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開店
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お店は大工さんがどんどんと作っていくし商品も選んだし、アルも毎日行くとは言ってくれたけど、やっぱり全部任せるのは申し訳なくて毎日のように短時間でも抜け出してお店に行ったんだ。
最初のうちは店員予定のクロエさんたちは『シンシアお嬢様』『アルさん』『マックーリさん』って呼ぶのをやめてくれなくて困ったけど、同年代だし経営者からの命令だ! って権力を使ってようやく愛称や呼び捨てで呼び合えるようになったんだ。そうしたらお互いの距離がグッと近くなって、みんなも緊張感から開放されて生き生きとし始めたんだよね。
店内に品物を並べたりするのはセンスの良いアルが率先してやってくれて、あたしとクロエとエマの女子三人はプランターや鉢に花を植えて、あの小さな水の魔石を根元に忍ばせて店内外に飾り付けたんだ。
そしてオープン二日前にしてアルが慌て出した。
「忘れてた! 店名を決めてない!」
これには全員がギョッとした。後で話し合おうと思ってすっかり忘れていたらしい。
「どどど……どうしよアル!?」
「え!? シンディが決めて!」
頭の良いアルですら動揺からか頭が回らなくなっているみたいで、あたしたちは「どうしよどうしよ」と騒いでいると足りなかった土とか花を買いに行ってくれていた肉体労働担当のマックが戻って来た。
チリンチリーン!
「あれ? みんなどうしたんだ?」
マックの登場と共に鳴ったのは来客を告げるドアベルだ。
「あ! ベルの音! リーンは?」
「魔石ショップリーンか……もうそれに決めちゃおう!」
マックの存在を無視してあたしたちは安易に『リーン』という店名をつけて、アルがすぐに魔法協会に申請に走ってくれたんだよね。
何となくつけてしまった店名だけど、時間の経過と共にあたしの元の名前『凛』にもかかってて気恥ずかしくなってきちゃう。でもシンディの中身はシンディじゃありません、なんて言えないからあたしだけの秘密になってしまったけど。
────
そして迎えたオープン当日。朝早くからみんなが集まり大工さんも最後の一仕事として看板を設置してくれた。
『魔石ショップ リーン』
その文字が書かれた看板の隣には、魔法協会認定の看板も取り付けられた。大工さんたちは「俺たちの仕事はここまでだ。頑張れよ!」とあたしたちを労ってくれて握手で別れた。
みんなで店内に入るとアルが口を開いた。
「クロエ、エマ、宣伝になるからこのアクセサリーをつけて。僕の作品だよ」
爽やかに話すアルに二人は「似合いませんから!」とか言って青ざめている。アルの作品の価値を知ってるからなんだろうけど、それで引き下がるアルじゃない。
「じゃあ経営者命令。仕事中はつけること」
命令されてしまった二人は震える手でアクセサリーを身につけていくけど、クロエは色白の肌に映えるピンクの宝石のネックレスとイヤリングを、エマは瞳の色と同じ水色の宝石のネックレスと指輪をする。
「うわっ! さすがアル! 二人に似合いすぎる!」
思ったことを口に出すと褒められた三人は照れているようだ。準備は昨日のうちに全部終わらせていたから、あたしたちは緊張しないようにオープン時間まで談笑をして過ごし、そしてついにオープン時間となった。
チリンチリーン!
「いらっし……おぉ! よく来てくれた!」
記念すべき来店一号客はジョンの友人とその母親だった。ジョンは嬉しそうに駆け寄り商品の説明をするといくつかの魔石を買ってくれたんだ。その後も来店するのはうちの店員の友人や近所の人ばかり。……あれか? もしかしてシミュゲーにありがちな、オープンしてもすぐにお客さんが来るわけじゃなくてじわじわと増えるやつ? え? そんなの稼げないじゃん!
あたしは二階に駆け上がって、ラッピング用の紙をハサミでいくらか小さく切っていると驚いたアルに声をかけられた。
「ど……どうしたのシンディ?」
「ビラ配りに行ってくる! 何か書くもの貸して!」
あたしの気迫に戸惑いながらもアルは筆記用具を貸してくれた。あまりにもセンスのないビラを一枚書くと、アルが「ちょっと場所を開けて」って言うから避けると「こういうのは作ったことないんだけど」と言いながら魔力を開放する。アルの魔力はあたしが切った紙に集まり、キラキラとした魔力の光は文字となって印刷物のようになった。しかもあたしが書いたものよりももちろんセンスが良い。
「さすがアル……じゃ配って来る!」
あたしは紙の束を掴んで下に降りるとマックを捕まえ外に出た。
「マック! これ配って集客アップするよ!」
「お……おぉ分かった!」
あたしに圧倒されてたマックだけど、ビラの半分を持って通りに出る。あたしもビラを配ろうとするけど、街を歩く人は相変わらずどこに焦点が合っているのか分からない目をして歩いていて怖い。だけど怖じ気付いてる場合じゃないと自分を奮い立たせて歩く人の目の前に飛び出す。
「新しく開店しました! 来てくださいね」
飛び出したことによってか、それともビラを出されたからか街の人は立ち止まりあたしの目を見た。すると屋敷のメイドたちのように表情から何から急に人間らしくなった。この人たちは魔法がかかってるわけじゃないと思うんだけど、モブキャラに命が宿ったって感じなのかな? 人間味を帯びた街の人たちはお店に興味を持ってくれて何人もの人たちがお店に入ってくれる。超達成感!
