14 / 17
服
しおりを挟む
断髪式から数日。まだ短い頭髪に慣れず、軽くなった頭の中身が減っていたらどうし……。
「ハパパー!」
「いえ、最初から中身は足りないデスよ?」
またしても考え事をしていると脳みそをいじられた。なぜかというと、メメたんはすこぶるご機嫌斜めだからだ。
あの断髪式のあと、大規模な洗濯大会になってしまった。俺氏も後先を考えて一着、二着と少ない量を洗濯すれば良かったのに、タンスの中の物を何回にも渡って全部洗ってしまった。
俺氏は外に干して洗濯物に虫が付くのが嫌で、ばあちゃんとも散々揉めたが、誰が何と言おうと室内干し派だ。大量の洗濯物はいつもの干す場所だけでは足りなくて、家中に干されることになった。さらに雨まで降ったおかげで、乾くのに時間がかかってしまった。
洗濯物は何も俺氏だけの物を洗ったわけじゃない。俺氏はメメたんと脳内デートをする為に、メメたんのお出かけ用の服もたくさん持っていた。
これでもメメたんの創造主は俺氏だ。サイズも似合うデザインも色も、何もかも全て把握している。要するに脳内デートをする時に、メメたんの服をわざわざネットで買っていたわけだ。
ニートはネットショップと配達員の皆さんのおかげで生きながらえている。
「本っっっ当に気持ち悪イ……」
この通りとても喜び、照れ隠しをしている。乾燥したメメたんの服を床に広げ、メメたんに問いかけた。
「メメたんどれ着る? これなんかいいんじゃ……あ……」
メメたんは俺氏が勧めるミニスカートには目もくれず、というか目の前に広げた全ての服を両手に抱え、自室である仏間に消えて行った。
と思ったら、戻って来て俺氏にフルビンタをして戻って行った。きっと服の中にセットしておいた、メメたん用のカワイイ下着を見つけた照れ隠しだろう。今日もビンタというご褒美も貰えたし満足である。
さて俺氏の服はどうしよう。何年かぶりに着る一張羅だ。ん? お気に入りのチェックのシャツに腕を通したら、肩の辺りがパツパツだ。洗濯で縮んだのかもしれない。
次にズボンに足を入れると、これも縮んだのか太ももから上に上がり辛い。身をよじると履けたが、ファスナーもボタンも昔よりキツい気がする。
……まさか、いやまさかな。そう思いながら、玄関に向かった。うちの玄関の壁には姿見がある。
「……!」
なんてことだ! なんだこの姿は!
「うわぁぁぁぁ!!」
俺氏は両手で頭を抱えながら、崩れるようにその場にひざまずいた。
「なんデスか! うるさいデスね!」
まだ着替えていないメイド服のままのメメたんが、怒りながらも玄関まで様子を見に来てくれた。なんて優しいんだろう。
「メメたん……やっぱり出かけるのはよそう……この数日で幸せ太りをしたみたいで……」
「今日こそ買い出しに行きマス! それにこの数日で、規則正しい生活をしているせいか、ご主人サマは痩せましたケド? もっと醜い体でしたケド?」
メメたんは玄関の一番高い場所から、眉間にシワを寄せながら、文字通り俺氏を見下している。
俺氏の家は古い造りだから、俺氏が這いつくばってる玄関土間の上に式台があって、その上に取次がある。要するに床だ。玄関土間から床までが、最近の住宅よりも高さがある。メメたんはお立ち台にいるような感じだ。
「こ……これでも痩せたの……?」
震える声で、すがるようにメメたんに聞くと、間違いなく痩せたと言う。
俺氏といえばスリムでシュッとした、いわゆるヒョロガリだったのに、これではただのポチャだ。イケてないポチャはただのポチャだ。
「動けば脂肪が燃焼シテさらに痩せマスよ」
メメたんは吐き捨てるようにそう言い残して、服を選びに部屋に戻って行った。これは困った。俺氏の持っている外出用の服は、どれも似たようなデザインでサイズも一緒だ。
