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第七章
なんということでしょう2
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クラブハウスの設備は俺の理想がほぼ体現したものになっていた。整理整頓し易いように棚やケースが整えられた用具室や更衣室、栄養衛生管理が行き届いた食材を落ち着いた環境で口に出きる食堂や喫茶室、選手の身体のメンテナンスや治療が行える施術用ベッドが多数並んだメディカルルーム、各種筋トレ器具が揃ったトレーニングルーム(恐らくザックコーチの意向を汲んで重そうな物がたくさん)、傾斜のついた床にたくさんの椅子が並び巨大スクリーンを大人数で見られる映画館の様なブリーフィングルーム、多数の魔法的記録デバイスを自在に操れる作戦室(こちらはジノリコーチの趣味か色使いがファンシーで作戦室という名前とのギャップが激しい)等々……。
そして監督室。ここが最も俺の希望を重視された所でクラブハウスの二階中央にあり、廊下側にも外側にも大きな窓が設置されている。使用しているのは魔法のクリスタルで普段は地球のガラスのように限りなく透明だが、簡単な操作で色を付け視線を遮る事もできる。
誰でも簡単に入ってきて俺に話しかけ易い一方、必要な時は外部から隔離し秘密の相談を行う事もできる仕組みだ。
もちろん広さも十分。やや外寄りに設置された巨大な机にフォーメーション図や選手一覧を何枚も広げ、数人で話し合う事も可能だ。
実際に俺は外の窓側に置いたふかふかの椅子に腰掛け、同行者全員を座らせて一息つくことにした。
「いや~完璧っすね~」
俺は心地よい疲労――施設見学中に興奮し過ぎた反動でどっと疲れていた――に包まれ椅子に深く沈み込みながら言った。
「そうじゃろうそうじゃろう!」
同じくらい椅子に沈み込んだジノリコーチが応える。一応、各種族対応で椅子の高さなどは変更できるようになっているが、それでも彼女には大き過ぎる様だ。
「本当に夢みたいです。こんな施設で働けるなんて! ショーキチ殿の計画とお二方の指導の結晶がまずは一つ、ですね」
ナリンさんが感動に目を潤ませながら微笑みかけてくる。誉められて、俺達三人は嬉しくもくすぐったい気持ちで赤くなった。
「そっそうとも言えるのかな? ありがとう」
「やめろ……好きになってしまうじゃろ……」
ザックコーチとジノリコーチが照れている。めっちゃ照れている。いやでも、監督やコーチて叱咤激励する側で褒めて貰う事はあまり無いからさ! しかもこんな美人がうるうるした瞳で見つめてくるんだぞ?
「凄いしありがたいけど選手を甘やかし過ぎじゃないかな?」
ルーナさんがぼそりと言った。たぶんメディカルルームや食堂などについての感想だろう。そこは流石ノトジアに暮らしていた軍人の娘らしいストイックさ……というべきか?
「なるほど、選手としてはそんな感覚もあるのか。それはそれで貴重な意見として受け止めるとして。いいかい、成長に必要なのは『トレーニング・栄養補給・休養』のバランスなんだ。俺の見た感じ、この世界は後者二つへの理解がまだ足りない。だからそれを率先してやれば他のチームに対して大きなアドバンテージになると思う。このクラブハウスの設備は、その為に必要なものなんだ」
もちろん、体質だって違う(何せ再生能力のあるトロールまでいる世界だ)から一概には言えない。その辺りのデータを取るために世界中を旅した訳だ。だがやはり全体的に言えば選手のコンディションについてのケアはかなり杜撰だ。例えばセンシャを試合後にやらせるとかさ。そこを先に整えるだけでもアローズの勝率はずっと上がると思う。
「なあに、心配するな! 甘やかされるのが嫌なら、ワシがトレーニングで泣くほどしごいてやるわい!」
ジノリコーチが嬉しそうに笑った。いやこの女性これでマニアックな戦術マニアだしエルフとドワーフの間柄だし、たぶん本気でやるぞ。
「しまったか。口は災いのもと」
ルーナさんがそう呟くと一同は大いに笑った。
「栄養補給と言えばだな。選手がまだ殆どおらぬからメディカルスタッフや用具係り……監督はホペイロと言っておったかな? はまだ働いていない。だがシェフは少人数だが雇用済みなので食事はもうとれるぞ。そろそろ良い時間だからどうかな?」
ひとしきり笑った後、ザックコーチがそう提案した。見るとジノリコーチがまだにやにや笑いながらそうじゃそうじゃそれが良い、と賛同する。
「じゃあ続きは食堂で。みんな荷物とかあるだろうから、15分後くらいでいいかな?」
その一言でその場は一度、解散となった。
コーチ陣はそれぞれの部屋へ寄る、ルーナさんは完成している寮の一部屋を占領して来る……となれば俺が最初に食堂へ着くのは必然だった。
外は夕暮れ。ランタンや優しい暖色系の魔法の光で照らされたホールは50人くらいが余裕で食事をとれる大きさで、地球で言うビュッフェ形式に食品や皿が一方の壁に並べてあった。
