49 / 651
第三章
矢は放たれた
しおりを挟む
「以上、勝利チーム監督及びキャプテンの会見でした。ありがとうございました」
司会のリザードマンがそう告げると、記者会見の会場はフェリダエチームを祝福する拍手で包まれた。決勝は白熱の勝負の結果、猫族が勝利しリーグとカップの2冠に輝いたのである。
達成感と誇りで高揚した表情のフェリダエ代表関係者が退場するのをドアの隙間から見守りつつ、俺たちは部屋の反対側の廊下で待っていた。
「結構な数のマスコミが残っていますね」
「ダリオのヤツは人気があるからなあ」
俺の問いにステフが答える。実は優勝チーム記者会見前に、
「ダリオ姫から緊急発表があるので興味のある記者は残って欲しい」
と通達してあったのだ。
「ショーちゃん緊張してきた? ズボン緩める?」
「辞めなさいシャマー! あ、姫ですよ!」
シャマーさんを止めつつ(サンキュー)、ナリンさんが部屋の中を指さした。フェリダエチームと入れ違うように正装のダリオさんが入ってくる。
「続いてはエルフサッカードウ協会会長、ダリオ姫からの発表です」
紹介されたダリオさんは余裕綽々といった態度で壇上に上がり、すぐ脇の司会に軽く会釈した後、口を開いた。
「優勝会見の後だと言うのに、こんなにたくさんの記者さんに残って頂いて、本当にありがとうございます。まずは優勝したフェリダエチームと準優勝したトロールチームに祝福を。両チームとも素晴らしい戦いぶりでした」
嘘である。彼女も俺と同程度、契約や打ち合わせに忙しくて試合なんか殆ど観ていない。
「いずれ私たちエルフ代表も同じような高いレベルで争えれば、と思います」
よくもまあスラスラとそんな事を。
「今回、この様な場を設けさせて頂いたのは、来シーズンのエルフ代表の体制について何点かご報告したい事がございまして。色々と疑問もあるでしょうが、まずはご覧下さい」
感心する俺の方へダリオさんが合図を送った。それを受けて、ステフが飛び出す。
「やあやあレディース&ジェントルマン! ようこそスワッグステップがお送りするアローズ新体制発表会へ! 準備は良いかい? レディ、ゴー!」
(アローズって何だ?)と頭を捻る全員の前で、ステフは腰から電子楽器を取り出し、くるくると回しながら勇猛な曲を奏で始める。
「ぱーぱー、ぱーぱー、ぱーぱー、ぱーぱーぱーぱー♪」
楽器が楽器だけに間が抜けているが、凄く血がタギる感じと年末感を覚える……。これはPRIDEの曲じゃないか!?
「最初に紹介するのはフィジカルコーチ。チーム最高順位三位、一昨年の優秀監督賞、元ミノタウロス代表監督……ザックコーチです!」
ダリオさんに呼ばれたザックさんが俺たちの待機していた廊下から会見場へ飛び出した。空かさずスポットライトが当たる。もちろん、いつの間にか記者たちの後ろへ行って機材をセットしたスワッグの仕業である。
「やあやあ、少しぶり」
ライトや視線を浴びながら手を振り進む筋骨隆々の巨漢……シチュエーション的には大会オープニングで入場するMMAファイターだ。
「続いてはGKコーチ。最高順位一位、リーグ最長無失点記録保持チームの元コーチ……ニャイアーコーチです!」
今さっき、フェリダエ代表チームが退場したドアからニャイアーさんが現れた。スワッグはそつなくパンしてライトを当てる。
「やあやあ、お待たせしてないかな?」
チームから抜け出してきたらしいニャイアーさんが、滅多に受けない注目を浴びつつ中央へ進む。ザックさんと合流して長身恵体の二人が並ぶと本当に試合前の会見みたいだ。
「その二人の上に立ちますのは、昨年の最優秀若手コーチ、ジノリヘッドコーチです!」
ジノリさんが同じ側の手と足を同時に出しながら歩む。背が低い彼女の為か、スワッグはなんと宙に浮かんでライトを当てている。プロや……。
「ややややあ、お騒がせを~」
がっちがちやん。可哀想なくらい緊張しているジノリさんが側に来ると、ザックさんが優しく担ぎ上げて肩に乗せた。
「最後に彼らをまとめますのは、地球から来た二人目のサッカードウ伝道師、我らが天才軍師……ショウキチ監督です!」
俺の番だ。彼ら彼女らにどのような印象を与えるかが大事だ。落ち着き払った策士か、激情型のモチベーターか? 監督としての心理戦はもう始まっている。
「ナリンさん、行きましょう」
俺は背筋を伸ばし大股で歩いてみんなの前に登場した。すぐ後をエルフらしく超然とした態度でナリンさんが続く。鋭く集中したその姿は、いつにもまして美人だ。
「うっす」
俺は先に登場したコーチ陣全員にグータッチして中央に座った。
「……及び昨シーズンに続いてコーチを努めますナリンです」
最後にダリオさんがナリンさんを紹介して、ステフの奏でる音楽が止まった。