別の服に着替えようとも、このパツパツさは誤魔化せない。……仕方がない。この格好のまま外に出るしかない。
少し待つと、ウキウキした様子のメメたんが玄関に現れた。いつもはニーハイを履いて絶対領域を強調しているが、今日はスニーカーソックスを履いてかなり短めのショーパンを履いているせいで、カモシカのような足があらわになっている。
上はオーバーサイズのシャツを羽織っているが、何といっても俺氏と同じ柄のチェックシャツのおかげで二人はペアルックだ。
俺氏はそれはもう大満足で、上から下まで舐めるように見てはニヤニヤとしていると、メメたんは俺氏を見てどんどんと無表情になっていった。
これは……お仕置きの前ぶれかもしれない……。
「……っ!」
メメたんが動くと同時に条件反射で身を守ったが、メメたんはダッシュで部屋へと戻って行った。
条件反射で勝手に体が動くなんて、見事に躾けられている。
それからまた少し待つと、メメたんが玄関にやって来た。どうやら着替えてしまったらしく、スキニージーンズにパーカーという、何の面白味もない普段着中の普段着を着ていた。
「メメたん、さっきの方がかわいいのに……」
「いえ、足を見る目が気持ち悪いノト、同じ服を着ているのが耐えられませんでシタ」
この言葉は心にジワジワと地味にダメージを与えてくれて、俺氏は過呼吸気味になってしばらく玄関から動けなくなった……。
「ハパパー!」
「いえ、最初から中身は足りないデスよ?」
またしても考え事をしていると脳みそをいじられた。なぜかというと、メメたんはすこぶるご機嫌斜めだからだ。
あの断髪式のあと、大規模な洗濯大会になってしまった。俺氏も後先を考えて一着、二着と少ない量を洗濯すれば良かったのに、タンスの中の物を何回にも渡って全部洗ってしまった。
俺氏は外に干して洗濯物に虫が付くのが嫌で、ばあちゃんとも散々揉めたが、誰が何と言おうと室内干し派だ。大量の洗濯物はいつもの干す場所だけでは足りなくて、家中に干されることになった。さらに雨まで降ったおかげで、乾くのに時間がかかってしまった。
洗濯物は何も俺氏だけの物を洗ったわけじゃない。俺氏はメメたんと脳内デートをする為に、メメたんのお出かけ用の服もたくさん持っていた。
これでもメメたんの創造主は俺氏だ。サイズも似合うデザインも色も、何もかも全て把握している。要するに脳内デートをする時に、メメたんの服をわざわざネットで買っていたわけだ。
ニートはネットショップと配達員の皆さんのおかげで生きながらえている。
「本っっっ当に気持ち悪イ……」
この通りとても喜び、照れ隠しをしている。乾燥したメメたんの服を床に広げ、メメたんに問いかけた。
「メメたんどれ着る? これなんかいいんじゃ……あ……」
メメたんは俺氏が勧めるミニスカートには目もくれず、というか目の前に広げた全ての服を両手に抱え、自室である仏間に消えて行った。
と思ったら、戻って来て俺氏にフルビンタをして戻って行った。きっと服の中にセットしておいた、メメたん用のカワイイ下着を見つけた照れ隠しだろう。今日もビンタというご褒美も貰えたし満足である。
さて俺氏の服はどうしよう。何年かぶりに着る一張羅だ。ん? お気に入りのチェックのシャツに腕を通したら、肩の辺りがパツパツだ。洗濯で縮んだのかもしれない。
次にズボンに足を入れると、これも縮んだのか太ももから上に上がり辛い。身をよじると履けたが、ファスナーもボタンも昔よりキツい気がする。
……まさか、いやまさかな。そう思いながら、玄関に向かった。うちの玄関の壁には姿見がある。
「……!」
なんてことだ! なんだこの姿は!
