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ペーターさん、やらかす
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会食が終わると、ルーカス王は「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」と、謝罪の言葉を口にしたが、私からしたらレア中のレアな場面に出会えて最高にラッキーだ。
「先程のブレッドは我が国の特産であるムギンから作られているのですが、シャイアーク国から輸入しているムギンから作ったブレッドのほうが人気がありまして、今ではほとんど栽培している農家はいないのです」
ルーカス王は、国民に自国の食べ物も大切にしてほしいと続けた。
「あの……」
おとなしい姫様モードで話しかけると、ルーカス王は「なんでしょう?」と笑顔を振りまいてくれた。鼻血が噴き出しそうになるのを気合いでこらえ、質問を投げかけた。
「ニコライさんから聞いたのですが、畑はあるのに使えないと言っていました。ですがこのムギンを作る畑はあるのに、食料を輸入しているのはなぜですか? 農家がいないのですか?」
思っているよりも農家の仕事は大変だ。やりがいや育てる楽しさが分からなければ、重労働だしかなり辛い仕事だろう。それ以前に、日本の農業のように後継者が不足しているのかもしれない。
そんなことを考えていると、ニコライさんは「臭いに気付きました」とルーカス王に報告している。
「もっと楽しいお話しをしたいのですが、食事も済みましたし、この国が抱える問題をお話ししましょう」
そう前置きをし、ルーカス王は語り始めた。
ルーカス王が言うには、この国には元々お便所というものがなかったらしいのだ。壺などに用を足し、それを窓から道に捨てるのが一般的だったらしい。どこぞのヨーロッパの国のようだ。
道には常に排泄物がまみれ悪臭が漂い、死刑にはならない罪人が毎朝それを水で洗い流していたらしい。
皆が皆、それがこの国の文化だと何の疑問も持たずに暮らしていたが、先々代の王と王妃、すなわちルーカス王のお祖父様とお祖母様が綺麗好きであり、他人の排泄物にまみれている道を歩くのも嫌がったらしい。
それだけではなく、道を洗い流した水が流れる川の水を使用する、下流域の国民を健康を心配したそうだ。
そんなある日、先々代の王は街をブロックごとに分け、排泄物を一ヶ所に集める法律を交付した。
基本的には皆が従ってくれたが、その集積場まで遠い者や、今までの習慣が抜けない者はやはり道に捨ててしまう。
今でも老人はこの習慣が染みついてしまっており、時おり街が臭うのはこの習慣のせいもあるらしい。
さて、その排泄物を一ヶ所に集めたは良いが、溜まる一方で減ることはない。発酵させ肥料に使えることをテックノン王国は今でも知らないようだ。なぜなら、今では溢れる前に使われていない土地に捨てに行っていると言うからだ。その臭いが、風の向きによって押し寄せて来るらしいのだ。
溢れた汚物は土壌汚染を引き起こしたが、その時はまだ汚染に気付いていなかったらしい。
ある年、テックノン王国で激しい豪雨が続き災害が起こった。洪水である。
特に川沿いに住む者は家ごと流され、建物の補修や救助をしていた者も流され、土葬が主なこの国の墓地も洪水の被害に遭い多数の遺体が流され、そして溜めていた排泄物も一気に流された。
その結果、畑は様々な残留物や汚染などで使えず、農家は仕事を失った。
この国の中心にあるという巨大な湖は汚濁し、変なガスが充満して近付くのも危険と言う。
「その人々を貧困から救ったのがニコライたちです」
貧困に喘いでいた農家たちは、ニコライさん一家が新たに始めた金属業に従事してもらうことにしたらしい。
元々あった鉱山を掘り進め、特に鉄鉱石がよく採れることから、この国は鉄鋼業が盛んになったようだ。
「ただですね、鉄を溶かすためには火力が必要です。たくさんの工場を作ったおかげで、多くの国民は貧困から解放されましたが、今度は空気が悪くなってしまったのです」
ニコライさんは悲しげな表情でそう語った。大気汚染がさらなる土壌汚染を生み、使える畑もなければ農家がいないという悪循環に陥っているらしい。
元農家の人たちは城下町に移り住み、日々城下町は大きくなっているそうだ。
今は山沿いの一部の地域でのみ、農業や牧畜を営んでいるようだ。山沿いであれば綺麗な水と空気があり、人々も暮らしていけるらしい。
そうではない地域は『水売り』という職業があり、職人が毎日綺麗な水を汲んで売りに行くらしいのだが、その水を買えない人は汚染された水を生活に使うしかない。
「国民のためにニコライたちは奔走してくれたんです。本当にありがたい。慢性的な病気になってしまった者たちのために、ニコライは独学で勉強し、薬の開発もしてくれた。けれど根本的な解決には至らないのです」
この部屋にいるテックノン王国の全員が深いため息を吐き、重苦しい空気に私たちは口を出すことが出来ないでいた。
だが、その空気を良い意味でぶち壊した人がいた。
「ただのアホだと思っていたが、なかなか苦労していたんだな」
こんなにも重い話をしている中でも、デザートの果実を食べ続けていたペーターさんだ。ここに来ても自由である。
ちなみにニコライさんは、ただのアホといきなり言われて、鳩が豆鉄砲を食らった顔をしている。
