貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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実験道具

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 さて、畑を作るといっても私たちの時のように、適当な場所に作るわけにはいかない。

 この町には、私たちの住んでいる場所のように、使用した水の浄化設備予定地がある。予定地というよりは、皆が暇を見てコツコツと作り、完成にはいたっている。
 ただ人が少ないのと使用する水の量が少ないので、下水に流れた水は途中で蒸発してしまい、この浄化設備には水が溜まっていない。想像していた以上に空気が乾燥しているようなのだ。
 それを解消するのが、今回のスイレンたちのミッションだ。

 そんなことを移民の皆に説明しつつ、その浄化設備の東側に畑を作ることを言い、ひたすら砂を掘り返した。

「カレンちゃん……ちょっといいかな?」

 唐突に声をかけられ振り向くと、背後にはブルーノさんがいる。皆から離れた場所から呼んでいるので、ここはハマナスやエビネたちに任せてブルーノさんの元へと走った。

「どうしたの?」

「スイレン君から説明を聞いてね。いや、間違いないことは分かっているんだ。私とジェイソンさんだけはカレンちゃんの秘密を知っているからね。だけどアレは……想像の限界を超えていて……」

 なるほど。ブルーノさんでも見たことのない、この世界には存在しないらしい装置の作製を頼んだのだが、理解が追いつかないらしい。

「姫様ー!」

 ちょうどその時、国境から戻って来たじいやが私を呼ぶ。心なしか松風も小走りだ。

「何か問題でもあったの?」

 そう問いかければ、苦笑いのじいやが口を開いた。

「今日はニコライ殿がいらしてまして……姫様が来ていることを言いましたら、なんとしてもお会いしたいと騒ぎまして……。今はペーター殿がお相手をしております」

 困り顔のじいやだが、これは良い機会だ。

「ちょうどいいわ。ブルーノさんも一緒に行きましょう。どちらにせよ、アレは木で作るか金属で作るかまでは決めてはいないわ。テックノン王国が作れそうなら、そのまま頼めばいいわ」

 ブルーノさんはスイレンの説明で理解してくれたようだが、フランクさんとミースさんはまだ理解が追いついていないようなので、スイレンに引き続き説明を頼み、松風の荷車に乗り込んでそのまま国境へと向かった。

 ちなみにだが、私は国境へ行くのは実は初めてなのだ。作業を皆に任せて申し訳無いが、ワクワクが勝ってしまう。
 尖った山と山の間に出来た道は、思っていた以上に広いが少々曲がりくねっている。真っ直ぐに爆破したつもりでも、実は真っ直ぐではなかったのだろう。
 この道にもいつの間にか赤い砂が溜まり、そこには小さな草も生えていた。殺風景だった場所に新たな生命の誕生を見つけると嬉しくなってしまう。

 それにしても時折臭うのは何だろうか? またしてもバ糞を付けているのかと焦ったが、会うのがニコライさんであれば、『まぁいいか』と思ってしまう辺り私も酷いものだ。

────

「だから勝手に入って来るなと言ってるだろう」

「でもでも! カレン嬢に会いたいんですもん!」

「ニコライ様! 落ち着いてください!」

 騒がしい声が聞こえてきた。思わず私たち三人は吹き出してしまう。
 最後の曲がり道を通り抜けると、それは立派な石造りの門が現れた。
 その門の前で立ち塞がるペーターさんと、どうにか侵入しようとするニコライさん、それを止めようとする門番たちとでカオスになっていた。

「ニコライさーん! お久しぶりねー!」

 荷車から飛び降りて叫ぶと、こちらに気付いたペーターさんと門番たちが一瞬動きを止めた隙に、ニコライさんは颯爽と走って来た。

「カレン嬢ー! お会いしたかったですー!」

 その後ろではペーターさんと門番たちがぼやき、諦めたのか世間話を始めている。ニコライさんもペーターさんも自由なのだ。
 門の向こうには草原が広がっており、テックノン王国に猛烈に興味があるが、楽しみはとっておきたい。なので草原以外を見ないように気をつけた。

「何か用事でもあるのかしら? こちらはちょうどニコライさんに用事が出来たところなの」

 ニコリと微笑んでそう言えば、ニコライさんは飛んだり跳ねたりと喜びを体で表現しているようだ。

「カレン嬢、いつ我が国に来ていただけるんですか? 待っても待っても来る気配がないので、今日は私から来ました!」

 ドヤ顔で言い放つニコライさんに、ブルーノさんは笑いが治まらない。

「それが、もう少し待ってほしいの。今日からあの移民の町を発展させようと思って」

 今は畑を作っていた最中だったと説明しながら、将来的には観光や交易の場所にしたいと言うと、ニコライさんは目を見開いて驚いていた。

「素晴らしいです! 交易所になれば、城の人たちや私の家族も訪れますよ! 何か私にお手伝い出来ることはありますか? 私、カレン嬢にお会い出来そうな日は、カレン嬢が喜びそうな物を持ち歩いているんです!」

 珍しく早口で熱弁を振るうと、国境へと走り両手に荷物を抱えて戻って来た。もはやペーターさんと門番たちは、ニコライさんをスルーである。
 荷物の中身はいろいろな道具や、何なのか分からない物であふれていた。

「そうそう。これを見てください」

 そう言ったニコライさんは、布で包まれた小さなものを取り出した。その包みを開けると、醤油皿のような小さなお皿が出てきた。

「わぁ……綺麗」

「でしょう? 実はこれはですね、ヒーズル王国の赤い砂が原料なんですよ」

「え!?」

 驚くのは無理もない。お皿は透明の綺麗な緑色なのだ。

「風向きが変わったのか、我が国にもそちらの砂が飛来しているんです。そのことは良いのですが、試しに集めてガラス作りに使ってみたら、綺麗でしょう? ……砂を売ってもらえませんか?」

「いくらでも! 格安大特価で売るわ! 交易所が出来たら、ガラス製品もたくさん売ってちょうだい!」

 あのやり場に困る大量の砂が、こんなに綺麗なガラスに変わるのだ。私たちの利害が一致した。

「交易所が完成するのが楽しみですね。……あぁ! ということは、カレン嬢はしばらくこちらに来れないんですね……」

 シュンと項垂れるニコライさんをなぐさめつつ、勝手に荷物の中身をあさると、ヒーズル王国でも使われている、あのステンレス製の蛇腹のホースが出てきた。

「ニコライさん、これもらっていいかしら?」

「中途半端な長さですが大丈夫ですか?」

「ええ。実験に使うから良いの。ちなみにこれの巨大なものって作れるかしら?」

「実験? どれくらいの大きさですか? 出来ないことはないと思いますが……」

 ニコライさんは不思議そうに聞くが、とにかく巨大だと言うと「カレン嬢の頼みですから」と、帰って工場に向かうと言う。

「では私たちも戻りましょう。ニコライさん、しばらくは毎日移民の町に来るから、用があったら呼んでね」

 こうしてどうにか実験道具を手に入れた私たちは、テックノン王国へ入ることもなく移民の町へと戻った。
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