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新たな思いつき
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季節が冬から春に変わる頃、ほとんどの作業が一段落した。畑を掘り返すのは大変だったが、埋める方が楽なので皆でやり、我が国自慢の人間重機をスイレン側に引き渡し、以前作った浄化設備の東側にもう一つの浄化設備が完成した。
その大きさや規模は以前より遥かに大きい。
そして移民の町の人たちも広場側の作業を手伝ってくれていたため、移民の町は住居以外はほとんど来た当初と変わっていない。
ようやくエルザさんたちが楽しみにしていた、畑を作るという作業が出来る余裕が出てきたのだ。
だがしかし、それだけではつまらない。私は考えた。移民の町を将来的に観光スポットにしようということを。
ヒーズル王国の住居や畑はグレードアップしたが、その頃になっても元森の民たちにお買い物文化はあまり浸透しなかった。
原則、森や川で自分が採ったもの以外はお金を払うことと通達を出すと、民たちから悲鳴が上がったくらいだ。
それ以前は誰かに頼まれたことや物にも、せいぜい食べ物を渡すくらいで、対価らしい対価を払うという価値観がなかったのだ。
これではせっかく分配したお金を使ってくれない。私たちだけでひっそりと生きるのなら、お金がなくともなんとかなりそうだが、テックノン王国やリーンウン国と仲良くさせてもらっている以上、お金を使ってもらわなければならない。
そこで大変申し訳なかったが、リトールの町でお店をやっていたエルザさんに、お店についての講演会を開いてもらったくらいだ。
民たちは静かに話を聞いていたが、どうやら興味を持ったらしく「普段自分で作っている物も売れるのか?」と質問をする者までいた。
あのおババさんですら「占いにも……?」と聞いて来たくらいである。
ものは試しと簡易の直売所のような建物を作ったら、ご老人たちがこぞって売り子をやりたがった。
その隣に、ちゃっかりおババさんが占い所を作ったのには笑った。日々忙しい我が国では、占うことが少なくなってしまったのは申し訳ない。
エルザさんも応援に駆けつけてくれ、いざ店を開けば人だかりができ、売り子と会話を楽しみながら買い物をするスタイルは好評だった。
初めて買い物をする者も少なくなく、細かなトラブルはあったがそれでも大成功を収めた。
────
これなら移民の町を観光スポットとしてだけではなく、交易所として稼働させるのも良いかもしれない。
「姫様」
そんなことを考えていると、おもむろにキキョウさんとナデシコさんに声をかけられた。
ハマスゲとイチビの奥様たちだが、あの出産ラッシュで産まれた子たちは皆胸元を離れ、もうすぐ歩けそうな程の大きさに育っている。赤子の成長速度が地球とは違うようだ。
ちなみにキキョウさんの子はトトキ君といい、ナデシコさんの子はマスクサ君という。
初めて聞いた時は珍しく植物の名前ではないと思ったが、それぞれツリガネニンジンとカヤツリグサの別名であることを思い出した。
「どうしたの?」
二人の子どもをあやしながら問いかけると、二人は髪を切るのも対価をもらっても良いのかと聞く。
「もちろんよ! 前世の世界では人気のある職業よ!」
その言葉を聞くと、二人は目を輝かせ技術の向上に努めると走り去って行った。その背中を見送っているとまた声をかけられた。
「姫」
聞き慣れた声に振り向けば、ハコベさんとナズナさんが立っている。おんぶ紐のような物と抱っこ紐のような物で、双子ちゃんを身体の前後に結びつけている。
ちなみにハコベさんの子はツクシちゃんとスギナ君、ナズナさんの子はツツジ君とサツキちゃんだ。
「二人とも大変そうね。子育て、それも双子の子育てはしたことがなくて、助言ができずごめんなさい」
