D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二章

ランチミーティング

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 という訳で引っ越し作業と平行して監督業も始まった。日用品も王家のツケで購入し揃える。なお衣服はもうこの世界の一般的なもの、こちらの布で作ったチュニックやズボンに着替えて慣れることにした。もっとごわごわしているかと思ったが流石にエルフ製。肌触りも滑らかだった。
 それらを身に付け鏡の前に立った自分を見ると、完全にファンタジーゲームの町民NPCモブだ。流石にいつもスーツじゃいられないしね。ちなみにあのスーツは洗濯に出しエルフサッカードウ協会の紋章を刺繍して貰ってからケースに仕舞ってある。また勝負の時に着るだろう。
 監督として揃えたのは様々な筆記用具や映像記録媒体。中継があるくらいだからそういた器具もあるだろうと予想していたが、想像以上だった。簡単に書き消しできるペンにボード、双眼鏡サイズのビデオカメラ的道具と再生できる手鏡。タブレットPCに何かを書いたり、動画を観たりするような感覚で使うことができそうだった。
 ただしそれらとなると高度かつ高価なマジックアイテムだ。契約上、協会持ちなので俺の懐が痛むものではないが、担当者のひきつった顔を見るとまあまあ散財したらしい。この上、練習場に新たな装備も導入したいのだが大丈夫だろうか……。
 最悪、俺の給料をもっと下げて貰うか? しかし現状は約束通り「衣食住を確保してくれるだけで良い」レベルにしている。これ以下にできるものなのだろうか?

「カントクー! ゴハンダヨー!」
 船長室と言う名の私室にて監督業と金勘定に悩む午後。下から脳天気な声が聞こえた。
「ありがとう! 上がってきて下さい!」
 翻訳ネックレスをつけて階下に叫び、ポットを持って食堂へ向かう。お茶を4人分用意していると、弓矢と皮鎧を装備したユイノさんとリーシャさんが入ってきた。
「あ、お茶だ~ありがとうございます」
「こちらこそ、毎日ありがとう。座って」
 衣食住の衣住は一度揃えてしまえばしばらく持つ。だが食事は毎日の事だ。ここ数日、昼食は毎回ユイノさんとリーシャさんが持ってきてくれていた。
「良いんですよ、私もみんなで食べるの楽しいし。リーシャも、ね?」
「別に……」
 試合中の悲壮な顔とは全く違った表情で溌剌としているユイノさんと、変わらずキツイ顔のリーシャさん。これに今日は遅れているナリンさんを加えた四人での昼食会が定番になってきた。リーシャさんもこれで、付き合い良いんだな、と思う。
 
 リーグ戦を終えカップ戦も早々に敗退していたエルフ代表チームは、次のシーズンまで三ヶ月のオフ期間に入っていた。基本的に彼女らは人並み、一般エルフ並以上の報酬を貰っているが、大半の選手はその期間に地元へ帰って何かの仕事に従事していた。
 ユイノさんとリーシャさんの仕事は王家の「森林警護官ウッドレンジャー」である。そう、俺やナリンさんの家がある森の。王家の森だけに危険な魔獣や密猟者は殆どいないものの、ゼロではない。弓矢や皮鎧はその為の装備だった。 
 様々な天候地形時間帯で森を歩き回り、緊張感を持ってパトロールする。地球ではオフになるとオーバーウエイトぽっちゃりになってしまう選手もいるが、彼女たちにその心配は無さそうだった。いや命の方の心配がちょっとあるけれど。
「あ、もう着いてたのね、ユイノ。今日のお昼はなに?」
「ナリンさん! 今日はね~ウェントス鳥のピラフだよ~。お茶もどうぞ~」
 遅れて現れたナリンさんにユイノさんが笑顔で駕籠を渡す。ここ数日でかなりユイノさんの事が分かってきた。試合中は怪我してる姿とリーシャさんを慰めてる所しか見なかったからなあ。
「ユイノ、それは私がやるから早く食べなさい」
 リーシャさんがユイノさんの手からポットを奪って言う。事実、ユイノさんは食べるのが遅い。その上、食後のお茶もじっくり楽しむから、イライラしたリーシャさんが先にパトロールへ出発してしまう事もあった位だ。
「はーい、ありがとう」
「まあまあ。今日は監督としての話もあるからゆっくり食べながら聞いてよ」
 俺はここ数日、彼女らとは殆ど世間話しかしていなかった。それはそれでこちらの世界や彼女たちのパーソナリティーを知る為に必要だったが。
「提案だから強制力はないし、断ったからといって君たちをチームから外す事はないから安心して欲しい」
 だが時はきた、だろう。俺はナリンさんに目で合図してから話し始めた。