「うわぁぁぁぁ!!」
俺氏は両手で頭を抱えながら、崩れるようにその場にひざまずいた。
「なんデスか! うるさいデスね!」
まだ着替えていないメイド服のままのメメたんが、怒りながらも玄関まで様子を見に来てくれた。なんて優しいんだろう。
「メメたん……やっぱり出かけるのはよそう……この数日で幸せ太りをしたみたいで……」
「今日こそ買い出しに行きマス! それにこの数日で、規則正しい生活をしているせいか、ご主人サマは痩せましたケド? もっと醜い体でしたケド?」
メメたんは玄関の一番高い場所から、眉間にシワを寄せながら、文字通り俺氏を見下している。
俺氏の家は古い造りだから、俺氏が這いつくばってる玄関土間の上に式台があって、その上に取次がある。要するに床だ。玄関土間から床までが、最近の住宅よりも高さがある。メメたんはお立ち台にいるような感じだ。
「こ……これでも痩せたの……?」
震える声で、すがるようにメメたんに聞くと、間違いなく痩せたと言う。
俺氏といえばスリムでシュッとした、いわゆるヒョロガリだったのに、これではただのポチャだ。イケてないポチャはただのポチャだ。
「動けば脂肪が燃焼シテさらに痩せマスよ」
メメたんは吐き捨てるようにそう言い残して、服を選びに部屋に戻って行った。これは困った。俺氏の持っている外出用の服は、どれも似たようなデザインでサイズも一緒だ。
別の服に着替えようとも、このパツパツさは誤魔化せない。……仕方がない。この格好のまま外に出るしかない。
少し待つと、ウキウキした様子のメメたんが玄関に現れた。いつもはニーハイを履いて絶対領域を強調しているが、今日はスニーカーソックスを履いてかなり短めのショーパンを履いているせいで、カモシカのような足があらわになっている。
上はオーバーサイズのシャツを羽織っているが、何といっても俺氏と同じ柄のチェックシャツのおかげで二人はペアルックだ。
俺氏はそれはもう大満足で、上から下まで舐めるように見てはニヤニヤとしていると、メメたんは俺氏を見てどんどんと無表情になっていった。
これは……お仕置きの前ぶれかもしれない……。
「……っ!」
メメたんが動くと同時に条件反射で身を守ったが、メメたんはダッシュで部屋へと戻って行った。
条件反射で勝手に体が動くなんて、見事に躾けられている。
それからまた少し待つと、メメたんが玄関にやって来た。どうやら着替えてしまったらしく、スキニージーンズにパーカーという、何の面白味もない普段着中の普段着を着ていた。
「メメたん、さっきの方がかわいいのに……」
「いえ、足を見る目が気持ち悪いノト、同じ服を着ているのが耐えられませんでシタ」
この言葉は心にジワジワと地味にダメージを与えてくれて、俺氏は過呼吸気味になってしばらく玄関から動けなくなった……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
魔法少女☆優希♡レジイナ♪
蓮實長治
キャラ文芸
九州は阿蘇に住む田中優希は魔法少女である!!
彼女に魔法の力を与えたスーちゃんは中生代から来た獣脚類の妖怪である!!(妖精かも知れないが似たようなモノだ)
田中優希は肉食恐竜「ガジくん」に変身し、人類との共存を目論む悪のレプタリアンと、父親が育てている褐牛(あかうし)を頭からガジガジと貪り食うのだ!!
←えっ??
刮目せよ!! 暴君(T-REX)をも超えし女王(レジイナ)が築く屍山血河に!!
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
鎮魂の絵師
霞花怜
キャラ文芸
絵師・栄松斎長喜は、蔦屋重三郎が営む耕書堂に居住する絵師だ。ある春の日に、斎藤十郎兵衛と名乗る男が連れてきた「喜乃」という名の少女とで出会う。五歳の娘とは思えぬ美貌を持ちながら、周囲の人間に異常な敵愾心を抱く喜乃に興味を引かれる。耕書堂に居住で丁稚を始めた喜乃に懐かれ、共に過ごすようになる。長喜の真似をして絵を描き始めた喜乃に、自分の師匠である鳥山石燕を紹介する長喜。石燕の暮らす吾柳庵には、二人の妖怪が居住し、石燕の世話をしていた。妖怪とも仲良くなり、石燕の指導の下、絵の才覚を現していく喜乃。「絵師にはしてやれねぇ」という蔦重の真意がわからぬまま、喜乃を見守り続ける。ある日、喜乃にずっとついて回る黒い影に気が付いて、嫌な予感を覚える長喜。どう考えても訳ありな身の上である喜乃を気に掛ける長喜に「深入りするな」と忠言する京伝。様々な人々に囲まれながらも、どこか独りぼっちな喜乃を長喜は放っておけなかった。娘を育てるような気持で喜乃に接する長喜だが、師匠の石燕もまた、孫に接するように喜乃に接する。そんなある日、石燕から「俺の似絵を描いてくれ」と頼まれる。長喜が書いた似絵は、魂を冥府に誘う道標になる。それを知る石燕からの依頼であった。
【カクヨム・小説家になろう・アルファポリスに同作品掲載中】
※各話の最後に小噺を載せているのはアルファポリスさんだけです。(カクヨムは第1章だけ載ってますが需要ないのでやめました)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる