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事業計画〜エステ・美容編〜
①
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あの夢みたいな出会いの日から、二週間が経ちました。今日はゴンさんに宿題の事業計画書を見てもらう日です。
事業や経営なんて難しい事は分からないので、私が出来る範囲で書いたのでとても簡単な物になってしまいました……あぁ緊張する……。
時計を見ると朝の九時前です。そろそろかな? と思っていると、窓を叩かれました。そっと窓を開けると、そこには今日もイケメンの烏天狗さんがいました。
「百合子様! お迎えにあがりました!」
「あの……様はやめましょう……」
「それは無理です。さぁ人気のない所へ」
はぁ、とため息を吐きながら、眩しいほどの笑顔の烏天狗さんと一緒に、ご近所の死角の多い場所へ向かいます。
烏天狗さんはもちろん普通の人には見えませんが、私は見えているとはいえ普通の人間が烏天狗さんに触れると、他の人には姿が見えなくなるようなのです。
私の姿も見えなくなるのは移動には便利なのですが、触れて消える所を人から見られないようにと二人で決めました。
え? 家の中で触れれば良いと? ……汚部屋にイケメンは立ち入り禁止です。
実はこの二週間の間に、何回か遊びに来いと萌さんやぬんさんに言われて、その度に烏天狗さんが迎えに来ているのです。
この大変な時に遊びとか……とは思ったものの、実は事業計画に役立ったので感謝です。
そんな日々を思い返しているうちに、上空からでも素敵に見えるお屋敷が見えてきました。この素敵な迷い家も、普通の人には見えないなんてもったいないです。
最初は空を飛ぶのが怖かったのに、今では飛ぶことが気持ちいいとすら思ってしまう……慣れって怖いです……。
「おはようございます……」
何回来ても、いまだに玄関に入る時には緊張してしまいます。
「百合子、おはよう。今日は期待しているからな」
ユキさんが扉を開けた所にドーンと立っていました。ビクッとしましたが内緒です。
「おはようございます、ユキさん。昨日は飲まなかったんですね」
「な! ……まぁな……ゴンにしばらく会っていないしな」
実はユキさん、猛烈にお酒が好きで、お酒に強いので潰れたり悪酔いすることはないのですが、かなり飲んだ次の日は丸一日かまくらの中で冬眠するという、一風変わった習性を持っているのです。これはユキさんだけの習性で、他の雪女はそんなことはないそうです。
もちろん聞きましたよ。『それって二日酔いって言うんじゃないですか?』と。なぜか怒られたのでもう聞きません。
前回ゴンさんに会った時にいなかったのには、こんな理由があったのです。
「で? 上手くいきそうなのか?」
「どうでしょう……初めての事ですし……やっぱり不安が勝ってますけど……」
「リラックスしろ。萌が茶の準備をしている」
ユキさんがリビングの扉を開けてくれ、一緒にリビングへと入りました。
「あらぁ~百合ちゃんおはよ~」
「おはようございます、萌さん」
「座って~。ゴンが来るまでお茶しましょ~。今日は~気持ちを落ち着かせる為に~ハーブティーにしました~」
やった! 萌さんの煎れるお茶は本当に美味しいんです。
慣れが勝って当たり前のようにソファに座ると、萌さんがカップを目の前に置いてくれました。と、同時に青さんがキッチンから走って来ました。
「け!」
「え?」
「青が~食べてって~」
手にはたくさんの種類のクッキーを持っています。私がなまはげ二人の料理を気に入って褒めちぎり、食べる事が大好きなのを伝えると、お二人は和食だけでなく、お菓子を作るようになったんです。
「青さん、ありがとうございます。このハーブティーに合いそうですね」
あ、私の言葉を聞いた青さんの顔色が普通の色になった。照れてるってことですね。
「いっぺ、け!」
そう言い残してダッシュで青さんはいなくなりました。いっぱい食べてね、と言っていたようです。『食べて』が『け』の一言で済む秋田。面白いです。
「ちなみに、かゆいも『け』だぞ」
「え!?」
横からユキさんが教えてくれました。うん、後でなまはげの二人とユキさんから東北弁を習おう。
二週間前の女子会のように、萌さんとユキさんとキャッキャッしていると、あっという間にゴンさんとの約束の時間になりそうです。
「そろそろね~」
「あのぬんが珍しく迎えに行ったからな。そろそろ来るな」
話を聞くと、ぬんさんはウキウキでゴンさんの家へと向かったらしいです。何か皆さんのほうが気合い入ってません?
