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工場見学
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よほど疲れていたのか、かなりぐっすりと眠ることが出来た。
昨夜の夕食はティージュ料理づくしとなったが、ヒーズル王国民もルーカス王たちも、サツマイモの時のように料理の奪い合いが始まる程だった。
もちろん今回は私も参戦した。お持ち帰り用のティージュが無くなったのだ。食べなければ気が済まなかった。
昨夜のことを思い出しながら、皆で朝食が用意されている部屋へと向かった。すると、扉を開けると同時にルーカス王とニコライさんが駆け寄って来るではないか。
「カレン姫!」
「カレン嬢!」
二人とも同時に一気にまくし立てるので上手く聞き取れないが、お祖父様お祖母様という言葉だけは何回も聞こえた。
ニコライさんを制止しルーカス王から話を聞くと、とんでもないことを言うではないか。
「昨日はお祖父様にティージュの焼き菓子をありがとうございました! お祖父様はティージュが大好物ですし、お祖母様は焼き菓子に大興奮でした!」
確かに昨日、私は謎のお爺さんにそれを渡した。それがまさか前々王だとは思いもしなかったのだ。脳が追い付かず、ルーカス王の前で間抜けな顔をしたのは言うまでもない。
「お祖父様が王の時代には好物ということもあり、良質なティージュが毎日のように運ばれて来たそうです。ですが一線を退いてからは前王である父に全てを任せ、食事にすら何も注文もせずに徹底的に静かに暮らしていたのです」
前々王は『新しい王がいるならば前王は出しゃばらず』と言い、ほとんど部屋からも出ない隠居生活をしているそうだ。
ただ、その隠居生活の部屋はこの建物の中で一番広いらしく、外の庭園に出る勝手口まであるそうだ。なので引きこもりな訳ではなく、本当に静かな暮らしをしているようだ。
ともかく、そんな慎ましく暮らしているお二人が、ここ数年では見たことがないほど喜んでいたことが嬉しいと、その孫たちは感謝と興奮をしているようだった。
────
衝撃的な朝を迎えたせいか部分的に記憶が飛んでいるが、どうやら今日はニコライさんの工場へと向かうようだ。バ車に揺られて向かっているようだが、頭がまだ追いついて来ないのだ。
城下町を抜け低地へと到着すると、私たちは窓から外を覗き見る。
なるほど。土地が痩せているのか、草木もほとんど生えていない。それどころか、数少ない木は枯れている。そして今から向かうニコライさんの工場では、火を使うので木を切り倒す。
空気の悪さも顕著だった。風が吹けば土ぼこりが巻き上がり、視界が悪く遠くまで見渡すことも出来ない。これは砂漠化の始まりではないだろうか?
このような状態であれば、農作業など出来ずに民たちが城下町に押し寄せて来るのも頷ける。
「カレン嬢、気付いたことがあれば何でも仰ってくださいね」
ウッカリしているくせに、変なところはしっかりとしているニコライさんはそう言った。
「あまりこの土ぼこりは吸い込まないほうが良いと思うわ。御者の口元に布などを巻いてあげて」
そう言うとニコライさんはすぐにバ車を停め、ポケットからハンカチのような布を取り出し、御者の口元に無理やり巻き付けていた。
ニコライさんの優しさにお父様は目を細めて頷きながら見ていたが、御者は大変迷惑そうな表情をしていた。
時折強い風が吹くと、ひどい黄砂のような霞んだ景色の中を進み、ようやくニコライさんの工場へと到着した。
かなり広大な敷地の中にいくつかの建物があり、やはりニコライさんはセレブなのだと再認識させられた。
近くに鉄鉱石の鉱山があるらしく、ここは主に鉄や鉄製品、ガラスなどを作っている中規模の施設らしい。
建物は外観は洋風だが、中に入ると和風に近い造りで、まるで某アニメ映画に出て来た『たたら場』のようであり、洋装の人たちが踏みふいごを踏んでいる様は何とも不思議な光景であり、そして圧巻の光景でもあった。
「この暑さの中、ずっと作業をするのか?」
様々な音が鳴り響く中、少し声を張ったお父様がニコライさんに話しかけた。