ここは選手もスタッフも平等に食事が取れるようにしてある。と言ってもチームはまだ始動していないので誰もいない。何時もならば仕事を終えた建築関係の職人さんや練習を終えたリーシャさんユイノさんニャイアーGKコーチ達も食べに来るらしいが、まだ少し時間が早いようだ。
自分だけ先に食料を取るのも気が早い、でも何かして暇を潰さねば。と思って俺は飲料だけ貰いにそのコーナーに向かう。そこで出会ったのは意外な人物だった。
そして監督室。ここが最も俺の希望を重視された所でクラブハウスの二階中央にあり、廊下側にも外側にも大きな窓が設置されている。使用しているのは魔法のクリスタルで普段は地球のガラスのように限りなく透明だが、簡単な操作で色を付け視線を遮る事もできる。
誰でも簡単に入ってきて俺に話しかけ易い一方、必要な時は外部から隔離し秘密の相談を行う事もできる仕組みだ。
もちろん広さも十分。やや外寄りに設置された巨大な机にフォーメーション図や選手一覧を何枚も広げ、数人で話し合う事も可能だ。
実際に俺は外の窓側に置いたふかふかの椅子に腰掛け、同行者全員を座らせて一息つくことにした。
「いや~完璧っすね~」
俺は心地よい疲労――施設見学中に興奮し過ぎた反動でどっと疲れていた――に包まれ椅子に深く沈み込みながら言った。
「そうじゃろうそうじゃろう!」
同じくらい椅子に沈み込んだジノリコーチが応える。一応、各種族対応で椅子の高さなどは変更できるようになっているが、それでも彼女には大き過ぎる様だ。
「本当に夢みたいです。こんな施設で働けるなんて! ショーキチ殿の計画とお二方の指導の結晶がまずは一つ、ですね」
ナリンさんが感動に目を潤ませながら微笑みかけてくる。誉められて、俺達三人は嬉しくもくすぐったい気持ちで赤くなった。
「そっそうとも言えるのかな? ありがとう」
「やめろ……好きになってしまうじゃろ……」
ザックコーチとジノリコーチが照れている。めっちゃ照れている。いやでも、監督やコーチて叱咤激励する側で褒めて貰う事はあまり無いからさ! しかもこんな美人がうるうるした瞳で見つめてくるんだぞ?
「凄いしありがたいけど選手を甘やかし過ぎじゃないかな?」
ルーナさんがぼそりと言った。たぶんメディカルルームや食堂などについての感想だろう。そこは流石ノトジアに暮らしていた軍人の娘らしいストイックさ……というべきか?
「なるほど、選手としてはそんな感覚もあるのか。それはそれで貴重な意見として受け止めるとして。いいかい、成長に必要なのは『トレーニング・栄養補給・休養』のバランスなんだ。俺の見た感じ、この世界は後者二つへの理解がまだ足りない。だからそれを率先してやれば他のチームに対して大きなアドバンテージになると思う。このクラブハウスの設備は、その為に必要なものなんだ」
もちろん、体質だって違う(何せ再生能力のあるトロールまでいる世界だ)から一概には言えない。その辺りのデータを取るために世界中を旅した訳だ。だがやはり全体的に言えば選手のコンディションについてのケアはかなり杜撰だ。例えばセンシャを試合後にやらせるとかさ。そこを先に整えるだけでもアローズの勝率はずっと上がると思う。
「なあに、心配するな! 甘やかされるのが嫌なら、ワシがトレーニングで泣くほどしごいてやるわい!」
ジノリコーチが嬉しそうに笑った。いやこの女性これでマニアックな戦術マニアだしエルフとドワーフの間柄だし、たぶん本気でやるぞ。
「しまったか。口は災いのもと」
ルーナさんがそう呟くと一同は大いに笑った。
「栄養補給と言えばだな。選手がまだ殆どおらぬからメディカルスタッフや用具係り……監督はホペイロと言っておったかな? はまだ働いていない。だがシェフは少人数だが雇用済みなので食事はもうとれるぞ。そろそろ良い時間だからどうかな?」
ひとしきり笑った後、ザックコーチがそう提案した。見るとジノリコーチがまだにやにや笑いながらそうじゃそうじゃそれが良い、と賛同する。
「じゃあ続きは食堂で。みんな荷物とかあるだろうから、15分後くらいでいいかな?」
その一言でその場は一度、解散となった。
コーチ陣はそれぞれの部屋へ寄る、ルーナさんは完成している寮の一部屋を占領して来る……となれば俺が最初に食堂へ着くのは必然だった。
外は夕暮れ。ランタンや優しい暖色系の魔法の光で照らされたホールは50人くらいが余裕で食事をとれる大きさで、地球で言うビュッフェ形式に食品や皿が一方の壁に並べてあった。
ここは選手もスタッフも平等に食事が取れるようにしてある。と言ってもチームはまだ始動していないので誰もいない。何時もならば仕事を終えた建築関係の職人さんや練習を終えたリーシャさんユイノさんニャイアーGKコーチ達も食べに来るらしいが、まだ少し時間が早いようだ。
自分だけ先に食料を取るのも気が早い、でも何かして暇を潰さねば。と思って俺は飲料だけ貰いにそのコーナーに向かう。そこで出会ったのは意外な人物だった。
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