D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二章

巣立ち

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 ユイノさんリーシャさんティアさんのようにオフでも会える選手もいれば、遠くへ行ってしまう選手もいる。シャマーさんはアレで魔術ギルドの教師らしくアーロンの魔法学院へ帰って短期講座の授業を行うらしいし(人選!)、ルーナさんも地元で農場の手伝いをするそうだ。
 だが翌日の夕刻に別れの挨拶で来た女性は、ちょっと別のパターンだった。
「やっほーショーキチさん! 元気に監督ってるー?」
「どうも、カイヤさん。『監督ってる』て何ですか」
 カイヤさんだ。旅行用の丈夫な服やマントを羽織った彼女は、変わらず朗らかで綺麗だ。
「旦那さんの地元で出産されるんですよね。もう出発ですか?」
 俺は彼女をツリーハウスの下で出迎え、湖畔の桟橋に置いたベンチへ誘った。
「いやー私も最近、妊婦ってるからねー。ゆっくりしか動けないから早目に出発しないと」
 そう言う彼女だが、見た目にはまだ変化が無い。これがドラマならたった数日で明らかに体型が変わってお腹が膨らんで、彼女に片思いしていた男はその現実に打ちのめされたりするものなんだが。
「確かに。ゆっくり体を労りながら行って下さいね」
 二人で桟橋のベンチに腰掛け、シソッ湖を眺める。湖面に浮かぶ船が何艘か見える。彼女らはそのどれかに乗って旅立つ筈だ。
「まあね。そうだ、早目って言えば監督もう動いているんだってねー。リーシャとユイノがコンバートだって?」
 おう情報が早い。
「ええ。最前線と最後尾、どちらも大事なポジションです」
「GKはともかく、リーシャがCFでしょ~? 攻撃陣、私が抜けて申し訳ないなー。一緒に戦えなくてゴメンね?」
 いつも冗談めかして話すカイヤさんだが、今回は真剣な態度で言ってきた。
「いえいえ。旦那さんとの愛の結晶を産んで育てる、それよりも大変な戦いなんてありませんって」
「あはは、おおげさなー」
 俺の目に、仲良く泳ぐ夫婦らしい水鳥たちが映る。そう言えばサッカーチームのマスコットって鳥が多いよな? と思いながら続ける。
「大袈裟じゃないですよ。地球にこんな言葉があります。『愛とは戦いである。弓や剣ではなく誠実さを武器にした、この世でもっとも過酷な戦いである』って」
「ほほう……。それもあっちの監督の言葉?」
「んーまあ監督と言えば監督ですね」
 宗教の人の言葉だったが、信者の監督と言えばそうか。
「そっか。ところで話が変わるけどさ、ショーキチさんの名前ってどういう意味なの?」
 また唐突な話だな。
「将吉て名前は……漢字という表意文字で分割すると、将軍とか大将などの意味の『ショウ』と、幸運とか幸いを意味する『キチ』に分類されますね」
「へー! 将軍ってサッカードウで言えば監督でしょ? じゃあ合わせたら『幸いをもたらす監督』て意味じゃん! すごいな、ショーキチさんが監督になるのは運命だったんだよ!」
 いやいやまさか。
「うん、きっとそうだ。ショーキチさん、絶対に良い監督になるよ」
「そうですかねえ」
 俺の運命の人ではなかった女性が、俺の運命を嬉しそうに語っている。
「でも何で聞いたんですか?」
「あ、お腹の子に名前を貰いたくって」
「え! やっやめてください! 恥ずかしい!」
「やだよ~。絶対に使う。男の子でも女の子でも。あ、女の子だったら一緒にプレーしたいな! その時は代表選手に選んでよね!」
 性的な雰囲気とえこひいきは厳禁……。
「いえ、冷静に戦力になるかどうかで決めます」
「ぶう、いじわる!」
 冷静に考えれば、エルフであるカイヤさんの娘さんが大人になる頃には俺は寿命が尽きてる老衰で死んでいるだろうが。
「でもショーキチさんのそういう厳格なところ、私は好きだな~」
 あっ愛とは誠実さを武器にした戦いである……。
「それはどうも。あ、あの船じゃないですか?」
 窮地に陥った俺を救うかのように船が桟橋に近づいてきた。
「ほんとだ! じゃあしばしのお別れだね。ん!」
 カイヤさんは両手を広げて俺の方へ体を差し出す。
「お元気で。ご家族みなさんの健康を祈ってます」
「ありがとう。ショーキチさんも元気でね」
 力を込め過ぎないように気をつけて彼女を抱き締め、接岸した船に乗り移るのを手伝う。
「応援してるよー!」
 船縁で手を振る彼女に手を振り返す。感謝の気持ちを込めて。
「幸いをもたらす監督か……そんなの始めて言われたな」
 両親はどんなつもりで俺の名前を付けたのだろう? もうとっくの昔に聞けなくなっているが。
「墓参り……もっと行けば良かったなあ」
 俺は離れ行く船を眺めながら、始めてあちらの世界へ帰れないことを少し惜しくなった。
「せめてクラマさんの墓参りでもするか」
 クラマさんはこちらで亡くなり、その墓は大事に守られているという。彼は俺の両親ではない。単なるちょっと変態入ったガ○パンおじさんだ。だが彼の存在がこちらへ迷い込んだ俺を救い、導いている。両親への感謝も含めて、墓前にお伺いするのも良いだろう。
「よし。視察の旅の目的地にクラマさんの墓も加えよう」
 新たな命を産み出す為の旅に出た女性の船を遠く眺めながら、俺は死んだ人々の事を胸に思い浮かべていた。
 明日から視察旅行の開始だ。

第二章:完
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