339 / 366
実験道具
しおりを挟む
さて、畑を作るといっても私たちの時のように、適当な場所に作るわけにはいかない。
この町には、私たちの住んでいる場所のように、使用した水の浄化設備予定地がある。予定地というよりは、皆が暇を見てコツコツと作り、完成にはいたっている。
ただ人が少ないのと使用する水の量が少ないので、下水に流れた水は途中で蒸発してしまい、この浄化設備には水が溜まっていない。想像していた以上に空気が乾燥しているようなのだ。
それを解消するのが、今回のスイレンたちのミッションだ。
そんなことを移民の皆に説明しつつ、その浄化設備の東側に畑を作ることを言い、ひたすら砂を掘り返した。
「カレンちゃん……ちょっといいかな?」
唐突に声をかけられ振り向くと、背後にはブルーノさんがいる。皆から離れた場所から呼んでいるので、ここはハマナスやエビネたちに任せてブルーノさんの元へと走った。
「どうしたの?」
「スイレン君から説明を聞いてね。いや、間違いないことは分かっているんだ。私とジェイソンさんだけはカレンちゃんの秘密を知っているからね。だけどアレは……想像の限界を超えていて……」
なるほど。ブルーノさんでも見たことのない、この世界には存在しないらしい装置の作製を頼んだのだが、理解が追いつかないらしい。
「姫様ー!」
ちょうどその時、国境から戻って来たじいやが私を呼ぶ。心なしか松風も小走りだ。
「何か問題でもあったの?」
そう問いかければ、苦笑いのじいやが口を開いた。
「今日はニコライ殿がいらしてまして……姫様が来ていることを言いましたら、なんとしてもお会いしたいと騒ぎまして……。今はペーター殿がお相手をしております」
困り顔のじいやだが、これは良い機会だ。
「ちょうどいいわ。ブルーノさんも一緒に行きましょう。どちらにせよ、アレは木で作るか金属で作るかまでは決めてはいないわ。テックノン王国が作れそうなら、そのまま頼めばいいわ」
ブルーノさんはスイレンの説明で理解してくれたようだが、フランクさんとミースさんはまだ理解が追いついていないようなので、スイレンに引き続き説明を頼み、松風の荷車に乗り込んでそのまま国境へと向かった。
ちなみにだが、私は国境へ行くのは実は初めてなのだ。作業を皆に任せて申し訳無いが、ワクワクが勝ってしまう。
尖った山と山の間に出来た道は、思っていた以上に広いが少々曲がりくねっている。真っ直ぐに爆破したつもりでも、実は真っ直ぐではなかったのだろう。
この道にもいつの間にか赤い砂が溜まり、そこには小さな草も生えていた。殺風景だった場所に新たな生命の誕生を見つけると嬉しくなってしまう。
それにしても時折臭うのは何だろうか? またしてもバ糞を付けているのかと焦ったが、会うのがニコライさんであれば、『まぁいいか』と思ってしまう辺り私も酷いものだ。
────
「だから勝手に入って来るなと言ってるだろう」
「でもでも! カレン嬢に会いたいんですもん!」
「ニコライ様! 落ち着いてください!」
騒がしい声が聞こえてきた。思わず私たち三人は吹き出してしまう。
最後の曲がり道を通り抜けると、それは立派な石造りの門が現れた。
その門の前で立ち塞がるペーターさんと、どうにか侵入しようとするニコライさん、それを止めようとする門番たちとでカオスになっていた。
「ニコライさーん! お久しぶりねー!」
荷車から飛び降りて叫ぶと、こちらに気付いたペーターさんと門番たちが一瞬動きを止めた隙に、ニコライさんは颯爽と走って来た。
「カレン嬢ー! お会いしたかったですー!」
その後ろではペーターさんと門番たちがぼやき、諦めたのか世間話を始めている。ニコライさんもペーターさんも自由なのだ。
門の向こうには草原が広がっており、テックノン王国に猛烈に興味があるが、楽しみはとっておきたい。なので草原以外を見ないように気をつけた。
「何か用事でもあるのかしら? こちらはちょうどニコライさんに用事が出来たところなの」
ニコリと微笑んでそう言えば、ニコライさんは飛んだり跳ねたりと喜びを体で表現しているようだ。
「カレン嬢、いつ我が国に来ていただけるんですか? 待っても待っても来る気配がないので、今日は私から来ました!」
ドヤ顔で言い放つニコライさんに、ブルーノさんは笑いが治まらない。
「それが、もう少し待ってほしいの。今日からあの移民の町を発展させようと思って」
今は畑を作っていた最中だったと説明しながら、将来的には観光や交易の場所にしたいと言うと、ニコライさんは目を見開いて驚いていた。
