異世界をつなぐ契約者

楓和

文字の大きさ
上 下
8 / 22

第1章・第8話「並大抵の事では驚きません」

しおりを挟む
 私は涙が止まりませんでした。
エデンという名の相棒…いえ、兄弟の様な存在を失ったジュウビ。駄目、悲しすぎる。

 「お、お前…泣き過ぎだろ。」

とか言いながら、あんただって半べそじゃないの。でも分かるよ、その気持ち。

 「な、泣いても良いんだよぉ…?」
 「よ、よせって。」

あれ?ジュウビ、引いてる?

 《イオン、鼻水垂れてるぞ》
 「ひぃぃ?!」

私は慌てて鼻を隠したけど…もう遅いよね。早く言ってよ、ミズリ様。…だからジュウビは引いてたのか。


 それにしても…ジュウビから聞いたこと、全てに驚きました。
お母さんは島の巫女でカウム様に仕えていたパワフルな人。
お父さんは島に流れ着いた記憶喪失の人。
エデンはそのお父さんに寄り添っていた獣で、ジュウビが産まれた時からずっと傍に居て、ジュウビにとってはかけがえの無い存在。
なのに謎の男に殺されてしまったなんて…。


 〝全てを話した訳じゃない。イオンには協力してもらいたい…けど、全てを話して巻き込むのは…〟
 《ジュウビ、お前の気持ちは分かるが、イオンはミズリとかなり近い》
 〝カウム…分かってる。あいつらは信頼し合ってる。羨ましいくらいにな〟
 《ならばゾルドの事を教えるべきじゃないのか?恐らく奴はミズリも狙うぞ》
 〝…その時は、俺がゾルドを倒せば済む事だ〟


 「ん…?」

ジュウビは今、多分カウム様と話してる。何か、私に言えない事があるのね。そうでしょ、ミズリ様。

 《イオン、勘が良いな》

やっぱり。ミズリ様は何か知ってる?

 《そうだな。例えば…謎の男は我らを狙って来る可能性が高い、とか》

え?!本当なんですか?!どうして…

 《ジュウビと会った時の事を思い出してみろ。カウムが全ての精獣が必要だと言った…ジュウビはそう言っていたな》

た、確かに言ってました!

 《それはつまり、その謎の男が普通の人間ではない事を物語っている。全ての精獣の力を使えば、この世界を破壊する事すら可能だからな》

ひぃぃ?!そん、そんな力が有るんですか?!

 《有る》

じゃあいったい、その男って…

 《分からん。しかし世界を揺るがすほどの事態が起こっている…そういう事なのだ》

お、大き過ぎて潰れそう…

 《潰れるなイオン。お前は私の契約者だ。お前じゃないと私と獣甲できんのだからな》
 「じゅうこう?」

そんな単語を前に聞いたような…そうだ、ジュウビと初めて会った時だ。ミズリ様が私に後ろを向くなと言った…あの時だ。

 《そうだ》

どういう事でしょう。

 《獣甲とは、我々精獣と一体化することだ》

一体化?んん?

 《…本当はお前に獣甲をさせたく無い。だが、この旅で必ず獣甲が必要な時がくる》

えーと…それってやっぱり危険な事なんですよね?

 《…お前に隠し事はしたくない。話せる事は話そうと思っている。…獣甲は、精神を蝕むのだ。長時間、長期間…獣甲を行えば行う程、お前の精神は》

違うのミズリ様。そうじゃなくて。じゅうこう?をしなければならない危険な相手と、戦わないといけない…そういう事なんですね?

 《う、む…そうなる。…お前は獣甲が恐くないのか?》

うーん…正直分かりません。でも、ミズリ様と一体化する事については、恐くないです。だってミズリ様はいつも優しいし、私をいつも守ってくれてましたから。

 《イオン…お前なら、もしかしたら…》

え?

 《いや。では…明日から獣甲の訓練だな》

訓練?それは何か…辛かったりするんでしょうか?

 《恐がるのはそこか。お前は本当に…》

あ。また呆れましたね、ミズリ様。

 《まぁ、そこがお前の良いところでもあるがな》

褒めてます?けなしてます?

 《褒めてる》

やった!

 《一応》

一応?! 

 《飽きないな、お前は》

山の頂上から谷底へ突き落すの止めてもらえますか。

 《訓練をする前に言っておかねばならん事がある》

な、何ですか?

 《獣甲を行えば…見た目が人間ではなくなる》

え?あー…そうなんですか。

 《あまり驚かんな》

驚きの連続ですから。もう並大抵の事では驚きません。

 《ほう?ならば安心して獣甲できるな》

………ど、どんな風になるかだけでも教えておいてくれませんか?

 《やはり飽きないな、お前は》

あ、そうか。だからあの時振り向くなって言ったんですね。ジュウビが普通の姿じゃなかったから。

 《そうだ。何も知らずに振り返っていれば驚いて引っ繰り返っていただろ…いや、お前なら大丈夫かもしれんな》

ミズリ様…酷い…。


 こうして私とミズリ様の獣甲訓練は、旅をしながら毎日数時間、行う事になりました。
ジュウビが言ってたような危険な何かがいるなら、とりあえずこの山を早めに越える事が先決ですけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...