「いきなり全てが解決するわけではないが、この国の問題を解決する手助けをしよう。……カレンちゃんとスイレン君がな!」
もちろん、いきなり何を言い出すのかと、今度は私とスイレンが鳩が豆鉄砲を食らった顔をしたのは言うまでもない。
「先程のブレッドは我が国の特産であるムギンから作られているのですが、シャイアーク国から輸入しているムギンから作ったブレッドのほうが人気がありまして、今ではほとんど栽培している農家はいないのです」
ルーカス王は、国民に自国の食べ物も大切にしてほしいと続けた。
「あの……」
おとなしい姫様モードで話しかけると、ルーカス王は「なんでしょう?」と笑顔を振りまいてくれた。鼻血が噴き出しそうになるのを気合いでこらえ、質問を投げかけた。
「ニコライさんから聞いたのですが、畑はあるのに使えないと言っていました。ですがこのムギンを作る畑はあるのに、食料を輸入しているのはなぜですか? 農家がいないのですか?」
思っているよりも農家の仕事は大変だ。やりがいや育てる楽しさが分からなければ、重労働だしかなり辛い仕事だろう。それ以前に、日本の農業のように後継者が不足しているのかもしれない。
そんなことを考えていると、ニコライさんは「臭いに気付きました」とルーカス王に報告している。
「もっと楽しいお話しをしたいのですが、食事も済みましたし、この国が抱える問題をお話ししましょう」
そう前置きをし、ルーカス王は語り始めた。
ルーカス王が言うには、この国には元々お便所というものがなかったらしいのだ。壺などに用を足し、それを窓から道に捨てるのが一般的だったらしい。どこぞのヨーロッパの国のようだ。
道には常に排泄物がまみれ悪臭が漂い、死刑にはならない罪人が毎朝それを水で洗い流していたらしい。
皆が皆、それがこの国の文化だと何の疑問も持たずに暮らしていたが、先々代の王と王妃、すなわちルーカス王のお祖父様とお祖母様が綺麗好きであり、他人の排泄物にまみれている道を歩くのも嫌がったらしい。
それだけではなく、道を洗い流した水が流れる川の水を使用する、下流域の国民を健康を心配したそうだ。
そんなある日、先々代の王は街をブロックごとに分け、排泄物を一ヶ所に集める法律を交付した。
基本的には皆が従ってくれたが、その集積場まで遠い者や、今までの習慣が抜けない者はやはり道に捨ててしまう。
今でも老人はこの習慣が染みついてしまっており、時おり街が臭うのはこの習慣のせいもあるらしい。
さて、その排泄物を一ヶ所に集めたは良いが、溜まる一方で減ることはない。発酵させ肥料に使えることをテックノン王国は今でも知らないようだ。なぜなら、今では溢れる前に使われていない土地に捨てに行っていると言うからだ。その臭いが、風の向きによって押し寄せて来るらしいのだ。
溢れた汚物は土壌汚染を引き起こしたが、その時はまだ汚染に気付いていなかったらしい。
ある年、テックノン王国で激しい豪雨が続き災害が起こった。洪水である。
特に川沿いに住む者は家ごと流され、建物の補修や救助をしていた者も流され、土葬が主なこの国の墓地も洪水の被害に遭い多数の遺体が流され、そして溜めていた排泄物も一気に流された。
その結果、畑は様々な残留物や汚染などで使えず、農家は仕事を失った。
この国の中心にあるという巨大な湖は汚濁し、変なガスが充満して近付くのも危険と言う。
「その人々を貧困から救ったのがニコライたちです」
貧困に喘いでいた農家たちは、ニコライさん一家が新たに始めた金属業に従事してもらうことにしたらしい。
元々あった鉱山を掘り進め、特に鉄鉱石がよく採れることから、この国は鉄鋼業が盛んになったようだ。
「ただですね、鉄を溶かすためには火力が必要です。たくさんの工場を作ったおかげで、多くの国民は貧困から解放されましたが、今度は空気が悪くなってしまったのです」
ニコライさんは悲しげな表情でそう語った。大気汚染がさらなる土壌汚染を生み、使える畑もなければ農家がいないという悪循環に陥っているらしい。
元農家の人たちは城下町に移り住み、日々城下町は大きくなっているそうだ。
今は山沿いの一部の地域でのみ、農業や牧畜を営んでいるようだ。山沿いであれば綺麗な水と空気があり、人々も暮らしていけるらしい。
そうではない地域は『水売り』という職業があり、職人が毎日綺麗な水を汲んで売りに行くらしいのだが、その水を買えない人は汚染された水を生活に使うしかない。
「国民のためにニコライたちは奔走してくれたんです。本当にありがたい。慢性的な病気になってしまった者たちのために、ニコライは独学で勉強し、薬の開発もしてくれた。けれど根本的な解決には至らないのです」
この部屋にいるテックノン王国の全員が深いため息を吐き、重苦しい空気に私たちは口を出すことが出来ないでいた。
だが、その空気を良い意味でぶち壊した人がいた。
「ただのアホだと思っていたが、なかなか苦労していたんだな」
こんなにも重い話をしている中でも、デザートの果実を食べ続けていたペーターさんだ。ここに来ても自由である。
ちなみにニコライさんは、ただのアホといきなり言われて、鳩が豆鉄砲を食らった顔をしている。
「いきなり全てが解決するわけではないが、この国の問題を解決する手助けをしよう。……カレンちゃんとスイレン君がな!」
もちろん、いきなり何を言い出すのかと、今度は私とスイレンが鳩が豆鉄砲を食らった顔をしたのは言うまでもない。
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