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第二章
首脳会議その1
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「お疲れさまです。その様子ではリーシャの了解も取れたのですね」
部屋に入った俺に椅子を進めると、ダリオさんは開口一番に確認してきた。
「はい、おかげさまで」
リーシャさんFW転向の案はダリオさんにも伝えてあった。その際に
「前もって策を準備しておいた方が良い」
と助言してくれたのも彼女だ。さすがキャプテンにして王族。権謀術策はお手のもの。
「それで本日のミーティングのお題は?」
「はい。練習道具の購入、視察旅行の準備、来季のダリオさんについて、です」
「まあ! 私について? どんな内容でしょう……それは最後に回しても良いでしょうか?」
ダリオさんは胸に手を当て少し心配そうな顔をする。ちなみに今日の衣装はダークブルーのタイトスカートと真っ白いシャツの上にタンカースジャケット――戦車に乗る人が防寒用に着る服だ――というスタイル。今日はそう寒くないので前は閉じないでいるのでワイルド&セクシーだ。クラマさんの趣味で広まったそうだが、仕事モードになれると喜んで着る種族も多いらしい。
「ええ。今言った順番で行きましょうか」
「良かった……お願いします」
そう言ってダリオさんが頭を下げた際に胸の谷間がチラツく。シャツのボタンは第二ボタンまで開けるのが正当、との教えらしい。クラマさんの趣味って言ったら悪いがおっさんだよな……。
「ではまず練習の道具類です。注文しておいたユイノさんサイズのGKグローブやユニフォーム、6色の鉢巻、軽い子供用ボール、漁に使う三角の駕籠と案山子、これらは揃いましたでしょうか?」
「ええ。装備とボールは軍の配給部に用意してあります。今の間に船まで運ばせておきましょう」
いやしかしこんな格好のエルフと装備とかについて話していると、軍隊映画みたいだな。知らんけど。
「駕籠は言われた数を用意している筈なので帰りに港へ寄って下さい。案山子の方は都ではなく森の方で使用されるので、そちらの農家の方が直接練習場へ届ける予定です」
「それもそうか! ありがとうございます」
「グローブやボールは分かりますが……駕籠や案山子は何に?」
「ああ、それはですね」
こちらの世界にはパイロン――もっと一般的な言葉で言うと三角コーン――が無い。じゃあ地面に置く目印には何を使うのか? というと石や壷を使ってきたそうだ。それでは危険があるので俺は当たっても怪我しないような駕籠を大量に使うことにした。……まあちょっとだけ釣り用にも貰うけど。あと案山子は所謂ダミーだ。FK練習時の壁だったり、パターン攻撃時の相手DFだったり。
俺はそれらを使う意図と練習について説明をした。て、今さらだな。買う前に聞かないとは……それだけ信頼されているということか。
「鉢巻はチーム分けの為ですか?」
「ええ」
これは地球に併せてビブス……という風にはしなかった。ビブス或いはそれに準じたものだと周辺視野だけで判別してしまう。なるべくヘッドアップとアイコンタクト――頭を上げて周囲を見る、仲間と目を合わせる――を促す為に敢えて色付きの鉢巻を使用することにする。
「なんか結構、買わせてしまって……すみません」
「いえ、このようなモノは軽い備品なので軍の装備購入のついでで済みます。ですが例の設備建設となると……」
ダリオさんの声が曇った。例の設備、とは俺が希望を出していたクラブハウスの事だろう。いやクラブじゃなくて代表チームだけど。
過去の試合をチェックできる映像資料庫、映像が流せて選手全員も入れるミーティングルーム、それのコーチ陣だけのバージョン、データ分析室、マッサージや治療が受けられるメディカルルーム、必要な栄養補給ができる食堂、専用のホペイロがいる用具室……などなど。
それらを全て一体化した建物を今の練習場のすぐ横に建設したい。それが俺の希望だった。
「難しいですか?」
