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第四章

We will……

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 そのどこかで見た事があるような無いようなリーフレットには
「『WillU』メンバーに会える! 円盤3枚でランダム。5枚で希望のメンバーに……」
と事細かに条件が記載されていた。
「これって?」
「握手会商法じゃん。いやこの娘らは『握羽』だ。知らんのか?」
 いや知ってるというか知らんというか知ってるけれども!
「ハーピィチームの選手達って、アイドル活動もやってんの!? 『WillU』てチーム名で?」
「ああ。あいつらは『スタジアムでもライブでも会いに行けるアイドル、WillU』って名乗ってる」
 そ、そうか……。エルフだとティアさんもシーズンオフはバーで歌手やってるが、そのキャッチフレーズだと一年通してやってそうだな。
「ちなみにスワッグステップは『こっちから会いに行くアーティスト』て名乗ってるぴよ」
 聞いてねえわ! でも確かにこの二人はベテラン演歌歌手の様に何処でも行ってるドサ回りし何でも知ってはいるな。 ……ん? アーティスト?
「そんな訳で会って話も聞けるからサッカードウの仕事はさっさと終わらせてさ。アホウの街を楽しもうぜ!」
「待って下さい。会って……何を話せば良いんですか?」
 ナリンさんが困惑気味に言った。
「もう、ナリンちゃんたら推しに面会できちゃって混乱するファンみたいな事を言って~」
「『やめて』『死ぬ』ぴい」
「ほんまそれな~」
「「はっはっは」」
 いやはっはっはじゃねえよ!
「確かにそうだ。コーチじゃないから引き抜きできないし、今の調子を聞いても仕方ないし、『チームの弱点は?』て聞いて答える訳もない」
「あ、本当だ」
「実際、話せる時間も短いから要点も絞らないといけないぴよ」
 スワッグさえ事の深刻さに気づいて俺たち一同は腕や羽を組み考え込む姿勢に入った。
「何か良いアイデアはないか? 二人は芸能界も長くての裏表に詳しいだろ?」
「誰がベテラン演歌歌手やねん! ……あっ!」
 ステフが何かをひらめいたかのように拳を握った。
「ベテランじゃないわ……新人を狙おうぜ!」
「はい?」
「ベテランは情報漏洩にも厳しいし音楽の方で話す事もいっぱいある。だが新人はどうだ?」
「あー!」
 ステフのヒントが脳味噌に染み込んでいって閃いた。
「セキュリティホールを攻めるのか!」
「そう、それ」
「えっ? 何ですかそれ?」
 用語が全く通じない(逆に言うと通じるステフが異常なんだが)ナリンさんに説明しつつ、自分でも考えをまとめる。
「パソコン関係の用語で脆弱姓とか不具合を意味するんですが……まいったな、パソコンから説明しないといけないや。いや、いいか。えっと、城における弱点、防御の弱い所です」
「はあ」
「一般的に言って城でも正門とか城壁はしっかりして防御も堅いですが、水路とか使用人通行門などはそこまで堅くありません、よね?」
「ええ、たぶん」
 俺もナリンさんも知ってる城なんてエルフの国のアレだけなので、思い浮かぶのもあの城の風景しかないが。
「サッカードウでも一緒です。CBは空中戦に強い選手が多いですが、SBはそこまでではない」
「ああ、それなら分かります!」
 高いボールで攻める時、背の高いFWを相手の背の低いSBにぶつけるやつ、と言い足すとナリンさんは覿面、理解した顔になった。
「なので握手会ではベテランではなく、守備の弱い新人さんの所へ行って話を聞こう、という算段です」
「補足するとだなあ。新人はまだ曲の大事なパートを任されていないので、芸能活動の方で話せる内容もそれほどない。ファンも多くないので、自分を売り込むのに必死だ。必死さのあまり、つい喋り過ぎてしまう。先輩の秘密とか、まだ知られてない自分のアピールポイントとかな」
「『これって秘密なんですけど、A先輩って実は……』ぴよ」
 ベテランさんフォローあざっす!
「なるほど……」
 それを聞いてナリンさんはアイドル顔負けの整った顔に手の平を当ててしばらく考えた。やがて口を開く。
「でもそれって……あくどくないですか?」
 だよね! 途中から俺も自分で自分に若干、引いた!
「うぶな新人さんの善意とか熱意を利用して騙して情報を得る、て事ですよね?」
「はあ? 『恋と戦争ではあらゆる戦術が許される』って言葉があるだろう?」
「知りません」
 そりゃナリンさんは知らんだろ。
「確かにナリンさんの言う通りです。サッカードウは騙し合い、ではあります。でもそれはプレーにおいてのことで、こういう状況ではやり過ぎじゃないかなあ」
 この裏切り者! という目で見てくるステフと賛同の頷きを示してくれるナリンさんを前に俺は腕を組む。エグい話なのでみんなには言わないが、アイドルグループで売れてる先輩に嫉妬した後輩がプライベートな事までストーカーに教えてしまった事件などを思い出し俺は暗い気持ちで考え込んだ。
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