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モフモフ
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立ち上がった母犬の大きさにビビって、ものすごい勢いで後退りをしてアルの横に戻った。母犬が一歩向かって来ると、あたしたちは一歩後ろに下がる。
「……アル? もしかして今のあたしたち、ピンチ……?」
「いや、最初からピンチだよ……」
ですよねー! なんて明るく言えない雰囲気に、盛大にやらかしたんだと気付いた。気付いたけど、どうすることも出来ない。
「ちなみにゴブリンなんかとは比べ物にならないくらい賢くて、さらに凶暴だ……。群れで人を襲うらしいし、中には人の言葉も分かる個体もいるとか……」
マ? でも、でっかいけど犬だし、そんなに凶暴だとは思わないんだよなぁ。って犬に襲われたことがないから言えるセリフなんだろうけど。
「シンディ、逃げ出したらおそらく背中からやられる。だから討伐隊が来るまで僕たちがどうにかするしかない」
討伐隊なんているんだ、なんて変な感心をしつつ、でもこのモンスターを倒す気がないあたしは困り果てていた。そしてまた母犬が一歩進み、あたしたちは下がる。
母犬が進んだ先には、あたしが置いてきたままの背負いカゴが転がっている。母犬はクンクンと匂いを嗅ぎ、中に入っている魔石を前足で掻き出している。この先を予想することが出来なくて、あたしたちは母犬から目を離せない。けどその後ろでは子犬たちが悲痛な叫び声を上げ続けている。
魔石を物色していた母犬は、お目当ての魔石があったのかそれを器用に咥える。あたしは倒す気はないけど、いつでも防御に使える魔法を発動出来るように気合いだけは入れた。
すると母犬はあたしたちなんかに目もくれず、子犬たちのところに戻って行く。そして子犬たちの前に魔石を落とし、「ワフッ」と鳴き声なのか鼻息なのかを発する。その声を聞いたキャンキャンと鳴いていた子犬たちは、クンクンと魔石の匂いを嗅いでガリッガリッと豪快に噛み砕き始めた。
超デジャヴ……とか思っていると、子犬たちの体が光り始め、血まみれだった体には一滴の血も見当たらなくなった。
「ワオーン!」
「アオーン!」
子犬たちは元気いっぱいに遠吠えをするんだけど、アルは青ざめて冷や汗をかいてるし、あたしは白目を剥きそうだし、もうどうしたらいいのか分かんない。
その白目を剥きそうになった一瞬を子犬たちは見逃さなかったようで、こっちに向かって二匹は走って来る。つーか、めっちゃ速くね!?
あ、食われるわ……。そう覚悟したと同時に『凛ちゃんは シンディを救えず 他界する』なんて、走馬灯を見るよりも先に辞世の句を読んだ。
「シンディー!!」
アルの叫び声が横から聞こえる。モンスターを倒せないあたしが悪い。もう、全て受け入れよう……。そう思って目を瞑ると、子犬たちに体当たりをされあたしは倒れる。と同時に、めちゃくちゃ顔を舐められている。
「ちょ! 待っ! ぶふっ! わ!」
え? コレ、じゃれてね? なんとか目を開けて見ると、子犬たちは高速で尻尾を振っている。え? マ? 何回かタックルされつつも起き上がったあたしは叫んだ。
「お座り!」
すると子犬たちは見事にお座りをする。けど明らかにそわそわしている。遊びたいのかな?
「……シンディ?」
アルの声で我に返ったけど、なにこれ、超可愛くない!?
「アル! なんか懐いてる! 飼いたい!」
心の声をだだ漏れさせるとアルはドン引きしている。しかも小声で「無理でしょ……」って呟いてたし。
「ねぇ! ここにいたら討伐隊ってのが来ちゃうんだって! 危ないからさ、あたしと行こう!?」
自分で言いながら『どこにだよ』と心の中でツッコミを入れてしまう。そわそわとしていた子犬たちは振り返って母犬を見ると、母犬はゆっくりと歩いて来て静かにお座りをした。
「……あたしと一緒に来てくれるの?」
母犬に聞いてみると「フンッ」と鼻を鳴らしている。オッケーってことかな?
