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苦楽

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  体を洗われた後、自分が思っていた以上に体のいたるところに怪我をしていたようで、その場で簡単にではあったが応急処置をしてもらった。

  そして新しい服を着せられ、次に通された部屋に見覚えのないスーツ姿の男が椅子に座っていた。

「改めておめでとう!君はラッキー続きだったね。見ていて面白かったよ」

  声から察するに壇上に立っていた男のようだ。今はガスマスクを外し上質のスーツに身を包んでいる。

「ゲームで殺しあったが、君は何も罪に問われることはないから安心していい。さて生き残った君に質問だ。望みは?」

  望み……俺の望み……?

「……俺はただ……普通に働いて、普通の幸せが欲しかっただけだ……なんで……なんでこんなことに……」

「働くだって?」

  泣きじゃくる俺に男は優しく声をかけて話を聞いてくれた。
  毎日仕事を探そうとしていたこと、それが出来ずに苦しんでいたこと、そもそもこの原因を作った出来事を。

「……あんな、あんなことする人間なんて……パワハラなんて無くなればいい……俺みたいな酷い目に合う人がいなくなればいい……」

「……ふむ。パワハラもまた問題視されている。……そうか。パワハラやいじめをする人間もこの世から居なくなれば、もっと住み良いニホン国になるとは思わないか?」

  男は口角を上げニヤリと笑いながら俺に問いかける。

「……そうだ……あんな人間がのうのうと生きているのがおかしい……悪いことをしたやつは……地獄に落ちなきゃ……」

  俺はどこか視線が定まらない様子で呟いた。

「君、働きたいのならうちで働きなさい。気に入ったよ。新しい名前も戸籍も作ってあげるから。百人一首に参加した全員が行方不明者リストに載ってしまうのだが、君の顔写真は似たような別人にしてあげよう」

  働ける……?ようやく働けるんだ……?俺は嬉しさなのか何なのか分からない涙を流した。


──一年後──


  あれから俺は新しい名前と戸籍、そして住居を与えられ、『特別局』の計らいで医師の管理下の元、心も体も完全に治療してもらった。そして健康になった俺はとある会社に勤めることになった。

  今は毎日仕事が楽しみで仕方がない。新卒だった頃のように毎朝元気に出社する。
  この会社に就職し三ヶ月勤務しているが、毎日毎日飽きずにパワハラをしてくる歳下上司がいる。パワハラをされる度に俺はニヤリと笑い、それが気に入らないそいつはどんどんとヒートアップしていく。

  毎日やられた証拠を本当・・の職場である厚生労働省『特別局』に送っている。ある程度証拠が溜まり『特別局』が認可すれば、パワハラをするそいつは百人一首の会場に送られる。

  あぁ……その日が楽しみだ。人に嫌な思いしかさせない社会のお荷物は臓器くらいは役に立たないとねぇ……。

  困っている人臓器移植希望者のために働く俺は、百人一首のおかげで生まれ変わって世のため人のために働いている。
  誰よりも働くことが望みだった俺は、パワハラをされることで新しい人生を謳歌している。
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