62 / 697
第四章
背中にオーク
しおりを挟む
「これは想像以上に困難なミッションだぞ……」
二度目の握手の為に列に並びつつ、俺は思わずため息を漏らした。カペラさんは思ったより話し易い性格のようだが、与えられる時間は短いし先ほどの会話の続きから情報を聞き出す流れに持って行くのも不自然だしと障害が多い。
そして何よりも俺の緊張が半端ない。
「蒸し返すのもアレだから、次はサッカードウの事を聞くか……」
二回目の列は先ほどより短いので、俺は急いでメモを確認する。ナリンさんのとは少し異なり、そのメモにはちゃんと「前回のライブではなく合宿でのことを話す」と書いてあった。
いや駄目なメモの取り方だな。触れてはいけない事をわざわざ書いて記憶に残してしまっている。しないこと、ではなくやること、に集中しないと。
「あ、お揃いさん! またありがとう~」
そんな事を考える間もなくかなり早く再び俺の番が来て、カペラさんの方から話しかけてくれた。しかも覚えてくれているやんけ!
「どうも! 覚えてくれてたんですね! 嬉しいです!」
「だってそれ、高いマジックアイテムでしょ? 個人で持ってるの珍しいな~って」
カペラさんは少し身を屈めて俺の首から下がるそれを見つめる。そうなのか、あまり分かっていなかった。これらのアイテムを手配してくれた担当者さんに会ったら、改めて例を言っておこう。
などど感心している時間はない! 俺は慌てて口を開いた。
「あの、俺はサッカードウもちょっと好きで、カペラさんにはそちらでももっと活躍して欲しいです!」
「ありがとう! 昨シーズンはあまり出場できなかったけど、せっかく一部に昇格したんだから今季はめっちゃ気合い入れたい! です」
そう言いながらカペラさんは羽根をガッツポーズの形にする。くっ、可愛い……。俺はこんな娘さんから情報を得ようとしているのか……。
「はい! 頑張って下さい! チームが一部昇格したから、俺も余所のチームも見て予習しようと思うんですけど、カペラさんが憧れている、真似したいって思う選手はいますか?」
「あー真似したい選手か~」
と彼女が考え出した所で
「はい、移動して下さいブヒブヒ~」
再びオークさんの爪が俺の肩に食い込んだ。
「え、でも答えが……あ、頑張って下さい!」
「はーい!」
笑顔で羽根を振るカペラさんに何とか声をかけつつ、俺は再び彼女の前から去る事となった。
「俺、何回『頑張って下さい』て言ってるんやろな……」
botみたいだな、と自嘲しつつ三度目の列に並ぶ。幸か不幸かその列はもうかなり短く、俺はすぐカペラさんの前に姿を現すことになる。
「お揃いさん! 三回もありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ!」
カペラさんは明るく羽根を振り俺と握手を交わすが、周囲はやや閑散とした雰囲気だ。
「もう良いですよ」
「……オスブヒ」
カペラさんが例の剥がし役さんに言葉をかけると、オークさんは「限度を弁えろブヒ?」と俺を軽く睨んで裏に消えていった。
そう、これが彼女の現状だった。三度目の握手に並ぶファンは殆どおらず、余った時間で残った人と話していても問題ない程度の人気。
「さっきの質問だけど」
「はい?」
彼女の代わりに少し黄昏ていた俺に、カペラさんは不意に声をかけた。
「『真似したい選手』ね。ちょっと考えたけどあまり浮かばないんです」
その質問は何とか俺が絞り出した『策』だった。カペラさんのポテンシャルや成長曲線は未知数なれど、真似したい選手やそのプレースタイルを知っておけばある程度、予想できると思ったのだ。
まあ目当てが外れた訳だけど!