そんなことを考えていると、玄関からぬんさんの声が聞こえてきました。
「おぉ~い、ゴンが来たぞ~!」
「ただいまでいいだろう!? 迎えに来んでも私は約束の時間にはちゃんと来るのに!」
今日も二人はやんややんやと言い争っているようです。仲が良くて何よりです。
ガチャリ、と扉が開いて二人が入って来ました。私も立ち上がり挨拶をします。
「おはようございます、ゴンさん」
「……ん? おはよう桃田さん……? 何か、とても雰囲気が変わったような?」
「ま……まぁそれはおいおい……」
そうして私たちは席に着きました。私の両隣は萌さんとユキさんが、向かいにはゴンさんとぬんさんが着席しました。
「さて桃田さん。宿題の事業計画書を見せてもらおうか」
「はい……でも難しいことは分からないので、すごく簡単な構想と申しますか……壮大なメモと申しますか……」
途端に吹き出す妖怪三人衆です。
「そ……壮大なメモって~……」
萌さん、笑いすぎです……。
「お前ら笑いすぎだ! どれ、見せてもらおう」
震える手でゴンさんに壮大なメモを渡します。真剣な眼差しでそれをゴンさんが読みます……ヤバい! 緊張がピークに達します……。
「……ふぅむ……エステと美容院の複合施設か……詳しく教えてくれ……その……老眼でほとんど読めなくてな……」
妖怪三人衆は手を叩いて大爆笑をしています……。
事業や経営なんて難しい事は分からないので、私が出来る範囲で書いたのでとても簡単な物になってしまいました……あぁ緊張する……。
時計を見ると朝の九時前です。そろそろかな? と思っていると、窓を叩かれました。そっと窓を開けると、そこには今日もイケメンの烏天狗さんがいました。
「百合子様! お迎えにあがりました!」
「あの……様はやめましょう……」
「それは無理です。さぁ人気のない所へ」
はぁ、とため息を吐きながら、眩しいほどの笑顔の烏天狗さんと一緒に、ご近所の死角の多い場所へ向かいます。
烏天狗さんはもちろん普通の人には見えませんが、私は見えているとはいえ普通の人間が烏天狗さんに触れると、他の人には姿が見えなくなるようなのです。
私の姿も見えなくなるのは移動には便利なのですが、触れて消える所を人から見られないようにと二人で決めました。
え? 家の中で触れれば良いと? ……汚部屋にイケメンは立ち入り禁止です。
実はこの二週間の間に、何回か遊びに来いと萌さんやぬんさんに言われて、その度に烏天狗さんが迎えに来ているのです。
この大変な時に遊びとか……とは思ったものの、実は事業計画に役立ったので感謝です。
そんな日々を思い返しているうちに、上空からでも素敵に見えるお屋敷が見えてきました。この素敵な迷い家も、普通の人には見えないなんてもったいないです。
最初は空を飛ぶのが怖かったのに、今では飛ぶことが気持ちいいとすら思ってしまう……慣れって怖いです……。
「おはようございます……」
何回来ても、いまだに玄関に入る時には緊張してしまいます。
「百合子、おはよう。今日は期待しているからな」
ユキさんが扉を開けた所にドーンと立っていました。ビクッとしましたが内緒です。
「おはようございます、ユキさん。昨日は飲まなかったんですね」
「な! ……まぁな……ゴンにしばらく会っていないしな」
実はユキさん、猛烈にお酒が好きで、お酒に強いので潰れたり悪酔いすることはないのですが、かなり飲んだ次の日は丸一日かまくらの中で冬眠するという、一風変わった習性を持っているのです。これはユキさんだけの習性で、他の雪女はそんなことはないそうです。