「本日は発表にお集まり、いや、お残り頂いてありがとうございます。フェリダエチームのシャンパンファイトに混ざって取材したい記者の方も多いと思いますので、手短に参ります」
俺の最初の一言に、軽く笑い声が起きた。愛想笑いもあるだろうが、掴みは行けたらしい。
「縁あってエルフサッカードウ代表の監督に就任しました、ショウキチと申します。自分のミッションは一つです。古豪エルフ代表を再びトップへ引き上げる事。その為には自分の持てる知識と全力を尽くしてチームを育て上げ、熱いゲームを魅せたいと思っています。宜しくお願いします」
続いて決まりきった挨拶を述べ、間をおく。途端に堰を切ったかのように質問が浴びせかけられてきた。
「先ほど解雇されたザック監督がもうコーチに!?」
「1位のチームから残留争いをするチームに就任する気持ちは?」
「宿敵エルフと組みする事に葛藤は?」
「地球のサッカードウはあsdfghj」
多種の種族から大量の言葉を聞いて、遂に翻訳アミュレットの機能が限界を迎えた。最後の言葉はまったく意味不明の雑音としてしか聞こえない。
「申し訳ない、本日質疑応答は予定しておりません。その代わりと言っては何ですが、後日エルフサッカードウ協会に質問取材等ありましたら可能な限り受けさせて貰います」
「でしたら今日は何の為にこの場を!?」
俺の謝罪に当然の質問が上がった。
「それは……告知と宣戦布告の為です」
ダリオさんがいつもの強い眼差しで記者たちを見渡し、言う。
「『古豪』と括弧書きで言われていたエルフ代表は変わります。ご覧頂いた通り、我々はスタッフの素性を問いません。エルフ代表チームの為に戦うのであれば、全ての種族に門戸は開かれております。『我こそは!』と思う方は、こぞって応募下さい」
打ち合わせ通り良く言い切ったぞ、ダリオさん。次は俺だ。そう言えば「アローズ」てのはステフのアドリブかな? エルフ代表の愛称としてはベタだが相応しいモノだ。勢いで採用してしまうか?
「そして我々で鍛え上げたチームで、優勝します。リーグを制覇しサッカードウのトレンドを支配し、全ての種族の注目を再びアローズ、エルフ代表に集めます。やがて皆は言うでしょう。エルフ・オア・ナッシング」
翻訳アミュレットを通して正しいニュアンスが伝わるかは知らない。だが時には言葉の強さで押し切らないといけない場面もあるのだ。それが今だ。
「エルフ代表が全てを勝ち取る、と」
エルフ・オア・ナッシング~アローズの再興~ 第三章:完
司会のリザードマンがそう告げると、記者会見の会場はフェリダエチームを祝福する拍手で包まれた。決勝は白熱の勝負の結果、猫族が勝利しリーグとカップの2冠に輝いたのである。
達成感と誇りで高揚した表情のフェリダエ代表関係者が退場するのをドアの隙間から見守りつつ、俺たちは部屋の反対側の廊下で待っていた。
「結構な数のマスコミが残っていますね」
「ダリオのヤツは人気があるからなあ」
俺の問いにステフが答える。実は優勝チーム記者会見前に、
「ダリオ姫から緊急発表があるので興味のある記者は残って欲しい」
と通達してあったのだ。
「ショーちゃん緊張してきた? ズボン緩める?」
「辞めなさいシャマー! あ、姫ですよ!」
シャマーさんを止めつつ(サンキュー)、ナリンさんが部屋の中を指さした。フェリダエチームと入れ違うように正装のダリオさんが入ってくる。
「続いてはエルフサッカードウ協会会長、ダリオ姫からの発表です」
紹介されたダリオさんは余裕綽々といった態度で壇上に上がり、すぐ脇の司会に軽く会釈した後、口を開いた。
「優勝会見の後だと言うのに、こんなにたくさんの記者さんに残って頂いて、本当にありがとうございます。まずは優勝したフェリダエチームと準優勝したトロールチームに祝福を。両チームとも素晴らしい戦いぶりでした」
嘘である。彼女も俺と同程度、契約や打ち合わせに忙しくて試合なんか殆ど観ていない。
「いずれ私たちエルフ代表も同じような高いレベルで争えれば、と思います」
よくもまあスラスラとそんな事を。
「今回、この様な場を設けさせて頂いたのは、来シーズンのエルフ代表の体制について何点かご報告したい事がございまして。色々と疑問もあるでしょうが、まずはご覧下さい」
感心する俺の方へダリオさんが合図を送った。それを受けて、ステフが飛び出す。
「やあやあレディース&ジェントルマン! ようこそスワッグステップがお送りするアローズ新体制発表会へ! 準備は良いかい? レディ、ゴー!」
(アローズって何だ?)と頭を捻る全員の前で、ステフは腰から電子楽器を取り出し、くるくると回しながら勇猛な曲を奏で始める。
「ぱーぱー、ぱーぱー、ぱーぱー、ぱーぱーぱーぱー♪」
楽器が楽器だけに間が抜けているが、凄く血がタギる感じと年末感を覚える……。これはPRIDEの曲じゃないか!?
