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第六章
とても不思議このムード
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「相方の名前ってさ。『ショーキチ』やったやんな? どういう意味なんか教えて」
ズキっと胸が痛んだ。まさかレイさんがカイヤさんと同じ質問をして来るとは……。
「そんな事が『お願い』?」
「ええから! 教えてーな」
別に教えるのはやぶさかではない。ちょっとショックを受けただけだ。
「将吉て名前は、漢字という表意文字で分割すると将軍とか大将などの意味の『ショウ』と幸運とか幸いを意味する『キチ』の組み合わせなんだ」
俺はカイヤさんに言ったのと全く同じ説明を行った。
「そうなんや。そしたら大将ってぎょうさんの人を集めるやろ? でキチの方が幸せやから、ぎょうさんの人を幸せにする人って意味やね? 素敵な名前貰ったんやね!」
レイさんが語る解釈の方は、カイヤさんのとは微妙に異なった。
「そうなのかな? でもありがとう」
「だから相方の周りはこんなに暖かくて人が集まるんやろね。相方のおとうとおかんに感謝やね」
そう言ってレイさんは俺の手を自分の頬へ当て、目を瞑る。そして何かを口の中で呟く。
たぶん、
「ありがとうございます」
とか何とか。俺の手を通して、俺の両親に語りかけるかのように。
「ありがとう」
「えっ? 何?」
俺がそう言うとレイさんはぱっと目を開けて聞いた。
「いや、何でもない。恥ずかしいから」
そろそろ頃合いかな? と思って手を離す。
「なんなん? おもしろ」
レイさん名残惜しそうに俺の手を見ていたが、少しして宣言するように言った。
「そしたらさ。ウチもこれからは相方のこと『ショーキチにいさん』て呼ぶわ。ご両親がつけてくれた名前やもん、ちゃんと呼ばんと」
「いやそれはありがたいけど『兄さん』いらんやろ」
俺がそう突っ込むとレイさんはコロコロと笑った。
「いやいや。選手は監督の弟子みたいなもんやし」
確かにたまにそういう関係性の選手と監督もいるな。
「うーん。ほんまは『ショーキチ監督』の方が良いけど。仕方ない、特別に許可するわ」
これはこれで特別扱いな気もするが、まあ許容範囲だろう。結婚云々の事を上手くはぐらかした罪悪感もあるし譲歩しておこう。
「やった! あ、あともう一個、お願いしてええ?」
勿体ぶって許可する俺にレイさんが重ねて言う。
「ああ、何だい?」
「これからはウチが『して』て言うたらショーキチにいさんの方からキスして」
「ははっ! なんでやねん!」
俺は思わず左手でレイさんの肩をはたいた。
「ははは。レイさんっておもろいこと言うやろ、スワッグ?」
前にいるスワッグにそう話しかけるが、グリフォンは黙って首を振るとレイさんの方に嘴をしゃくった。
「マジで?」
そこにはいつの間にか真顔になっているレイさんがいた。
「……マジで。ほな、『して』」
レイさんは自分の唇を軽く舐めると目を閉じすっと顔を前に差し出す
「いやでも……」
「ウチが卒業まで頑張る、て言った時に『ええでええでなんぼでも言って』て言ったやん?」
言ったな。
「でも結婚は卒業まで待つ約束だよね?」
「キスと結婚は別やで」
そんな別腹みたいな言い方。
「でもほら、スワッグもいるし」
「俺なら大丈夫だぴい」
そう言うとスワッグは前を向き首の辺りの毛を逆立てて後ろ、つまり俺達が視界に入らないようにする。その姿は襟巻きトカゲやエリザベスカラーを付けられた犬猫の様だった。
「お前、そんな事もできるんかい」
「はあ? 何言ってるか聞こえないし何も見えないですぴい」
いや絶対に聞こえてるやろ。むしろ耳に関して言えば毛が立った事で聞こえ易くなってるやろ。(鳥類の耳はその辺りにある筈だ)
「これからは何もみんなが見てる前でとかは言わへんし。勉強とかしんどい時に、ちょっとご褒美が欲しくてお願いするだけやから、な?」
そう言ってレイさんは片目だけ開けて俺を見る。まるでウインクして誘うかのようだ。
「分かったよ! ……はい」
勉強の件を持ち出されると辛い。なにせスカラーシップ制度全体を人質に捕られている様なモノだ。俺は覚悟を決めてレイさんに身を寄せると、軽く唇を合わせ素早く離した。
「もう、ショーキチにいさん!」
「はい!?」
「ショーキチにいさんは早口言葉、上手いやろ? だったら舌の別の使い方もちゃんとやって」
そう言うとレイさんは再び両目を閉じ、顎を上げた。仕方なく俺は唇を少し開け、彼女の唇に重ねる。
「ん……!?」
レイさんの舌が、ペナルティエリアに進入する時の彼女のドリブルのようにスムーズに俺の口の中に入ってきた。
「痺れるような香りいっはぴい~♪ 琥珀色した飲み物を教えてあげまぴよ~♪」