もちろん聞きましたよ。『それって二日酔いって言うんじゃないですか?』と。なぜか怒られたのでもう聞きません。
前回ゴンさんに会った時にいなかったのには、こんな理由があったのです。
「で? 上手くいきそうなのか?」
「どうでしょう……初めての事ですし……やっぱり不安が勝ってますけど……」
「リラックスしろ。萌が茶の準備をしている」
ユキさんがリビングの扉を開けてくれ、一緒にリビングへと入りました。
「あらぁ~百合ちゃんおはよ~」
「おはようございます、萌さん」
「座って~。ゴンが来るまでお茶しましょ~。今日は~気持ちを落ち着かせる為に~ハーブティーにしました~」
やった! 萌さんの煎れるお茶は本当に美味しいんです。
慣れが勝って当たり前のようにソファに座ると、萌さんがカップを目の前に置いてくれました。と、同時に青さんがキッチンから走って来ました。
「け!」
「え?」
「青が~食べてって~」
手にはたくさんの種類のクッキーを持っています。私がなまはげ二人の料理を気に入って褒めちぎり、食べる事が大好きなのを伝えると、お二人は和食だけでなく、お菓子を作るようになったんです。
「青さん、ありがとうございます。このハーブティーに合いそうですね」
あ、私の言葉を聞いた青さんの顔色が普通の色になった。照れてるってことですね。
「いっぺ、け!」
そう言い残してダッシュで青さんはいなくなりました。いっぱい食べてね、と言っていたようです。『食べて』が『け』の一言で済む秋田。面白いです。
「ちなみに、かゆいも『け』だぞ」
「え!?」
横からユキさんが教えてくれました。うん、後でなまはげの二人とユキさんから東北弁を習おう。
二週間前の女子会のように、萌さんとユキさんとキャッキャッしていると、あっという間にゴンさんとの約束の時間になりそうです。
「そろそろね~」
「あのぬんが珍しく迎えに行ったからな。そろそろ来るな」
話を聞くと、ぬんさんはウキウキでゴンさんの家へと向かったらしいです。何か皆さんのほうが気合い入ってません?
そんなことを考えていると、玄関からぬんさんの声が聞こえてきました。
「おぉ~い、ゴンが来たぞ~!」
「ただいまでいいだろう!? 迎えに来んでも私は約束の時間にはちゃんと来るのに!」
今日も二人はやんややんやと言い争っているようです。仲が良くて何よりです。
ガチャリ、と扉が開いて二人が入って来ました。私も立ち上がり挨拶をします。
「おはようございます、ゴンさん」
「……ん? おはよう桃田さん……? 何か、とても雰囲気が変わったような?」
「ま……まぁそれはおいおい……」
そうして私たちは席に着きました。私の両隣は萌さんとユキさんが、向かいにはゴンさんとぬんさんが着席しました。
「さて桃田さん。宿題の事業計画書を見せてもらおうか」
「はい……でも難しいことは分からないので、すごく簡単な構想と申しますか……壮大なメモと申しますか……」
途端に吹き出す妖怪三人衆です。
「そ……壮大なメモって~……」
萌さん、笑いすぎです……。
「お前ら笑いすぎだ! どれ、見せてもらおう」
震える手でゴンさんに壮大なメモを渡します。真剣な眼差しでそれをゴンさんが読みます……ヤバい! 緊張がピークに達します……。
「……ふぅむ……エステと美容院の複合施設か……詳しく教えてくれ……その……老眼でほとんど読めなくてな……」
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