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第三章

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「ぴっぴー! ぴよ。起きるぴい」
 スワッグの声がして目が覚めた。ピッチ上ではもうボールが動いている。ミノタウロスvsドワーフ、リーグカップ三位決定戦の開始である。
「ありがとう、スワッグ。お三方とも、よく試合を観て下さい」
 目覚めはかなり良く、起きた瞬間に監督モードに入れた。スワッグが自慢するだけの事はある。
「ふふ、あれがドワーフのDFラインね~。猪口才な、確かにあの時のウチに似てはいるのね~」
 俺の後ろに座るシャマーさんがドワーフチームを観ながら呟く。
「ええ。でも違う点もあります。分かりますか?」
 折角だから聞いてみよう。その方が真剣に観てくれそうだし。
「そうね~。まず人数が違うよね。私たちは3枚で守り抜いたけど、ドワーフは2WBウイングバックを吸収して5枚になる」
 唇を摘みながらシャマーさんが答えた。珍しく彼女が真面目モードだ。

「私たちは平気でセンターサークル越えたけど、ドワーフはそこまで行かない。そこが上限。私たちは危険でもパスを縦につけたけど、ドワーフは横で安全重視。あとは……」
 そこまで言って、シャマーさんは後ろから俺を抱き締め耳元に囁いた。
「DFラインをアシストしてくれるコーチ。私たちのは可愛いショーちゃんだったけど、ドワーフのは厳しそうな感じの子~。ね、ショーちゃん、今度はもっと限界まで上げてみない?」
 何をやねん! てかシャマーさんに期待した僕が馬鹿でした……。
「シャマー、離れなさい! もっと試合に集中して!」
 誤って伝えられた権田選手の言葉レッズに期待した僕がのような気分だった俺を、ダリオさんが救ってくれた。
「え~見てるよ~。お、オフサイド上手い!」
 シャマーさんが気持ちだけ身体を離しつつ歓声を上げた。ピッチを観ると彼女の言う通り、5枚になったDFラインが見事なオフサイドトラップでミノタウロスFWを罠にかけていた。
 そしてピッチサイドには小さくガッツポーズをするジノリさんの姿もあった。彼女は手を叩いて選手たちを称賛しながら振り返り、目敏く俺たちを見つけたようだ。どうだ? とばかりに浮かんでいた笑みが恥じらいに変わる。
「あ、こっち見てる! アレは意識してるね~。ショーちゃん、手を振ってあげたら?」
 そう言いつつシャマーさんが先に手を振る。するとジノリさんは顔を赤面から不機嫌へと慌ただしく表情を変えた。
「『なんじゃアイツ! 嫌なヤツかと思ったら夢の中ではあんなに情熱的だったのに……今はまた別の女とベタベタしおって! まったく訳が分からんわ!』てところかな~」
 とシャマーさんがジノリさんの内心をかってにアテレコする。
「よく分かりますね、シャマー。……まさか! 彼女の心をかき乱す為にショーキチ殿に抱きついて!?」
「良く気付いたね、ナリン君。君に得点を差し上げよう~」
 驚き感心するナリンさんに教授口調で答えるシャマーさん。いや、ナリンさん騙されてます! ジノリさん向けの演技なら、彼女から見えない角度にある俺の太股をシャマーさんがなでなでする必要はないから!
「あ、ドワーフ代表カウンターのチャンスです! やった!」 
 ダリオさんが歓声を上げた。見ると、俺たちがボケている間になんと、ミノタウロス代表の方がドワーフに得点を献上してしまっていた……。

「ショウキチ殿、ミノタウロス代表はどうしてしまったのでしょう?」
 興奮して問いかけるダリオさんに、
「いや、集中して観てませんでした」
とは言えなかった。しかし俺たちにはながら観戦族の味方、リプレイがいる! 会場の水晶球スクリーンはドワーフ代表の得点シーンを鮮やかに再現してくれた。
 ミノタウロス代表のサイドからの放り込みをドワーフ代表がクリア。それを逆サイドのWBが拾って前線へ低いフィード。収めつつ反転したFWが相棒のFWとワンツーで抜け出してGKと一対一でシュート、ゴール。流れるような展開だった。
 最後の崩しも見事だったが、起点となったのは奇しくもクリアボールを拾ったWB。俺の助言を聞いてか偶然か分からないが、攻撃されたのと逆サイドの選手がやや上がり目で拾った事が幸いした。
 本来なら手放しで喜びたい状況だ。だが俺は少し暗鬱な気分になってしまった。
 確かにミノタウロス代表はおかしい。選手たちはナーバスな感じだし、ザック監督――疲労や戦況に併せて早めに選手を交代し、ピッチサイドにおいては激しく吠え俺と乱闘寸前になるほどの熱血漢――がピクリとも動かないのだ。
 ザック監督はベンチの隅に座ったまま、腕を組んでいる。選手たちはプレーが切れる度にそのベンチの方を見ているが……
「違うな。もう次の監督へのアピールの為に試合をしている。それじゃ、駄目だ」
 選手たちが見ているのはベンチの別の存在だ。見覚えがない新しいミノタウロスさん。あの日ザック監督は三位決定戦の結果次第で、と言っていたが実際はもう少し早く動いてしまっているのだろう。
「目の前の相手ではなく、上官の方を見て戦っている兵士に残念ながら勝ち目はありませんね」
 ダリオさんも状況を飲み込み冷静に呟いた。そのあたりの理解の早さはやはり王族、と言った所か。
「ナリンさんシャマーさん、ミノタウロス代表はあまり参考にならないかもしれません。ドワーフ代表を中心に観てて下さい。俺はダリオさんとちょっと用事を済ませてきます」
「分かりました」
「えっ、狡い~!」
「シャマー、貴女は貴女にしかできない事をたくさんしたでしょう? 私も私にしかできない事をするだけです。ステファニー、来なさい」
「ひゃい!」
 ダリオさんが威厳をみせてシャマーさんを黙らせ、さっきからやけに静かなステフを呼んだ。俺が寝ている間に何があったんだ?
「ごゆっくりぴよ」
 羽根を振るスワッグに見送られ、俺たちはスタジアム設備の中の方へ入っていった。
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