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下見
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死ぬことはないと分かっていても、あまり状態が良くなかったのか、萌さんとユキさんが心配そうにしています。
「ねぇ、ぬん~。かわいそうだから~、一回連れて帰りましょうよ~」
「そうじゃな。一人二人増えたところで困らんしな」
そんな訳で、みんなでお屋敷に帰ることにしました。垢舐めくんは空腹すぎて動けず、五年くらいあの物件で倒れていたそうです……見つけて貰えて良かったね……。
そして黒羽さんが、何やらとても興味のあるお話を教えてくれました。
「百合子様、人間界では『擬人化』? というのが流行しているのですか?」
「あー……そうだね……漫画やゲームとかになってるね。……刀すら人になって踊ったり歌ったりしてるかな」
苦笑いで答えると、どうやら人の形ではない妖怪たちの一部に、人の形を成す者が現れたとか……。
確かに妖怪たちの存在は、人間の信仰心が必要不可欠ですが……擬人化はほとんど萌えでは? 人間の萌え信仰……侮れん……。
そうこうしているうちに、見慣れたお屋敷が見えて来ました。玄関からちょっと離れた広い場所に降ろしてもらいます。
「いつでも我が一族を呼んで下さって結構です」
安定のイケボの漆黒さんはぬんさんにそう言って空に飛び立ち、ご家族と共に帰って行きました。
「帰ろうか百合子」
「はい」
ぬんさんに声をかけられみんなで玄関へと向かいましたが、玄関が見えてくると珍しい光景が目に飛び込んできました。
ドアの前にしゃがんで頬杖をついているしぃちゃんと、その隣に伏せの状態のスネ子ちゃんがいました。
「あ! スネ子! 百合ちゃん帰って来たよ! 百合ちゃ~ん!」
しぃちゃんは、すっくと立って手をブンブン振っています。対してスネ子ちゃんは、片目を開けてこっちを見るとこちらにお尻を向けてしまいました。……ご機嫌ナナメ?
「しぃちゃん、何だか久しぶりだね」
「神出鬼没で気まぐれだからのぅ」
「どうしたの? 何かあった?」
ぬんさんが気まぐれと言うくらいなので、しぃちゃんは本当に気まぐれなのでしょう。
こうやって外で待っているくらいなので、心配になって聞いてみると驚きの一言が。
「うんとね~スネ子が拗ねてる!」
「え!?」
「百合ちゃん最近忙しいでしょ? 脛を擦らせてくれないって、スネ子が拗ねてるの」
まだこちらにお尻を向けているスネ子ちゃんですが、お耳はピクピクと動いており、しっかりと聞き耳を立てているようです。
「ス……スネ子ちゃ~ん? 今日はもう何もないから、いっぱいスリスリして大丈夫だよ~。まずお家に入ろうか~……」
「スネ子が拗ねる所なんぞ初めて見たわい! さぁ早く中に入るぞ」
ぬんさんが大爆笑をしながら玄関の扉を開けると、しぃちゃんとスネ子ちゃんはピューっと中に入ってしまいました。
萌さんたちはどうしているのか……と振り返ると、こっちはこっちで大騒ぎです。
「こここ……こんなお屋敷に僕が入って本当に大丈夫なんですか!?」
「だから~さっきから~大丈夫って言ってるでしょ~」
「しつこい奴だな。いいから早く入れ!」
垢舐めくん、お姉様二人に怒られています。どうやらお屋敷の迫力に怖気付いたようでした。最終的にはユキさんに背中をどつか……ゴホン。押され、ようやくお屋敷に入りました。
全員が中に入ると、ぬんさんが笑いながら萌さんとユキさんにスネ子ちゃんが拗ねてると説明しています。
「百合子、懐かれすぎじゃないか?」
