる所に空きっ腹で飲み過ぎでは……」
「べつにぃ。ねえ、なにをさっしらの? それともさすってくれる?」
こっちこそ何をさすれば良いんだ!? と小パニックに襲われる俺に答えるかのように、ダリオさんが胸のボタンを更に開けた。
「え、ダリオさん駄目だめ!」
「ショウキチさん、ダリオのこと『たよりになる』ってほめてくれられしょう? あれ、すっごくうれしかっらんら……。れもね、たまにはダリオもだれかにたよりらいの……ねえ、さっすお~れ~」
だからさすれって何を? それともサッスオーロの事か? セリエAの緑のユニフォームの?
「ダリオさん、ちょっと冷静に……あれ?」
彼女を落ち着かせようと悩む俺の視界の窓の外。城壁の上に大きな黒い影がいた。鳥の様で鳥でないそれが凄いスピードで窓へ近づいてきた時、俺は驚きよりも確信めいたものを感じていた。
「ろうしたの? ショウキチさん?」
「ダリオさん、突風注意です」
俺の言葉が終わるかどうかくらいのタイミングで風が吹き込み窓を大きく開けて書類が舞い飛んだ。
「きゃあ!」
ダリオさんが悲鳴をあげて抱きつく。思わず鼻の下が伸びそうになるが、次に起こる事を予想していた俺はキリっとした顔を維持して窓の外を見つめていた。
やがて風が落ち着くと、「それ」は口を開いた。
「毎度、お取り込み中に申し訳ないな。急ぎの用事なのだが?」
そこにいたのは前足の無いドラゴン、DSDKで伝達の仕事をしているワイバーンのマローン・メイルマンさんだった。
「どうも、お久しぶりです」
「うむ。建物が変わったので少し探したぞ。今日は文書だけだが速達だ」
マローンさんはそう言うと器用に首の鞄から大きな封筒を取り出す。
「えっと」
「はーい! いきますぅー」
こんな状態の彼女に行かせるのは不安だが、ダリオさんを膝に乗せた俺が取りに行ける訳もなく。目配せに気づいたダリオさんは陽気に返事をしつつ千鳥足でマローンさんの元へ行った。
「受け取りのサインが必要なのだが、書けるか?」
「もちろん~。こことここと、ここですねぇ?」
ダリオさんは文書を受け取ると、机に手を置きお尻を突き出す様な姿勢でペンを紙に走らせる。ナイトエルフたちがいたらまた騒ぎそうだな、と思いながら俺は目を逸らし彼女が鼻歌交じりにサインを終えるのを聞く。
「む!? そこは……まあ良いか」
「あい?」
「これはそちらの控えだ。それでは。健闘を祈る」
そう言うとマローンさんは一部をダリオさんから受け取り、再び空へ戻って行った。
「励まされちゃいましたね。ところで何の手紙だったんです?」
「分かりましぇ~ん。文字が泳いじゃって~。ショウキチさん読んで~」
それで大丈夫か!? と心配する俺に控えを渡し、ダリオさんは軽食を載せたテーブルへ向かいワインをグラスに注ぐ。
「泳いでいるのは文字じゃなくてダリオさんの理性でしょ! えっと、どれどれ……」
俺は翻訳の眼鏡をかけて文面をチェックする。差し出し元はなんとドワーフサッカードウ協会だ。さすがドワーフらしい堅い文章だな~と思いながら読み進めて、最後の部分で俺は固まってしまった。
「ええっ!? ダリオさんこれ、もうサインして返したんですよね!?」
「そうれすけど~?」
そこには軽く酔いが入った俺を一気に覚めさせる事が書いてあった。
「と言う事はドワーフとの定期戦、受けちゃってます……。開幕前に。しかもあっちの本拠地で」
「あはは、大変ら~」
大変ですむか!
