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第2章・第5話「生命の息吹」
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河原で火を焚いているイオン。傍には実体化したミズリが居た。
「カウム様が居ないから火をつけるのも大変でしたね。」
乾いた木を集め、ミズリが見付けた二つの石をぶつけあって熾した火だった。
「ミズリ様が物知りで助かります。」
《そんな事より…少しは寝ろ》
イオンはこの二日間、全く寝ていない。
「大丈夫ですよ、ミズリ様。私は頑丈です。」
力こぶを見せるイオン。
《ふぅ…イオン、私はお前の事は何でも分かる》
「は、はぁ…ですよね。」
観念したのか、イオンはばったりと横になった。
《おい!だからってそんな所に寝るな!》
石の上にそのまま倒れる様に眠るイオンに焦るミズリ。
《全く…そこまで張り詰めるな》
ミズリは鼻先に水を集め、イオンの下に滑り込ませる。
不思議な事にイオンの身体は全く濡れずに、水の上に乗っている状態になった。
《世話の焼ける奴だ》
そう言ってイオンを見た後、イオンの後方に居るロックの方を見るミズリ。
《厳しいな…》
ロックは未だ苦しんでいた。
《ネネコ》
ネネコはもうミズリの言葉にも反応しなくなっていた。
《…》
ミズリは思っていた。
精獣である自分に出来る事が少なすぎる。自分は精獣と奉られ、巫女に慕われ、村の人間から敬ってもらっていた。
そんな自分が、こんな時に何も出来ない…これほど悔しい事があるだろうか…と。
《いや…違う。悔しいと思う…それも間違っているのだ》
精獣は神ではない。
『ミズリ様が物知りで助かります』
イオンの言葉を思い出す。
《それも自分の記憶ではない。それは…》
神獣の教え。そうだ、精獣は皆、神獣に作られた。この世界の獣と精霊を合成させたモノ…それが精獣。
《紛い物だ》
ミズリは、自分の力でイオンを助けたい…そう思っていた。
《私がこんな風に考えるなんてな…》
その時、ミズリの眼前に光が現れた。
《?!》
全く気配を感じなかった。突然に現れた光。
《…何だ、これは?》
ミズリはその光から生命の息吹を感じた。
《この光…生きている?》
敵意は感じない。
《…》
その光はゆっくりとミズリの頭の中に入って来る。ミズリは抵抗しなかった。
言葉では無い。映像、感情…不思議なモノが次々に入って来る。
《…コーヌ様》
自分の意志で出た言葉じゃない。自然に出た言葉…聞いた事の無い名前…ミズリは奇妙な感覚になっていた。
そして、光の全てがミズリの中に入り、消えた。
《………》
ミズリはロックの傍に移動した。
《ネネコ、ロックを助ける。出るんだ》
ミズリがそう言ってから暫くし、ネネコがロックから出て来た。
《う…》
フラついて倒れるネネコ。ミズリは、ロックの身体に触れた。
《レイチ…目を覚ませ》
ミズリの眼前に光が現れ、その光がロックを照らす。失いそうな意識の中でネネコはそれを見ていた。
《…う》
目を覚ますネネコ。
目の前に居たのはロックだった。
《ロック!》
跳び起きるネネコに、手を伸ばすロック。
「慌てんなよ、ネネコさん。まだ横になっててくれ。」
ロックはすっかり元気になっていた。
《ど、どうして…》
「みんなが助けてくれた。」
ロックの後ろに、イオンとジュウビが笑顔で立っていた。
「まぁ結局ミズリ様が治してくれたんですけどね。」
苦笑いするイオン。
「いや…もちろんミズリさんには大感謝だ。けど俺は、お前ら全員に感謝してるぜ。」
イオンとミズリが毎日看病し、ジュウビとカウム、リョクヒ、リクウがチュウガン村まで行き、治す手掛かりを探してくれた…ロックは心底感謝していたのだ。
「それと…ネネコさんにも感謝してる。ありがとうな。」
《…私はアンタを守るってザンジーと約束したわ。それは契約だもの。当然の事ね》
ネネコの強がりを聞いて、みんな微笑んでいた。
《なに?》
《ふ…お前も面白い奴だな、ネネコ。だが…良い奴だ》
ミズリがそう言うと、ネネコはかなり小さい声で言った。
《…ありがと》
「え?!何だって?!え?!」
《あ、アンタって子は…》
何の悪気も無く思いっきり大きな声で聞き返すロックにムカムカしてくるネネコ。
《デリカシーってものを知りなさい!》
ネネコは耳裏の棘でロックの尻を刺した。
「いやぁぁぁおぉう!」
痛がって飛び上がるロックを見て大笑いするイオン。そんなイオンを見て微笑むジュウビ。そんなジュウビを見てニヤニヤするカウム達。
そして…
《プロテクトが解けている…》