そこからしばらく、スワッグの歌声が色々な物音を隠してくれた。その心遣いが悔しいが本当にありがたかった。
でも何というか……やってもうたわ。
ズキっと胸が痛んだ。まさかレイさんがカイヤさんと同じ質問をして来るとは……。
「そんな事が『お願い』?」
「ええから! 教えてーな」
別に教えるのはやぶさかではない。ちょっとショックを受けただけだ。
「将吉て名前は、漢字という表意文字で分割すると将軍とか大将などの意味の『ショウ』と幸運とか幸いを意味する『キチ』の組み合わせなんだ」
俺はカイヤさんに言ったのと全く同じ説明を行った。
「そうなんや。そしたら大将ってぎょうさんの人を集めるやろ? でキチの方が幸せやから、ぎょうさんの人を幸せにする人って意味やね? 素敵な名前貰ったんやね!」
レイさんが語る解釈の方は、カイヤさんのとは微妙に異なった。
「そうなのかな? でもありがとう」
「だから相方の周りはこんなに暖かくて人が集まるんやろね。相方のおとうとおかんに感謝やね」
そう言ってレイさんは俺の手を自分の頬へ当て、目を瞑る。そして何かを口の中で呟く。
たぶん、
「ありがとうございます」
とか何とか。俺の手を通して、俺の両親に語りかけるかのように。
「ありがとう」
「えっ? 何?」
俺がそう言うとレイさんはぱっと目を開けて聞いた。
「いや、何でもない。恥ずかしいから」
そろそろ頃合いかな? と思って手を離す。
「なんなん? おもしろ」
レイさん名残惜しそうに俺の手を見ていたが、少しして宣言するように言った。
「そしたらさ。ウチもこれからは相方のこと『ショーキチにいさん』て呼ぶわ。ご両親がつけてくれた名前やもん、ちゃんと呼ばんと」
「いやそれはありがたいけど『兄さん』いらんやろ」
俺がそう突っ込むとレイさんはコロコロと笑った。
「いやいや。選手は監督の弟子みたいなもんやし」
確かにたまにそういう関係性の選手と監督もいるな。
「うーん。ほんまは『ショーキチ監督』の方が良いけど。仕方ない、特別に許可するわ」
これはこれで特別扱いな気もするが、まあ許容範囲だろう。結婚云々の事を上手くはぐらかした罪悪感もあるし譲歩しておこう。
「やった! あ、あともう一個、お願いしてええ?」
勿体ぶって許可する俺にレイさんが重ねて言う。
「ああ、何だい?」
「これからはウチが『して』て言うたらショーキチにいさんの方からキスして」
「ははっ! なんでやねん!」
俺は思わず左手でレイさんの肩をはたいた。
「ははは。レイさんっておもろいこと言うやろ、スワッグ?」
前にいるスワッグにそう話しかけるが、グリフォンは黙って首を振るとレイさんの方に嘴をしゃくった。
「マジで?」
そこにはいつの間にか真顔になっているレイさんがいた。
「……マジで。ほな、『して』」
レイさんは自分の唇を軽く舐めると目を閉じすっと顔を前に差し出す
「いやでも……」
「ウチが卒業まで頑張る、て言った時に『ええでええでなんぼでも言って』て言ったやん?」
言ったな。
「でも結婚は卒業まで待つ約束だよね?」
「キスと結婚は別やで」
そんな別腹みたいな言い方。
「でもほら、スワッグもいるし」
「俺なら大丈夫だぴい」
そう言うとスワッグは前を向き首の辺りの毛を逆立てて後ろ、つまり俺達が視界に入らないようにする。その姿は襟巻きトカゲやエリザベスカラーを付けられた犬猫の様だった。
「お前、そんな事もできるんかい」
「はあ? 何言ってるか聞こえないし何も見えないですぴい」
いや絶対に聞こえてるやろ。むしろ耳に関して言えば毛が立った事で聞こえ易くなってるやろ。(鳥類の耳はその辺りにある筈だ)
「これからは何もみんなが見てる前でとかは言わへんし。勉強とかしんどい時に、ちょっとご褒美が欲しくてお願いするだけやから、な?」
そう言ってレイさんは片目だけ開けて俺を見る。まるでウインクして誘うかのようだ。
「分かったよ! ……はい」
勉強の件を持ち出されると辛い。なにせスカラーシップ制度全体を人質に捕られている様なモノだ。俺は覚悟を決めてレイさんに身を寄せると、軽く唇を合わせ素早く離した。
「もう、ショーキチにいさん!」
「はい!?」
「ショーキチにいさんは早口言葉、上手いやろ? だったら舌の別の使い方もちゃんとやって」
そう言うとレイさんは再び両目を閉じ、顎を上げた。仕方なく俺は唇を少し開け、彼女の唇に重ねる。
「ん……!?」
レイさんの舌が、ペナルティエリアに進入する時の彼女のドリブルのようにスムーズに俺の口の中に入ってきた。
「痺れるような香りいっはぴい~♪ 琥珀色した飲み物を教えてあげまぴよ~♪」
そこからしばらく、スワッグの歌声が色々な物音を隠してくれた。その心遣いが悔しいが本当にありがたかった。
でも何というか……やってもうたわ。
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