「え~! 拗ねてるの~? けど~もう少し待ってもらわないと~。垢舐めのご飯を準備しなきゃ~また倒れちゃうわよ~?」
そうでしたね、餓死寸前で発見された垢舐めくんですもんね。……ん? ご飯って? と思っていると、また心を読まれたようです。
「百合ちゃ~ん。ちょっとお風呂に入ってきて欲しいんだけど~。ご飯、必要でしょ~?」
「え!? ご飯ってまさか……」
「その通り~。人間のしか食べないから~」
ご飯って……ご飯って……私の……垢!? うわぁ……なんか嫌かも……。
「百合子、さすがに食わないとコイツそろそろヤバイぞ?」
ユキさんにトドメの一言を言われて、しぶしぶお風呂に行きました。
なるべくゆっくり入ってと言われ、ふやけるくらい入ってやりましたよ。ヤケですヤケ。
お風呂場から出ると、垢舐めくんは「いただきます!」と宣言してお風呂場に突入しました。そして数分後に泣きながら「ごちそうさまでした」と出てきました。
うわぁ……すっごく複雑な心境……。
モヤモヤとしたままリビングへと行けば、皆さん垢舐めくんに群がります。
「どう~? お腹いっぱい~?」
「はい! こんなに美味しいご馳走は久しぶりで……」
全く嬉しくない感想を聞いて複雑ですが、またさめざめと泣く垢舐めくんを見ると何も言えません。
ふと足元を見れば、イライラした様子のスネ子ちゃんが尻尾をパッタンパッタンと床に叩きつけてます。
「スネ子ちゃんお待たせ。スリスリしていいよ」
「百合子、疲れているじゃろう? 夕飯までしばし眠ったらどうだ? その間スネ子は好きにしなさい」
ぬんさん……はい、疲れてます。ヒキニートは出歩くだけで、相当な体力使うんですよ。実は連日、足が筋肉痛なんです。なんて事は言わずに、お言葉に甘えてソファーで休ませて貰いました。
スネ子ちゃんのスリスリ気持ちえぇわぁ……と思っているうちに私は夢の中へ……。
たくさんのモフモフたちにモフモフされている幸せな夢を見ました。
「ねぇ、ぬん~。かわいそうだから~、一回連れて帰りましょうよ~」
「そうじゃな。一人二人増えたところで困らんしな」
そんな訳で、みんなでお屋敷に帰ることにしました。垢舐めくんは空腹すぎて動けず、五年くらいあの物件で倒れていたそうです……見つけて貰えて良かったね……。
そして黒羽さんが、何やらとても興味のあるお話を教えてくれました。
「百合子様、人間界では『擬人化』? というのが流行しているのですか?」
「あー……そうだね……漫画やゲームとかになってるね。……刀すら人になって踊ったり歌ったりしてるかな」
苦笑いで答えると、どうやら人の形ではない妖怪たちの一部に、人の形を成す者が現れたとか……。
確かに妖怪たちの存在は、人間の信仰心が必要不可欠ですが……擬人化はほとんど萌えでは? 人間の萌え信仰……侮れん……。
そうこうしているうちに、見慣れたお屋敷が見えて来ました。玄関からちょっと離れた広い場所に降ろしてもらいます。
「いつでも我が一族を呼んで下さって結構です」
安定のイケボの漆黒さんはぬんさんにそう言って空に飛び立ち、ご家族と共に帰って行きました。
「帰ろうか百合子」
「はい」
ぬんさんに声をかけられみんなで玄関へと向かいましたが、玄関が見えてくると珍しい光景が目に飛び込んできました。
ドアの前にしゃがんで頬杖をついているしぃちゃんと、その隣に伏せの状態のスネ子ちゃんがいました。
「あ! スネ子! 百合ちゃん帰って来たよ! 百合ちゃ~ん!」
しぃちゃんは、すっくと立って手をブンブン振っています。対してスネ子ちゃんは、片目を開けてこっちを見るとこちらにお尻を向けてしまいました。……ご機嫌ナナメ?