「そうです。数日ほど休みなく空気を送ってもらいます」
その言葉に私たちは驚いた。
「ですがここは少し古めの工場でして。最新の工場では『ふいご』の仕組みが別の形状をしておりまして、二人一組で作業をしてもらっています」
やはりこの世界でも製鉄は大変な作業らしい。それでもテックノン王国製の鉄の需要が高いため、ニコライさんの工場で働く人たちは高賃金らしく、働きたい人が多いのだそうだ。
だがしかし、全員を雇うことは出来ないので、ここで働けない人たちは貧しい暮らしをするしかないのだそうだ。
「……ニコライさん、微々たる量だけれど、私たちの国の炭は需要があるかしら?」
先ほど見た風景では、この地には木があまり生えていない。しかし燃料となる物がなければ、この工場の人たちも生活をしていくことは出来ないだろう。
「それは大変助かります! 他の国からも、良く燃える木材や炭を輸入しているんです!」
それを聞いて私は頷いた。段々とやる気が満ち溢れてくる。
「木材でも良いのね? 分かったわ。輸出する量を増やすようにするわね。そうしたら、この土地の伐採は最低限にしましょう。ヒーズル王国のように砂だらけになるわよ」
ペーターさんにどういうことかと尋ねられたので、皆にも分かるように大地の汚染と砂漠化について簡単に説明をした。
「ニコライさん! 土地の浄化をして畑を復活させて、この国の食料自給率を上げましょう! 心配いらないわ。あの砂しかなかった土地で、私たちはやってのけたのだから!」
拳を振り上げてそう言うと拍手喝采となったが、なぜかニコライさんとオヒシバは「バンザーイ! バンザーイ!」とハモっていた。
昨夜の夕食はティージュ料理づくしとなったが、ヒーズル王国民もルーカス王たちも、サツマイモの時のように料理の奪い合いが始まる程だった。
もちろん今回は私も参戦した。お持ち帰り用のティージュが無くなったのだ。食べなければ気が済まなかった。
昨夜のことを思い出しながら、皆で朝食が用意されている部屋へと向かった。すると、扉を開けると同時にルーカス王とニコライさんが駆け寄って来るではないか。
「カレン姫!」
「カレン嬢!」
二人とも同時に一気にまくし立てるので上手く聞き取れないが、お祖父様お祖母様という言葉だけは何回も聞こえた。
ニコライさんを制止しルーカス王から話を聞くと、とんでもないことを言うではないか。
「昨日はお祖父様にティージュの焼き菓子をありがとうございました! お祖父様はティージュが大好物ですし、お祖母様は焼き菓子に大興奮でした!」
確かに昨日、私は謎のお爺さんにそれを渡した。それがまさか前々王だとは思いもしなかったのだ。脳が追い付かず、ルーカス王の前で間抜けな顔をしたのは言うまでもない。
「お祖父様が王の時代には好物ということもあり、良質なティージュが毎日のように運ばれて来たそうです。ですが一線を退いてからは前王である父に全てを任せ、食事にすら何も注文もせずに徹底的に静かに暮らしていたのです」
前々王は『新しい王がいるならば前王は出しゃばらず』と言い、ほとんど部屋からも出ない隠居生活をしているそうだ。
ただ、その隠居生活の部屋はこの建物の中で一番広いらしく、外の庭園に出る勝手口まであるそうだ。なので引きこもりな訳ではなく、本当に静かな暮らしをしているようだ。
ともかく、そんな慎ましく暮らしているお二人が、ここ数年では見たことがないほど喜んでいたことが嬉しいと、その孫たちは感謝と興奮をしているようだった。
────
衝撃的な朝を迎えたせいか部分的に記憶が飛んでいるが、どうやら今日はニコライさんの工場へと向かうようだ。バ車に揺られて向かっているようだが、頭がまだ追いついて来ないのだ。
城下町を抜け低地へと到着すると、私たちは窓から外を覗き見る。
なるほど。土地が痩せているのか、草木もほとんど生えていない。それどころか、数少ない木は枯れている。そして今から向かうニコライさんの工場では、火を使うので木を切り倒す。
空気の悪さも顕著だった。風が吹けば土ぼこりが巻き上がり、視界が悪く遠くまで見渡すことも出来ない。これは砂漠化の始まりではないだろうか?
