26 / 651
第二章
首脳会議その1
しおりを挟む
「お疲れさまです。その様子ではリーシャの了解も取れたのですね」
部屋に入った俺に椅子を進めると、ダリオさんは開口一番に確認してきた。
「はい、おかげさまで」
リーシャさんFW転向の案はダリオさんにも伝えてあった。その際に
「前もって策を準備しておいた方が良い」
と助言してくれたのも彼女だ。さすがキャプテンにして王族。権謀術策はお手のもの。
「それで本日のミーティングのお題は?」
「はい。練習道具の購入、視察旅行の準備、来季のダリオさんについて、です」
「まあ! 私について? どんな内容でしょう……それは最後に回しても良いでしょうか?」
ダリオさんは胸に手を当て少し心配そうな顔をする。ちなみに今日の衣装はダークブルーのタイトスカートと真っ白いシャツの上にタンカースジャケット――戦車に乗る人が防寒用に着る服だ――というスタイル。今日はそう寒くないので前は閉じないでいるのでワイルド&セクシーだ。クラマさんの趣味で広まったそうだが、仕事モードになれると喜んで着る種族も多いらしい。
「ええ。今言った順番で行きましょうか」
「良かった……お願いします」
そう言ってダリオさんが頭を下げた際に胸の谷間がチラツく。シャツのボタンは第二ボタンまで開けるのが正当、との教えらしい。クラマさんの趣味って言ったら悪いがおっさんだよな……。
「ではまず練習の道具類です。注文しておいたユイノさんサイズのGKグローブやユニフォーム、6色の鉢巻、軽い子供用ボール、漁に使う三角の駕籠と案山子、これらは揃いましたでしょうか?」
「ええ。装備とボールは軍の配給部に用意してあります。今の間に船まで運ばせておきましょう」
いやしかしこんな格好のエルフと装備とかについて話していると、軍隊映画みたいだな。知らんけど。
「駕籠は言われた数を用意している筈なので帰りに港へ寄って下さい。案山子の方は都ではなく森の方で使用されるので、そちらの農家の方が直接練習場へ届ける予定です」
「それもそうか! ありがとうございます」
「グローブやボールは分かりますが……駕籠や案山子は何に?」
「ああ、それはですね」
こちらの世界にはパイロン――もっと一般的な言葉で言うと三角コーン――が無い。じゃあ地面に置く目印には何を使うのか? というと石や壷を使ってきたそうだ。それでは危険があるので俺は当たっても怪我しないような駕籠を大量に使うことにした。……まあちょっとだけ釣り用にも貰うけど。あと案山子は所謂ダミーだ。FK練習時の壁だったり、パターン攻撃時の相手DFだったり。
俺はそれらを使う意図と練習について説明をした。て、今さらだな。買う前に聞かないとは……それだけ信頼されているということか。
「鉢巻はチーム分けの為ですか?」
「ええ」
これは地球に併せてビブス……という風にはしなかった。ビブス或いはそれに準じたものだと周辺視野だけで判別してしまう。なるべくヘッドアップとアイコンタクト――頭を上げて周囲を見る、仲間と目を合わせる――を促す為に敢えて色付きの鉢巻を使用することにする。
「なんか結構、買わせてしまって……すみません」
「いえ、このようなモノは軽い備品なので軍の装備購入のついでで済みます。ですが例の設備建設となると……」
ダリオさんの声が曇った。例の設備、とは俺が希望を出していたクラブハウスの事だろう。いやクラブじゃなくて代表チームだけど。
過去の試合をチェックできる映像資料庫、映像が流せて選手全員も入れるミーティングルーム、それのコーチ陣だけのバージョン、データ分析室、マッサージや治療が受けられるメディカルルーム、必要な栄養補給ができる食堂、専用のホペイロがいる用具室……などなど。
それらを全て一体化した建物を今の練習場のすぐ横に建設したい。それが俺の希望だった。
「難しいですか?」
「ええ。なにせ、前例の無い事な上に費用が嵩みますので……あ、今は備品購入の件でしたのにね。すみません」
「いえ、良いんですよ。必要な話なので」
