貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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危険な人

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 子アオーンを撫で回しているうちに、私やスイレン、ペーターさんの抜けた腰は復活した。というよりも、スイレンとペーターさんは激しく怯えており、とにかくこの子から離れたいらしい。
 ひとまず敷地内に全員で入り、金網の入り口を閉めると、ニコライさんは大きいアオーンを撫でながらニコニコと話し始めた。

「心配ですからまた逃げ出したり、勝手にお嫁さんを探しに行くのは禁止です。だからこの金属の網で屋敷を囲みました」

 セキュリティ対策として、外側から中を守るための金網だと思っていたが、どうやらアオーンを逃がさないための金網だったようだ。
 ニコライさんの発言を聞いたお父様の脳が、ようやく回復したようだ。

「ではニコライも縛り付けねばならんな。カレンだけではなく、あちらこちらで求婚ばかりしているのだから」

 お父様の発言に私たちは爆笑をした。アオーンは害がないと大人たちは判断したらしく、悪ノリをしたお父様とタデ、そしてオヒシバがニコライさんを捕まえて、やいのやいのと騒いでいた時だ。

「坊ちゃまー! 皆のもの! 賊です! 坊ちゃまが賊に襲われています!」

 ガチャリ、とお屋敷の扉が開くと同時に高齢の、実に執事らしい格好の男性が叫んだ。

「あぁ! エドワード! 誤解です!」

 ニコライさんはそのエドワードさんに叫び返している。とはいえ、これでも王族であるお坊ちゃまを、大の男が三人で押さえつけたりしていたのだ。賊に間違われても仕方がない。

「「あの!」」

 私とお母様は同時に一歩踏み出した。誤解を解くために何か言わねば……そう思った一瞬のうちに、エドワードさんはお母様と私を見て、そして腰を抜かした。

「だ……大丈夫ですか……?」

 なぜ腰を抜かしたのかは分からないが、驚愕の表情をして震える老人をそのままにはしておけない。私とお母様はエドワードさんに手を貸そうと差し伸べた。

「……ぼぼぼぼぼぼぼぼ……坊ちゃまー!!!!」

 今の今まで腰を抜かしていたエドワードさんは、お父様顔負けの声量で叫び、ニコライさんを睨みつけながら立ち上がった。
 腰を抜かしたせいで力が入らないのか、その足はカクカクと震えた生まれ立ての動物のようで、私とお母様はハラハラとしながらその体を支えた。

「坊ちゃま! 見損ないましたぞー!」

 どういうことなのかを聞く前に、エドワードさんは勝手に話し始めた。もちろんこの場の全員が状況を理解できず、ポカンとしている。

「早く坊ちゃまの奥様やお子様を見たいと申し上げましたが! まさか! リーンウン国から人をさらって来るなんて! 情けない!」

 どうやら激しい誤解をしているようだが、あまりの気迫に誰も口を挟めない。

「こんな美女が! 坊ちゃまの相手をするはずがないでしょう!? こんな小さな子までさらうなんて! 何を考えているんですか!? そりゃあリーンウン国から! 奪還しに来ますよ! 恥を知りなさい!」

 一言一言を区切るように怒鳴っているが、どうやらエドワードさんはお母様と私が誘拐されたと、本当に本気で思っているらしい。しかも極秘のヒーズル王国を知らないがために、私たちの見た目からリーンウン国から誘拐したと信じて疑わないようだ。

「エドワード! 誤解です! 貴方、頭に血が上ると何をするか……」

 ニコライさんは必死に弁解をしようとしているが、エドワードさんの勢いは衰えない。
 エドワードさんは着ているジャケットの内側から、震える手で小型のナイフを取り出した。それを振りかぶり、ニコライさんに投げつけようとしている。
 危険を察知し、私は慌ててエドワードさんから距離を取ったが、今日のお母様はいつもの天然モードとは違った。

「えい!」

 エドワードさんがナイフを構え威嚇していると、お母様はなんと手刀でそのナイフを叩き落とした。もちろん、私もエドワードさんも呆気にとられている。

「誘拐ではなくて、ニコライさんと遊びに来たんですよ。その武器で私の子どもたちや夫が怪我をしたら大変」

 そう言うお母様はいつものように『うふふ』と笑っているが、普段は天然おっとりなせいで、たまに森の民らしさを出されると娘の私ですら困惑してしまう。
 娘も困惑するくらいなのだから、エドワードさんもまた頭が真っ白になっているようで……いや、これはいつものアレのようだ……。

「……なんと……お美しい……」

 陸に上げられた魚のように口をパクパクさせ、瞬きもせずにエドワードさんはお母様を見ている。いや、見ているなんてものではない。凝視している。
 ……これは危険なのではないだろうか?

「エドワードー! 見ては……見てはいけません!!」

 タデもオヒシバもいつものことかと呆れ笑いをしているが、お父様はまだよく分かっていないのかポカンとしている。
 そのおかげでニコライさんを掴む手が緩み、ニコライさんは全力疾走でエドワードさんの元へと向かって来た。そのニコライさんの後を、スイッチの入ったアオーンが追走するという、なかなかカオスな展開となっている。

「エドワード! 知らないとはいえ……あの方を直視することは危険なんですよ!」

 私のお母様はメドゥーサか何かだろうか? 

「確かにここに女性が来たのは初めてです! エドワード、気を確かに! 顔を見てはいけません! 胸を見るのです!」

 何かとんでもないことを言っている気がするが、エドワードさんにまとわりつくニコライさんにアオーンがまとわりつくという、どこから手を付けたら良いのか分からない状況であり、ツッコミどころと情報量が多すぎて私ですら対処できない。
 そんな中、エドワードさんはニコライさんの言うとおりほんの少しだけ視線を落としたようだ。

「……っ!」

 決して谷間が見えるような服ではないが、服の上からでも分かる豊満な胸を見て、そしてまた視線を戻してお母様の顔を確認したのか、エドワードさんは真っ赤になり倒れてしまった。

「あぁ! レンゲ様! エドワードに何をするんですか!?」

「「は?」」

 その言葉を聞いて、私とお母様は抗議をした。悪いが、勝手に騒ぎ、勝手に倒れたのはエドワードさんだ。それを詰めているとお父様が参戦し、「レンゲの胸などと……破廉恥な!」と、違う部分で激怒している。

「皆様、落ち着いてください。どうぞ中へ」

 ニコライさん宅の玄関前には、いつの間にかまた別の高齢の男性が立っていて、物静かそうな見た目からは想像できない良く通る声で話している。
 その隣にはスイレンとペーターさんがおり、どうやら収拾と助けを求めたようだ。さすがは誰よりも冷静な私の弟と、元リトールの町の町長である。

 切り替えの早い私たちヒーズル王国民は、何事もなかったかのように厚かましくも屋敷に向かおうとするが、ニコライさんは震えながら何かをブツブツと言っている。
 耳を澄ますと「ゴードンはこめかみグリグリ……」と、壊れたように繰り返している。

 お父様はニコライさんをお姫様抱っこをし、眩しいほどの笑顔で「破廉恥なことを言った罰が下ったな」と言っている。
 さあ、こめかみグリグリを見てみようではないか。
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