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第四章
娯楽の街
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ハーピィ達の街、アホウは美しい港町だった。山から海へ傾斜に沿って白亜の建築物が並び、左右に延びた町並みが湾を形成している。その様を上から見るとまるで翼を広げた鳥の姿だ。船の出入りも激しく、それはつまり商業活動の活発さも意味し、狭い街道や堤防に異国の様々な商品が並べられていた。
そしてそれらの上を飛び交う地元っ子、ハーピィたち。ある者は商の為に飛び回り、ある者は観光客に音楽を披露し、ある者は俺には分からない理由で潮風に舞って空を漂っていた。
商人や観光客を足せば人口はあのウォルスに引けを取らないだろう。だが青い海と白い建物、身なりを整えた来訪者と美しい鳥乙女たちの存在の影響か、ゴブリンの街ほどの猥雑さは感じない。むしろ「賑やかでいてお洒落な港街」という印象を与える。
そう、アホウという港街は商業都市であると共に音楽芸術の観光都市でもあった。そして俺の旅の仲間には音楽芸術にエルフ一倍ウルサイやつらがいた。
「こっちはライブハウスヤング。小さいけどパンチのある会場だ。あっちはクリントホールって言ってデカいハコなんだがまあ規模がえぐいだけで音響はイマイチなんだよな」
御者台に戻ると宿までの道すがら、ステフは自分が演奏者として利用したり客として訪れたりした施設を嬉しそうに語ってくれた。
「へー、そうなんだ~。じゃなくって! アホウのエンタメ事情じゃなくてさ、ハーピィの種族特性とかそういうのをもっと教えてくれないか?」
ナリンさんから聞いている部分――サッカードウのスタイルだとか身体能力だとか――は良いとして。俺はハーピィ達の基本的な性格や習性、思考のパターンなども知る必要があった。
「そっちねえ。ハーピィは割とお気楽な奴らで、元は海辺の断崖で歌って飯喰ってぼーっとしてるのが最高、ていう幸せな奴らだ」
「ハッピーなハーピィってヤツだぴい」
例によってスワッグが割り込む。早口言葉かよ。
「ところが例によってサッカードウの普及と世界平和でハーピィらも変わってしまった。種族の交流が盛んになりアホウという土地の利点と彼女たちの性質が発見されて、ここが巨大な都市になってしまったんだな」
確かにこの都市は商業的に非常に便利そうだった。入り江に守られた港は広く安全。隣国は鉱石を算出するウォルスに、自由で人の出入りの多い学園都市アーロン。物も人も大いに動くだろう。「海運」というモノは俺のいた、科学文明の発達した地球でも今なお商業の柱だ。この世界においては……言わずもがな。
「ま、基本雌しかいなくて異種族と交配して卵を産むしかないハーピィ的には千客万来は大歓迎。大手を、いや大羽を振って人々を迎い入れた」
ちょっと待ってさらっと重大情報を!?
「え!? ハーピィって雌しかいなくて……他の種族と子供を作って増える種族なのか?」
「ああ、そうだが?」
「コウノトリが赤ちゃんを運んでくるとでも思ったぴよ?」
いやむしろ連れ去る方だろう話によっちゃ!
「続けるぞ。客はどんどん来る、人口は増える、街は大きくなる。混血も進むし暮らしは裕福になるし、海岸でぼーっとしていたハーピィは過去の姿となった。今の彼女たちは海千山千の商人であると同時にプロフェッショナルなエンターティナー。表では魅惑的な微笑みで客の心を蕩けさせるが、その裏でどれだけ搾り取れるか計算している冷酷な奴らだ」
「オレも随分、搾り取られもんだぴい」
「何が? とは聞かないからな。何でも突っ込むと思ったら大間違いだぞ」
ハーピィの思わぬ実態に気が引き締まり、俺は俺で関西人としての厳しさを発揮してスワッグに当たってしまった。
「しかし、サービス精神があるようで打算もしてる、て感じか。ゲームで対戦してて意外とやっかいなタイプなんだよな、そういうの」
試合風景を映像で観た時とはまた違った感想が浮かんだ。
「わかる~! ふだん魅せプレーとか言って舐めプまでしてくる癖に、負けそうになると姑息なテクニック使ってくるヤツとかいるよな~」
ステフは苦々しい記憶を思い出したようで、吐き出すように言った。待って、お前どうやって誰と対戦ゲームしてる?
