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タデとカレン、やらかす
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「……ペーターさん、何を……」
「……言っているのかしら……?」
私とスイレンは口元がヒクヒクとしている。
「そんなに謙遜しなくても、カレンちゃんたちは様々な発明をして、たくさんの困難を乗り越えてきたじゃないか」
ペーターさんのその言葉を聞いたお父様とお母様は「確かに!」などと同意しているし、オヒシバはどこの応援団だというくらいに拳を振り上げ、「姫様ー! スイレン様ー!」と叫んでいる。
最後に確認したタデだけが溜め息を吐いていたことから、タデだけは唯一の味方のようだ。
そんなタデと目が合うと、察してくれたのか口を開いた。
「国が違えば事情も違う。確かに二人は私たちの危機を救ってくれたが、この国の全ての問題を解決できるとは限らんだろう」
今回の旅の中で一番、まとも度合いが高いだけある。
「お父さん……」
ただ一人正論を言ってくれたタデに感激し、親しみを込めてそう呼ぶと、タデの中の何かのスイッチが入ったらしい。
「だがしかし! 二人に乗り越えられないことはないと思っている!」
その顔は、我が子自慢をする父親の表情だ。まともだと思った私がバカだった。
もちろんお父様と、子どもを取り合う争いを始めたのは言うまでもない。
「静かに!」
ルーカス王の前で、このいつもの醜い争いが恥ずかしくて叫ぶと、二人はシュンと項垂れた。
そもそも私は、地球に産まれ育った美樹の記憶を持っているが、水も空気も綺麗な田舎育ちなので環境問題とは縁がない。いや、縁がないというよりも、都会や海外の人が議論をしているなぁくらいの感覚で、自分とは関係のないものと思っていたので、興味も知識もない。
だが、何かを期待するような目で私を見つめるルーカス王と目が合うと、自然と口が開いた。
「私に出来ることならば!」
横からスイレンの盛大な溜め息が聞こえ、ハッと我にかえり、自分の発言を思い返し私もまともじゃないと再確認した……。
「今すぐ何かをしてほしいわけではありません。何か気付いたこと、思い付いたことがあれば教えてください」
そんなに優しく微笑まれてしまうと、もちろん無理だとは言えない。私もやらかしたと思いつつも、はにかんで笑っていると、スイレンにお尻をつねられた。
「ですが、少々矛盾した発言になってしまいますが、植物園まで散歩をしませんか? 管理人不在となってしまって、生えている植物が何なのか分からないのです。皆さんなら何か分かるかと思いまして、教えていただけると嬉しいのですが」
ルーカス王のお誘いで、私たちは植物園へと移動することにした。
────
私たちは宮殿の東門から入ったが、その時に南側に緑がたくさん見えるとは思っていた。
ルーカス王とサイモン大臣について行くと、南門から外に出たのだが、その先はまさに植物園という名にふさわしいくらい、多種多様な植物が一面に広がっていた。
「ここは我が国に代々伝わる植物園なのですが、今は管理人がいなくて困っているのです」
ここは元々一人の管理人と、何かあった時のために二人の補佐がおり、日々植物を絶やさないよう管理を徹底していたらしい。管理人と補佐以外は植物に触れることを禁じ、脈々と受け継がれてきた歴史ある植物園とのことだ。
「信じてもらえないかもしれませんが」
ルーカス王はそう言ったが、本当に信じられない話をし始めた。
ある日、いつものように三人が作業していたが、猛禽類と思われる鳥が上空を飛んでいたらしい。その猛禽類は、持っていた亀ことカンメを手放してしまい、そのカンメは管理人の頭を直撃したそうだ。
管理人は即死だと思われるそうだが、補佐はまさか管理人が死んでいるとは思わず、そしてカンメが頭に落ちたのがよほどおかしかったのか大爆笑を始め、そして笑い死にしたそうだ。
もう一人の補佐も笑っていたのだが、目の前の二人が亡くなっていることに気付くと、急に胸を押さえ苦しみながら息絶えたらしい。
……地球でもアイスキュロスの亀ということわざがあるし、古代の哲学者も酔ったロバを見て笑い死にしたという逸話もあるのだ。三人目は驚いて心筋梗塞などを起こしたのだろう。あり得ない話ではない。
「大丈夫です! 信じます!」
そう言うと、サイモン大臣に「ありがとうございます」と言われた。どうやら職務の間に時間ができ、宮殿のバルコニーから植物園を眺めていたところ、この一連の出来事を目撃していたらしいのだ。
「あの時は、サイモン大臣が珍しく冗談を言っていると思いましたよ」
サイモン大臣は慌ててルーカス王に報告したが、ルーカス王も実際に現場を見るまで「そんなに面白いことを言えるのですね」と笑い、信じていなかったと言う。
その後は葬儀などを済ませたはいいが、本来なら管理人が死亡した後は補佐のどちらかが新たな管理人となり、新しい管理人と補佐が新たな補佐候補を見つけるという流れだったらしい。
「三人が同時に亡くなったので、ここの植物について本当に困っているのです」
眉をハの字にし、困り顔でルーカス王がそう言うと、今まで静かだったニコライさんが口を開いた。
「世の中にはあり得ないことが起こり得るんですねぇ。それにしても、本当に当たりどころが悪かったんですね」
