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第一章

突き刺さったPS4のコントローラー

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 俺は異世界の闘技場で身の丈2mはありそうなミノタウロスと対峙していた。

「バカ野郎! どこに目を付けてんだこの牛頭が!」

 どうせ言葉は通じないだろうが、観衆の声に負けないくらいの大音量でその牛頭人身の化け物に吠える。

 それを聞いた一頭と、短い棒を尻尾に絡みつけたリザードマンが一頭、計二頭が俺の方へ突進してくる。

「早まったか……」

 後悔がよぎったが引く訳にはいかない。俺のすぐ横には足を押さえてうずくまるエルフの少女がいる。俺は敢えて胸を反らし、両手を後ろに組んで仁王立ちになった。

 ミノタウロスはもう眼前だ。なんだかんだ言って止まるんじゃなかったのか?

 こういう時におなじみの走馬燈の上映が始まった。と言ってもそれはたかだが1時間ほど前のことだったが……。


「負けられない戦い」

 某TV局が使い始めて今やすっかり陳腐化した言葉がある。だが今日の戦いはまさに「それ」だった。

 別の名前で言うと「社員寮ウイ○レ大会決勝」。一週間かけて行われた社員寮居住の男性愛好者すべて――この場合は「愛好」は男ではなく「ウ○イレ」にかかる。男子寮だけにこの言葉の扱いは慎重にならなければならない――が参加した大きなトーナメントだ。

 俺は順調に勝ち上がり、他の山から上り詰めた他部署の先輩(パワハラ気味)と決勝で戦っていた。俺、マンチェスター・シティ(ギャラガー兄弟よ、俺に力を)vs先輩バルセロナという取組だ。観客は大入り袋が配られるレベルで、大食堂の椅子はほぼ埋まっていた。

 この試合には名誉の他に「一週間、寮の夕食メニューを決められる権利」と「パワハラ先輩が無様に負ける姿を見たい」という後輩くん達の願い、みたいなモノもかかっている。

 そこが「負けられない戦い」の所以である。俺はその勝負にあたって聖なる青き衣――日本代表の何台か前のモデルのユニフォーム背番号なしバージョン――をまといて大食堂の金色の野、もとい床に降り立っていた。対するパワハラ先輩はバルセロナで背番号はメッシ。

 そしてイニエスタ、という訳にはいかなかったか先輩のプレイスタイルは戦力と前線の迫力に任せたごり押しの攻め。早々に手詰まりになった後は、俺のシティがカウンターからこぼれ球をスモーリング(それじゃ土俵だ)もといスターリングが拾って1点決め(ごちゃんです)、その後も水色と白のチームがボールを保持し相手に全くチャンスを与えてなかった。

 こうなるともう横綱相撲である。

「ほっほっほ。3-0で勝つとか言ってませんでしたかなー? 2倍2倍~」 

 自分でもまったく筋の通ってない煽り方だが、先輩の顔が赤くなっているので効いてることは分かる。まあパワハラする位だから攻めに強い割に守りに弱い精神だろうと踏んでの事だが。

「うわー強いわー。ショーキチ先輩すげえすわー」

 と、感嘆の声を上げたのは恐らく先輩の部署の後輩くんである。恐らく、というのは流石によそ見する危険を犯したくなくて画面を注視していたからだ。

 たぶんさっきの言葉は日頃の意趣返しであろう。効果なかなかアリでバルセロナの守備がどんどん雑になる。もう一押しするか。

「お魚くわえたサザエさん~おっおかけーてー♪」

 鼻歌を歌いながらパスを回して敵陣奥深くへ侵入する。これはボールを必死で追っている相手DFを揶揄した正当な煽りである。すかさず後輩くんからの突っ込みが入る。

「ショーキチ先輩! 逆ですよ逆! サザエさんがくわえるのはマスオさんのマスオだけですって!」

 食堂が観衆の笑いで満たされた。おまえ絶好調だな?

「そうだっけ? それじゃあタラちゃんに妹はできないなー」

 振り向いて頭を掻く。と同時に画面ではGKをかわしたアグエロが無人のゴールに緩いシュートを撃ち込んでいた。

 画面を見ずにゴールを奪う。所謂、舐めプである。相手を舐めたプレイという意味だ。くわえるとか舐めるとかここはやらしい社員寮ですね? なんとかエロもいるし。(アグエロごめん)

「ふっざけんな! 詐欺だろこれ!」

 ついに我慢の市原臨海球技場、じゃなかった臨界を超えたパワハラ先輩がPS4のコントローラーを大食堂のモニターに投げつけた! それ、は大きな音を立てて画面に突き刺さる!

 ってまあ、よくあることですよねー。コ○ミエフェクトに切れた時とか。

「やっべ、これどうすんだよー」

 誰かが呟いた。いやそりゃ先輩が弁償するんでしょうが。

「あー幸いリモコンは無事かもしんない」

 俺はそう言いながらモニターに近づき、刺さっていたコントローラーを画面から引き抜き……そしてその「穴」に吸い込まれた。
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