上 下
28 / 65

開店

しおりを挟む
 お店は大工さんがどんどんと作っていくし商品も選んだし、アルも毎日行くとは言ってくれたけど、やっぱり全部任せるのは申し訳なくて毎日のように短時間でも抜け出してお店に行ったんだ。

 最初のうちは店員予定のクロエさんたちは『シンシアお嬢様』『アルさん』『マックーリさん』って呼ぶのをやめてくれなくて困ったけど、同年代だし経営者からの命令だ! って権力を使ってようやく愛称や呼び捨てで呼び合えるようになったんだ。そうしたらお互いの距離がグッと近くなって、みんなも緊張感から開放されて生き生きとし始めたんだよね。
 店内に品物を並べたりするのはセンスの良いアルが率先してやってくれて、あたしとクロエとエマの女子三人はプランターや鉢に花を植えて、あの小さな水の魔石を根元に忍ばせて店内外に飾り付けたんだ。

 そしてオープン二日前にしてアルが慌て出した。

「忘れてた! 店名を決めてない!」

 これには全員がギョッとした。後で話し合おうと思ってすっかり忘れていたらしい。

「どどど……どうしよアル!?」

「え!? シンディが決めて!」

 頭の良いアルですら動揺からか頭が回らなくなっているみたいで、あたしたちは「どうしよどうしよ」と騒いでいると足りなかった土とか花を買いに行ってくれていた肉体労働担当のマックが戻って来た。

 チリンチリーン!

「あれ? みんなどうしたんだ?」

 マックの登場と共に鳴ったのは来客を告げるドアベルだ。

「あ! ベルの音! リーンは?」

「魔石ショップリーンか……もうそれに決めちゃおう!」

 マックの存在を無視してあたしたちは安易に『リーン』という店名をつけて、アルがすぐに魔法協会に申請に走ってくれたんだよね。
 何となくつけてしまった店名だけど、時間の経過と共にあたしの元の名前『凛』にもかかってて気恥ずかしくなってきちゃう。でもシンディの中身はシンディじゃありません、なんて言えないからあたしだけの秘密になってしまったけど。

────

 そして迎えたオープン当日。朝早くからみんなが集まり大工さんも最後の一仕事として看板を設置してくれた。

『魔石ショップ リーン』

 その文字が書かれた看板の隣には、魔法協会認定の看板も取り付けられた。大工さんたちは「俺たちの仕事はここまでだ。頑張れよ!」とあたしたちを労ってくれて握手で別れた。

 みんなで店内に入るとアルが口を開いた。

「クロエ、エマ、宣伝になるからこのアクセサリーをつけて。僕の作品だよ」

 爽やかに話すアルに二人は「似合いませんから!」とか言って青ざめている。アルの作品の価値を知ってるからなんだろうけど、それで引き下がるアルじゃない。

「じゃあ経営者命令。仕事中はつけること」

 命令されてしまった二人は震える手でアクセサリーを身につけていくけど、クロエは色白の肌に映えるピンクの宝石のネックレスとイヤリングを、エマは瞳の色と同じ水色の宝石のネックレスと指輪をする。

「うわっ! さすがアル! 二人に似合いすぎる!」

 思ったことを口に出すと褒められた三人は照れているようだ。準備は昨日のうちに全部終わらせていたから、あたしたちは緊張しないようにオープン時間まで談笑をして過ごし、そしてついにオープン時間となった。

 チリンチリーン!

「いらっし……おぉ! よく来てくれた!」

 記念すべき来店一号客はジョンの友人とその母親だった。ジョンは嬉しそうに駆け寄り商品の説明をするといくつかの魔石を買ってくれたんだ。その後も来店するのはうちの店員の友人や近所の人ばかり。……あれか? もしかしてシミュゲーにありがちな、オープンしてもすぐにお客さんが来るわけじゃなくてじわじわと増えるやつ? え? そんなの稼げないじゃん!
 あたしは二階に駆け上がって、ラッピング用の紙をハサミでいくらか小さく切っていると驚いたアルに声をかけられた。

「ど……どうしたのシンディ?」

「ビラ配りに行ってくる! 何か書くもの貸して!」

 あたしの気迫に戸惑いながらもアルは筆記用具を貸してくれた。あまりにもセンスのないビラを一枚書くと、アルが「ちょっと場所を開けて」って言うから避けると「こういうのは作ったことないんだけど」と言いながら魔力を開放する。アルの魔力はあたしが切った紙に集まり、キラキラとした魔力の光は文字となって印刷物のようになった。しかもあたしが書いたものよりももちろんセンスが良い。

「さすがアル……じゃ配って来る!」

 あたしは紙の束を掴んで下に降りるとマックを捕まえ外に出た。

「マック! これ配って集客アップするよ!」

「お……おぉ分かった!」

 あたしに圧倒されてたマックだけど、ビラの半分を持って通りに出る。あたしもビラを配ろうとするけど、街を歩く人は相変わらずどこに焦点が合っているのか分からない目をして歩いていて怖い。だけど怖じ気付いてる場合じゃないと自分を奮い立たせて歩く人の目の前に飛び出す。

