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第四章

ひな鳥の丸焼き

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「じゃあやっぱ可哀想だから諦めるぴよ?」
 同じ鳥類憐れみの情ちょうるいあわれみのじょうがあるからか、スワッグも中止の方へ傾いている。でもなんか諦めるのは悔しいんだよなあ。
「スワッグはどっちの味方なんだよ!」
「そういう『敵か味方か』みたいな考え方は小さいぴよ」
 珍しくスワッグとステフが喧嘩を始めた。あわててナリンさんが止めに入っているが、俺はなんとなく閃くものがあって考え込んだ。
「なんだよこの鳥肌!」
「ステフさん~ゲームの負け方すげえ無惨~♪ ぴよ」
「もう、二人とも落ち着いて」
 ステフよりスワッグの方が悪口の才能あるな。
「スワッグの言う通りかもしれない」
「あんだと!?」
「いや、『敵か味方か』じゃないけど『ゼロか百か』みたいな考え方も違うかな? と」
 俺の言葉に不意を突かれたのか喧嘩が止まった。チャンスとばかりに話を続ける。
「トコトン探るのか、何も手に入れないか、じゃなくてさ。一線を越えない程度になら聞いても良いんじゃないかな?」
「一線ってどこだよ?」
「自身かそれ以外、かな。一例だけど先輩とか他のチームメイトの事を聞くのはアウト。自分の『こういうプレーが得意なので見て欲しいです』とか『今シーズンはこういう事にチャレンジします』はセーフ」
 ステフの質問に答えながら自分でも思考を整理する。
「他人の情報を聞き出すのは罪悪感あるし何かの拍子で流れた、てのがバレたら叱られたり処罰されたりしそうだろ? でも自分の情報ならそれはもう自己責任だしどの道、己が望んで積極的に言う内容だ」
 そこまで言い終わると言葉を止めて三者の顔を見渡す。
「なるほど! それなら問題ありませんね」
「新人さんのアピールを聞いてあげるのは善行ぴよ」
「うーん、そうかもしれんが面白味に欠けるなあ」
 その言葉で一同納得、という訳ではなかった。ステフはまだ少し不満がある様子だ。
「……と言ってもまだ机上の空論だ。ここからは二手に分かれて、ターゲットを絞って実現可能か探るフェーズに入ろう。まずナリンさん、昨シーズンの控え選手や出場時間の少ない若手から、今シーズン飛躍しそうな選手を何名かピックアップして下さい」
「はい!」
 ナリンさんは力強く頷く。
「ステフはアイドル活動の面から、上昇指向の強そうな娘とかノリの軽い若手を何名か取り上げてくれ」
「要はベラベラ喋りそうなヤツって事か? ふふ、じゃあ任せろ!」
 俺のオーダーにステフは少し機嫌を直した。やはり悪巧みとなるとイキイキし出すなこの子。
「二人が出してくれるリストを見比べて重なる選手がいたら、それがターゲットだ。たぶんそんなに多くないだろう。もしかしたらいないかもしれない。その時はまた新しい策を考えよう」
 そしてスワッグにも声をかける。
「俺とスワッグは円盤とかグッズを買いに行こうか。ニワカでも多少は知識を入れておきたいから。まあ無駄に終わるかもしれないけど」
「分かったぴよ。オレがみっちり仕込んでやるぴい」
 蛇の道は蛇ならぬ鳥(ハーピィ)の知識は鳥(グリフォン)、てやつだな。俺は三者三様の表情を見渡しながら有名プロデューサーぽく宣言した。
「さあ、始めましょう」

 暗い部屋を照らすのは画面の僅かな煌めき、響くのはエンドロールのバックに流れる音楽と男達の嗚咽だった。
「ショーキチ殿!? これは……?」
「うう……良かった……」
「何度観ても感動するぴい」
 ドアの前で立ちすくむナリンさんの問いに反応できず、俺とスワッグは肩を抱き合い感動の涙を流し続けていた。
「どうしたナリンちゃん? あ、お前等! さては徹夜でビギニングから観てやがったな!?」
 ナリンさんに続いてドアの所に現れたステフが叫ぶ。俺はスワッグの差し出した羽根で涙を拭いつつ頷いた。
「どういう事ですか、ステフさん?」
「んーこのハーピィのヤツらさ。アイドルグループのオーディションから合宿から初めてのライブまで全部記録しててさ、それを映像魔法円盤で販売してんだよ。で通しで観てしまうと情が移ってコロッといっちまうんだよなあ」
 呆れた口調で解説するステフに間髪入れずにスワッグが反論する。
「情じゃないぴい! オレはジェーンちゃんのプロとしてのショーマンシップに感動したんだぴい!」
「あーはいはい」
 ステフは冷たく返しながら部屋に散らかった羽根やグッズを片づけて座る場所を作る。
「ショーキチもそんな感じか?」
「いや、俺は大丈夫だ」
 サッカー界でも「ユース厨」という蔑称がある。ユース出身の選手を溺愛し外から移籍してきた選手を冷たい目で見る人々だ。まあユース出身の選手は地元の子も多いし、幼い頃から見てきた選手がプロまで到達し活躍するときたら、贔屓してしまうのも当然だ。
 だがプロの選手というのはやはり実力で判断するものだ。出身や自分との関わりではなく。まして自分がコーチや監督ならなおさらだ。俺は気持ちを切り替え言った。
「こちらへ来てから永くこういうコンテンツに接していなかったから免疫が切れていただけだと思う。ここからはプロに徹するよ。リストを見せてくれるか?」
「ほいよ」
 ステフとナリンさんがそれぞれ何名もの名前が記されたリストを手渡してくれた。俺はざっと見渡し思わず呟いた。
「どうしよう……」
「どうしました?」
「名前見ただけでだいたい全員の顔が浮かぶ」
「知らんし!」
 ステフが仰向けに寝転がりながら吐き捨てた。
「いや、だって俺、昨日まで一人も知らなかったんだよ?」
「いいから! どうだ、重なる名前はあったか?」
「うーん……」
 俺は二人の成果物に再度、目を通し言う。
「やっぱ握手会、ドミニクさんの所へ行ったらダメかな?」
「プロに徹するんだろう!?」
 素早く跳ね起きたステフが俺の襟首を締め上げ、スワッグの抜け落ちた羽根で俺の鼻をくすぐりながら脅す。
「やめて! ダメもとで言っただけだから! この二人、彼女たちがリストで重なってる。ターゲットはこの二人だ!」
 俺は片手で鼻を防御しつつ、リストの『トレパー』と『カペラ』という名前を指さした。脳裏に緊張した面持ちの二人の顔が浮かんだ。
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