サッカードウエルフ代表チームは人気チームな上に王家というかなりしっかりしたスポンサーもついている。だから予算は潤沢にある……と思ったが実はそうでもなかった。
まず成績が悪い。残留争いだもんな。リーグから支払われる成績に基づく獲得賞金は最低レベルだ。
次にスポンサーが王家、というのは良いが他のスポンサーがいない。
「あのユニフォームに王家とエルフサッカードウ協会以外の文字が入るなんて!」
という意識が参入を妨げているらしい。
だがそれよりも良くないのは、「収益を上げる努力をしていない」と言う部分だ。
違うスポーツだがNBAのニューヨークニックスのように「チーム成績は最低だが資産価値は全スポーツでも屈指のレベル」みたいなチームもある。要はやりようなのだ。
聞いてみればスタジアムの席の種類は単一だし代表チームのグッズ販売なども最小限……収益を上げる努力をしてないというか知らないといった方が良いだろう。
ビジネスについてはど素人の俺でもVIP席を作ってもっとチケット代を稼ぐとか応援グッズを販売するとか思いつく。それで予算が増えればチーム強化にも使えるし人気ももっと増える筈だ。
しかし……とも思う。仮に収益化のアイデアが俺にあり、実行でき、実際に儲かるとしても。それはおそらく何ヶ月も後の事だ。今ではない。
チームに金が欲しいのは今だ。シーズン開幕前……もっと言えば選手が再集結してチームが始動する頃には施設ができていて欲しい。
「一つか二つに絞って頂ければなんとか……。私がふがいないばかりにすみません」
ダリオさんは悩ましげにため息を吐いた。その息に合わせて二房が大きく躍動する。例えばこの姿をピンナップにして売れば相当、儲かる筈だ。サッカードウファンだけじゃなく姫の個人ファンもこぞって買うだろう。 いや売り物にしないよ? 例えば、だよ?
「いえこちらこそすみません。優先する設備はもうちょっと検討してからお伝えします。では次の件ですが」
俺はこれ以上、悩ましげなダリオさんの姿を見ていられないので話を変えた。
部屋に入った俺に椅子を進めると、ダリオさんは開口一番に確認してきた。
「はい、おかげさまで」
リーシャさんFW転向の案はダリオさんにも伝えてあった。その際に
「前もって策を準備しておいた方が良い」
と助言してくれたのも彼女だ。さすがキャプテンにして王族。権謀術策はお手のもの。
「それで本日のミーティングのお題は?」
「はい。練習道具の購入、視察旅行の準備、来季のダリオさんについて、です」
「まあ! 私について? どんな内容でしょう……それは最後に回しても良いでしょうか?」
ダリオさんは胸に手を当て少し心配そうな顔をする。ちなみに今日の衣装はダークブルーのタイトスカートと真っ白いシャツの上にタンカースジャケット――戦車に乗る人が防寒用に着る服だ――というスタイル。今日はそう寒くないので前は閉じないでいるのでワイルド&セクシーだ。クラマさんの趣味で広まったそうだが、仕事モードになれると喜んで着る種族も多いらしい。
「ええ。今言った順番で行きましょうか」
「良かった……お願いします」
そう言ってダリオさんが頭を下げた際に胸の谷間がチラツく。シャツのボタンは第二ボタンまで開けるのが正当、との教えらしい。クラマさんの趣味って言ったら悪いがおっさんだよな……。
「ではまず練習の道具類です。注文しておいたユイノさんサイズのGKグローブやユニフォーム、6色の鉢巻、軽い子供用ボール、漁に使う三角の駕籠と案山子、これらは揃いましたでしょうか?」
「ええ。装備とボールは軍の配給部に用意してあります。今の間に船まで運ばせておきましょう」
いやしかしこんな格好のエルフと装備とかについて話していると、軍隊映画みたいだな。知らんけど。
「駕籠は言われた数を用意している筈なので帰りに港へ寄って下さい。案山子の方は都ではなく森の方で使用されるので、そちらの農家の方が直接練習場へ届ける予定です」
「それもそうか! ありがとうございます」
「グローブやボールは分かりますが……駕籠や案山子は何に?」