「素晴らしいです! 交易所になれば、城の人たちや私の家族も訪れますよ! 何か私にお手伝い出来ることはありますか? 私、カレン嬢にお会い出来そうな日は、カレン嬢が喜びそうな物を持ち歩いているんです!」
珍しく早口で熱弁を振るうと、国境へと走り両手に荷物を抱えて戻って来た。もはやペーターさんと門番たちは、ニコライさんをスルーである。
荷物の中身はいろいろな道具や、何なのか分からない物であふれていた。
「そうそう。これを見てください」
そう言ったニコライさんは、布で包まれた小さなものを取り出した。その包みを開けると、醤油皿のような小さなお皿が出てきた。
「わぁ……綺麗」
「でしょう? 実はこれはですね、ヒーズル王国の赤い砂が原料なんですよ」
「え!?」
驚くのは無理もない。お皿は透明の綺麗な緑色なのだ。
「風向きが変わったのか、我が国にもそちらの砂が飛来しているんです。そのことは良いのですが、試しに集めてガラス作りに使ってみたら、綺麗でしょう? ……砂を売ってもらえませんか?」
「いくらでも! 格安大特価で売るわ! 交易所が出来たら、ガラス製品もたくさん売ってちょうだい!」
あのやり場に困る大量の砂が、こんなに綺麗なガラスに変わるのだ。私たちの利害が一致した。
「交易所が完成するのが楽しみですね。……あぁ! ということは、カレン嬢はしばらくこちらに来れないんですね……」
シュンと項垂れるニコライさんをなぐさめつつ、勝手に荷物の中身をあさると、ヒーズル王国でも使われている、あのステンレス製の蛇腹のホースが出てきた。
「ニコライさん、これもらっていいかしら?」
「中途半端な長さですが大丈夫ですか?」
「ええ。実験に使うから良いの。ちなみにこれの巨大なものって作れるかしら?」
「実験? どれくらいの大きさですか? 出来ないことはないと思いますが……」
ニコライさんは不思議そうに聞くが、とにかく巨大だと言うと「カレン嬢の頼みですから」と、帰って工場に向かうと言う。
「では私たちも戻りましょう。ニコライさん、しばらくは毎日移民の町に来るから、用があったら呼んでね」
こうしてどうにか実験道具を手に入れた私たちは、テックノン王国へ入ることもなく移民の町へと戻った。
この町には、私たちの住んでいる場所のように、使用した水の浄化設備予定地がある。予定地というよりは、皆が暇を見てコツコツと作り、完成にはいたっている。
ただ人が少ないのと使用する水の量が少ないので、下水に流れた水は途中で蒸発してしまい、この浄化設備には水が溜まっていない。想像していた以上に空気が乾燥しているようなのだ。
それを解消するのが、今回のスイレンたちのミッションだ。
そんなことを移民の皆に説明しつつ、その浄化設備の東側に畑を作ることを言い、ひたすら砂を掘り返した。
「カレンちゃん……ちょっといいかな?」
唐突に声をかけられ振り向くと、背後にはブルーノさんがいる。皆から離れた場所から呼んでいるので、ここはハマナスやエビネたちに任せてブルーノさんの元へと走った。
「どうしたの?」
「スイレン君から説明を聞いてね。いや、間違いないことは分かっているんだ。私とジェイソンさんだけはカレンちゃんの秘密を知っているからね。だけどアレは……想像の限界を超えていて……」
なるほど。ブルーノさんでも見たことのない、この世界には存在しないらしい装置の作製を頼んだのだが、理解が追いつかないらしい。
「姫様ー!」
ちょうどその時、国境から戻って来たじいやが私を呼ぶ。心なしか松風も小走りだ。
「何か問題でもあったの?」
そう問いかければ、苦笑いのじいやが口を開いた。
「今日はニコライ殿がいらしてまして……姫様が来ていることを言いましたら、なんとしてもお会いしたいと騒ぎまして……。今はペーター殿がお相手をしております」
困り顔のじいやだが、これは良い機会だ。
「ちょうどいいわ。ブルーノさんも一緒に行きましょう。どちらにせよ、アレは木で作るか金属で作るかまでは決めてはいないわ。テックノン王国が作れそうなら、そのまま頼めばいいわ」
ブルーノさんはスイレンの説明で理解してくれたようだが、フランクさんとミースさんはまだ理解が追いついていないようなので、スイレンに引き続き説明を頼み、松風の荷車に乗り込んでそのまま国境へと向かった。
ちなみにだが、私は国境へ行くのは実は初めてなのだ。作業を皆に任せて申し訳無いが、ワクワクが勝ってしまう。