「ええ。なにせ、前例の無い事な上に費用が嵩みますので……あ、今は備品購入の件でしたのにね。すみません」
「いえ、良いんですよ。必要な話なので」
サッカードウエルフ代表チームは人気チームな上に王家というかなりしっかりしたスポンサーもついている。だから予算は潤沢にある……と思ったが実はそうでもなかった。
まず成績が悪い。残留争いだもんな。リーグから支払われる成績に基づく獲得賞金は最低レベルだ。
次にスポンサーが王家、というのは良いが他のスポンサーがいない。
「あのユニフォームに王家とエルフサッカードウ協会以外の文字が入るなんて!」
という意識が参入を妨げているらしい。
だがそれよりも良くないのは、「収益を上げる努力をしていない」と言う部分だ。
違うスポーツだがNBAのニューヨークニックスのように「チーム成績は最低だが資産価値は全スポーツでも屈指のレベル」みたいなチームもある。要はやりようなのだ。
聞いてみればスタジアムの席の種類は単一だし代表チームのグッズ販売なども最小限……収益を上げる努力をしてないというか知らないといった方が良いだろう。
ビジネスについてはど素人の俺でもVIP席を作ってもっとチケット代を稼ぐとか応援グッズを販売するとか思いつく。それで予算が増えればチーム強化にも使えるし人気ももっと増える筈だ。
しかし……とも思う。仮に収益化のアイデアが俺にあり、実行でき、実際に儲かるとしても。それはおそらく何ヶ月も後の事だ。今ではない。
チームに金が欲しいのは今だ。シーズン開幕前……もっと言えば選手が再集結してチームが始動する頃には施設ができていて欲しい。
「一つか二つに絞って頂ければなんとか……。私がふがいないばかりにすみません」
ダリオさんは悩ましげにため息を吐いた。その息に合わせて二房が大きく躍動する。例えばこの姿をピンナップにして売れば相当、儲かる筈だ。サッカードウファンだけじゃなく姫の個人ファンもこぞって買うだろう。 いや売り物にしないよ? 例えば、だよ?
「いえこちらこそすみません。優先する設備はもうちょっと検討してからお伝えします。では次の件ですが」
俺はこれ以上、悩ましげなダリオさんの姿を見ていられないので話を変えた。
部屋に入った俺に椅子を進めると、ダリオさんは開口一番に確認してきた。
「はい、おかげさまで」
リーシャさんFW転向の案はダリオさんにも伝えてあった。その際に
「前もって策を準備しておいた方が良い」
と助言してくれたのも彼女だ。さすがキャプテンにして王族。権謀術策はお手のもの。
「それで本日のミーティングのお題は?」
「はい。練習道具の購入、視察旅行の準備、来季のダリオさんについて、です」
「まあ! 私について? どんな内容でしょう……それは最後に回しても良いでしょうか?」
ダリオさんは胸に手を当て少し心配そうな顔をする。ちなみに今日の衣装はダークブルーのタイトスカートと真っ白いシャツの上にタンカースジャケット――戦車に乗る人が防寒用に着る服だ――というスタイル。今日はそう寒くないので前は閉じないでいるのでワイルド&セクシーだ。クラマさんの趣味で広まったそうだが、仕事モードになれると喜んで着る種族も多いらしい。
「ええ。今言った順番で行きましょうか」
「良かった……お願いします」
そう言ってダリオさんが頭を下げた際に胸の谷間がチラツく。シャツのボタンは第二ボタンまで開けるのが正当、との教えらしい。クラマさんの趣味って言ったら悪いがおっさんだよな……。
「ではまず練習の道具類です。注文しておいたユイノさんサイズのGKグローブやユニフォーム、6色の鉢巻、軽い子供用ボール、漁に使う三角の駕籠と案山子、これらは揃いましたでしょうか?」
「ええ。装備とボールは軍の配給部に用意してあります。今の間に船まで運ばせておきましょう」
いやしかしこんな格好のエルフと装備とかについて話していると、軍隊映画みたいだな。知らんけど。
「駕籠は言われた数を用意している筈なので帰りに港へ寄って下さい。案山子の方は都ではなく森の方で使用されるので、そちらの農家の方が直接練習場へ届ける予定です」
「それもそうか! ありがとうございます」