「ああ、それはですね」
こちらの世界にはパイロン――もっと一般的な言葉で言うと三角コーン――が無い。じゃあ地面に置く目印には何を使うのか? というと石や壷を使ってきたそうだ。それでは危険があるので俺は当たっても怪我しないような駕籠を大量に使うことにした。……まあちょっとだけ釣り用にも貰うけど。あと案山子は所謂ダミーだ。FK練習時の壁だったり、パターン攻撃時の相手DFだったり。
俺はそれらを使う意図と練習について説明をした。て、今さらだな。買う前に聞かないとは……それだけ信頼されているということか。
「鉢巻はチーム分けの為ですか?」
「ええ」
これは地球に併せてビブス……という風にはしなかった。ビブス或いはそれに準じたものだと周辺視野だけで判別してしまう。なるべくヘッドアップとアイコンタクト――頭を上げて周囲を見る、仲間と目を合わせる――を促す為に敢えて色付きの鉢巻を使用することにする。
「なんか結構、買わせてしまって……すみません」
「いえ、このようなモノは軽い備品なので軍の装備購入のついでで済みます。ですが例の設備建設となると……」
ダリオさんの声が曇った。例の設備、とは俺が希望を出していたクラブハウスの事だろう。いやクラブじゃなくて代表チームだけど。
過去の試合をチェックできる映像資料庫、映像が流せて選手全員も入れるミーティングルーム、それのコーチ陣だけのバージョン、データ分析室、マッサージや治療が受けられるメディカルルーム、必要な栄養補給ができる食堂、専用のホペイロがいる用具室……などなど。
それらを全て一体化した建物を今の練習場のすぐ横に建設したい。それが俺の希望だった。
「難しいですか?」
「ええ。なにせ、前例の無い事な上に費用が嵩みますので……あ、今は備品購入の件でしたのにね。すみません」
「いえ、良いんですよ。必要な話なので」
サッカードウエルフ代表チームは人気チームな上に王家というかなりしっかりしたスポンサーもついている。だから予算は潤沢にある……と思ったが実はそうでもなかった。
まず成績が悪い。残留争いだもんな。リーグから支払われる成績に基づく獲得賞金は最低レベルだ。
次にスポンサーが王家、というのは良いが他のスポンサーがいない。
「あのユニフォームに王家とエルフサッカードウ協会以外の文字が入るなんて!」
という意識が参入を妨げているらしい。
だがそれよりも良くないのは、「収益を上げる努力をしていない」と言う部分だ。
違うスポーツだがNBAのニューヨークニックスのように「チーム成績は最低だが資産価値は全スポーツでも屈指のレベル」みたいなチームもある。要はやりようなのだ。
聞いてみればスタジアムの席の種類は単一だし代表チームのグッズ販売なども最小限……収益を上げる努力をしてないというか知らないといった方が良いだろう。
ビジネスについてはど素人の俺でもVIP席を作ってもっとチケット代を稼ぐとか応援グッズを販売するとか思いつく。それで予算が増えればチーム強化にも使えるし人気ももっと増える筈だ。
しかし……とも思う。仮に収益化のアイデアが俺にあり、実行でき、実際に儲かるとしても。それはおそらく何ヶ月も後の事だ。今ではない。
チームに金が欲しいのは今だ。シーズン開幕前……もっと言えば選手が再集結してチームが始動する頃には施設ができていて欲しい。
「一つか二つに絞って頂ければなんとか……。私がふがいないばかりにすみません」
ダリオさんは悩ましげにため息を吐いた。その息に合わせて二房が大きく躍動する。例えばこの姿をピンナップにして売れば相当、儲かる筈だ。サッカードウファンだけじゃなく姫の個人ファンもこぞって買うだろう。 いや売り物にしないよ? 例えば、だよ?
「いえこちらこそすみません。優先する設備はもうちょっと検討してからお伝えします。では次の件ですが」
俺はこれ以上、悩ましげなダリオさんの姿を見ていられないので話を変えた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる