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第三章
キャッチ・ザ・キャット
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「僕が……エルフ代表のスタッフに?」
「貴女のような優秀なGKコーチが是非欲しいと思っていまして」
ところがことニャイアーさんにとっての利点となると、実のところあまり見当たらない。というか見当たらなかった。リーグで常に優勝を争うフェリダエチームから残留争いをするエルフチームへの移籍は正直、都落ち感がある。
強いて言えばGKの露出が違う。ナリンさんと茂みの中で少し話していた通り、フェリダエチームは攻撃で圧倒して勝つチームだ。守備の時間、GKの出番というのはとても少ない。一方エルフチームであれば恐らく被シュート数は段違いだし、PAから飛び出して処理するシーンもたくさんできる予定だ。また地球でも勝ち続ける上位チームよりシュートを雨霰と浴びる下位チームのGKの方が代表に選ばれ易かったり、そもそも上位チームが豪華絢爛な選手を揃えている割にGKは……みたいな現象もあったりする。まあGKからのビルドアップを重視するようになった近年では事情も違うが
「ええ。このチームにいたままでは、貴女と貴女の育てた選手が高く評価されることは殆どないでしょう。玄人は観てますが。でもエルフ代表に来たら違う。GKの仕事はもっと忙しくなるし目立ちます」
そんな訳で俺がフェリダエチームからGKコーチを引き抜く交渉の際に武器になるのは――ああ、正直に言う。俺たちは練習の視察だけでなく、コーチのヘッドハンティングにも来ている――GKの露出が増え選手コーチも今よりずっと高く評価されるようになる、という一点だけだった。あ、あと金もあるか。ユニフォーム売却資金。アレの残りを使って、札束でぶん殴るような手もなくはない。
「もしエルフ代表チームが残留や上位進出を果たしたら、間違いなくその功績は貴女達のものと称される」
「僕らの功績……」
ニャイアーさんは恐らく美意識の高いタイプだ。いやまあ猫なんて全体的にプライドの固まりだろうけど。
プラス、彼女はナリンさんの事を気に入っている。執着していると言ってもいいかもしれない。だから今さっき新たに手に入れた武器を使うのは今だと思った。
「それに……スタッフになればナリンさんと一緒に働けますよ?」
「行きます。いつから行けば良いですか? 今からですか?」
即決だった。
フェリダエ代表コーチをすぐ辞めて俺たちに同行する、と主張するニャイアーさんを宥め、
「せめてリーグカップの決勝が終わってから」
と説得する間に俺たちは耳目を集めつつあった。外周を走ってきたGKたちも帰ってくるし、詳細は追って連絡するということでその場を去る。
「まさかニャイアーがウチに来ることになるなんて……これもショーキチ殿の人徳ですね」
いやどう考えてもナリンさん目当てやん。このエルフ天然で言ってんのかな?
「いいえ、きっとナリンさんがいるからでしょう。てかお二方って知り合いだったのですね?」
と聞いてみた所、両者は共にクラマ殿に師事した仲だという。兄弟、もとい姉妹弟子か。そもそも出会った時からニャイアーさんはナリンさんにグイグイとアプローチし、GKコーチとしての技術も頼んでもいないのに教えてきたらしい。
長身、短髪、可愛いというより凛々しい同姓にもてるタイプ、ナリンさんへの態度……。俺は我慢してきた一言をナリンさんに気付かれないように呟いた。
「お前……猫なのにタチかよ!」
「はい?」
「いえ、何でもありません。宿に帰ったら王城に連絡して、新しい契約書を用意して貰わないと」
また面倒くさい仕事が待っている。気苦労は絶えない。だが普通にしていてはエルフ代表が1部に生き残る術はない。俺たちは覚悟を決めて宿へと戻るのであった。
「貴女のような優秀なGKコーチが是非欲しいと思っていまして」
ところがことニャイアーさんにとっての利点となると、実のところあまり見当たらない。というか見当たらなかった。リーグで常に優勝を争うフェリダエチームから残留争いをするエルフチームへの移籍は正直、都落ち感がある。
強いて言えばGKの露出が違う。ナリンさんと茂みの中で少し話していた通り、フェリダエチームは攻撃で圧倒して勝つチームだ。守備の時間、GKの出番というのはとても少ない。一方エルフチームであれば恐らく被シュート数は段違いだし、PAから飛び出して処理するシーンもたくさんできる予定だ。また地球でも勝ち続ける上位チームよりシュートを雨霰と浴びる下位チームのGKの方が代表に選ばれ易かったり、そもそも上位チームが豪華絢爛な選手を揃えている割にGKは……みたいな現象もあったりする。まあGKからのビルドアップを重視するようになった近年では事情も違うが
「ええ。このチームにいたままでは、貴女と貴女の育てた選手が高く評価されることは殆どないでしょう。玄人は観てますが。でもエルフ代表に来たら違う。GKの仕事はもっと忙しくなるし目立ちます」
そんな訳で俺がフェリダエチームからGKコーチを引き抜く交渉の際に武器になるのは――ああ、正直に言う。俺たちは練習の視察だけでなく、コーチのヘッドハンティングにも来ている――GKの露出が増え選手コーチも今よりずっと高く評価されるようになる、という一点だけだった。あ、あと金もあるか。ユニフォーム売却資金。アレの残りを使って、札束でぶん殴るような手もなくはない。
「もしエルフ代表チームが残留や上位進出を果たしたら、間違いなくその功績は貴女達のものと称される」
「僕らの功績……」
ニャイアーさんは恐らく美意識の高いタイプだ。いやまあ猫なんて全体的にプライドの固まりだろうけど。
プラス、彼女はナリンさんの事を気に入っている。執着していると言ってもいいかもしれない。だから今さっき新たに手に入れた武器を使うのは今だと思った。
「それに……スタッフになればナリンさんと一緒に働けますよ?」
「行きます。いつから行けば良いですか? 今からですか?」
即決だった。
フェリダエ代表コーチをすぐ辞めて俺たちに同行する、と主張するニャイアーさんを宥め、
「せめてリーグカップの決勝が終わってから」
と説得する間に俺たちは耳目を集めつつあった。外周を走ってきたGKたちも帰ってくるし、詳細は追って連絡するということでその場を去る。
「まさかニャイアーがウチに来ることになるなんて……これもショーキチ殿の人徳ですね」
いやどう考えてもナリンさん目当てやん。このエルフ天然で言ってんのかな?
「いいえ、きっとナリンさんがいるからでしょう。てかお二方って知り合いだったのですね?」
と聞いてみた所、両者は共にクラマ殿に師事した仲だという。兄弟、もとい姉妹弟子か。そもそも出会った時からニャイアーさんはナリンさんにグイグイとアプローチし、GKコーチとしての技術も頼んでもいないのに教えてきたらしい。
長身、短髪、可愛いというより凛々しい同姓にもてるタイプ、ナリンさんへの態度……。俺は我慢してきた一言をナリンさんに気付かれないように呟いた。
「お前……猫なのにタチかよ!」
「はい?」
「いえ、何でもありません。宿に帰ったら王城に連絡して、新しい契約書を用意して貰わないと」
また面倒くさい仕事が待っている。気苦労は絶えない。だが普通にしていてはエルフ代表が1部に生き残る術はない。俺たちは覚悟を決めて宿へと戻るのであった。
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