その言葉を聞いた私たちは、皆が普段のニコライさんを想像したらしく、一呼吸おいた後に「お前が言うな!」という意味の言葉を口々にしたのだった。
「……言っているのかしら……?」
私とスイレンは口元がヒクヒクとしている。
「そんなに謙遜しなくても、カレンちゃんたちは様々な発明をして、たくさんの困難を乗り越えてきたじゃないか」
ペーターさんのその言葉を聞いたお父様とお母様は「確かに!」などと同意しているし、オヒシバはどこの応援団だというくらいに拳を振り上げ、「姫様ー! スイレン様ー!」と叫んでいる。
最後に確認したタデだけが溜め息を吐いていたことから、タデだけは唯一の味方のようだ。
そんなタデと目が合うと、察してくれたのか口を開いた。
「国が違えば事情も違う。確かに二人は私たちの危機を救ってくれたが、この国の全ての問題を解決できるとは限らんだろう」
今回の旅の中で一番、まとも度合いが高いだけある。
「お父さん……」
ただ一人正論を言ってくれたタデに感激し、親しみを込めてそう呼ぶと、タデの中の何かのスイッチが入ったらしい。
「だがしかし! 二人に乗り越えられないことはないと思っている!」
その顔は、我が子自慢をする父親の表情だ。まともだと思った私がバカだった。
もちろんお父様と、子どもを取り合う争いを始めたのは言うまでもない。
「静かに!」
ルーカス王の前で、このいつもの醜い争いが恥ずかしくて叫ぶと、二人はシュンと項垂れた。
そもそも私は、地球に産まれ育った美樹の記憶を持っているが、水も空気も綺麗な田舎育ちなので環境問題とは縁がない。いや、縁がないというよりも、都会や海外の人が議論をしているなぁくらいの感覚で、自分とは関係のないものと思っていたので、興味も知識もない。
だが、何かを期待するような目で私を見つめるルーカス王と目が合うと、自然と口が開いた。
「私に出来ることならば!」
横からスイレンの盛大な溜め息が聞こえ、ハッと我にかえり、自分の発言を思い返し私もまともじゃないと再確認した……。
「今すぐ何かをしてほしいわけではありません。何か気付いたこと、思い付いたことがあれば教えてください」
そんなに優しく微笑まれてしまうと、もちろん無理だとは言えない。私もやらかしたと思いつつも、はにかんで笑っていると、スイレンにお尻をつねられた。
「ですが、少々矛盾した発言になってしまいますが、植物園まで散歩をしませんか? 管理人不在となってしまって、生えている植物が何なのか分からないのです。皆さんなら何か分かるかと思いまして、教えていただけると嬉しいのですが」
ルーカス王のお誘いで、私たちは植物園へと移動することにした。
────
私たちは宮殿の東門から入ったが、その時に南側に緑がたくさん見えるとは思っていた。
ルーカス王とサイモン大臣について行くと、南門から外に出たのだが、その先はまさに植物園という名にふさわしいくらい、多種多様な植物が一面に広がっていた。
「ここは我が国に代々伝わる植物園なのですが、今は管理人がいなくて困っているのです」
ここは元々一人の管理人と、何かあった時のために二人の補佐がおり、日々植物を絶やさないよう管理を徹底していたらしい。管理人と補佐以外は植物に触れることを禁じ、脈々と受け継がれてきた歴史ある植物園とのことだ。
「信じてもらえないかもしれませんが」
ルーカス王はそう言ったが、本当に信じられない話をし始めた。
ある日、いつものように三人が作業していたが、猛禽類と思われる鳥が上空を飛んでいたらしい。その猛禽類は、持っていた亀ことカンメを手放してしまい、そのカンメは管理人の頭を直撃したそうだ。
管理人は即死だと思われるそうだが、補佐はまさか管理人が死んでいるとは思わず、そしてカンメが頭に落ちたのがよほどおかしかったのか大爆笑を始め、そして笑い死にしたそうだ。
もう一人の補佐も笑っていたのだが、目の前の二人が亡くなっていることに気付くと、急に胸を押さえ苦しみながら息絶えたらしい。
……地球でもアイスキュロスの亀ということわざがあるし、古代の哲学者も酔ったロバを見て笑い死にしたという逸話もあるのだ。三人目は驚いて心筋梗塞などを起こしたのだろう。あり得ない話ではない。
「大丈夫です! 信じます!」
そう言うと、サイモン大臣に「ありがとうございます」と言われた。どうやら職務の間に時間ができ、宮殿のバルコニーから植物園を眺めていたところ、この一連の出来事を目撃していたらしいのだ。
「あの時は、サイモン大臣が珍しく冗談を言っていると思いましたよ」
サイモン大臣は慌ててルーカス王に報告したが、ルーカス王も実際に現場を見るまで「そんなに面白いことを言えるのですね」と笑い、信じていなかったと言う。
その後は葬儀などを済ませたはいいが、本来なら管理人が死亡した後は補佐のどちらかが新たな管理人となり、新しい管理人と補佐が新たな補佐候補を見つけるという流れだったらしい。
「三人が同時に亡くなったので、ここの植物について本当に困っているのです」
眉をハの字にし、困り顔でルーカス王がそう言うと、今まで静かだったニコライさんが口を開いた。
「世の中にはあり得ないことが起こり得るんですねぇ。それにしても、本当に当たりどころが悪かったんですね」
その言葉を聞いた私たちは、皆が普段のニコライさんを想像したらしく、一呼吸おいた後に「お前が言うな!」という意味の言葉を口々にしたのだった。
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