「よし! 名前があれば飼いモンスターってことで、討伐隊が見逃してくれるかも! お母さんから順に、テン! シン! ハン!」
だけどアルは横で「いやいや……本当に絶対に無理だよ……」と、震える声で呟いている。
指さしながら名前を付けると、三頭の犬たちは光り始め眩しい光の玉になった。そのまま光の玉はあたしに向かって飛んで来て、そして消えてしまった。
「え!? 消えちゃった!?」
「……シンディ……それ……」
あたしはキョロキョロしながら叫んでいると、アルは一点を見つめて震える指先で何かを指さしている。その指先はあたしの腰に付いている魔徹だった。
「……ん?」
あたしも変化に気付いて魔徹を抜いてみる。鍔に彫刻されていた龍の口と両手の部分に、今までなかった丸い宝石のような玉が付いている。
「……アル? まさか……」
「いやいや……まさか……」
二人で顔を見合わせてヒクついていると、入り口から討伐隊が走って来る。
「無事か!? モンスターは!?」
「……消えました……」
うん、嘘は言ってない……。何分か事情聴取みたいなことをされたけど、「最近魔力が不安定だったからな……」と討伐隊は納得してくれた。
帰っていく討伐隊の背中を見ながら、アルと「マーズニさんのところに行こう……」と話し合い、落ちてた魔石をかき集めてそのまままっすぐマーズニさんの家へと向かった。
「……アル? もしかして今のあたしたち、ピンチ……?」
「いや、最初からピンチだよ……」
ですよねー! なんて明るく言えない雰囲気に、盛大にやらかしたんだと気付いた。気付いたけど、どうすることも出来ない。
「ちなみにゴブリンなんかとは比べ物にならないくらい賢くて、さらに凶暴だ……。群れで人を襲うらしいし、中には人の言葉も分かる個体もいるとか……」
マ? でも、でっかいけど犬だし、そんなに凶暴だとは思わないんだよなぁ。って犬に襲われたことがないから言えるセリフなんだろうけど。
「シンディ、逃げ出したらおそらく背中からやられる。だから討伐隊が来るまで僕たちがどうにかするしかない」
討伐隊なんているんだ、なんて変な感心をしつつ、でもこのモンスターを倒す気がないあたしは困り果てていた。そしてまた母犬が一歩進み、あたしたちは下がる。
母犬が進んだ先には、あたしが置いてきたままの背負いカゴが転がっている。母犬はクンクンと匂いを嗅ぎ、中に入っている魔石を前足で掻き出している。この先を予想することが出来なくて、あたしたちは母犬から目を離せない。けどその後ろでは子犬たちが悲痛な叫び声を上げ続けている。
魔石を物色していた母犬は、お目当ての魔石があったのかそれを器用に咥える。あたしは倒す気はないけど、いつでも防御に使える魔法を発動出来るように気合いだけは入れた。
すると母犬はあたしたちなんかに目もくれず、子犬たちのところに戻って行く。そして子犬たちの前に魔石を落とし、「ワフッ」と鳴き声なのか鼻息なのかを発する。その声を聞いたキャンキャンと鳴いていた子犬たちは、クンクンと魔石の匂いを嗅いでガリッガリッと豪快に噛み砕き始めた。
超デジャヴ……とか思っていると、子犬たちの体が光り始め、血まみれだった体には一滴の血も見当たらなくなった。
「ワオーン!」
「アオーン!」
子犬たちは元気いっぱいに遠吠えをするんだけど、アルは青ざめて冷や汗をかいてるし、あたしは白目を剥きそうだし、もうどうしたらいいのか分かんない。
その白目を剥きそうになった一瞬を子犬たちは見逃さなかったようで、こっちに向かって二匹は走って来る。つーか、めっちゃ速くね!?
あ、食われるわ……。そう覚悟したと同時に『凛ちゃんは シンディを救えず 他界する』なんて、走馬灯を見るよりも先に辞世の句を読んだ。
「シンディー!!」
アルの叫び声が横から聞こえる。モンスターを倒せないあたしが悪い。もう、全て受け入れよう……。そう思って目を瞑ると、子犬たちに体当たりをされあたしは倒れる。と同時に、めちゃくちゃ顔を舐められている。
「ちょ! 待っ! ぶふっ! わ!」
え? コレ、じゃれてね? なんとか目を開けて見ると、子犬たちは高速で尻尾を振っている。え? マ? 何回かタックルされつつも起き上がったあたしは叫んだ。
「お座り!」
すると子犬たちは見事にお座りをする。けど明らかにそわそわしている。遊びたいのかな?
「……シンディ?」
アルの声で我に返ったけど、なにこれ、超可愛くない!?
「アル! なんか懐いてる! 飼いたい!」
心の声をだだ漏れさせるとアルはドン引きしている。しかも小声で「無理でしょ……」って呟いてたし。
「ねぇ! ここにいたら討伐隊ってのが来ちゃうんだって! 危ないからさ、あたしと行こう!?」
自分で言いながら『どこにだよ』と心の中でツッコミを入れてしまう。そわそわとしていた子犬たちは振り返って母犬を見ると、母犬はゆっくりと歩いて来て静かにお座りをした。
「……あたしと一緒に来てくれるの?」
母犬に聞いてみると「フンッ」と鼻を鳴らしている。オッケーってことかな?
「よし! 名前があれば飼いモンスターってことで、討伐隊が見逃してくれるかも! お母さんから順に、テン! シン! ハン!」
だけどアルは横で「いやいや……本当に絶対に無理だよ……」と、震える声で呟いている。
指さしながら名前を付けると、三頭の犬たちは光り始め眩しい光の玉になった。そのまま光の玉はあたしに向かって飛んで来て、そして消えてしまった。
「え!? 消えちゃった!?」
「……シンディ……それ……」
あたしはキョロキョロしながら叫んでいると、アルは一点を見つめて震える指先で何かを指さしている。その指先はあたしの腰に付いている魔徹だった。
「……ん?」
あたしも変化に気付いて魔徹を抜いてみる。鍔に彫刻されていた龍の口と両手の部分に、今までなかった丸い宝石のような玉が付いている。
「……アル? まさか……」
「いやいや……まさか……」
二人で顔を見合わせてヒクついていると、入り口から討伐隊が走って来る。
「無事か!? モンスターは!?」
「……消えました……」
うん、嘘は言ってない……。何分か事情聴取みたいなことをされたけど、「最近魔力が不安定だったからな……」と討伐隊は納得してくれた。
帰っていく討伐隊の背中を見ながら、アルと「マーズニさんのところに行こう……」と話し合い、落ちてた魔石をかき集めてそのまままっすぐマーズニさんの家へと向かった。
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