「新しく開店しました! 来てくださいね」

 飛び出したことによってか、それともビラを出されたからか街の人は立ち止まりあたしの目を見た。すると屋敷のメイドたちのように表情から何から急に人間らしくなった。この人たちは魔法がかかってるわけじゃないと思うんだけど、モブキャラに命が宿ったって感じなのかな? 人間味を帯びた街の人たちはお店に興味を持ってくれて何人もの人たちがお店に入ってくれる。超達成感!
 だけどさ、今さらだけど、あたしの目っていうか『目の魔法』って実はすごいんじゃね? 後でみんなに相談しようと心に決めて、あたしは必死にビラを配りまくった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる
ファンタジー
ゴーナ王国のフォンブランデイル公爵家のみに秘かに伝わる、異世界を覗くことができる特殊スキル【神の眼】が発現した嫡男ドレイファス。  しかしそれは使いたいときにいつでも使える力ではなく、自分が見たい物が見られるわけでもなく、見たからといって見た物がすぐ作れるわけでもない。  食いしん坊で心優しくかわいい少年ドレイファスの、知らない世界が見えるだけの力を、愛する家族と仲間、使用人たちが活かして新たな物を作り上げ、領地を発展させていく。 主人公のまわりの人々が活躍する、ゆるふわじれじれほのぼののお話です。 ゆるい設定でゆっくりと話が進むので、気の長い方向きです。 ※日曜の昼頃に更新することが多いです。 ※キャラクター整理を兼ね、AIイラストつくろっ!というアプリでキャラ画を作ってみました。意外とイメージに近くて驚きまして、インスタグラムID koha-ya252525でこっそり公開しています。(まだ五枚くらいですが) 作者の頭の中で動いている姿が見たい方はどうぞ。自分のイメージが崩れるのはイヤ!という方はスルーでお願いします。 ※グゥザヴィ兄弟の並び(五男〜七男)を修正しました。 ※R15は途中に少しその要素があるので念のため設定しています。 ※小説家になろう様でも投稿していますが、なかなか更新作業ができず・・・アルファポリス様が断然先行しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

今度こそ幸せになります! 拍手の中身

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の拍手お礼にあげていた文の置き場になります。中身はお遊びなので、本編には関係ない場合があります。拍手が見られなかった・拍手はしなかった人向けです。手直し等はないのでご了承ください。タイトル、ひねりもなんにもなかったなあ……。 他サイトからのお引っ越しです。

スキル、訳あり品召喚でお店始めます!

猫 楊枝
ファンタジー
14歳の理子は母親から食事もロクに与えてもらえない過酷なネグレクトにあっている。 理子はそんな過酷な日常を少しでも充実させる為、母から与えられた僅かなお金を貯めてはスーパーで売られている『訳あり品』を購入しながら凌いでいる。 しかし、母親が恋人に会いに行って戻ってこない日が続いた事によって生死の境をさ迷ってしまう。 空腹で気を失った理子が目を覚ました先はゴツゴツとした岩壁に阻まれた土埃漂うダンジョンだった。 ダンジョンで出会った人間の言葉を話せる、モフモフのはぐれ魔獣『カルベロッサ・ケルベロシアン・リヴァイアス3世』通称カルちゃんに導かれ、スキル『訳あり品召喚』を駆使して商いで生きていく決意をする。 これは過酷な現状に弱音を吐かず前向きに頑張る一匹と少女の物語である。

フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ
恋愛
国を襲う伝染病で幼くして母親を失い、父からも愛情を受けることが出来ず、再婚により新しくできた異母妹に全てを奪われたララスティは、20歳の誕生日のその日、婚約者のカイルに呼び出され婚約破棄を言い渡された。 失意の中家に帰れば父の命令で修道院に向かわされる。 しかし、その道程での事故によりララスティは母親が亡くなった直後の7歳児の時に回帰していた。 頭を整理するためと今後の活動のために母方の伯父の元に身を寄せ、前回の復讐と自分の行動によって結末が変わるのかを見届けたいという願いを叶えるためにララスティは計画を練る。 前回と同じように父親が爵位を継いで再婚すると、やはり異母妹のエミリアが家にやってきてララスティのものを奪っていくが、それはもうララスティの復讐計画の一つに過ぎない。 やってくる前に下ごしらえをしていたおかげか、前回とは違い「可哀相な元庶子の異母妹」はどこにもおらず、そこにいるのは「異母姉のものを奪う教養のない元庶子」だけ。 変わらないスケジュールの中で変わっていく人間模様。 またもやララスティの婚約者となったカイルは前回と同じようにエミリアを愛し「真実の愛」を貫くのだろうか? そしてルドルフとの接触で判明したララスティですら知らなかった「その後」の真実も明かされ、物語はさらなる狂想へと進みだす。 味方のふりをした友人の仮面をかぶった悪女は物語の結末を待っている。 フ ル ハッピーエンディング そういったのは だ ぁ れ ? ☆他サイトでも投稿してます

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

処理中です...