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第七章

モウ一つの話

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「あら、監督ですよね? お帰りなさいませ、監督様。食堂の主任シェフ及び栄養アドバイザーを務めます、ラビンとモウします」
 そこにいたのはあのハーフミノタウロスの選手、人間受けする可愛い顔にふくよかなわがままボディボンキュッボンを併せ持つ反則(反則ではない)の存在、ラビンさんだった。
「あ、はい、監督を務めますショーキチです、って貴女! あの試合に出てた……」
「はい! 覚えて下さっていたんですね!? モウ感激です!」
 ラビンさんは喜びに頬を染め両手をその頬へ当て、ピョンピョンと飛び跳ねた。自然、その豊かな胸は腕によって寄せられジャンプに併せて激しく上下運動する。
「忘れる筈がありませんよ! 貴女の動きでウチは敗北寸前まで追い詰められましたから! でもどうしてここに?」
 今も彼女の動きで敗北寸前だが、俺は何とか意志の力で視線を逸らして訊ねた。
「ミノタウロス代表は辞めたんです。モウしらない!」
 ラビンさんは腕を組んで鼻息荒く応える。
「カップ戦の後からファンは嫌がらせしてくるしチームは守ってくれないし。でモウ全部嫌になっちゃった……て時にここの仕事を誘われて」
 なんとあの後にそんな事が。彼女も激動の牛人生を過ごしているんだな。色々な意味で罪悪感を覚えてしまった。
「それはなんとも……」
「いえ、そんな顔しないで下さい! 今、わたし幸せですから! それよりモウ監督様はどうなさったんですか? あのエルフ戦よりお痩せになった気がします」
 そう言うとラビンさんは少し屈み(おお!)、両腕を俺の腰に回してぎゅっと抱き締めてきた(おおお!)。
「ラビンさん、何を!?」
「うーん。ウエストが3cm……いや3.5cmモウ細くなっています。視察旅行中、ちゃんとご飯食べられなかったんですか?」
 なんやその細かい数字!
「食事はちゃんと取っていましたが身体を動かす機会も多かったもので。てか何で抱きつくんですか!?」
「わたし、腕で胸囲や腹囲モウ計れるんです」
 それマジか? 飲み屋さんで
「ワシ、手相占いができるんやで。ちょっとお手手を拝借」
って女性の手を握るオッサンじゃなくて!?
「あ、監督様動かないで! 監督様の体調管理モウわたしの仕事の一つと言われていますので!」
「いや、流石に当たり過ぎというか、それ誰に言われたんですか? そもそもラビンさんを誘ったのは誰です?」
 言い争う間にも彼女は腕と胸で俺を持ち上げ何やら体重まで計測しようとしているようだ。
「今の主人にですよ。あれ? モウ会ってませんっけ?」
 は? 主人!? ラビンさん結婚してるの? じゃあ尚更この体勢は良くないじゃないか!
「それ誰の事ですか? というか離しましょう!」
「モウちょっとで計れますので……あ、アナタ~!」
 ラビンさんが食堂の入り口に目をやった。そこに立っていた男――俺を軽々と絞め殺せそうな偉丈夫――の姿に俺は死を覚悟した。

「おお、ショーキチ監督。さっそく女房の洗礼を浴びておるのか!」
 笑いながら食堂へ入って来たのはザックコーチだ。彼のシルエットがデカいので見えないが、たぶん後ろに他の皆の姿もある。
「え? ラビンさんとザックさんって、ご夫婦なんですか!? じゃあ彼女をここに誘ったのも……?」
 ええ貴男の女房の乳房にぐりぐりされてますよ! とは言えずに俺は身を捩りつつ訊ねた。
「ああ。国を離れる時、最後の挨拶にと訊ねたミノタウロスサッカードウ協会で彼女に会ってな。話す間に事情を知って、それならいっそ俺と一緒にアローズで働いてはどうかと。で旅をする間に……」
「故郷を離れていく馬車の中に孤独な男と女が二人。何も起きない筈もなく……」
 後ろからすっと前に出たルーナさんが呟いた。
「いや、起きない事もあるよ! 現に俺達は……」
「まあ、そう言う事だ。自然の流れで……な」
 俺とザックコーチが同時に口を開き顔を見合わせた。気不味い。
「そりゃショーキチは常にナリンやステフ達と複数でいただろうけどさあ。……あれ? 誰かと二人っきりの時もあったの?」
 やぶ蛇った。そして俺とナリンさんが同時に赤面した事で、自ずと答えも明らかにしてしまった!
「ああ、なるほど」
「なるほどじゃない!」
 俺が思わずルーナさんに突っ込むと、ようやく腕を離してくれたラビンさんが両手を叩いて頷いた。
「そう言えば監督様『身体を動かす機会も多かった』と仰ってました。それはモウ、そういう事ですね!」
「違います!」
 牛人妻ミノタウロスのひとづまがそういう事を言うと微妙に説得力があるから辞めてくれ!
「あー! 監督ー! ナリンさん! おかえりー!」
 事態に割り込むように、そんな大声が食堂の入り口方面から響く。そこには練習を終えたらしいユイノさん、リーシャさん、ニャイアーコーチの姿があった。
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