尖った山と山の間に出来た道は、思っていた以上に広いが少々曲がりくねっている。真っ直ぐに爆破したつもりでも、実は真っ直ぐではなかったのだろう。
この道にもいつの間にか赤い砂が溜まり、そこには小さな草も生えていた。殺風景だった場所に新たな生命の誕生を見つけると嬉しくなってしまう。
それにしても時折臭うのは何だろうか? またしてもバ糞を付けているのかと焦ったが、会うのがニコライさんであれば、『まぁいいか』と思ってしまう辺り私も酷いものだ。
────
「だから勝手に入って来るなと言ってるだろう」
「でもでも! カレン嬢に会いたいんですもん!」
「ニコライ様! 落ち着いてください!」
騒がしい声が聞こえてきた。思わず私たち三人は吹き出してしまう。
最後の曲がり道を通り抜けると、それは立派な石造りの門が現れた。
その門の前で立ち塞がるペーターさんと、どうにか侵入しようとするニコライさん、それを止めようとする門番たちとでカオスになっていた。
「ニコライさーん! お久しぶりねー!」
荷車から飛び降りて叫ぶと、こちらに気付いたペーターさんと門番たちが一瞬動きを止めた隙に、ニコライさんは颯爽と走って来た。
「カレン嬢ー! お会いしたかったですー!」
その後ろではペーターさんと門番たちがぼやき、諦めたのか世間話を始めている。ニコライさんもペーターさんも自由なのだ。
門の向こうには草原が広がっており、テックノン王国に猛烈に興味があるが、楽しみはとっておきたい。なので草原以外を見ないように気をつけた。
「何か用事でもあるのかしら? こちらはちょうどニコライさんに用事が出来たところなの」
ニコリと微笑んでそう言えば、ニコライさんは飛んだり跳ねたりと喜びを体で表現しているようだ。
「カレン嬢、いつ我が国に来ていただけるんですか? 待っても待っても来る気配がないので、今日は私から来ました!」
ドヤ顔で言い放つニコライさんに、ブルーノさんは笑いが治まらない。
「それが、もう少し待ってほしいの。今日からあの移民の町を発展させようと思って」
今は畑を作っていた最中だったと説明しながら、将来的には観光や交易の場所にしたいと言うと、ニコライさんは目を見開いて驚いていた。
「素晴らしいです! 交易所になれば、城の人たちや私の家族も訪れますよ! 何か私にお手伝い出来ることはありますか? 私、カレン嬢にお会い出来そうな日は、カレン嬢が喜びそうな物を持ち歩いているんです!」
珍しく早口で熱弁を振るうと、国境へと走り両手に荷物を抱えて戻って来た。もはやペーターさんと門番たちは、ニコライさんをスルーである。
荷物の中身はいろいろな道具や、何なのか分からない物であふれていた。
「そうそう。これを見てください」
そう言ったニコライさんは、布で包まれた小さなものを取り出した。その包みを開けると、醤油皿のような小さなお皿が出てきた。
「わぁ……綺麗」
「でしょう? 実はこれはですね、ヒーズル王国の赤い砂が原料なんですよ」
「え!?」
驚くのは無理もない。お皿は透明の綺麗な緑色なのだ。
「風向きが変わったのか、我が国にもそちらの砂が飛来しているんです。そのことは良いのですが、試しに集めてガラス作りに使ってみたら、綺麗でしょう? ……砂を売ってもらえませんか?」
「いくらでも! 格安大特価で売るわ! 交易所が出来たら、ガラス製品もたくさん売ってちょうだい!」
あのやり場に困る大量の砂が、こんなに綺麗なガラスに変わるのだ。私たちの利害が一致した。
「交易所が完成するのが楽しみですね。……あぁ! ということは、カレン嬢はしばらくこちらに来れないんですね……」
シュンと項垂れるニコライさんをなぐさめつつ、勝手に荷物の中身をあさると、ヒーズル王国でも使われている、あのステンレス製の蛇腹のホースが出てきた。
「ニコライさん、これもらっていいかしら?」
「中途半端な長さですが大丈夫ですか?」
「ええ。実験に使うから良いの。ちなみにこれの巨大なものって作れるかしら?」
「実験? どれくらいの大きさですか? 出来ないことはないと思いますが……」
ニコライさんは不思議そうに聞くが、とにかく巨大だと言うと「カレン嬢の頼みですから」と、帰って工場に向かうと言う。
「では私たちも戻りましょう。ニコライさん、しばらくは毎日移民の町に来るから、用があったら呼んでね」
こうしてどうにか実験道具を手に入れた私たちは、テックノン王国へ入ることもなく移民の町へと戻った。
33
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる