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悪が舞い降りた日

5話目 エル・ビアンカ

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『リリム、起きろ。時間だ』

 ベットから転がり落ちて床に寝ていたリリムは起きる。

 一緒に転がり落ちていた素魔法スマホに目をやり時間を確認する。朝の4時半ちょい。寝ぼけながら確認したリリムはまた目を閉じ眠りに入った。


『リリム、時間だよ。リリム、時間だよ』

 朝の7時。アニメ風の男性のボイス音のアラームが素魔法スマホから囁く。リリムは素魔法スマホを手に取り囁き続けるアラームを止めた。

 上半身を起こす。リリムは両手を上に挙げ大きな欠伸あくびをした。

 下着だけで寝ていたリリムは睡魔と戦いながら服を着ていく。途中、床に置いてある素魔法スマホを踏みそうになりバランスを崩し尻餅をついた。

『ってぇ~…。痛いっ!痛ぇ!!』

 打ち所が悪かったのか上半身を左右に振り両足をバタつかせ悶絶する。

 痛みが収まると黒色のパーカーとスカートに着替えながら一階のリビングへと降りて行く。リリムの素魔法スマホ宛に送られてくるたくさんのメールを確認し返信して欠伸あくびを混ぜながら家事を適度にこなしていた。

 家事が終わりリュックを持ち右手、右足がないブタの人形を入れ玄関に向かい外出の準備をする。玄関に設置されている鏡でロングヘアーの黒色を手で軽く整える。

 扉を開ける。外に出ると風もあまりなく、昨日よりは寒くはなかった。そう感じるとリリムは右手はポケット左手は素魔法スマホを操作しながら歩いて行く。

 今日はアップデートの日。その為ラヴァン教ウキヨ支部に出向く。

 道中に公園がある。リリムが立ち止まる。公園内では全身白い服装を着た一人の男性に長い行列が出来ていた。男性の顔は白塗りで、帽子を被り口元を布で隠している。男性は優しい口調で

『はい、皆さんおはようございます!戦脳を始めます。一人づつ行いますのでよろしくお願いいたしまね~』

 男性は目元が笑っていた。行列の先頭に立っていた女児が男性に近づく。

 女児『き、昨日テストがあるのを知っていながらお勉強やらなかったです。満点とれなかったらママに叱られる…。満点とりたいのでよろしくお願いいたします。』

 男性『あらそうでしたか~それは大変ですね…。0.1%で戦脳しますけどよろしいでしょうか?』

『は、はい!ありがとうございます。お願いします!』

 そう言うと女児はバックから教師にピンク色の素魔法スマホを取り出し男性に渡す。

 渡された素魔法スマホの画面に男性は手のひらをかざす。すると手のひらから薄い光が発光した。

『無事完了しました。調子はいかがですか?』

 男性が女児に問いかける。すると

『…………』

 女児は無言だった。顔は虚ろな表情で素魔法スマホを男性から返して貰うとそのまま公園を後にした。

 戦脳。それは催眠術の類いでかかっている間は人が持つ全ての能力を爆発的に上昇させる。ただし使用するには素魔法スマホのバッテリーを消費して信徒にかけてもらう必要がある。

 バッテリー。この世界ではその人の生命力。100%が0%になると死ぬ。1年毎に1%減少する。ケガはするが病気は一切ならない。つまり女児はテストの為に命を削ったという訳だ。

『満点とりますように!』

 男性は女児が公園から出ていくのを笑顔で見送り

『はい!続いてのかたどうぞ!』




『……はぁ~。くだらねぇ。生きてりゃ何とかなるだろうに』

 リリムは独り呟き唾を道端に吐いた。

 ラヴァン教。自称ノアの贈り物、素魔法スマホ……コイツらが造り出し台頭して頭角を現し世界を統一したから世界は真の平和を取り戻した。…っと皆いうけど私は違うと思う。

 目的地に着いた。

 ラヴァン教ウキヨ支部。改めて見てみるとデカイ。200m位ある白い建物を中心に扇状に建物が並んでいる。その建物もデカイ。周辺一帯に誇示してるような雰囲気を出していた。

 建物に似つかわしくない重厚な自動ドアを通る。すると

『うん♪遅い。ってバカッ!リリム遅いわよ!!』

 そう言うと少女は人差し指をリリムに向ける。

 彼女はビアンカ。性格はプライドが高く真面目なのに面白い奴だ。

『あら?やだ!よく見ると人差し指の爪に垢が溜まってたわ!!』

 人差し指を引っ込めるビアンカ。顔を真っ赤にしながら素魔法スマホを取り出し操作し始めた。

『えっ?爪の垢は角質なの?!バイ菌?におい?』

『えっ?えっ、え?私って汚いの?どうしましょ!?』

 どうやら爪の垢について調べてるみたいだ。ビアンカは叩くように素魔法スマホを操作していく。

『なぁ~にやってるんだ、お前』

 リリムはスカートをめくり上げへそ辺りをボリボリと掻きながらビアンカに近づく。

『何って?そんなの汚いに決まってるからでしょ!ってあなた…』

 近づいたリリムを見たビアンカは目を丸くして

『だらしない!!パンツ見えてるじゃないの!』

 顔を大きくしてリリムに注意した。

『別にいいじぁねぇか。減るもんじゃないし。Tバックでもねぇし。フツーのパンツだろ』

 リリムはため息交じりに言う。

『どっちも見せちゃダメでしょ!』

 ビアンカは被せるように言った。

『それにお前も見せてるじぁねぇか。ん?』

 一瞬止まるビアンカ。

『こ、これはね。みみみ水着だから!いいの!』

『ふーん。水着なぁ…。』

 と目を細めマジマジとオロオロしているビアンカを見る。

 頭はツインテールで左右の髪は長さが違う。頭の中央を境目として右側は黒色で長く、左側は白色で短い。

 短めの肩と腕が隠れる白色のマントを左側だけに羽織っていて、まるで保護色のような肌色のスク水に軽装の胸当て鎧を着ていて膨らんだ短いスカート、灰色のニーハイ、白のブーツを履いている。意図的なのかスカートを着ていてもスク水が見えている。

『…で、あなた今日はアップデートするんでしょ?受付先に済ましたから感謝しなさいよ』

 ビアンカが言う。

『あ?あぁ。やっと階級が3になる』

 その場に座って素魔法スマホをいじりながら答えるリリム。

『検定料はどうしたの?高かったでしょ?』

『あぁ150万円以上したな。確か』

『ラヴァン教に入れば良いのに。今のあなた契約社員みたいな感じでしょ?』

 他愛もない会話が続く。

『っていうかそのお金はどうしたの?』

『ママが払ってくれた』

『立派なお母様じゃない。心配してるんだから感謝しなさいよ』

『感謝ねぇ……』

 二人が会話をしていると

『リリム様?!リリム様どうぞ~』

 二人に受付の人が駆け寄る。

『アップデートの準備が完了しました。こちらへどうぞ』

『うぃ』

 適当な返事をしてリリムは立ち上がった。

『いってらっしゃい。私待ってるから。頑張ってね。祈ってあげる。感謝しなさいよ。』

『アップデートするだけなんだけどな。おう』

 リリムは見送るビアンカを背に向けてアップデートへと向かった。

 ビアンカは見送ると人目をはばからずにその場で膝をついてお祈りした。
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