「いや、一部の選手ってみんなスゴいし、私なんかが真似できる訳ないと思っちゃって。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ変な事を聞いてすみません」
互いに顔の前で羽根と手を振って頭を下げる。
「でもね、『憧れている選手』だけはすぐに言えます」
そう言ってカペラさんは壇上のある地点を見上げた。
二度目の握手の為に列に並びつつ、俺は思わずため息を漏らした。カペラさんは思ったより話し易い性格のようだが、与えられる時間は短いし先ほどの会話の続きから情報を聞き出す流れに持って行くのも不自然だしと障害が多い。
そして何よりも俺の緊張が半端ない。
「蒸し返すのもアレだから、次はサッカードウの事を聞くか……」
二回目の列は先ほどより短いので、俺は急いでメモを確認する。ナリンさんのとは少し異なり、そのメモにはちゃんと「前回のライブではなく合宿でのことを話す」と書いてあった。
いや駄目なメモの取り方だな。触れてはいけない事をわざわざ書いて記憶に残してしまっている。しないこと、ではなくやること、に集中しないと。
「あ、お揃いさん! またありがとう~」
そんな事を考える間もなくかなり早く再び俺の番が来て、カペラさんの方から話しかけてくれた。しかも覚えてくれているやんけ!
「どうも! 覚えてくれてたんですね! 嬉しいです!」
「だってそれ、高いマジックアイテムでしょ? 個人で持ってるの珍しいな~って」
カペラさんは少し身を屈めて俺の首から下がるそれを見つめる。そうなのか、あまり分かっていなかった。これらのアイテムを手配してくれた担当者さんに会ったら、改めて例を言っておこう。
などど感心している時間はない! 俺は慌てて口を開いた。
「あの、俺はサッカードウもちょっと好きで、カペラさんにはそちらでももっと活躍して欲しいです!」
「ありがとう! 昨シーズンはあまり出場できなかったけど、せっかく一部に昇格したんだから今季はめっちゃ気合い入れたい! です」
そう言いながらカペラさんは羽根をガッツポーズの形にする。くっ、可愛い……。俺はこんな娘さんから情報を得ようとしているのか……。
「はい! 頑張って下さい! チームが一部昇格したから、俺も余所のチームも見て予習しようと思うんですけど、カペラさんが憧れている、真似したいって思う選手はいますか?」
「あー真似したい選手か~」
と彼女が考え出した所で
「はい、移動して下さいブヒブヒ~」
再びオークさんの爪が俺の肩に食い込んだ。
「え、でも答えが……あ、頑張って下さい!」
「はーい!」
笑顔で羽根を振るカペラさんに何とか声をかけつつ、俺は再び彼女の前から去る事となった。
「俺、何回『頑張って下さい』て言ってるんやろな……」
botみたいだな、と自嘲しつつ三度目の列に並ぶ。幸か不幸かその列はもうかなり短く、俺はすぐカペラさんの前に姿を現すことになる。
「お揃いさん! 三回もありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ!」
カペラさんは明るく羽根を振り俺と握手を交わすが、周囲はやや閑散とした雰囲気だ。
「もう良いですよ」
「……オスブヒ」
カペラさんが例の剥がし役さんに言葉をかけると、オークさんは「限度を弁えろブヒ?」と俺を軽く睨んで裏に消えていった。
そう、これが彼女の現状だった。三度目の握手に並ぶファンは殆どおらず、余った時間で残った人と話していても問題ない程度の人気。
「さっきの質問だけど」
「はい?」
彼女の代わりに少し黄昏ていた俺に、カペラさんは不意に声をかけた。
「『真似したい選手』ね。ちょっと考えたけどあまり浮かばないんです」
その質問は何とか俺が絞り出した『策』だった。カペラさんのポテンシャルや成長曲線は未知数なれど、真似したい選手やそのプレースタイルを知っておけばある程度、予想できると思ったのだ。
まあ目当てが外れた訳だけど!
「いや、一部の選手ってみんなスゴいし、私なんかが真似できる訳ないと思っちゃって。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ変な事を聞いてすみません」
互いに顔の前で羽根と手を振って頭を下げる。
「でもね、『憧れている選手』だけはすぐに言えます」
そう言ってカペラさんは壇上のある地点を見上げた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

王女、豹妃を狩る
遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。
ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。
マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる