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一人になりたいカレン
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一夜明け、私の機嫌は治ることもなく、今日は移民の町へ行くことも拒否した。
今は一心不乱に金槌を振り下ろして岩塩を割っている。水に溶かして炒れば簡単なのだが、これはストレス発散行為なのだ。
そんな私のことを、いたたまれない目でハコベさんとナズナさんが見つめている。
昨日はスイレン・お父様・じいやの顔を見たくなく、着替えと洗濯を済ませた私は、半ば無理やり二人のお宅に押しかけたのだ。
一応私の家族は迎えに来たのだが、移民の町でのお父様のデリカシーのなさすぎる発言を聞いていたタデとヒイラギは味方をしてくれ、うちで預かると言って追い返してくれたのだ。
昨日から必要最低限の言葉しか発さず、今朝もタデとヒイラギにはやって欲しい作業を伝えただけだ。
荒々しく岩塩を砕いた私は、畑で採れたキュウカッパやディーコンを荒々しい塩を使って荒々しく揉んでいく。この世で一番簡単な漬け物だが、味も荒々しくなること間違いない。
それを冷蔵庫代わりの壺に入れ、何もしなくて大丈夫という声を華麗にスルーして洗い物を済ませ、いくらかの食材を勝手に袋に詰めて歩き出した。
ハコベさんたちの様子は、お母様たちが見に来るだろうからだ。
黙々と歩き続ける私だが、背後に人の気配を感じる。チラリと見てみると、イチビ・シャガ・ハマスゲの三人がいたが、一応私の護衛なのだろう。
私としては自分たちの作業を優先してほしかったし、放っておいてほしいのでそれすらも無視して歩き続けた。
────
到着した場所は炭焼小屋とレンガ焼き場だ。ただその場には、私が移民の町へと行かないことを聞いたせいか私よりも早く到着したヒゲシバが炭焼きをしており、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
あえて何も言わずに小屋の裏手へまわり、木酢液が溜まっているかの確認をした後、スコップを手にして一心不乱に近くの粘土を掘り返し、無心で壺を作り続けた。
気付けばイチビたちも私の視界に入らないように壺を作っており、私よりも完成度の高い作品に心が折れかけた。
何度か野菜や果実をかじり壺を作り続けたが、イチビたちのほうが数も多くて出来も良く、完全に心が折れた私はすっくと立ち上がり、広場へと戻ることにした。
突然歩き出したせいか、イチビたちがあたふたとしている。私が作ったものを放置し、彼らが作った壺の数が多いせいで、乾燥させる場所に移動するのが大変らしい。そのためか、お供はハマスゲ一人になったようだ。
辺りを見渡せば、対岸のタッケは見事なタッケ林になっている。後で適度に切らないといけないわね……。
そして植樹したドングーリなどは大きく成長し、発芽した若木は順調に増えていっている。……少しだけ気分が晴れたような気がした。
────
広場に戻った私はハコベさんたちの家の裏口から入り、朝に作った荒々しいキュウカッパの一本漬けを両手に持って、それをかじりながら畑へと向かった。私のこの行為も豪快で荒々しいことだろう。
到着した畑は急ピッチで拡げてもらっている場所だ。今は収穫などに行っているのか誰もいない。そして近くのあぜ道にはハマスゲが倒れている。
私よりも体力のあるハマスゲだが、私のピリピリとした空気と圧で疲れきってしまったのだろう。
ある程度耕した畑には雑草が生えてしまっている。それを素手でブチブチと抜き、取り除ききれていない石を集めてはあぜ道に積み上げていると、ハマスゲがいないことに気付いた。
気付いたが、そのまま作業を繰り返していると、隣の畑にエビネとタラの姿が確認できた。どうやら監視役をバトンタッチしたようだ。
一人になりたい私は気付かれないよう二人の動きを見ていたが、二人は農作業に目覚めた者だ。思った通り無我夢中で草を抜き、必死に石を集めている。私のことは頭から抜けてしまっているようだ。
その隙に近くのトウモロコーン畑へと入り、水路方面へ歩いた。トウモロコーンの高さのおかげで私の姿は見えないだろう。
トウモロコーン畑を抜けると、目の前にバナナ畑が広がっている。実がなり、もうすぐ収穫が出来そうだ。
実はこのバナナだが、移植したあとに葉を蒸し料理に使ったり、オアシスからの急な引っ越しで負担をかけたのか一度枯れてしまったのだ。その時に出ていた脇芽を大事に育て、ようやく収穫の時を迎えられそうなのだ。
感慨深くバナナを見上げていると、辺りは私を呼ぶ声で騒がしくなり始めた。面倒臭いと思い、またトウモロコーン畑に入ろうとした時に聞こえた言葉で動きが止まった。
「姫様ー! どこですかー! ハコベとナズナが産気づきましたよー!」
「なんですって!?」
「姫様がいたぞー!」
広場の方へ走りながら、今日の自分の行動を反省した。お母様が来るだろうからと二人を放置し、壺作りから戻った時に二人の家に寄ったのに、様子を伺うでもなく食材を持ち出して、今は畑の中で雲隠れをしていたのだ。
そろそろ子どもが産まれるのは知っていたのにだ。もしあの時に様子を伺っていたなら、いち早く二人の様子に気付けたのかもしれない。
悔やんでも悔みきれない思いを抱え、私は半べそで必死に走ったのだった……。
今は一心不乱に金槌を振り下ろして岩塩を割っている。水に溶かして炒れば簡単なのだが、これはストレス発散行為なのだ。
そんな私のことを、いたたまれない目でハコベさんとナズナさんが見つめている。
昨日はスイレン・お父様・じいやの顔を見たくなく、着替えと洗濯を済ませた私は、半ば無理やり二人のお宅に押しかけたのだ。
一応私の家族は迎えに来たのだが、移民の町でのお父様のデリカシーのなさすぎる発言を聞いていたタデとヒイラギは味方をしてくれ、うちで預かると言って追い返してくれたのだ。
昨日から必要最低限の言葉しか発さず、今朝もタデとヒイラギにはやって欲しい作業を伝えただけだ。
荒々しく岩塩を砕いた私は、畑で採れたキュウカッパやディーコンを荒々しい塩を使って荒々しく揉んでいく。この世で一番簡単な漬け物だが、味も荒々しくなること間違いない。
それを冷蔵庫代わりの壺に入れ、何もしなくて大丈夫という声を華麗にスルーして洗い物を済ませ、いくらかの食材を勝手に袋に詰めて歩き出した。
ハコベさんたちの様子は、お母様たちが見に来るだろうからだ。
黙々と歩き続ける私だが、背後に人の気配を感じる。チラリと見てみると、イチビ・シャガ・ハマスゲの三人がいたが、一応私の護衛なのだろう。
私としては自分たちの作業を優先してほしかったし、放っておいてほしいのでそれすらも無視して歩き続けた。
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到着した場所は炭焼小屋とレンガ焼き場だ。ただその場には、私が移民の町へと行かないことを聞いたせいか私よりも早く到着したヒゲシバが炭焼きをしており、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
あえて何も言わずに小屋の裏手へまわり、木酢液が溜まっているかの確認をした後、スコップを手にして一心不乱に近くの粘土を掘り返し、無心で壺を作り続けた。
気付けばイチビたちも私の視界に入らないように壺を作っており、私よりも完成度の高い作品に心が折れかけた。
何度か野菜や果実をかじり壺を作り続けたが、イチビたちのほうが数も多くて出来も良く、完全に心が折れた私はすっくと立ち上がり、広場へと戻ることにした。
突然歩き出したせいか、イチビたちがあたふたとしている。私が作ったものを放置し、彼らが作った壺の数が多いせいで、乾燥させる場所に移動するのが大変らしい。そのためか、お供はハマスゲ一人になったようだ。
辺りを見渡せば、対岸のタッケは見事なタッケ林になっている。後で適度に切らないといけないわね……。
そして植樹したドングーリなどは大きく成長し、発芽した若木は順調に増えていっている。……少しだけ気分が晴れたような気がした。
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広場に戻った私はハコベさんたちの家の裏口から入り、朝に作った荒々しいキュウカッパの一本漬けを両手に持って、それをかじりながら畑へと向かった。私のこの行為も豪快で荒々しいことだろう。
到着した畑は急ピッチで拡げてもらっている場所だ。今は収穫などに行っているのか誰もいない。そして近くのあぜ道にはハマスゲが倒れている。
私よりも体力のあるハマスゲだが、私のピリピリとした空気と圧で疲れきってしまったのだろう。
ある程度耕した畑には雑草が生えてしまっている。それを素手でブチブチと抜き、取り除ききれていない石を集めてはあぜ道に積み上げていると、ハマスゲがいないことに気付いた。
気付いたが、そのまま作業を繰り返していると、隣の畑にエビネとタラの姿が確認できた。どうやら監視役をバトンタッチしたようだ。
一人になりたい私は気付かれないよう二人の動きを見ていたが、二人は農作業に目覚めた者だ。思った通り無我夢中で草を抜き、必死に石を集めている。私のことは頭から抜けてしまっているようだ。
その隙に近くのトウモロコーン畑へと入り、水路方面へ歩いた。トウモロコーンの高さのおかげで私の姿は見えないだろう。
トウモロコーン畑を抜けると、目の前にバナナ畑が広がっている。実がなり、もうすぐ収穫が出来そうだ。
実はこのバナナだが、移植したあとに葉を蒸し料理に使ったり、オアシスからの急な引っ越しで負担をかけたのか一度枯れてしまったのだ。その時に出ていた脇芽を大事に育て、ようやく収穫の時を迎えられそうなのだ。
感慨深くバナナを見上げていると、辺りは私を呼ぶ声で騒がしくなり始めた。面倒臭いと思い、またトウモロコーン畑に入ろうとした時に聞こえた言葉で動きが止まった。
「姫様ー! どこですかー! ハコベとナズナが産気づきましたよー!」
「なんですって!?」
「姫様がいたぞー!」
広場の方へ走りながら、今日の自分の行動を反省した。お母様が来るだろうからと二人を放置し、壺作りから戻った時に二人の家に寄ったのに、様子を伺うでもなく食材を持ち出して、今は畑の中で雲隠れをしていたのだ。
そろそろ子どもが産まれるのは知っていたのにだ。もしあの時に様子を伺っていたなら、いち早く二人の様子に気付けたのかもしれない。
悔やんでも悔みきれない思いを抱え、私は半べそで必死に走ったのだった……。
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