「嘘やろ……」
なんという事だ……。チームがろくに完成していない時期に、宿敵とアウェイで対戦することが決定してしまった……。
ダリオさんがてきぱき指示を出し、簡単な食事がテーブルに並べられる。
「失礼しました」
一瞬で準備が整い、ダリオさんに「給仕は不要」と言われた侍従さんが部屋を退出する。
「まあ……食べましょうか?」
「はい」
さっきは誤って「入らない」と答えたものの、俺はかなりの空腹だった。パンのような物を手に取りギリギリ下品でない速度でかみ砕き飲み込む。
「ん、食べると言えば」
「はい?」
破片をエルフワインで流し込んだ俺は中断された会話を再開させた。
「レブロン王が一般の方と飲食すると何か不味い事でもあるんですか?」
「あー、それですね」
同じくエルフワインを一気に煽り、顔をやや赤らめたダリオさんが答える。
「王宮では王族として礼儀正しく食べていますが、一般の方と同席できると羽目を外してしまいそうで」
王族として礼儀正しく、か。割とそうじゃない場面も観た気がするが黙っておこう。
「羽目を外す、ですか。もしかして酒癖が悪かったり?」
「いえそんな事は! ……そんなことはないれす。わらしたち、おさけはかなりつよひんで」
そう言いつつ二杯、ワイングラスを空にしながらダリオさんが否定する。否定しているが口調はかなり怪しい感じだ。
「あーだいだい察しました。他の保護者さんたちの前でレブロン王がそんな感じになったら大変すね」
「えぇ? なにをさっしたんれす?」
対面に座っていたダリオさんがすっと立ち上がり俺の膝に座った。
「え!? ちょ、ダリオさん!? 疲れてる所に空きっ腹で飲み過ぎでは……」
「べつにぃ。ねえ、なにをさっしらの? それともさすってくれる?」
こっちこそ何をさすれば良いんだ!? と小パニックに襲われる俺に答えるかのように、ダリオさんが胸のボタンを更に開けた。
「え、ダリオさん駄目だめ!」
「ショウキチさん、ダリオのこと『たよりになる』ってほめてくれられしょう? あれ、すっごくうれしかっらんら……。れもね、たまにはダリオもだれかにたよりらいの……ねえ、さっすお~れ~」
だからさすれって何を? それともサッスオーロの事か? セリエAの緑のユニフォームの?
「ダリオさん、ちょっと冷静に……あれ?」
彼女を落ち着かせようと悩む俺の視界の窓の外。城壁の上に大きな黒い影がいた。鳥の様で鳥でないそれが凄いスピードで窓へ近づいてきた時、俺は驚きよりも確信めいたものを感じていた。
「ろうしたの? ショウキチさん?」
「ダリオさん、突風注意です」
俺の言葉が終わるかどうかくらいのタイミングで風が吹き込み窓を大きく開けて書類が舞い飛んだ。
「きゃあ!」
ダリオさんが悲鳴をあげて抱きつく。思わず鼻の下が伸びそうになるが、次に起こる事を予想していた俺はキリっとした顔を維持して窓の外を見つめていた。
やがて風が落ち着くと、「それ」は口を開いた。
「毎度、お取り込み中に申し訳ないな。急ぎの用事なのだが?」
そこにいたのは前足の無いドラゴン、DSDKで伝達の仕事をしているワイバーンのマローン・メイルマンさんだった。
「どうも、お久しぶりです」
「うむ。建物が変わったので少し探したぞ。今日は文書だけだが速達だ」
マローンさんはそう言うと器用に首の鞄から大きな封筒を取り出す。
「えっと」
「はーい! いきますぅー」
こんな状態の彼女に行かせるのは不安だが、ダリオさんを膝に乗せた俺が取りに行ける訳もなく。目配せに気づいたダリオさんは陽気に返事をしつつ千鳥足でマローンさんの元へ行った。
「受け取りのサインが必要なのだが、書けるか?」
「もちろん~。こことここと、ここですねぇ?」
ダリオさんは文書を受け取ると、机に手を置きお尻を突き出す様な姿勢でペンを紙に走らせる。ナイトエルフたちがいたらまた騒ぎそうだな、と思いながら俺は目を逸らし彼女が鼻歌交じりにサインを終えるのを聞く。
「む!? そこは……まあ良いか」
「あい?」
「これはそちらの控えだ。それでは。健闘を祈る」
そう言うとマローンさんは一部をダリオさんから受け取り、再び空へ戻って行った。
「励まされちゃいましたね。ところで何の手紙だったんです?」
「分かりましぇ~ん。文字が泳いじゃって~。ショウキチさん読んで~」
それで大丈夫か!? と心配する俺に控えを渡し、ダリオさんは軽食を載せたテーブルへ向かいワインをグラスに注ぐ。
「泳いでいるのは文字じゃなくてダリオさんの理性でしょ! えっと、どれどれ……」
俺は翻訳の眼鏡をかけて文面をチェックする。差し出し元はなんとドワーフサッカードウ協会だ。さすがドワーフらしい堅い文章だな~と思いながら読み進めて、最後の部分で俺は固まってしまった。
「ええっ!? ダリオさんこれ、もうサインして返したんですよね!?」
「そうれすけど~?」
そこには軽く酔いが入った俺を一気に覚めさせる事が書いてあった。
「と言う事はドワーフとの定期戦、受けちゃってます……。開幕前に。しかもあっちの本拠地で」
「あはは、大変ら~」
大変ですむか!
「嘘やろ……」
なんという事だ……。チームがろくに完成していない時期に、宿敵とアウェイで対戦することが決定してしまった……。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる