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第七章
秘密の代償
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「ショーちゃん、あんな約束して大丈夫なの?」
ムルトさんの足音が遠くなるのを聞いてから、シャマーさんが聞いてきた。
「たぶんね。彼女が入って戦術が固まれば、上位チーム以外にはほぼ負けないチームが出来ると思うし。その上で試合前から『あーこれは負けるなー』ってチームが相手の時は……」
俺は椅子に腰掛け選手リストを取り上げ言った。
「ムルトさんを登録選手から外す。そうすれば『彼女』はセンシャする事はない。故にチームから離脱しない」
それを聞いたシャマーさんは一瞬、固まった。が、すぐに満面の笑みを浮かべ、身体の方も魔法で宙に浮かべ机を飛び越し俺に抱きついた。
「凄い! 狡い! ショーちゃん、そういうところ大好き!」
「シャマーさん離して! そうは言っても予想外のチームに負けてムルトさんを失う事もあり得ますけどね!」
俺は補足を行いつつ、頬ずりするシャマーさんを引き離そうとする。
「んーそうだね。そこは会長にも言った通り、失点しなければ少なくとも負けない訳だから私、頑張る。頑張るからさ~」
シャマーさんは頬ずりを止め、そっと俺の耳に囁くように言う。
「たまには私ににも、して」
「んんっ!?」
そ、そのキーワードは!?
「な、何をですかねえ?」
「うふふ。レイちゃんから聞いちゃった。二人のひ・み・つ」
なっ! まさかレイさんがあの事を喋った!? しかしいつ何処で!?
「あの晩ね。ショーちゃんのベッドで寝てしまう前に、たくさんお話したの。ピロートークってやつね」
俺の心を読んだかの様にシャマーさんが続ける。てかちゃうやろ! ピロートークじゃなくてパジャマパーティーとかそっちやろ!
「もちろん、卒業後の結婚の約束とかご褒美のチューとかまでは言わなかったわよ。そっちはレイちゃんが寝てから魔法で、ね?」
例の夢魔法か! あのクソ便利なやつめ!
「そ、その件は他言無用でお願いします……」
「分かってるわよぉ。私を信頼して子羊の様に眠るレイちゃんから盗み出した情報だし、言いふらすなんてできないもの。でもね」
シャマーさんは魔法を解いてゆっくり俺の膝の上へ横向きに着座する。
「それを知ってから、私もショーちゃんの方から来て欲しくなっちゃったんだ。秘密は黙ってるしサッカードウも頑張るから、私にも……」
彼女は俺を上目遣いで見つめ、唇を尖らせて言った。
「して」
困った。今度は言葉も出ない。と言うか何かを言って誤魔化せるような状況じゃない。恐らく夢魔法で細部まで知られている。
「うん」
再び俺の心を読んだかのようにシャマーさんが頷いた。そして目を閉じ待つ体勢に入った。
「シャマーさん」
特に意味もなく彼女の名前を呼ぶ。シャマーさんは小さく頷き辛抱強く待っている。確かに彼女はこうだ。不真面目だし悪戯心は旺盛だし常に状況を引っかき回すが、いつもなんだかんだ言って俺に献身を捧げてくれている。
その動機は分からない。気紛れなのかも、或いはシャマーさんが言うように本当に俺の事を「好き」でいるからなのかも。ただ一つ言えるのは、俺は彼女の献身にあまり応えてないという事だ。
「じゃあ、ちょっとだけ」
俺は言い訳のような訳の分からない事を言いながら、彼女の唇に唇を重ねた。
「ん……」
そっと舌を差し出してから、しまった! と思った。つい癖でそう動いてしまったが、何もそこまで要求された訳ではなかった筈だ。
「いやん、ショーちゃんやらしー」
一度、唇を離しそうからかった後、シャマーさんも動きを合わせた。
「(違うんです! 今のはミスで!)」
と言う隙は無かった。彼女は動きを止めず、両腕を俺の背中に回して抱きしめながら、
「ショーちゃん、好き。大好き」
と時々呟いては唇を重ねた。
こうしているシャマーさんは本当に普通の可愛い女の子で、良い匂いがして、羽の様に軽くて折れそうに華奢だった。このまま持ち上げて来客用の大きな椅子の上へ……。
「監督、言い忘れていましたわ……」
動く寸前で、廊下から声がした。ムルトさんだ!
「事務員の給与枠ですが……ええっ!?」
俺は急いで唇と身体を離したが、シャマーさんの腕はまだ俺の首辺りに絡まったままであった。
「いや、違うんですこれは」
「やっぱり……やっぱりサッカードウは破廉恥ですわー!」
ムルトさんは持ってきた書類や手荷物を放り出して廊下を走っていった。
「ごめんごめん会長、待ってー! ショーちゃん、追うわよ!」
「あ、はい!」
俺たちは逃げ出したムルトさんを追ってクラブハウスを駆け回った。その後はシャマーさんの魔法を使ってムルトさんを捕獲し、
「さっきのはストレッチを手伝っていた」
などと誤魔化すのに夜明け近くまでかかるのであった……。
ムルトさんの足音が遠くなるのを聞いてから、シャマーさんが聞いてきた。
「たぶんね。彼女が入って戦術が固まれば、上位チーム以外にはほぼ負けないチームが出来ると思うし。その上で試合前から『あーこれは負けるなー』ってチームが相手の時は……」
俺は椅子に腰掛け選手リストを取り上げ言った。
「ムルトさんを登録選手から外す。そうすれば『彼女』はセンシャする事はない。故にチームから離脱しない」
それを聞いたシャマーさんは一瞬、固まった。が、すぐに満面の笑みを浮かべ、身体の方も魔法で宙に浮かべ机を飛び越し俺に抱きついた。
「凄い! 狡い! ショーちゃん、そういうところ大好き!」
「シャマーさん離して! そうは言っても予想外のチームに負けてムルトさんを失う事もあり得ますけどね!」
俺は補足を行いつつ、頬ずりするシャマーさんを引き離そうとする。
「んーそうだね。そこは会長にも言った通り、失点しなければ少なくとも負けない訳だから私、頑張る。頑張るからさ~」
シャマーさんは頬ずりを止め、そっと俺の耳に囁くように言う。
「たまには私ににも、して」
「んんっ!?」
そ、そのキーワードは!?
「な、何をですかねえ?」
「うふふ。レイちゃんから聞いちゃった。二人のひ・み・つ」
なっ! まさかレイさんがあの事を喋った!? しかしいつ何処で!?
「あの晩ね。ショーちゃんのベッドで寝てしまう前に、たくさんお話したの。ピロートークってやつね」
俺の心を読んだかの様にシャマーさんが続ける。てかちゃうやろ! ピロートークじゃなくてパジャマパーティーとかそっちやろ!
「もちろん、卒業後の結婚の約束とかご褒美のチューとかまでは言わなかったわよ。そっちはレイちゃんが寝てから魔法で、ね?」
例の夢魔法か! あのクソ便利なやつめ!
「そ、その件は他言無用でお願いします……」
「分かってるわよぉ。私を信頼して子羊の様に眠るレイちゃんから盗み出した情報だし、言いふらすなんてできないもの。でもね」
シャマーさんは魔法を解いてゆっくり俺の膝の上へ横向きに着座する。
「それを知ってから、私もショーちゃんの方から来て欲しくなっちゃったんだ。秘密は黙ってるしサッカードウも頑張るから、私にも……」
彼女は俺を上目遣いで見つめ、唇を尖らせて言った。
「して」
困った。今度は言葉も出ない。と言うか何かを言って誤魔化せるような状況じゃない。恐らく夢魔法で細部まで知られている。
「うん」
再び俺の心を読んだかのようにシャマーさんが頷いた。そして目を閉じ待つ体勢に入った。
「シャマーさん」
特に意味もなく彼女の名前を呼ぶ。シャマーさんは小さく頷き辛抱強く待っている。確かに彼女はこうだ。不真面目だし悪戯心は旺盛だし常に状況を引っかき回すが、いつもなんだかんだ言って俺に献身を捧げてくれている。
その動機は分からない。気紛れなのかも、或いはシャマーさんが言うように本当に俺の事を「好き」でいるからなのかも。ただ一つ言えるのは、俺は彼女の献身にあまり応えてないという事だ。
「じゃあ、ちょっとだけ」
俺は言い訳のような訳の分からない事を言いながら、彼女の唇に唇を重ねた。
「ん……」
そっと舌を差し出してから、しまった! と思った。つい癖でそう動いてしまったが、何もそこまで要求された訳ではなかった筈だ。
「いやん、ショーちゃんやらしー」
一度、唇を離しそうからかった後、シャマーさんも動きを合わせた。
「(違うんです! 今のはミスで!)」
と言う隙は無かった。彼女は動きを止めず、両腕を俺の背中に回して抱きしめながら、
「ショーちゃん、好き。大好き」
と時々呟いては唇を重ねた。
こうしているシャマーさんは本当に普通の可愛い女の子で、良い匂いがして、羽の様に軽くて折れそうに華奢だった。このまま持ち上げて来客用の大きな椅子の上へ……。
「監督、言い忘れていましたわ……」
動く寸前で、廊下から声がした。ムルトさんだ!
「事務員の給与枠ですが……ええっ!?」
俺は急いで唇と身体を離したが、シャマーさんの腕はまだ俺の首辺りに絡まったままであった。
「いや、違うんですこれは」
「やっぱり……やっぱりサッカードウは破廉恥ですわー!」
ムルトさんは持ってきた書類や手荷物を放り出して廊下を走っていった。
「ごめんごめん会長、待ってー! ショーちゃん、追うわよ!」
「あ、はい!」
俺たちは逃げ出したムルトさんを追ってクラブハウスを駆け回った。その後はシャマーさんの魔法を使ってムルトさんを捕獲し、
「さっきのはストレッチを手伝っていた」
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