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第三章

肉弾戦

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 ミノタウロス代表の戦術は俺たちと戦った時と同じく、跳ね返し蹴り込み殺到しまた戻り……という荒々しいものキック&ラッシュだった。それは、フィジカルに劣るエルフ代表には極めて有効に機能した。
 だが今日の相手は違う。スピードにおいては彼女たちが上回るが、それ以外の身体能力ではほぼトロールの後塵を拝していた。
 その為、ミノタウロスは競り合いで弾き飛ばされ、ルーズボールの奪い合いで破れ、エルフ代表を散々苦しめた重量級FW陣が子供のようにあしらわれていた。
 しかもウォーミングアップ時に見た通りボールコントロールでは負けている。序盤そのスピードと突進力で少々トロールを慌てさせた後は、簡単に攻撃を防がれ守ってはボールを回されるようになっていた。
 それでもミノタウロスチームは良く走って守備に穴を開けないようにしていた。いたが、むしろ「走らされている」という表現の方が正確な様だった。
 トロールが先制するのは時間の問題だ……そう思うような状況になんとか耐え、ミノタウロスチームは無失点で前半を乗り越えた。

 後半に入ってザック監督が動く。MFを一人削って、ハーフミノタウロスのラビン選手(余談だが今回は監督選手名や特徴もばっちり揃えて観戦している。だてに「視察」と銘打ってないのだ)を投乳、もとい投入。またDFも二人代えた。
 かなり大胆な交代だがナリンさん曰く、これが本来のザック監督だと。元々シーズン通して選手交代が早く、特に選手の疲労や隠していた負傷に気づいて先回り的に行う事が多いと。
 まあ基本的にフィジカル勝負を挑むチームだけに、その辺り(スタミナや負傷)の目利きや調整が大事だもんな。あとついでに言うとエルフ戦はかなり特殊なケースだったんだよな。最終節だし目の前で変な策(オフサイドトラップとか)をやられたりしたし。
 それはそれとして。そんなザック監督の賭けは、結果から言うと失敗だった。トロールに対してやや身体能力に劣るミノタウロス、その中でも最も体格の細いラビン選手が守備の穴となり、彼女がセットプレーでマークしていた相手がヘディングでゴールを決めそれが決勝点。
 ラビン選手は攻撃面ではエルフ戦と同じく良い部分もあったが、結果としては戦犯(本来は戦争犯罪者の筈だけど、スポーツの試合ではしばしば敗因となった選手の事を言うよね。誰が言い出したんだろう?)となってしまった。
「あうち! ナリンさん、ちょっとお願いします!」
 俺は試合終了を告げるホイッスルが鳴ると同時に、通路の階段を少し下ってベンチ脇まで走って身を乗り出した。

「ザック監督! お疲れさまです! 残念でしたというか……申し訳ない、と伝えてくれますか?」
 俺は引き上げてくるミノタウロスチームの監督に大きく手を振る。彼は目聡く俺に気づき、駆け足で近寄ってきた。
『おう、あの時の! ショウキチとか言ったな? 正式に監督就任おめでとう!』
「監督就任おめでとう、とおっしゃってるであります」
 ナリンさんも軽く会釈し、ザック監督へ俺の言葉を伝える。
『何が申し訳ないんだ?』
「何を謝っているのか? と」
「あの……俺が差し出がましい口をきいてラビン選手の起用を言ったのが原因だったら申し訳ないと……」
 そこまで言って再びナリンさんの通訳を待つ。なんか客席から見下ろしながら謝るのは辛い。高い所からすみません、てやつだ。
「ショーキチ殿の進言も参考にしたが、100%自分の判断と責任で行った采配だから気にしなくて良い。それより報酬はちゃんと貰っているのか? とのことです」
 なんと、俺の責任にしないばかりかこちらを気にかけてくれるとは。相変わらず、気持ちの良いオッサンだ。今度、飲みに行きたい。
 って酒かミルクのどっちが良いんだろう?
「そう言われると更に申し訳ない。あとありがとうございます。エルフサッカードウ協会から充分な報酬は受け取ってます、と」
 再びナリンさんを経由してのやりとり。やっぱ時間がかかるな。迷惑だからこれで終わりにしよう。
「あの、えっと、何と言えば良いか……」
「どうしたんですか、ナリンさん? そろそろ監督を行かせてあげた方が良いですよね?」
 ここにきてナリンさんが赤面しつつ言い淀む。ミノタウロス語はやっぱり難しいのかな?
「その、ですね」
「はい?」
「この美人さんは大したものだが、そこで妥協せず絞りとれよと……」
 ナリンさんは身を捩り何とか声を絞り出すが、最後はとてもか細い声になって聞こえないくらいだった。
「この美人さん?」
「ああああ! 違います、自分ではそんなつもりはないのでありますが、ザック監督殿の誤った主観でありまして!」
 なるほど。ザック監督から見たらナリンさんも「報酬」に見えたのか。致し方ない面もあるが、彼女の名誉は守らないと。
「ナリンさんは報酬ではなく大事なスタッフです、と言って下さい」
「あ、はい……」
 ザック監督はナリンさんの言葉をふむふむと聞いていたが、途中でスタッフさんに促されると「まあがんばれや」とばかりに腕を上げて通路の先へ消えた。
「伝わりましたかね?」
「ええ、たぶん」
 異文化交流って難しいなあ。とは言え将来的にはベンゲルVSモウリーニョみたいに監督として心理戦をしかける可能性もあるし、精進しないと。
「難しい通訳をありがとうございました。でもナリンさんは本当に実際に美人なんだから、別に遠慮せずズバッと言えば良いのに」
「ええええ!?」
 と言ったものの「アタシ美人よ」みたいなオーラを出すナリンさんも想像つかないもんな。俺は次の試合に備えて座席へ戻る事にした。
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