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誕生の宴

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 たくさんの川の恵みを持って広場に到着すると、今までにないくらい慌ただしい状況となっており、あちらこちらを民たちが走り回っていた。
 見た感じはお祭り騒ぎのようなので、もう産まれたのかと思い立ち止まって辺りを伺っていると、民たちの中の誰かが叫んだ。

「大変だ! スイレン様が倒れた!」

「えぇ!?」

 その言葉に驚き、私と一緒に魚を捕りに行った者やポニーたちをその場に残し、声のする方へと走った。

「……あぁ……うん……」

 確かにスイレンは倒れていたが、近くの者たちは慌てふためいているがスイレンに触ることが出来ない。
 それもそのはず、その場では数人がコッコをさばいており、お祭り騒ぎではなく血祭り騒ぎになっていたのだ。
 よほど急いで準備をしていたのか、地面には羽根やら内臓やら血やら首やらが飛び散っており、さばいている者たちも手は赤く染まっている。私と違い繊細なスイレンは、その現場を直視してしまったようだ……。

「誰かー! スイレンを宴の場所まで運んでくれないかしら!? どうせ宴の時に起こすのだから、家まで運ぶのは面倒よ!」

 そう叫ぶと真っ先に走って来たのはイチビだったが、そのすぐ後ろをタデが追尾しイチビに何か話しかけると、イチビはそのままどこかへ向かって行った。

「私が運ぼう。モクレンたちも戻って来て、宴の準備を手伝ってくれている」

「……タデ? 運んでくれるのは嬉しいけど、ハコベさんの近くに居なくて大丈夫?」

「居てやりたいが……つい先ほどからナデシコたちも産気づいたらしくてな。イチビたちは知らなかったようだ」

「えぇ!?」

 タデはそう言ってスイレンを抱えるが、明らかにソワソワしている様子が見て取れる。というか出産ラッシュすぎる状況だが、まだ誰も産んでいないらしい。

「スイレンを降ろしたら行ったらいいわよ」

「しかし……」

「元いた世界では旦那さんが出産に立ち会ったりするわよ?」

「よし。ヒイラギも誘って行こう!」

 どうやらハコベさんを心配で心配で仕方がなかったようだが、決まりはないのに側にいて良いのかと不安に思っていたようだ。

 タデと広場の中心へと移動し、慎重にスイレンを草の上に寝かせると、「ヒイラギ! どこだ!?」とタデは嵐のように走り去って行った。
 その背中を見送っていると、「カレン! どこ!?」とお母様の声が聞こえる。

「ここよー! そちらに行くわー!」

 スイレンを放置してお母様の元へと走ると、料理を作るのに手一杯の様子だった。その場に加わり、王国内の豊富な食材でふんだんに料理を作っていると後ろから声をかけられた。

「本当にすごいことになってるのね」

 その声にハッとし、一瞬の静寂の後にその場の皆が振り向けば、何事もなかったかのようにハコベさんとナズナさんが立っていた。

「ふぅ、スッキリした」
「あー出た出た」

 まるで日本女性が言うように、便秘が解消したかのような物言いだ。二人は実にあっけらかんとしているが、その後ろではタデとヒイラギがおいおいと泣いている。
 そしてしゃくり上げて泣いているせいで上手く言えなかったが、タデとヒイラギが子どもが産まれたことを声高らかに叫ぶと、国中が一気に歓喜と興奮の渦に巻き込まれた。

 主役である二組の夫婦は広場の中心に連れて行かれてしまったが、今日はまだまだ子どもが産まれるはずなので、変則的に産まれた者たちから宴を始めることにしたようだ。

 私とお母様もハコベさんたちの近くに移動し、そして私は気になることを聞いてみた。

「あの……産まれた子はどこに?」

 そうなのだ。ハコベさんもナズナさんも手ぶらなのだ。

「うふふ。姫にだけ特別よ」

 ハコベさんとナズナさんはそう言って私を手招きし、ほんの少しだけ人払いをして襟ぐりを広げてくれた。
 恐る恐る覗くと、普段はつけていないスポーツブラのような肌着を身に着けている。アンダーバストのところを紐で締めているようだ。
 その肌着の左側を少しめくると、まるで胎児のような、本当に手のひらに収まるくらいの小さな赤子が、産まれ出でた喜びを表すかのように動いていた。

「わぁ……」

「お乳は勝手に出るから、もう少し大きくなるまではお乳で溺れないように、こまめに様子を見るのよ」

「それでね、姫。ほら」

 ハコベさんとナズナさんは微笑みながら肌着の右側をめくった。なんとそこにも赤子がいるではないか。

「みんな!」

「私たち、双子を授かりました!」

 二人の宣言に、広場はさらに盛り上がる。と同時に、お父様が両手を広げて走って来て、タデとヒイラギに抱きついた。三人は涙を流しながら喜びを分かち合っている。
 その感動的な場面を見ていると、お父様が叫んだ。

「酒を作った! 男は飲め! 女は食え! 新たな民の誕生だ!」

 聞いたことのないような歓声の中、じいややオヒシバたちが男たちにデーツの酒を配っていく。私とお母様も料理を盛り付け、民たちに振る舞った。
 ある者は喜び、ある者は泣き、今までの宴で一番の盛り上がりを見せたが、一組、また一組と出産を終えた夫婦が加わると、ボルテージはその都度上がっていき夜更けまで宴は続いた。

────

 ただ、起こし忘れていたスイレンは騒がしさで目を覚まし、宴に乗り遅れたと少し不貞腐れながらもモソモソとコッコ以外の料理を食べていた。

 そしてオヒシバは酒の力を借りてイチビたちと和解したが、宴の終焉と共にヒゲシバのいないヒゲシバ邸に住むことを知ると絶望的な表情をし、泣き崩れていたのだった……。
 すっかり伝えるのを忘れていたわ……ごめんなさいオヒシバ……。
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