「宿に到着~ぴい」
ステフに聞こうとしたタイミングで馬車が宿泊予定の店についてしまった。俺は少しの疑問を残したまま、馬車を降りた。
「さて、明日はどこから手をつける? どこでも楽しいぞ~」
宿の食堂で晩飯を食べつつステフが嬉しそうに言った。
「俺はナリンさんと一緒に練習場やスタジアムをチェックしようかな? ウォルスでは一人で任せちゃったし」
「は? マジで言ってんの!?」
ぱぁあ、と表情を明るくするナリンさんの横でステフは眉を寄せて言ってきた。
「ショーキチ、この街に来て仕事だけで帰るつもりか!?」
「(いやさ、あんな話を聞いちゃったから、変な店に入ってボッタクリに遭ったりするのも怖いし……)」
俺はナリンさんに聞かれないよう、小声でステフに言う。何というか、気恥ずかしさとダシに使った罪悪感があるしさ!
「その為にアタシがいるだろ! それに言うんだよ、『アホウの恥はかき捨て』てな!」
いやそれやっぱ何かしらの失敗をする前提ですよね!
「踊るアホウにみるアホウ、同じアホウなら踊らなソンソンぴい!」
店内なので小型犬ほどに縮まって同席してたスワッグも追従する。
「ショーキチ殿、何か問題でも?」
「いや、ここって誘惑の多い街じゃないですか? チームの宿泊所や練習施設も、ウォルス以上に検討しないと危険かな~って」
これは紛れもない事実だ。特に音楽活動をやってるティアさんなどは勝手にどこかのライブハウスへ乱入しそうだ。
「それにウォルスみたいにシーズンオフでも試合を観れたり選手の家族に会えたりする訳でもないだろ? だったら手堅く行こうと……」
「え? 会えるけど?」
言葉の途中からはステフに向けたモノだったが、予想外の返事が来た。
「は? 会えるの? 家族に?」
「家族というか選手本人に」
ステフはそう言いながら、懐からリーフレットを取り出した。
そしてそれらの上を飛び交う地元っ子、ハーピィたち。ある者は商の為に飛び回り、ある者は観光客に音楽を披露し、ある者は俺には分からない理由で潮風に舞って空を漂っていた。
商人や観光客を足せば人口はあのウォルスに引けを取らないだろう。だが青い海と白い建物、身なりを整えた来訪者と美しい鳥乙女たちの存在の影響か、ゴブリンの街ほどの猥雑さは感じない。むしろ「賑やかでいてお洒落な港街」という印象を与える。
そう、アホウという港街は商業都市であると共に音楽芸術の観光都市でもあった。そして俺の旅の仲間には音楽芸術にエルフ一倍ウルサイやつらがいた。
「こっちはライブハウスヤング。小さいけどパンチのある会場だ。あっちはクリントホールって言ってデカいハコなんだがまあ規模がえぐいだけで音響はイマイチなんだよな」
御者台に戻ると宿までの道すがら、ステフは自分が演奏者として利用したり客として訪れたりした施設を嬉しそうに語ってくれた。
「へー、そうなんだ~。じゃなくって! アホウのエンタメ事情じゃなくてさ、ハーピィの種族特性とかそういうのをもっと教えてくれないか?」
ナリンさんから聞いている部分――サッカードウのスタイルだとか身体能力だとか――は良いとして。俺はハーピィ達の基本的な性格や習性、思考のパターンなども知る必要があった。
「そっちねえ。ハーピィは割とお気楽な奴らで、元は海辺の断崖で歌って飯喰ってぼーっとしてるのが最高、ていう幸せな奴らだ」
「ハッピーなハーピィってヤツだぴい」
例によってスワッグが割り込む。早口言葉かよ。
「ところが例によってサッカードウの普及と世界平和でハーピィらも変わってしまった。種族の交流が盛んになりアホウという土地の利点と彼女たちの性質が発見されて、ここが巨大な都市になってしまったんだな」
確かにこの都市は商業的に非常に便利そうだった。入り江に守られた港は広く安全。隣国は鉱石を算出するウォルスに、自由で人の出入りの多い学園都市アーロン。物も人も大いに動くだろう。「海運」というモノは俺のいた、科学文明の発達した地球でも今なお商業の柱だ。この世界においては……言わずもがな。
「ま、基本雌しかいなくて異種族と交配して卵を産むしかないハーピィ的には千客万来は大歓迎。大手を、いや大羽を振って人々を迎い入れた」
ちょっと待ってさらっと重大情報を!?