思わず苦笑いで言ってしまう。ナズナさんはともかく、ハコベさんは体が弱いので心配なのだ。
「大丈夫よ。ツクシとスギナのおかげで、前よりも体力がついたわ」
そう言って笑うハコベさんは、まさしく母は強しそのものである。
「私もヒイラギより体力がついたかも。そうそう、姫に聞きたいことがあって」
そう話し始めたナズナさんだが、薬草を集めて売っても良いのかと私に聞くではないか。病院も診療所もないこの国には必要不可欠なものだ。
「そうだったわ! 一番大切なものよ! すっかり忘れていたわ……。こちらからもぜひお願いしたいわ!」
そう言うと、ハコベさんは照れ笑いをしながら口を開いた。
「以前、姫が熱を出した時があったでしょう? あの時渡した薬草で姫の体調が良くなった時に、とてもやり甲斐というか、嬉しさと充実感を感じたの。この国に子どもたちも増えたし、もしものために薬草を貯めておこうと思って」
そう言って微笑むハコベさんのやる気は満々のようだ。ナズナさんはハコベさんの補佐役として、一緒に手伝いたいと言う。
「どうかよろしくお願いします、と言いたいところだけれど、二人とも子育てもあるし本当に任せても大丈夫……?」
ぜひとも頼みたいのだが、双子ちゃんがいるお二人は子育ても大変だろう。不安感を口にすれば、ナズナさんは笑いながら口を開く。
「大丈夫だよ! いざとなったらヒイラギもタデも使って薬草詰みに行くから!」
「待って待って。詰みに行くのはやっぱり大変じゃない? お庭を改造して薬草園を作ったらどうかしら?」
そう言えば、二人はハッとした顔をし、そしてニッコリと笑った。
「こうしちゃいられないわ。タデー!」
「ヒイラギー! どこー!?」
二人は腹の底から声を出し、旦那様の名前を呼んでいる。きっと今から薬草園を作るに違いない。
それにしても、あのハコベさんがあんなに声を出しているのを初めて聞いた。この国の栄養満点な野菜類を食べ、大好きな旦那様との子どもを授かったハコベさんもまた、良い意味で日々進化していると思うと、私は思わず目を細め顔をほころばせたのだった。
その大きさや規模は以前より遥かに大きい。
そして移民の町の人たちも広場側の作業を手伝ってくれていたため、移民の町は住居以外はほとんど来た当初と変わっていない。
ようやくエルザさんたちが楽しみにしていた、畑を作るという作業が出来る余裕が出てきたのだ。
だがしかし、それだけではつまらない。私は考えた。移民の町を将来的に観光スポットにしようということを。
ヒーズル王国の住居や畑はグレードアップしたが、その頃になっても元森の民たちにお買い物文化はあまり浸透しなかった。
原則、森や川で自分が採ったもの以外はお金を払うことと通達を出すと、民たちから悲鳴が上がったくらいだ。
それ以前は誰かに頼まれたことや物にも、せいぜい食べ物を渡すくらいで、対価らしい対価を払うという価値観がなかったのだ。
これではせっかく分配したお金を使ってくれない。私たちだけでひっそりと生きるのなら、お金がなくともなんとかなりそうだが、テックノン王国やリーンウン国と仲良くさせてもらっている以上、お金を使ってもらわなければならない。
そこで大変申し訳なかったが、リトールの町でお店をやっていたエルザさんに、お店についての講演会を開いてもらったくらいだ。
民たちは静かに話を聞いていたが、どうやら興味を持ったらしく「普段自分で作っている物も売れるのか?」と質問をする者までいた。
あのおババさんですら「占いにも……?」と聞いて来たくらいである。
ものは試しと簡易の直売所のような建物を作ったら、ご老人たちがこぞって売り子をやりたがった。
その隣に、ちゃっかりおババさんが占い所を作ったのには笑った。日々忙しい我が国では、占うことが少なくなってしまったのは申し訳ない。
