貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
345 / 366

ペーターさんGJ

しおりを挟む
「すごい……」

 私たちは語彙力を失い、その言葉しか出て来ない。

 宮殿へと足を踏み入れたのだが、まずはその大きさに驚いた。今のところ、視界に入った建物は全て石造りなのだが、この宮殿ももちろん石造りでそれはまさに圧巻の一言である。
 塀の中に入ってからここに到着するまでの道は、風情ある大きな石畳の道であったが、宮殿の一階はもっと小さな石が敷き詰められ、さらには石の色や置き方によって模様まで描かれている。
 あの表情の変わらないタデが大興奮し、四つん這いで「すごい……すごい……」と、石畳を撫で回す姿にお父様は大爆笑だ。もちろん他の皆は引いている。

 さらにはその宮殿内の一階の中心部に池があるのだ。かなりの水量がある湧き水らしく、湧き出た水は北に面する正門へと真っ直ぐに流れている。つまり宮殿内に湧水があり川が流れているのだ。その両側が通路となっている。
 サイモン大臣が言うには、あの正門を越えるとこの湧き水は三方向に枝分かれし、城下町の中を川が流れているそうだ。

「上の階へ参りましょう」

 サイモン大臣に促され、正門近くの階段へと向かった。この水場は宮殿と城下町の要らしく、普段は一般人は近付くことも許されないらしい。
 それにしてもマークさんが睨みをきかせているせいか、ニコライさんがおとなしいおかげで物事がスムーズに進む。

 この国の特産物なのか、どこかから買い付けたものなのか階段には絨毯が敷かれ、もはや全員が遠足気分でその階段を登る。
 左右のどちらからでも登れる階段の先は大ホールとなっており、装飾の施された柱もまた圧巻である。
 大ホールをぐるりと見渡せば、廊下は左右に広がり、北側に大きな窓が並んでいるおかげで、ものすごく明るいわけではないが光に困ることはない。
 廊下の端から端までいくつもの扉が見え、そして大ホールの中央奥には巨大な扉が見えた。

「あちらが謁見の間でございます。ですが王は『謁見はヒーズル王国の皆さんに失礼』と、あちらの部屋でお待ちです」

 もはや誰もその言葉に反応することもなく、口を開けたまま「はぁ……」「ほぉ……」と、あちらこちらを見回しながらサイモン大臣の後に続く。

 招かれた私たちにはどの扉が何の部屋なのかは分からないが、いくつか扉を通り過ぎると一つの扉の前でサイモン大臣の足が止まった。

「どうぞ」

 サイモン大臣が扉を開けると、大きくはない、とはいえ、私たちの国のどの部屋よりも広い部屋が広がっていた。部屋の真ん中には大きなテーブルが置かれている。
 豪華な装飾品が壁や床を飾り、奥の壁一面の窓の前にどんな装飾品よりも麗しいルーカス王が佇んでいた。

「やあ皆さん! よくぞお越しくださいました!」

 破壊力抜群の笑顔にときめいていると、両サイドから圧を感じ、横目で見ると無表情で私の顔を覗き込むスイレンとオヒシバがいた。
 気にしたら負けである。

「ルーカス王! 久しいな! ずっとニコライから誘われていたが、ようやく来ることが出来た!」

 お父様が歩み出すのと同時にルーカス王もこちらに向かい、二人は笑顔でガッチリと握手を交わした。

「本当にニコライが申し訳ありません。ですがお会い出来て良かった。お疲れでしょう? まずは食事を楽しみませんか?」

 ニコライさんはやはり『なんで!?』という表情をしていたが、食事という言葉に反応し、どうしたら良いのか分からない私たちに座るよう促してくれた。

 遠足気分から少し緊張気味になった私たちは口数が少なくなったが、すぐに部屋の扉が開かれ、たくさんの料理が目の前に置かれていく。
 どの料理も美しい盛り付けで見た目はフレンチに似ているが、コース料理のように一品一品出る感じではなく、小さめのお皿が一人一人の前にたくさんある。
 私たちに気を使ってくれたのか、ナイフとフォークだけではなく、お箸も用意されていた。

「作法などは気にせず、好きなようにお食べください。足りなければ控えている者に気軽に声をおかけください」

 私たちの背後や入り口にはメイドたちが並び、レストランカートのような物の上に食材やお皿が載っている。
 後ろに人が立っているのは大変食べづらいが、大人たちはテックノン王国産のワインで乾杯をし、私とスイレンにはテックノン王国産のグレップのジュースを出してくれた。
 ヒーズル王国のグレップよりも甘さが足りず酸味が強いが、これはこれで美味しい。

 あまりに綺麗に盛られた料理を崩すのがもったいないが、食べないのも失礼である。何かのソースがかかった焼いた小さな肉を口に入れると、あっさりとした柔らかい肉と香草の香りが口の中でハーモニーを奏でている。
 これはコッコに違いない。我が国のコッコは、常に動き回りもはや地鶏のようであり、オスのコッコも食べるのでとにかく肉が固いのだ。

「何の肉だ?」

 向かいに座るお父様が、隣に座るニコライさんに話しかけた。ちなみになぜか一緒に食事を始めた、端に座るニコライさんの横にはマークさんが立ち圧をかけている。

「これはピョンですよ」

 この言葉に大人たちは歓声を上げた。そしてピョンの正体を理解した。

「ねぇカレン、ピョンって知ってる?」

「……えぇ。耳の長いとても可愛らしい動物よ」

 その言葉にスイレンは一瞬固まった。が、お父様たちは初めて食べるという小さなメー、要するに子羊の肉を食べ、おかわりを頼んで騒いでいるおかげで有耶無耶になった。
 この世界の羊ことメーもクセが強いが、野生の獣を食べてきた森の民には、これくらいのクセがある方が好みなのだろう。スイレンは一口で食べるのをやめたが。

 他にサラダなどがあったが、これはヒーズル王国産の野菜だろう。ただドレッシングではなく油がかかっており、その油を尋ねると『オリッブ』と言っていたことから、これはオリーブ油なのだろう。

 まだ手を付けていないものを食べようと思ったが、等間隔にカゴに入れられたスライスされた何かがある。何か分からないが、ひとまず食べてみることにした。

「あ! カレン嬢、大丈夫ですか?」

 ニコライさんが気にかけてくれたが、これはリトールの町とは形状が違うブレッドのようだ。ただ、リトールの町のものよりもとにかく固くて酸っぱいのだ。
 その私の姿を見たペーターさんも手に取って食べた。無言で咀嚼していたと思ったら、何やら自分の手荷物をあさっている。そして椅子から立ち上がり、ルーカス王の元へと進んだ。

「カレンちゃんが開発して私が作ったものだ」

 その手には、遠足のおやつであろう天然酵母パンがあった。よほどあのパンが好きなのか、材料が揃えば自ら作るようになったのだ。
 ルーカス王は気さくに「いただきます」と受け取り、そしてそれを口に入れて飲み込むと……。

「何これ!? これ何!? こんなに美味しいもの食べたことないです!」

 と、初めて年相応の反応を見せたのだ。自分が王であることを忘れ、完全に素になっているようである。

 その姿にたまらずキュンキュンしていると、またしてもスイレンとオヒシバから殺気が放たれていたのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...