「最初に紹介するのはフィジカルコーチ。チーム最高順位三位、一昨年の優秀監督賞、元ミノタウロス代表監督……ザックコーチです!」
ダリオさんに呼ばれたザックさんが俺たちの待機していた廊下から会見場へ飛び出した。空かさずスポットライトが当たる。もちろん、いつの間にか記者たちの後ろへ行って機材をセットしたスワッグの仕業である。
「やあやあ、少しぶり」
ライトや視線を浴びながら手を振り進む筋骨隆々の巨漢……シチュエーション的には大会オープニングで入場するMMAファイターだ。
「続いてはGKコーチ。最高順位一位、リーグ最長無失点記録保持チームの元コーチ……ニャイアーコーチです!」
今さっき、フェリダエ代表チームが退場したドアからニャイアーさんが現れた。スワッグはそつなくパンしてライトを当てる。
「やあやあ、お待たせしてないかな?」
チームから抜け出してきたらしいニャイアーさんが、滅多に受けない注目を浴びつつ中央へ進む。ザックさんと合流して長身恵体の二人が並ぶと本当に試合前の会見みたいだ。
「その二人の上に立ちますのは、昨年の最優秀若手コーチ、ジノリヘッドコーチです!」
ジノリさんが同じ側の手と足を同時に出しながら歩む。背が低い彼女の為か、スワッグはなんと宙に浮かんでライトを当てている。プロや……。
「ややややあ、お騒がせを~」
がっちがちやん。可哀想なくらい緊張しているジノリさんが側に来ると、ザックさんが優しく担ぎ上げて肩に乗せた。
「最後に彼らをまとめますのは、地球から来た二人目のサッカードウ伝道師、我らが天才軍師……ショウキチ監督です!」
俺の番だ。彼ら彼女らにどのような印象を与えるかが大事だ。落ち着き払った策士か、激情型のモチベーターか? 監督としての心理戦はもう始まっている。
「ナリンさん、行きましょう」
俺は背筋を伸ばし大股で歩いてみんなの前に登場した。すぐ後をエルフらしく超然とした態度でナリンさんが続く。鋭く集中したその姿は、いつにもまして美人だ。
「うっす」
俺は先に登場したコーチ陣全員にグータッチして中央に座った。
「……及び昨シーズンに続いてコーチを努めますナリンです」
最後にダリオさんがナリンさんを紹介して、ステフの奏でる音楽が止まった。
「本日は発表にお集まり、いや、お残り頂いてありがとうございます。フェリダエチームのシャンパンファイトに混ざって取材したい記者の方も多いと思いますので、手短に参ります」
俺の最初の一言に、軽く笑い声が起きた。愛想笑いもあるだろうが、掴みは行けたらしい。
「縁あってエルフサッカードウ代表の監督に就任しました、ショウキチと申します。自分のミッションは一つです。古豪エルフ代表を再びトップへ引き上げる事。その為には自分の持てる知識と全力を尽くしてチームを育て上げ、熱いゲームを魅せたいと思っています。宜しくお願いします」
続いて決まりきった挨拶を述べ、間をおく。途端に堰を切ったかのように質問が浴びせかけられてきた。
「先ほど解雇されたザック監督がもうコーチに!?」
「1位のチームから残留争いをするチームに就任する気持ちは?」
「宿敵エルフと組みする事に葛藤は?」
「地球のサッカードウはあsdfghj」
多種の種族から大量の言葉を聞いて、遂に翻訳アミュレットの機能が限界を迎えた。最後の言葉はまったく意味不明の雑音としてしか聞こえない。
「申し訳ない、本日質疑応答は予定しておりません。その代わりと言っては何ですが、後日エルフサッカードウ協会に質問取材等ありましたら可能な限り受けさせて貰います」
「でしたら今日は何の為にこの場を!?」
俺の謝罪に当然の質問が上がった。
「それは……告知と宣戦布告の為です」
ダリオさんがいつもの強い眼差しで記者たちを見渡し、言う。
「『古豪』と括弧書きで言われていたエルフ代表は変わります。ご覧頂いた通り、我々はスタッフの素性を問いません。エルフ代表チームの為に戦うのであれば、全ての種族に門戸は開かれております。『我こそは!』と思う方は、こぞって応募下さい」
打ち合わせ通り良く言い切ったぞ、ダリオさん。次は俺だ。そう言えば「アローズ」てのはステフのアドリブかな? エルフ代表の愛称としてはベタだが相応しいモノだ。勢いで採用してしまうか?
「そして我々で鍛え上げたチームで、優勝します。リーグを制覇しサッカードウのトレンドを支配し、全ての種族の注目を再びアローズ、エルフ代表に集めます。やがて皆は言うでしょう。エルフ・オア・ナッシング」
翻訳アミュレットを通して正しいニュアンスが伝わるかは知らない。だが時には言葉の強さで押し切らないといけない場面もあるのだ。それが今だ。
「エルフ代表が全てを勝ち取る、と」
エルフ・オア・ナッシング~アローズの再興~ 第三章:完
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる