異世界をつなぐ契約者

楓和

文字の大きさ
上 下
15 / 22

第2章・第2話「捕獲」

しおりを挟む
大きな岩に囲まれた川沿いを歩いている一行。

 「じゃあお前は両親を知らないのか。」
 「うん。まぁでも、元から居ないから寂しいなんて全然思った事無いよ。」

あっけらかんと言うイオンに、ジュウビとロックは目を合わせる。

 「本当だよ?だって村にはサマおばさんも居たし。寂しさなんて感じたことな……ん?」

その時、イオンはミズリが何かに反応したのを感じた。

 「ミズリ様?」
 《上だ!》

全員がミズリの声に反応し、上空を見上げた。

 「あれは…」

かなりの上空…そこには大きな翼を羽ばたかせ、こちらを見下ろしているのか、金色の鳥がいた。
鋭く尖ったくちばし、長い首。頭部には太い角が二本生えている。
身体の下方には二本、槍の切っ先の様な物が生えていた。
それは足なのか何なのか分からないが、それで串刺しにでもされたら最後、抜く事も出来ずに命を落とす…咄嗟にそう感じる程の威圧感だった。
その金色の鳥…いや、精獣は『戦闘開始』と言わんばかりに大きく咆哮した。

 「レイチだな!」

ジュウビが戦闘態勢に入る。

 《こっちは精獣が大勢居るからな。引き寄せられたのかもしれん》

そう呟いたカウムに、ジュウビが吠える。

 「行くぞカウム!」
 《よかろう》

大きな岩ばかりのここなら、カウムの火炎で山火事が起きる心配はない。ジュウビはカウムと獣甲した。

その直後、レイチの羽から幾つかの光る何かがジュウビ目掛けて飛んでくる。

 「体毛だな。当たるかよ!」

全てかわすジュウビ。

 「うわったっ!」

ロックの足元の岩に、レイチの体毛が刺さる。

 「やべぇぞイオンちゃん!俺達も獣甲しといた方が無難だぜ!」
 「は、はい!」

ロックはネネコと、イオンはミズリと獣甲する。

 「カウム、飛ぶぞ!」
 《それが得策だな》

ジュウビの背に炎の翼が生える。それと同時にジュウビは手を軽く上げ、炎の円盤を作り出した。
軽く地を蹴り、飛び上がるジュウビ。
炎に覆われたチャクラム(円盤型の武器)を握り、レイチに斬りかかる。
レイチは素早くかわし、ジュウビの背後に回り込む。

 「くっ!」

背後を取られ、焦りをみせるジュウビ。だがその時、レイチの背に何かがヒットし、レイチは怯んだ。

 「ジュウビ!」

イオンの手には水で作られた槍があった。そう、レイチの背にヒットしたのは、水の槍から放たれた矢水閃だ。

 「よし!」

振り向き様、炎のチャクラムをレイチに向かって投げるジュウビ。
炎のチャクラムはレイチの首にヒット。
打撃もさることながら、チャクラムを包んでいた炎がレイチの身体に絡み付き、レイチは苦しみもがく。
そして咆哮しながら地上へ落下した。

 「よ、よし、あとは任せろ!」

ロックは口元にある棒の様なものをくわえ、息を吹き込む。
近くに居たイオンの脳天に響く低い音。それは空気が振動しているようだった。

 《頭部の防具で音を防ぐ…そう意識するんだ、イオン》
 「は、はい!」

ミズリに言われた通りに念じると耳元の防具が変形し、耳を包み込む。音が薄らいでいくのが分かった。
そしてレイチは、何度か立ち上がろうとしていたが結局動けず、遂には地面に伏した。

 「お前の力か。」

地上に降りてきたジュウビがロックに聞く。

 「ああ!俺の技で、重停音(じゅうていおん)ってんだ!一度息を吹き込んで発動すれば、そのまましばらく継続できる!凄ぇだろ!」
 《私達の技…ね》
 「う…」

ネネコに言い直されて口ごもるロック。

 「とにかく技が効いてる今のうちにどうにかしないと。」

イオンがそう言うと、ジュウビが前に出る。

 「俺がレイチと契約する。」

その場の全員が驚愕した。

 「ばっ!……かっ!」

次はイオンの大声に全員驚愕。

 「ば、ばっかだってよ。」

ジュウビを見て含み笑いするロック。

 「く…何が馬鹿だ!他にどうする気だったんだよ、お前は!」
 「それは…わ、私が契約する気だったのよ!」
 《ば、馬鹿はお前だ》

焦ったのはミズリ。

 《いくらお前でも、全く見知らぬレイチと契約すれば相当な負担が掛かる》

ミズリはイオンにそんな重荷を背負わせたくない…純粋にそう思った。

 「ミズリ様…」

そんなミズリの思いを感じ取り、シュンとするイオン。

 「おいおい、お前ら。俺の事忘れてねぇか?」

前に出るロック。

 「ジュウビ、お前さんは既に三精獣と契約してる。それ以上は無謀だと言われたんだろーが?もちろんイオンちゃんには危険すぎる。…レイチさんは俺が引き受けた。いや、俺にやらせてくれ。」

真剣な表情のロックに対し、ジュウビはゆっくりと下がった。

 「ジュウビに出来て俺に出来ねーはずがねぇ…」

そう言いながらも、ちょっと恐いロックの心境を感じ取りネネコは…

 《ふぅ》

溜息をついた。

 「ネネコさん?!」
 《だって…相変わらず情けないなーって》
 「う、くっ!…やる!やるったらやる!」

ロックは気持ちに勢いをつけ、レイチとの契約を交わした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...