「グローブやボールは分かりますが……駕籠や案山子は何に?」
「ああ、それはですね」
こちらの世界にはパイロン――もっと一般的な言葉で言うと三角コーン――が無い。じゃあ地面に置く目印には何を使うのか? というと石や壷を使ってきたそうだ。それでは危険があるので俺は当たっても怪我しないような駕籠を大量に使うことにした。……まあちょっとだけ釣り用にも貰うけど。あと案山子は所謂ダミーだ。FK練習時の壁だったり、パターン攻撃時の相手DFだったり。
俺はそれらを使う意図と練習について説明をした。て、今さらだな。買う前に聞かないとは……それだけ信頼されているということか。
「鉢巻はチーム分けの為ですか?」
「ええ」
これは地球に併せてビブス……という風にはしなかった。ビブス或いはそれに準じたものだと周辺視野だけで判別してしまう。なるべくヘッドアップとアイコンタクト――頭を上げて周囲を見る、仲間と目を合わせる――を促す為に敢えて色付きの鉢巻を使用することにする。
「なんか結構、買わせてしまって……すみません」
「いえ、このようなモノは軽い備品なので軍の装備購入のついでで済みます。ですが例の設備建設となると……」
ダリオさんの声が曇った。例の設備、とは俺が希望を出していたクラブハウスの事だろう。いやクラブじゃなくて代表チームだけど。
過去の試合をチェックできる映像資料庫、映像が流せて選手全員も入れるミーティングルーム、それのコーチ陣だけのバージョン、データ分析室、マッサージや治療が受けられるメディカルルーム、必要な栄養補給ができる食堂、専用のホペイロがいる用具室……などなど。
それらを全て一体化した建物を今の練習場のすぐ横に建設したい。それが俺の希望だった。
「難しいですか?」
「ええ。なにせ、前例の無い事な上に費用が嵩みますので……あ、今は備品購入の件でしたのにね。すみません」
「いえ、良いんですよ。必要な話なので」
サッカードウエルフ代表チームは人気チームな上に王家というかなりしっかりしたスポンサーもついている。だから予算は潤沢にある……と思ったが実はそうでもなかった。
まず成績が悪い。残留争いだもんな。リーグから支払われる成績に基づく獲得賞金は最低レベルだ。
次にスポンサーが王家、というのは良いが他のスポンサーがいない。
「あのユニフォームに王家とエルフサッカードウ協会以外の文字が入るなんて!」
という意識が参入を妨げているらしい。
だがそれよりも良くないのは、「収益を上げる努力をしていない」と言う部分だ。
違うスポーツだがNBAのニューヨークニックスのように「チーム成績は最低だが資産価値は全スポーツでも屈指のレベル」みたいなチームもある。要はやりようなのだ。
聞いてみればスタジアムの席の種類は単一だし代表チームのグッズ販売なども最小限……収益を上げる努力をしてないというか知らないといった方が良いだろう。
ビジネスについてはど素人の俺でもVIP席を作ってもっとチケット代を稼ぐとか応援グッズを販売するとか思いつく。それで予算が増えればチーム強化にも使えるし人気ももっと増える筈だ。
しかし……とも思う。仮に収益化のアイデアが俺にあり、実行でき、実際に儲かるとしても。それはおそらく何ヶ月も後の事だ。今ではない。
チームに金が欲しいのは今だ。シーズン開幕前……もっと言えば選手が再集結してチームが始動する頃には施設ができていて欲しい。
「一つか二つに絞って頂ければなんとか……。私がふがいないばかりにすみません」
ダリオさんは悩ましげにため息を吐いた。その息に合わせて二房が大きく躍動する。例えばこの姿をピンナップにして売れば相当、儲かる筈だ。サッカードウファンだけじゃなく姫の個人ファンもこぞって買うだろう。 いや売り物にしないよ? 例えば、だよ?
「いえこちらこそすみません。優先する設備はもうちょっと検討してからお伝えします。では次の件ですが」
俺はこれ以上、悩ましげなダリオさんの姿を見ていられないので話を変えた。
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