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第六章
レイの謝罪
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「相方、外さむない? 暖かいうちにどうぞ」
「あ、あり……ありがとう」
レイさんが淹れたてらしいブルマンの入ったカップを差し出してくる。湯気が立っている……ステフはこの匂いに気付いてたのか?
「スワッグにいさんもどうぞ。お背中失礼しますね」
「おお、ありがとう! チューブ付きとは気がきくぴい!」
レイさんはスワッグの背中に軽やかに飛び乗ると、グリフォンの首にチューブ付きのカップをぶら下げた。馬車を引っ張りながらでも飲める代物だ。しかし凄いバランス感覚と面白い道具だな。
「もしかしてこのセットを旅先道具に入れてきた?」
軽々と御者台に戻るレイさんに問う。
「うん。『嫁入り道具に』っておとんが持たせてくれてん。元気なブルマン蟲も一山あるで。見る?」
絶対に見たくない!
「いや、遠慮しておくよ」
「そうなんや」
俺が断ると理由は分からないがレイさんは目に見えてしょげかえった。この上ブルマンを飲まずにいるのは不味いよな……。
「頂きます。うん、美味しい!」
たぶん美味しい筈だ。ただ脳のある部分をシャットダウンしないと地球のある虫が思い浮かんで飲み込めない為、味も分からないのだ。
「ほんま!? ええお嫁さんになれそう? そっちの家のお味に合う?」
レイさんはぱっと顔を明るくして俺ににじり寄った。
「いや、その部分は詳しくないから分からないかな~」
こっち方面の話をちゃんとして線を引きたい気分と触れるのが怖い気持ちとて中途半端な返事しかできない。
どうしたものかと悩みながらレイさんの顔を見ると、彼女は急に頭をさげて叫んだ。
「ウチまたやってもうた! 相方、ほんまごめん!」
「えっ?」
「ごめん、ごめんな……」
疑問で固まる俺の前で、レイさんは絞り出すように話し始める。
「ウチ、相方のご家族のこと何も知らんのに酷いこと言ったよな? 最低やった。本当にすみません」
「え!? 俺、何か言われたっけ?」
記憶に無い。
「あの時やん。ウチが家族の事情を話した時。あんたに家族の何が分かるんや? って。相方、家族を亡くしててウチより辛い思いしてんのに」
そこまで言われて少しづつ思い出してきた。フェルさんと話すつもりだったのにレイさんに遭遇してしまった時のことか。
「あの時は苦労も知らんボンボンに分かったような事を言われた気になってたけど……。相手の事もよう知らんのに平気で酷い事を言ったんはウチの方やった。いまかってデリカシーの無い質問したし」
それはええお嫁さんになれそう? の部分か。その質問に無いのはデリカシーじゃなくてモラルの方だぞ。
「いや、その件で失礼だったのはやっぱり俺の方だし、自分の家族の事は全く気にしてないというか……普段から何も考えて無いから謝る必要はないよ」
そう説明したもののレイさんの顔は晴れない。俺は少し場を和ませようとおどけて付け足した。
「苦労もしらんボンボン、なのも確かかな特に女性関係は。ずっと男だらけの環境にいたからね。それで女子チームを指揮する、て言うんだから怖いよね」
一応、社会人になってからは女性だらけのコールセンター勤務だが。でもそこ女性は成人しか働いていなかったから、レイさんみたいな思春期の女の子は未知数なんだよな。
「そうなん? でも相方は一夫多妻制やから大丈夫やってステフねえさんに聞いたで?」
レイさんは「ねえさん」の「え」にアクセントを置いて――芸人さんが目上の女性芸人さんに言う言い方だ――そう言った。
「一夫多妻制じゃないし何時からステフがねえさんになったのか分からないし何が大丈夫か分からないしそもそも相方って呼び方ぁ!」
俺が一気に突っ込むと、レイさんは手をパチパチと鳴らし感心した。
「やるやん相方。早口言葉みたい。あ、喜んでる場合やなかった。ごめんなさい」
笑ったり落ち込んだり忙しい。これが箸が倒れても可笑しい年頃、てやつか。
「いや、本当に大丈夫だから謝らないで。それに万が一そうだとしてもお互い様だからさ。だからこの件はお互いにもう言いっこ無しで」
「ほんまにそれでええん?」
「ほんまにそれでええの! ある監督曰くさ、チームで一番上手い選手と監督の関係が良いチームは強い、て。だから俺達もそういうわだかまりは無しでいようよ?」
俺がそう言うとレイさんは少し考えたあと頷いた。
「分かった。相方がそう言うなら努力する」
良かった。良かったのだがさっき突っ込んだ件をいくつか解決していかねば。少し考えた後に、俺はいま彼女が言った言葉から追及する事にした。
「あ、あり……ありがとう」
レイさんが淹れたてらしいブルマンの入ったカップを差し出してくる。湯気が立っている……ステフはこの匂いに気付いてたのか?