このような状態であれば、農作業など出来ずに民たちが城下町に押し寄せて来るのも頷ける。
「カレン嬢、気付いたことがあれば何でも仰ってくださいね」
ウッカリしているくせに、変なところはしっかりとしているニコライさんはそう言った。
「あまりこの土ぼこりは吸い込まないほうが良いと思うわ。御者の口元に布などを巻いてあげて」
そう言うとニコライさんはすぐにバ車を停め、ポケットからハンカチのような布を取り出し、御者の口元に無理やり巻き付けていた。
ニコライさんの優しさにお父様は目を細めて頷きながら見ていたが、御者は大変迷惑そうな表情をしていた。
時折強い風が吹くと、ひどい黄砂のような霞んだ景色の中を進み、ようやくニコライさんの工場へと到着した。
かなり広大な敷地の中にいくつかの建物があり、やはりニコライさんはセレブなのだと再認識させられた。
近くに鉄鉱石の鉱山があるらしく、ここは主に鉄や鉄製品、ガラスなどを作っている中規模の施設らしい。
建物は外観は洋風だが、中に入ると和風に近い造りで、まるで某アニメ映画に出て来た『たたら場』のようであり、洋装の人たちが踏みふいごを踏んでいる様は何とも不思議な光景であり、そして圧巻の光景でもあった。
「この暑さの中、ずっと作業をするのか?」
様々な音が鳴り響く中、少し声を張ったお父様がニコライさんに話しかけた。
「そうです。数日ほど休みなく空気を送ってもらいます」
その言葉に私たちは驚いた。
「ですがここは少し古めの工場でして。最新の工場では『ふいご』の仕組みが別の形状をしておりまして、二人一組で作業をしてもらっています」
やはりこの世界でも製鉄は大変な作業らしい。それでもテックノン王国製の鉄の需要が高いため、ニコライさんの工場で働く人たちは高賃金らしく、働きたい人が多いのだそうだ。
だがしかし、全員を雇うことは出来ないので、ここで働けない人たちは貧しい暮らしをするしかないのだそうだ。
「……ニコライさん、微々たる量だけれど、私たちの国の炭は需要があるかしら?」
先ほど見た風景では、この地には木があまり生えていない。しかし燃料となる物がなければ、この工場の人たちも生活をしていくことは出来ないだろう。
「それは大変助かります! 他の国からも、良く燃える木材や炭を輸入しているんです!」
それを聞いて私は頷いた。段々とやる気が満ち溢れてくる。
「木材でも良いのね? 分かったわ。輸出する量を増やすようにするわね。そうしたら、この土地の伐採は最低限にしましょう。ヒーズル王国のように砂だらけになるわよ」
ペーターさんにどういうことかと尋ねられたので、皆にも分かるように大地の汚染と砂漠化について簡単に説明をした。
「ニコライさん! 土地の浄化をして畑を復活させて、この国の食料自給率を上げましょう! 心配いらないわ。あの砂しかなかった土地で、私たちはやってのけたのだから!」
拳を振り上げてそう言うと拍手喝采となったが、なぜかニコライさんとオヒシバは「バンザーイ! バンザーイ!」とハモっていた。
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