「え!? ハーピィって雌しかいなくて……他の種族と子供を作って増える種族なのか?」
「ああ、そうだが?」
「コウノトリが赤ちゃんを運んでくるとでも思ったぴよ?」
いやむしろ連れ去る方だろう話によっちゃ!
「続けるぞ。客はどんどん来る、人口は増える、街は大きくなる。混血も進むし暮らしは裕福になるし、海岸でぼーっとしていたハーピィは過去の姿となった。今の彼女たちは海千山千の商人であると同時にプロフェッショナルなエンターティナー。表では魅惑的な微笑みで客の心を蕩けさせるが、その裏でどれだけ搾り取れるか計算している冷酷な奴らだ」
「オレも随分、搾り取られもんだぴい」
「何が? とは聞かないからな。何でも突っ込むと思ったら大間違いだぞ」
ハーピィの思わぬ実態に気が引き締まり、俺は俺で関西人としての厳しさを発揮してスワッグに当たってしまった。
「しかし、サービス精神があるようで打算もしてる、て感じか。ゲームで対戦してて意外とやっかいなタイプなんだよな、そういうの」
試合風景を映像で観た時とはまた違った感想が浮かんだ。
「わかる~! ふだん魅せプレーとか言って舐めプまでしてくる癖に、負けそうになると姑息なテクニック使ってくるヤツとかいるよな~」
ステフは苦々しい記憶を思い出したようで、吐き出すように言った。待って、お前どうやって誰と対戦ゲームしてる?
「宿に到着~ぴい」
ステフに聞こうとしたタイミングで馬車が宿泊予定の店についてしまった。俺は少しの疑問を残したまま、馬車を降りた。
「さて、明日はどこから手をつける? どこでも楽しいぞ~」
宿の食堂で晩飯を食べつつステフが嬉しそうに言った。
「俺はナリンさんと一緒に練習場やスタジアムをチェックしようかな? ウォルスでは一人で任せちゃったし」
「は? マジで言ってんの!?」
ぱぁあ、と表情を明るくするナリンさんの横でステフは眉を寄せて言ってきた。
「ショーキチ、この街に来て仕事だけで帰るつもりか!?」
「(いやさ、あんな話を聞いちゃったから、変な店に入ってボッタクリに遭ったりするのも怖いし……)」
俺はナリンさんに聞かれないよう、小声でステフに言う。何というか、気恥ずかしさとダシに使った罪悪感があるしさ!
「その為にアタシがいるだろ! それに言うんだよ、『アホウの恥はかき捨て』てな!」
いやそれやっぱ何かしらの失敗をする前提ですよね!
「踊るアホウにみるアホウ、同じアホウなら踊らなソンソンぴい!」
店内なので小型犬ほどに縮まって同席してたスワッグも追従する。
「ショーキチ殿、何か問題でも?」
「いや、ここって誘惑の多い街じゃないですか? チームの宿泊所や練習施設も、ウォルス以上に検討しないと危険かな~って」
これは紛れもない事実だ。特に音楽活動をやってるティアさんなどは勝手にどこかのライブハウスへ乱入しそうだ。
「それにウォルスみたいにシーズンオフでも試合を観れたり選手の家族に会えたりする訳でもないだろ? だったら手堅く行こうと……」
「え? 会えるけど?」
言葉の途中からはステフに向けたモノだったが、予想外の返事が来た。
「は? 会えるの? 家族に?」
「家族というか選手本人に」
ステフはそう言いながら、懐からリーフレットを取り出した。
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