だけどさ、今さらだけど、あたしの目っていうか『目の魔法』って実はすごいんじゃね? 後でみんなに相談しようと心に決めて、あたしは必死にビラを配りまくった。
最初のうちは店員予定のクロエさんたちは『シンシアお嬢様』『アルさん』『マックーリさん』って呼ぶのをやめてくれなくて困ったけど、同年代だし経営者からの命令だ! って権力を使ってようやく愛称や呼び捨てで呼び合えるようになったんだ。そうしたらお互いの距離がグッと近くなって、みんなも緊張感から開放されて生き生きとし始めたんだよね。
店内に品物を並べたりするのはセンスの良いアルが率先してやってくれて、あたしとクロエとエマの女子三人はプランターや鉢に花を植えて、あの小さな水の魔石を根元に忍ばせて店内外に飾り付けたんだ。
そしてオープン二日前にしてアルが慌て出した。
「忘れてた! 店名を決めてない!」
これには全員がギョッとした。後で話し合おうと思ってすっかり忘れていたらしい。
「どどど……どうしよアル!?」
「え!? シンディが決めて!」
頭の良いアルですら動揺からか頭が回らなくなっているみたいで、あたしたちは「どうしよどうしよ」と騒いでいると足りなかった土とか花を買いに行ってくれていた肉体労働担当のマックが戻って来た。
チリンチリーン!
「あれ? みんなどうしたんだ?」
マックの登場と共に鳴ったのは来客を告げるドアベルだ。
「あ! ベルの音! リーンは?」
「魔石ショップリーンか……もうそれに決めちゃおう!」
マックの存在を無視してあたしたちは安易に『リーン』という店名をつけて、アルがすぐに魔法協会に申請に走ってくれたんだよね。
何となくつけてしまった店名だけど、時間の経過と共にあたしの元の名前『凛』にもかかってて気恥ずかしくなってきちゃう。でもシンディの中身はシンディじゃありません、なんて言えないからあたしだけの秘密になってしまったけど。
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そして迎えたオープン当日。朝早くからみんなが集まり大工さんも最後の一仕事として看板を設置してくれた。
『魔石ショップ リーン』
その文字が書かれた看板の隣には、魔法協会認定の看板も取り付けられた。大工さんたちは「俺たちの仕事はここまでだ。頑張れよ!」とあたしたちを労ってくれて握手で別れた。
みんなで店内に入るとアルが口を開いた。
「クロエ、エマ、宣伝になるからこのアクセサリーをつけて。僕の作品だよ」
爽やかに話すアルに二人は「似合いませんから!」とか言って青ざめている。アルの作品の価値を知ってるからなんだろうけど、それで引き下がるアルじゃない。
「じゃあ経営者命令。仕事中はつけること」
命令されてしまった二人は震える手でアクセサリーを身につけていくけど、クロエは色白の肌に映えるピンクの宝石のネックレスとイヤリングを、エマは瞳の色と同じ水色の宝石のネックレスと指輪をする。
「うわっ! さすがアル! 二人に似合いすぎる!」
思ったことを口に出すと褒められた三人は照れているようだ。準備は昨日のうちに全部終わらせていたから、あたしたちは緊張しないようにオープン時間まで談笑をして過ごし、そしてついにオープン時間となった。
チリンチリーン!
「いらっし……おぉ! よく来てくれた!」
記念すべき来店一号客はジョンの友人とその母親だった。ジョンは嬉しそうに駆け寄り商品の説明をするといくつかの魔石を買ってくれたんだ。その後も来店するのはうちの店員の友人や近所の人ばかり。……あれか? もしかしてシミュゲーにありがちな、オープンしてもすぐにお客さんが来るわけじゃなくてじわじわと増えるやつ? え? そんなの稼げないじゃん!
あたしは二階に駆け上がって、ラッピング用の紙をハサミでいくらか小さく切っていると驚いたアルに声をかけられた。
「ど……どうしたのシンディ?」
「ビラ配りに行ってくる! 何か書くもの貸して!」
あたしの気迫に戸惑いながらもアルは筆記用具を貸してくれた。あまりにもセンスのないビラを一枚書くと、アルが「ちょっと場所を開けて」って言うから避けると「こういうのは作ったことないんだけど」と言いながら魔力を開放する。アルの魔力はあたしが切った紙に集まり、キラキラとした魔力の光は文字となって印刷物のようになった。しかもあたしが書いたものよりももちろんセンスが良い。
「さすがアル……じゃ配って来る!」
あたしは紙の束を掴んで下に降りるとマックを捕まえ外に出た。
「マック! これ配って集客アップするよ!」
「お……おぉ分かった!」
あたしに圧倒されてたマックだけど、ビラの半分を持って通りに出る。あたしもビラを配ろうとするけど、街を歩く人は相変わらずどこに焦点が合っているのか分からない目をして歩いていて怖い。だけど怖じ気付いてる場合じゃないと自分を奮い立たせて歩く人の目の前に飛び出す。
「新しく開店しました! 来てくださいね」
飛び出したことによってか、それともビラを出されたからか街の人は立ち止まりあたしの目を見た。すると屋敷のメイドたちのように表情から何から急に人間らしくなった。この人たちは魔法がかかってるわけじゃないと思うんだけど、モブキャラに命が宿ったって感じなのかな? 人間味を帯びた街の人たちはお店に興味を持ってくれて何人もの人たちがお店に入ってくれる。超達成感!
だけどさ、今さらだけど、あたしの目っていうか『目の魔法』って実はすごいんじゃね? 後でみんなに相談しようと心に決めて、あたしは必死にビラを配りまくった。
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