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お金の話

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 あの伝説を超えた伝説の儀式からしばらくは、お父様もお母様も皆から揶揄されまくり、とてつもない羞恥心との戦いだったことだろう。

 過去最高の被害者を叩き出した儀式のおかげで、テックノン王国からはお礼として生肉と干し肉が贈られた。ルーカス王がどんな気持ちでいたのか知りたいようで知りたくないが、贈答品が来るあたり満足していただけたのだろう。……私としては複雑な気持ちだけれど。

 いただいた生肉は早めに消費しなければならなかった為、移民の町の全員を広場に呼び、大規模な宴会を開くことにした。
 初めて広場に来た面々は、豊かな森や畑、私たちが一から作り上げた街に驚き興味津々だったようだが、ペーターさんが誰よりも張り切って名所案内をしていたのに笑ってしまった。

 ヒーズル王国民もコッコ以外の肉は久しぶりな為かなり気合いの入った肉料理を作り、それに負けじと移民の町の女性たちもリトールの町やシャイアーク国の肉料理を作ってくれた。

 そんな最中、私だけがこっそりとじいやに呼ばれた。向かった先は我が家だ。

「姫様、これを」

 そう言ったじいやは、自室の寝台の中に隠されていたものを見せてくれた。驚いて思わずむせてしまうほどのそれは、この世界での大量のお金だった。金貨、銀貨等とキッチリと分けているところがじいやらしい。
 あんなにも儀式の衣装にお金を使ったにもかかわらず、こんなにもお金があることに驚いた。

「ここここ、これは……?」

 日本円ではないにしろ、大金を前にして声が震えてしまう。

「今までテックノン王国へ輸出したものの対価ですな」

 いくらヒーズル王国の採れたて新鮮お野菜や果物が美味しいと言っても、これは貰いすぎではないだろうか?
 そう思いじいやに聞いたところ、テックノン王国側が言うには他国からの輸入品よりも遥かに味が良いとのことで、城で働く者たちの食事の奪い合いから始まり、今ではおこぼれの食材を分けてもらおうと厨房に人が押し寄せているらしい。
 そこそこの数量を渡していたつもりだが、どんどんと価値が上がり値段が釣り上がっているらしいのだ。

「どどどど、どうしましょう……?」

 初めて聞く事情に、テックノン王国で米騒動ならぬ青果騒動が起こるのではという思いと、未だ大金を前にしての動揺が治まらない。
 そんなじいやは、私の発言をお金のことだけと思ったのか、さらにとんでもないことを言ったのだ。

「一応先にモクレン様に報告したのですが、『金など無くても生きて行ける。カレンが欲しがっていたから、全てカレンにくれてやれ』と笑っておられました……」

 あのじいやすら引いているが、私は白目を剥き泡を吹きそうになっている。

「……そんなわけにはいかないでしょう……。今まで頑張った民たちに分配しないと……」

 いくらお金が欲しいとはいえ、全てを私のものにしようとは当然思わない。素直にそう言えば、じいやはさらに恐ろしいことを言った。

「残念ながら……『森の民』はその名の通り、森の恵みをいただいて生活をしていたので……皆お金はいらないと口を揃えるかと……」

 衝撃の言葉に、うっかり昇天しそうになってしまったわ……。そうよね、話を聞く限り近隣の町とも物々交換をしていたようだし、森の恵みだけで充分に生きて来れたのだわ……。

「……無理やりにでも皆に渡しましょう。私たちもテックノン王国やリトールの町、今はまだ難しいけれど、リーンウン国からも物資を輸入して、お買い物の楽しさを分かってもらいましょう。それ以上に、私たちもお金を稼がなきゃいけないわね」

 そこから私とじいやの作戦会議が始まった。まずは、今目の前にあるこのお金を大人たちの人数で割った。けれどこの国の子どもたちも、大人たちの手伝いを率先してやってくれている。
 さらにはまだ畑を作っていないが、移民の町の人たちもいる。
 そしてある程度は税収を増やさなければ、いざ何かがあった時に民たちが困ってしまう。

「「…………」」

 私たちは頭が爆発しそうになった。税について分からない上に細かな計算が苦手なのだ。

「……おとなしくスイレンを呼びましょう……」

 私のつぶやきにじいやが頷くと、外へと飛び出して行った。そして少し待つとじいやとスイレンが戻って来たのだが……。

「なんだ?」
「初めてお邪魔するね。どうしたんだい?」

 スイレンの後ろには、なぜかペーターさんとブルーノさんがいる。
 どういうことかと聞くと、じいやはこっそりとスイレンを呼ぼうとしたが、スイレンがブルーノさんも一緒じゃなければと駄々をこね、それを見ていたペーターさんは私の姿がないことから、何か面白いことが起こるのでは、と勝手について来たらしい。

 そこで私はハッとした。ペーターさんはリトールの町の元町長さんだ。
 恥を承知で相談すると「なんだ、そんなことか」と、若干つまらなさそうにつぶやきながらも、説明をしながら黒板に式を書いていく。

 ブルーノさんは、その式が何を表しているのかをスイレンに丁寧に教えている。スイレンも大好きなブルーノさんに計算を教えてもらい、嬉しそうにしている。
 そして私とじいやは手を取り合って喜んだ。この『税の計算』という、しち面倒臭いことをスイレンが覚えてくれるなら万々歳だからだ。

 そんな私とじいやの喜びようを見たペーターさんは口を開いた。

「……いきなりスイレン君に全部まかせるのも酷だろう。迷惑でなければ、私がスイレン君に教えながらその辺を担当しようか? どうせ力仕事はほとんど出来ないからな」

 その言葉に私とじいやは高速で頭を下げた。どうやらペーターさんもこの国のお金の管理が気になっていたようだが、他国、そして今は移民としての立場から、口出しすることではないと思っていたらしい。

 スイレンに至っては、やることが増えて申し訳ないとこちらが思っているのに「民のためになることが増えた!」と純粋に喜んでいる。

 こうして私たちの悩みは消え去り、 料理を食べようと広場へ戻ることにした。

「「ああああああ……!!」」

 広場を見て私とじいやは膝から崩れ落ちた。料理はほぼ無くなり、いつの間に準備していたのか大人たちは酒に溺れ寝入っている者もいる。その酒ももうほとんど無いようだ。

 肉料理を楽しみにしていた私とじいやはほとんど口にすることが出来ず、そもそもじいやがこんな日に呼び出さなければと癇癪を起こした私と、酒を飲めなかったじいやの不満が爆発し、醜い口喧嘩が始まったが、それをなだめるスイレンたちの方が大変だったことだろう……。
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