エルザさんも応援に駆けつけてくれ、いざ店を開けば人だかりができ、売り子と会話を楽しみながら買い物をするスタイルは好評だった。
初めて買い物をする者も少なくなく、細かなトラブルはあったがそれでも大成功を収めた。
────
これなら移民の町を観光スポットとしてだけではなく、交易所として稼働させるのも良いかもしれない。
「姫様」
そんなことを考えていると、おもむろにキキョウさんとナデシコさんに声をかけられた。
ハマスゲとイチビの奥様たちだが、あの出産ラッシュで産まれた子たちは皆胸元を離れ、もうすぐ歩けそうな程の大きさに育っている。赤子の成長速度が地球とは違うようだ。
ちなみにキキョウさんの子はトトキ君といい、ナデシコさんの子はマスクサ君という。
初めて聞いた時は珍しく植物の名前ではないと思ったが、それぞれツリガネニンジンとカヤツリグサの別名であることを思い出した。
「どうしたの?」
二人の子どもをあやしながら問いかけると、二人は髪を切るのも対価をもらっても良いのかと聞く。
「もちろんよ! 前世の世界では人気のある職業よ!」
その言葉を聞くと、二人は目を輝かせ技術の向上に努めると走り去って行った。その背中を見送っているとまた声をかけられた。
「姫」
聞き慣れた声に振り向けば、ハコベさんとナズナさんが立っている。おんぶ紐のような物と抱っこ紐のような物で、双子ちゃんを身体の前後に結びつけている。
ちなみにハコベさんの子はツクシちゃんとスギナ君、ナズナさんの子はツツジ君とサツキちゃんだ。
「二人とも大変そうね。子育て、それも双子の子育てはしたことがなくて、助言ができずごめんなさい」
思わず苦笑いで言ってしまう。ナズナさんはともかく、ハコベさんは体が弱いので心配なのだ。
「大丈夫よ。ツクシとスギナのおかげで、前よりも体力がついたわ」
そう言って笑うハコベさんは、まさしく母は強しそのものである。
「私もヒイラギより体力がついたかも。そうそう、姫に聞きたいことがあって」
そう話し始めたナズナさんだが、薬草を集めて売っても良いのかと私に聞くではないか。病院も診療所もないこの国には必要不可欠なものだ。
「そうだったわ! 一番大切なものよ! すっかり忘れていたわ……。こちらからもぜひお願いしたいわ!」
そう言うと、ハコベさんは照れ笑いをしながら口を開いた。
「以前、姫が熱を出した時があったでしょう? あの時渡した薬草で姫の体調が良くなった時に、とてもやり甲斐というか、嬉しさと充実感を感じたの。この国に子どもたちも増えたし、もしものために薬草を貯めておこうと思って」
そう言って微笑むハコベさんのやる気は満々のようだ。ナズナさんはハコベさんの補佐役として、一緒に手伝いたいと言う。
「どうかよろしくお願いします、と言いたいところだけれど、二人とも子育てもあるし本当に任せても大丈夫……?」
ぜひとも頼みたいのだが、双子ちゃんがいるお二人は子育ても大変だろう。不安感を口にすれば、ナズナさんは笑いながら口を開く。
「大丈夫だよ! いざとなったらヒイラギもタデも使って薬草詰みに行くから!」
「待って待って。詰みに行くのはやっぱり大変じゃない? お庭を改造して薬草園を作ったらどうかしら?」
そう言えば、二人はハッとした顔をし、そしてニッコリと笑った。
「こうしちゃいられないわ。タデー!」
「ヒイラギー! どこー!?」
二人は腹の底から声を出し、旦那様の名前を呼んでいる。きっと今から薬草園を作るに違いない。
それにしても、あのハコベさんがあんなに声を出しているのを初めて聞いた。この国の栄養満点な野菜類を食べ、大好きな旦那様との子どもを授かったハコベさんもまた、良い意味で日々進化していると思うと、私は思わず目を細め顔をほころばせたのだった。
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