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悪が舞い降りた日

6話目 怪物

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『こちらです』

 受付の人がリリムを連れてアップデートが出来る部屋の前で止まる。

『それではお部屋に入りアップデートを行って下さい』

 リリムは部屋へと入った。

 部屋の中央に置いてある端末に近づき素魔法スマホをかざした。

 テロリンッ♪

 どうやらアップデートが完了したようだ。毎回短時間で終わるこのアップデートをするのにこの端末を通すとのに部屋に行くのが面倒くさい。

 リリムは足早に部屋を出ていった。

 ロビーに戻ると膝をつき祈ってるビアンカが目に入った。ビアンカの周りには人が集まっていた。

『あっ。おかえりなさい。どうだった?』

 リリムに気づいたビアンカが祈りを止め駆け寄る。

『フッ。フツーだよ』

 リリムは駆け寄って来たビアンカを鼻で笑う。

『なっ?!なんであなたに鼻で笑わなければならないのよ!』

『あ?いや、お前は大変だな毎回毎回』

 鼻をほじりながら答えるリリム。

能力アプリの為だけにやってるんだろ?』

 能力アプリ。その人の特殊能力。素魔法スマホ内部にインストールされている能力。固有能力。その能力を使って戦闘したり生活したりしている。素魔法スマホを所有しているだけで固有能力とは別に火、水、風、電気を個人差はあるがある程度自在に操れるようになる。ちなみにアンインストールは出来ない。

『ち、ちち違うわよっ!好きでやってるの!』

 それを聞いたビアンカは一瞬たじろぎながらも怒った。

『まぁまぁ落ち着けって。騙されてこないだ証明写真機をプリクラと間違えて変な顔で撮っていたのを誰にも言わないから』

 リリムは口を手で抑え横目でビアンカを見て笑う。

『この人っ…!そもそも言う必要性がないじゃない!』

 ビアンカのツインテールが鬼の角のようになる。

 そこに受付の人が駆け寄る。

『リリム様、ビアンカ様。歩教をお願いしますとのこと。いかがでしょうか?』

 歩教ふきょう。ラヴァン教を世界に広める為の活動。任務。

『チッ。しゃーねぇーな』

 リリムは口を尖らせ唾を吐いた。

『あなたねぇ!…で?どんな内容なの?打武烈人タブレット関連なのかしら?』

『いいえ。怪物サムシングです。多数の死者が出ている状態です。場所は…』

 受付の人はスマホで場所を調べる。

『廃棄山でございます。場所はこちらです』

 ビアンカとリリムの素魔法スマホに場所が送られてきた。

『そう、わかったわ。歩教はやっておかないとね。ほらリリムも行くわよ!』

 ビアンカは気合いを入れる。

『えぇ~…。ダルいっすよぅ。面倒くせぇし』

 リリムはその場で大の字になる。

『ちょっと?!……ハァ。わかったわ。』

『後でカルイピス買ってあげるから。感謝しなさいよね』

 それを聞いたリリムは飛び起きる。

『わーってるじぁねぇか。うっし、行こうか』

 リリムはスキップしながら支部を出て行く。ビアンカはその後を付いていった。

怪物サムシングかぁ。アイツらキモいからな』

『え?あなた戦った事あるの?数年前から出現している化け物でしょ?』

『一回だけあるよ。でも一目散に逃げたけどな。奴らの見た目にお前は腰抜かしてチビると思うぜ』

『んなっ?!チビらないもんっ!…でその怪物サムシングは強かったのかしら?』

『んー?強いっちゃ強ぇけど……気持ち悪ぃというか何というか……悲しいみたいな?』

 リリムは素魔法スマホの出会い系サイトのDMに返信を送りながら答える。

『リリムちゃんご飯に行かない?』

『最近どう?元気?』

 送られてくるメッセージに鼻でリリムは笑う。

 返信を待ってる間、HERSTUBEのゲーム実況動画を見ている。
 
 その姿にビアンカはため息をついた。


 廃棄山。使われなくなった素魔法スマホ打武烈人タブレットが捨てられている山。ここで素魔法スマホ打武烈人タブレットを探して金儲けしている人もいれば素魔法スマホを持ってない人が探しに来る場所でもある。
 ちなみに素魔法スマホを持ってない人は穴老愚アナログと言われている。

 目的地に着いた二人。

『山の中って意外と暑いわね。さて、どこにいるのかしら?』

 ビアンカは辺りを探す。リリムは素魔法スマホを操作しながらビアンカの後を付いていく。

 しばらく山奥を抜けると草原に出てきた。奥から声が聞こえてきた。

『…いいコねぇえ。よしよし。わたしがメンドウをミてあげるからね…うぅっ。うっうっ』

 ビアンカとリリムは立ち止まる。

 正面から何かが近づいてくる。ペタペタとねっとりとした足音と泣いているのかすすり泣きがする。

 暗闇から異形の女が現れた。

 巨大な体、押してきたカートには生きているのか死んでいるのか分からない沢山の人が詰まっている。巨大なのに細長い手足、お腹は膨れ上がり裂けていて中には人が詰まっている。髪の毛はベットリとしていて床まで垂れている。女の頭上には肩車状態で縛られている人がいた。

『ねぇえええ!。ワタシはぁいつまでメンドウをミなければいけないのぉおお?』

 異形の女の髪の毛の間から白目が見え涙を流しながらビアンカ達に訴える。

 ビアンカはその姿に絶句した。リリムは睨み付けながらも余裕の表情で聞いている。

『あ、貴方が怪物サムシングね!?その人達を離しなさい!』

 ビアンカの問いに

『うぅ。アナタァ…コドモなのねぇ?ほらあ、こっちにぃおいでぇえ……。メンドウミテあげるぅからあ』

 異形の女はビアンカ達に手を招く。女の肩に肩車状態で縛られていた男性が怯えながらも口を開く。

『お願いだ!!た、助けてくれ!助けてくれー!』

 男性は必死にビアンカ達に助けを求める。

『……フラグだな』

 リリムは小声で呟く。

『分かったわ!今助けるから!』

 ビアンカは剣を抜こうとした。その時

『あらぁ?ダメじぁない。イイコにしなとぉ』

 異形の女は頭上でバタバタと暴れる男性を掴むと

『カートはぁマンパイだからぁああここでイイコにしててねぇえ』

『い、嫌だ!!うぁあああああーっ!!た、助け…助けて』

 無理矢理自分の膨れ上がったお腹に男性を詰め込む。グチョ、グチョ、ビチッ。男性を圧迫する度に血が飛び散っている。ボキュ。ゴリッ。ゴッ。時折骨が折れる音がする。

『イイコだからねぇええ。イイコ。イイコよぉ』

 異形の女は無我夢中で男性を自分のお腹に両手で力任せにグリグリと入れ込む。血が螺旋状に飛び散る。

 その姿にビアンカは体が硬直し震え出し漏らす。

『あぁ…』

 異形の女は既にパンパンに詰まっているお腹に男性をなかなか入られないのか

『ハイってよぉおおおおおぉおお!おネガいぃいいいいいいいい!!』

 自分のお腹を見て叫び始める。男性はすでに絶命していた。それでもグリグリと力任せに入れ込む。

『おい、ビアンカ行くぞ』

 リリムはビアンカの肩を叩く。

 リリムの言葉で我を取り戻したビアンカは

『ええ。ありがと。少しは落ち着いたわ』

 立ち上がり剣を抜き剣先を異形の女へ向けた。剣の持ち手には素魔法スマホが装着している。

 リリムは左手に素魔法スマホを手首に装着した。
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