「スワッグにいさんもどうぞ。お背中失礼しますね」
「おお、ありがとう! チューブ付きとは気がきくぴい!」
レイさんはスワッグの背中に軽やかに飛び乗ると、グリフォンの首にチューブ付きのカップをぶら下げた。馬車を引っ張りながらでも飲める代物だ。しかし凄いバランス感覚と面白い道具だな。
「もしかしてこのセットを旅先道具に入れてきた?」
軽々と御者台に戻るレイさんに問う。
「うん。『嫁入り道具に』っておとんが持たせてくれてん。元気なブルマン蟲も一山あるで。見る?」
絶対に見たくない!
「いや、遠慮しておくよ」
「そうなんや」
俺が断ると理由は分からないがレイさんは目に見えてしょげかえった。この上ブルマンを飲まずにいるのは不味いよな……。
「頂きます。うん、美味しい!」
たぶん美味しい筈だ。ただ脳のある部分をシャットダウンしないと地球のある虫が思い浮かんで飲み込めない為、味も分からないのだ。
「ほんま!? ええお嫁さんになれそう? そっちの家のお味に合う?」
レイさんはぱっと顔を明るくして俺ににじり寄った。
「いや、その部分は詳しくないから分からないかな~」
こっち方面の話をちゃんとして線を引きたい気分と触れるのが怖い気持ちとて中途半端な返事しかできない。
どうしたものかと悩みながらレイさんの顔を見ると、彼女は急に頭をさげて叫んだ。
「ウチまたやってもうた! 相方、ほんまごめん!」
「えっ?」
「ごめん、ごめんな……」
疑問で固まる俺の前で、レイさんは絞り出すように話し始める。
「ウチ、相方のご家族のこと何も知らんのに酷いこと言ったよな? 最低やった。本当にすみません」
「え!? 俺、何か言われたっけ?」
記憶に無い。
「あの時やん。ウチが家族の事情を話した時。あんたに家族の何が分かるんや? って。相方、家族を亡くしててウチより辛い思いしてんのに」
そこまで言われて少しづつ思い出してきた。フェルさんと話すつもりだったのにレイさんに遭遇してしまった時のことか。
「あの時は苦労も知らんボンボンに分かったような事を言われた気になってたけど……。相手の事もよう知らんのに平気で酷い事を言ったんはウチの方やった。いまかってデリカシーの無い質問したし」
それはええお嫁さんになれそう? の部分か。その質問に無いのはデリカシーじゃなくてモラルの方だぞ。
「いや、その件で失礼だったのはやっぱり俺の方だし、自分の家族の事は全く気にしてないというか……普段から何も考えて無いから謝る必要はないよ」
そう説明したもののレイさんの顔は晴れない。俺は少し場を和ませようとおどけて付け足した。
「苦労もしらんボンボン、なのも確かかな特に女性関係は。ずっと男だらけの環境にいたからね。それで女子チームを指揮する、て言うんだから怖いよね」
一応、社会人になってからは女性だらけのコールセンター勤務だが。でもそこ女性は成人しか働いていなかったから、レイさんみたいな思春期の女の子は未知数なんだよな。
「そうなん? でも相方は一夫多妻制やから大丈夫やってステフねえさんに聞いたで?」
レイさんは「ねえさん」の「え」にアクセントを置いて――芸人さんが目上の女性芸人さんに言う言い方だ――そう言った。
「一夫多妻制じゃないし何時からステフがねえさんになったのか分からないし何が大丈夫か分からないしそもそも相方って呼び方ぁ!」
俺が一気に突っ込むと、レイさんは手をパチパチと鳴らし感心した。
「やるやん相方。早口言葉みたい。あ、喜んでる場合やなかった。ごめんなさい」
笑ったり落ち込んだり忙しい。これが箸が倒れても可笑しい年頃、てやつか。
「いや、本当に大丈夫だから謝らないで。それに万が一そうだとしてもお互い様だからさ。だからこの件はお互いにもう言いっこ無しで」
「ほんまにそれでええん?」
「ほんまにそれでええの! ある監督曰くさ、チームで一番上手い選手と監督の関係が良いチームは強い、て。だから俺達もそういうわだかまりは無しでいようよ?」
俺がそう言うとレイさんは少し考えたあと頷いた。
「分かった。相方がそう言うなら努力する」
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