「しぃちゃん、何だか久しぶりだね」
「神出鬼没で気まぐれだからのぅ」
「どうしたの? 何かあった?」
ぬんさんが気まぐれと言うくらいなので、しぃちゃんは本当に気まぐれなのでしょう。
こうやって外で待っているくらいなので、心配になって聞いてみると驚きの一言が。
「うんとね~スネ子が拗ねてる!」
「え!?」
「百合ちゃん最近忙しいでしょ? 脛を擦らせてくれないって、スネ子が拗ねてるの」
まだこちらにお尻を向けているスネ子ちゃんですが、お耳はピクピクと動いており、しっかりと聞き耳を立てているようです。
「ス……スネ子ちゃ~ん? 今日はもう何もないから、いっぱいスリスリして大丈夫だよ~。まずお家に入ろうか~……」
「スネ子が拗ねる所なんぞ初めて見たわい! さぁ早く中に入るぞ」
ぬんさんが大爆笑をしながら玄関の扉を開けると、しぃちゃんとスネ子ちゃんはピューっと中に入ってしまいました。
萌さんたちはどうしているのか……と振り返ると、こっちはこっちで大騒ぎです。
「こここ……こんなお屋敷に僕が入って本当に大丈夫なんですか!?」
「だから~さっきから~大丈夫って言ってるでしょ~」
「しつこい奴だな。いいから早く入れ!」
垢舐めくん、お姉様二人に怒られています。どうやらお屋敷の迫力に怖気付いたようでした。最終的にはユキさんに背中をどつか……ゴホン。押され、ようやくお屋敷に入りました。
全員が中に入ると、ぬんさんが笑いながら萌さんとユキさんにスネ子ちゃんが拗ねてると説明しています。
「百合子、懐かれすぎじゃないか?」
「え~! 拗ねてるの~? けど~もう少し待ってもらわないと~。垢舐めのご飯を準備しなきゃ~また倒れちゃうわよ~?」
そうでしたね、餓死寸前で発見された垢舐めくんですもんね。……ん? ご飯って? と思っていると、また心を読まれたようです。
「百合ちゃ~ん。ちょっとお風呂に入ってきて欲しいんだけど~。ご飯、必要でしょ~?」
「え!? ご飯ってまさか……」
「その通り~。人間のしか食べないから~」
ご飯って……ご飯って……私の……垢!? うわぁ……なんか嫌かも……。
「百合子、さすがに食わないとコイツそろそろヤバイぞ?」
ユキさんにトドメの一言を言われて、しぶしぶお風呂に行きました。
なるべくゆっくり入ってと言われ、ふやけるくらい入ってやりましたよ。ヤケですヤケ。
お風呂場から出ると、垢舐めくんは「いただきます!」と宣言してお風呂場に突入しました。そして数分後に泣きながら「ごちそうさまでした」と出てきました。
うわぁ……すっごく複雑な心境……。
モヤモヤとしたままリビングへと行けば、皆さん垢舐めくんに群がります。
「どう~? お腹いっぱい~?」
「はい! こんなに美味しいご馳走は久しぶりで……」
全く嬉しくない感想を聞いて複雑ですが、またさめざめと泣く垢舐めくんを見ると何も言えません。
ふと足元を見れば、イライラした様子のスネ子ちゃんが尻尾をパッタンパッタンと床に叩きつけてます。
「スネ子ちゃんお待たせ。スリスリしていいよ」
「百合子、疲れているじゃろう? 夕飯までしばし眠ったらどうだ? その間スネ子は好きにしなさい」
ぬんさん……はい、疲れてます。ヒキニートは出歩くだけで、相当な体力使うんですよ。実は連日、足が筋肉痛なんです。なんて事は言わずに、お言葉に甘えてソファーで休ませて貰いました。
スネ子ちゃんのスリスリ気持ちえぇわぁ……と思っているうちに私は夢の中へ……。
たくさんのモフモフたちにモフモフされている幸せな夢を見ました。
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