「ミズリ様?」
《皆…聞いてくれ》
ミズリは、神獣の事をイオン達に話そうとしていた。
「カウム様が居ないから火をつけるのも大変でしたね。」
乾いた木を集め、ミズリが見付けた二つの石をぶつけあって熾した火だった。
「ミズリ様が物知りで助かります。」
《そんな事より…少しは寝ろ》
イオンはこの二日間、全く寝ていない。
「大丈夫ですよ、ミズリ様。私は頑丈です。」
力こぶを見せるイオン。
《ふぅ…イオン、私はお前の事は何でも分かる》
「は、はぁ…ですよね。」
観念したのか、イオンはばったりと横になった。
《おい!だからってそんな所に寝るな!》
石の上にそのまま倒れる様に眠るイオンに焦るミズリ。
《全く…そこまで張り詰めるな》
ミズリは鼻先に水を集め、イオンの下に滑り込ませる。
不思議な事にイオンの身体は全く濡れずに、水の上に乗っている状態になった。
《世話の焼ける奴だ》
そう言ってイオンを見た後、イオンの後方に居るロックの方を見るミズリ。
《厳しいな…》
ロックは未だ苦しんでいた。
《ネネコ》
ネネコはもうミズリの言葉にも反応しなくなっていた。
《…》
ミズリは思っていた。
精獣である自分に出来る事が少なすぎる。自分は精獣と奉られ、巫女に慕われ、村の人間から敬ってもらっていた。
そんな自分が、こんな時に何も出来ない…これほど悔しい事があるだろうか…と。
《いや…違う。悔しいと思う…それも間違っているのだ》
精獣は神ではない。
『ミズリ様が物知りで助かります』
イオンの言葉を思い出す。
《それも自分の記憶ではない。それは…》
神獣の教え。そうだ、精獣は皆、神獣に作られた。この世界の獣と精霊を合成させたモノ…それが精獣。
《紛い物だ》
ミズリは、自分の力でイオンを助けたい…そう思っていた。
《私がこんな風に考えるなんてな…》
その時、ミズリの眼前に光が現れた。
《?!》
全く気配を感じなかった。突然に現れた光。
《…何だ、これは?》
ミズリはその光から生命の息吹を感じた。
《この光…生きている?》
敵意は感じない。
《…》
その光はゆっくりとミズリの頭の中に入って来る。ミズリは抵抗しなかった。
言葉では無い。映像、感情…不思議なモノが次々に入って来る。
《…コーヌ様》
自分の意志で出た言葉じゃない。自然に出た言葉…聞いた事の無い名前…ミズリは奇妙な感覚になっていた。
そして、光の全てがミズリの中に入り、消えた。
《………》
ミズリはロックの傍に移動した。
《ネネコ、ロックを助ける。出るんだ》
ミズリがそう言ってから暫くし、ネネコがロックから出て来た。
《う…》
フラついて倒れるネネコ。ミズリは、ロックの身体に触れた。
《レイチ…目を覚ませ》
ミズリの眼前に光が現れ、その光がロックを照らす。失いそうな意識の中でネネコはそれを見ていた。
《…う》
目を覚ますネネコ。
目の前に居たのはロックだった。
《ロック!》
跳び起きるネネコに、手を伸ばすロック。
「慌てんなよ、ネネコさん。まだ横になっててくれ。」
ロックはすっかり元気になっていた。
《ど、どうして…》
「みんなが助けてくれた。」
ロックの後ろに、イオンとジュウビが笑顔で立っていた。
「まぁ結局ミズリ様が治してくれたんですけどね。」
苦笑いするイオン。
「いや…もちろんミズリさんには大感謝だ。けど俺は、お前ら全員に感謝してるぜ。」
イオンとミズリが毎日看病し、ジュウビとカウム、リョクヒ、リクウがチュウガン村まで行き、治す手掛かりを探してくれた…ロックは心底感謝していたのだ。
「それと…ネネコさんにも感謝してる。ありがとうな。」
《…私はアンタを守るってザンジーと約束したわ。それは契約だもの。当然の事ね》
ネネコの強がりを聞いて、みんな微笑んでいた。
《なに?》
《ふ…お前も面白い奴だな、ネネコ。だが…良い奴だ》
ミズリがそう言うと、ネネコはかなり小さい声で言った。
《…ありがと》
「え?!何だって?!え?!」
《あ、アンタって子は…》
何の悪気も無く思いっきり大きな声で聞き返すロックにムカムカしてくるネネコ。
《デリカシーってものを知りなさい!》
ネネコは耳裏の棘でロックの尻を刺した。
「いやぁぁぁおぉう!」
痛がって飛び上がるロックを見て大笑いするイオン。そんなイオンを見て微笑むジュウビ。そんなジュウビを見てニヤニヤするカウム達。
そして…
《プロテクトが解けている…》
「ミズリ様?」
《皆…聞いてくれ》
ミズリは、神獣の事をイオン達に話そうとしていた。
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