「まだ他チームの分析や相対的な力関係を計ってないので断言はできないけど、来シーズンもチームはミノタウロス戦と同じように高いラインを保ちフィールドをコンパクトにし、速攻を狙う……てのがベースになると思う。その際にネックになるのがここ……」
 俺の意を組んだナリンさんが食堂の端に伏せてあったボードを取り出し見せる。
「ここ。DFラインの裏側なんだ。トラップを避けてここを上手く狙われると、一気にピンチになる。ハーフミノタウロスの選手がパス出した時の……これとかね」
 俺の合図でナリンさんは魔法の手鏡を二人に見せる。例のミノタウロスの独走シーンの動画が流れた。
「これは運良くルーナさんが間に合ったけど、普通こんな幸運はそうそうない。だけどもしGKがこのタイミングで飛び出したら……」
 今度は動画を少し巻き戻し、パスが出た瞬間で止めた。その画面に枝で作った人型……GKのつもりだ、を重ねて動かす。
「前向きに、安全に処理できる。ペナルティエリアの外だから手は使えないけどね。なので来シーズンは外に飛び出せて、足や頭でボールを処理できるGKが欲しいんだ。ここまではOK?」
 俺が尋ねるとユイノさんはモグモグと口いっぱいにピラフを頬張りながら頷いた。一方、リーシャさんは眉間に皺を寄せて問う。
「それは分かったけど……私たちに言ってどうするの? GKの知り合いなんていないけど」
「そこでね。ユイノさんに、GKに転向して欲しいんだ」
「はあ!?」
 リーシャさんは大声を出して立ち上がる。
「ユイノがGKに!?」
「試合を映像で何本も観て適性は確認した。一つ、サイズと跳躍力が合って、飛び出す勇気も持ってる。あのミノタウロスたちと競り合うくらいにね。二つ、FWだったから足元の技術も申し分ないしペナルティエリア外での処理も心配ない。三つ、動じない性格をしてるから、最後尾を任せても安心だ」
 まあ特訓は必要だろうが。ただ映像で他のチームのGKも観たが、技術的にはそこまで高く無さそうだ。みんなフィジカルごり押し、という感じ。
「でもでも、ユイノはずっとFWだったのよ!? 今からGKなんて……ユイノも何か言いなさいよ!」
 問いかけるリーシャさんに
『まあまあ、これを飲み込んでから~』
とばかりにユイノさんは膨らんだ頬を指さした。
「じゃあその間にもう一つ言っておこう。ユイノさんがGKへ移った場合、FWの枠が一つ空く。そこへは、リーシャさんに入って欲しい」
「え!? あたしが……!?」
「ああ。来季のFWに要求される要素は三つ。一つ、短い距離での早さ。奪ってすぐ速攻したいからね。二つ、狭い場所でボールを奪われないテクニック。ラインを上げてコンパクトにすると、こっちも使えるエリアが狭くなるからね。三つ、強気なメンタル。守備から攻撃へ、激しさが必要だから」
「あたしに激しさなんてないわ!」
 リーシャさんは即行で反論する。あるやんけ。そこやんけ。コントかよ。
「残念ながら昨シーズンまでのFWには獰猛さって無かったからねえ」
「なに言っているのよ! 自分の事なのよ!」
 食事を飲み込んで笑顔で呟くユイノさんに、リーシャさんが激しく詰め寄った。
「やるよ」
「えっ? 何を?」
「監督、私、GKやりまーす」
 ユイノさんはスプーンを振りながら俺に頷いた。
「ありがとう。来季までに仕上げるには練習キツイけど、俺たちで精一杯アシストするから。後はリーシャさんだけど……」
 全員の視線がリーシャさんに注がれる。追い詰められた彼女は……
「うっ……ユイノの馬鹿!」
 そう叫ぶと、食堂から飛び出してしまった。
「あ、リーシャ!」
「大丈夫、任せて下さい」
 追いかけようと立ち上がったナリンさんを制し、ユイノさんは窓から直接、飛び出して行った。
「おう、大胆。俺の見立てに間違いはなかった」
「あ、追いついたみたいです。聞き耳、してみます」
「実況、お願いします」
 窓からそっとのぞき込むと、船の下というか家の下でリーシャさんとユイノさんが何か話し込んでいる。が、残念ながら俺には彼女らの会話は聞き取れない。
 俺は人間離れした聴力を持つエルフであるナリンさんを聴音装置に会話を盗み聞きすることにした。
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